1章 夏の日々の隙間

1-1

 太陽の下、誰も居ない歩道に立っていた。

 周りには畑。

 少し離れた所から、山に向かって住宅街が続いている。 

 遠くには、大きく佇む高校が見える。

 俺が日々、通っている場所。

 しかし生徒達の喧騒も、ここまでは聞こえて来ない。

 ……周囲には、誰も居ない。

 指のあいだのそれを、俺はじっと見つめる。

 

(……うむ、よし……)


 深く息を吐いて、それを軽くわえる。

 ゆっくりと、煙を吸い込んでいく。

 よし、思ったより吸い込んだ煙が熱いが、……いける。

 いいぞ、いい調子____。


「うえっほおっ!!……げはあっ!!!」


 目一杯吸ううちの八割ほど吸ったところで、肺が煙をはじき出した。

 膝に手をついて何度もせき込む。


「げほっごほっ、……くっせえぇ……」


 咳き込むと煙が鼻を突き抜けて、重い臭いがダイレクトに来る。

 頭がガンガンして、ぐらつきそうななる。そのせいで、親指と人差し指で挟んでいたものを落としてしまった。

 コンクリートに一度だけバウンドして転がるそれは…………たばこだった。

 

「はぁ……」


 畑群の奥に大きく佇む、深緑の山肌を見上げる。 

 ……どうやらコレは、俺の体には合わないみたいだ……。

 そう思いながら、まだ痛む頭でそれを拾い上げる。

 そのまま地面に押しつけて火を消した。もう吸いたくない。

 そしてとりあず、箱に戻しておく。

 あと十九本もある……と軽く絶望しながら、Tシャツの胸ポケットに入れた。


「……フー……」


 残った煙を吐き出すつもりで、息をつく。うん……少しマシになってきた。

 ……現在、午後一時。

 七月末の、木曜日だ。

 俺は住宅街から離れた田舎道に立っている。周りには畑と、その持ち主の家がぽつぽつあるだけ。

 今頃、友達は、学校で部活に励んでいる頃だろう。

 平日の昼間でも、部活に参加している事だろう。

 というのも、今は夏休みだ。

 夏休みが始まって、今日で四日が経ったのだった。

 そんな中なぜ俺は、一人でこんな事をしているのか。

 それは俺が、部活をサボってタバコを吹かす、不良部員だから。

 …………ではなかった。

 そもそも俺は、部活に所属していないのだ。

 中学の頃は運動部に入っていたが、上下関係がキツくて面倒になり高校では部活に入らなかった。

 中学のとき、文化部は和気あいあいとしているように見えたから、そっちに入ろうかとも考えたのだが……。女子、多いし。

 だが知り合いいわく、「文化部は文化部で色々あるんだよ」とのことだった。

 そういうわけで帰宅部になった俺は、友達が部活で忙しく、自分は何もする事がなく。高校初めての夏休みに、連日こうして一人で過ごしているのだった。

 そんな夏休みに俺は心底、時間を持て余していた。

 今年の夏休みは、今のところ退屈と暑苦しさだけで出来上がっている。

 ……そこで話を戻しての、タバコだ。

 最近建てられた、この町初めてのコンビニ。

 その店内をブラブラしていると……思い立った。

 これを吸えば、何かしらをもたらしてくれるんじゃないか。具体的には……刺激やら、なにやらを。


「…………」


 今冷静になって考えてみると、よくわからない話だな……。なにも具体的じゃない。

 まぁそれで結局、失敗に終わったわけなんだけど。


「……はあ」


 ……帰る、かぁ……。

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