04:侯爵夫人の場合




「婚約が破棄された、ですって?」

 実家の父からの速達を握りしめた。

 そこには、ウィッキーの婚約が一方的にウィッキーこちらの有責で破棄申請され受理された事、恐ろしい金額の慰謝料が発生して、侯爵家の存続も危ぶまれる事が書いてあった。


「実家に行くわ。急いで用意なさい」

 側にいたメイドに命令する。

 宝石箱も全て持って行くように指示をする。

 ドレスはさすがに全部は無理ね。

 最近の物だけにしましょう。

 後は、最近買い集めている骨董品の小物も忘れずに持って行かなくては。


「あぁ、その燭台は違うわよ。それは侯爵家のだわ。まったく、そんな物が私の持ち物の訳ないじゃない」

 そんな本物の銀だかも怪しい安物。

 の持ち物のはずないわ。

 これだから程度の低いメイドは嫌なのよ。

 公爵家なら、絶対に雇わないわね。


「実家に帰ります。せっかくお父様が結んでくれた婚約だったのに、さすが貴方の息子だわ」

 当主に挨拶をして、侯爵家を後にした。




 グレイシアンフィンレー次男は優秀なのに、ウィッキー三男は馬鹿だった。

 落ち着きがなく、長男と次男が問題無く出来ていた事が、全然出来ない子だった。

 三歳にもなって、椅子に座って貴族のマナーを学ぶ事も出来ない。

 上二人が優秀過ぎるのだと乳母は言うが、同じ血を受け継いでいるのに出来ない方がおかしいわ。


 そういえばウィッキーだけは、あの人が名前を付けたのだったわね。

 名前は魂に通ずると言うし、侯爵家の血が濃く出たのね。



 しばらくして、ウィッキーと同じ年の筆頭公爵家の令嬢が婚約者を探していると噂が流れた。

 相手は誰でも良いと。

 身分も能力も問わない、健康で公爵家の邪魔をしなければ良いとも。


「ウィッキーが婿入りすれば、あの公爵家のお金で贅沢出来るし、婿の実家なら色々優遇されるから、うちのも、もっと権力を持てるわね」


 父に相談して、従兄弟でもある王と共謀し「筆頭公爵家の婿に家柄が必要無いなどと、貴族の階級制度を軽んじる発言だ」と筆頭公爵家を脅し、ウィッキーを婚約者にしてあげた。

 いくら筆頭公爵家でも、王族に逆らえる訳ないもの。

 実質、公爵家が一番偉いのよ。





「ウィッキーを利用して贅沢するはずだったのに。せっかく懐柔してたのに、無駄になったわ」

 嫌われて嫁を優先する子供になったら困るから、ウィッキーの嫌がる事はさせなかった。

 婿の条件も『後継者を残せる事。公爵家の邪魔をしない事』だけだったので、健康にだけは気を付けた。

 何も出来なければ、邪魔も出来ない。


 侯爵家当主は、家が大事で子供に興味の無い人だったから、ウィッキーには特に無関心だった。

 後継者でもスペアでもない、三男。

 婿入り後に利用しようと思ってたところは、私と同じかもしれないわ。


 それなのに、ウィッキーの有責での婚約破棄って何よ。

 絶対にを陥れる為の言いがかりだわ。

 なんて家なの!?



 実家に帰ってからは、お茶会やパーティーに出席する度に「筆頭公爵家のくせに、言いがかりで婚約破棄してきた」「婚約の条件を勝手に変えて、こちらの有責での婚約破棄にした」「王族を妬んでいるだけ」と言いまくったわ。

 だって、本当の事よ。


 ウィッキーが他に恋人を作っていたとしても、それは貴族なら許容範囲だわ。




 私は知らなかったのよ。

 ウィッキーが婚約者としての責務すら、一切はたしていなかった事を。

 だって貴族の責務そんなのは、行って当然の常識じゃない。

 私は悪くないわ。


 それこそ、馬鹿な子供が育った責任は、侯爵家の血にあるわ。

 公爵家じゃないわよ。



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