侯爵家




 どこで、どこから間違ったのだろう。

 日に日に積み上がっていく書類を見ながら、侯爵家の当主は重いため息を吐いた。


 筆頭公爵家に喧嘩を売った侯爵家。


 馬鹿な三男ウィッキーのせいで、侯爵家はそう呼ばれるようになった。

 元凶を追い出したところで、何も改善はされなかった。


 執務室の扉がノックされ返事をすると、次男が部屋に入って来た。

ここを出て、騎士宿舎へ行きます。二度と関わらないでくださいね」

 息子からの冷たい視線と言葉に、侯爵は信じられないモノを見るように見上げる。


「俺は何度も忠告しましたよね?あの馬鹿をちゃんと教育するか、婚約者のえをするようにと」

「お前は騎士としてでも文官としてでもやっていける才があった。公爵家に婿入りするにはのだ。それにウィッキーでは新しい婿入り先も見つからないだろうし、自立できるほど出来が良くなかった」


「馬鹿な子ほど可愛いってヤツですか。貴族なら、子供でも知っている常識すら無いほどの馬鹿でしたけどね」

 侯爵は顔を俯かせた。



 次男からは、スペア期間が終わった初等部を卒業した時に、婚約者の挿げ替えをお願いされた。

 あの馬鹿三男では、そのうち公爵家に見捨てられるから、と。

 それかせめて教育をちゃんとしろとも。


 家庭教師から逃げてばかりいたウィッキー。

 馬鹿でも公爵家の邪魔さえしなければ良いとの条件から、いつからか教育を諦めた。

 妻は何のしがらみもない三男を、ただ甘やかしていた。

 婿入り先も小さい頃に決まり、重責を負う必要もないから、辛い教育も必要無いのだと。


 その婿入り先を決めたのだって、妻は従兄弟である王に根回しをしていた。

「筆頭公爵家に婿入りするなら、それなりの家柄が必要だ」と実家の公爵家やその縁戚まで巻き込んで進言していたのだ。


 妻は今、実家の公爵家に逃げ帰っている。

 離縁も考えているようだが、公爵家がそれを見逃すとは思えない。

 馬鹿な三男ウィッキーのせいで、筆頭公爵家が、影の王と呼ばれた家が、本気で全勢力を使ってを潰しにきたのだ。


 どこで間違ったのだろう。

 侯爵は、意味の無い事を何度も考えた。

 現実逃避である。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る