影の王




「え?婚約ではなく、婚姻になりましたの?」

 自宅に帰ったオリヴィアは、父親からの話を聞いて、飲もうと口元へ持って行ったカップをソーサーへ戻した。

「うむ。王がアヤツの行動に怒りまくってな。どうせ平民になるなら、学園を卒業する必要もないだろうと婚姻になった」

 婚約破棄申請時に提出したのと同じ内容の報告書を、公爵がポンッと手で叩いた。


 元婚約者の顔が見たくないとの理由で、オリヴィアが王立学園を退学してしまったのも効いているようだ。

 オリヴィアが退学するので、オリヴィアの側近達も必然的に退学した。

 その親戚も話を聞いてすぐに退学した。

 同じ派閥の家も追従した。

 中立派も、残る方がえきが少ないと退学した。


 対立する派閥は、高位貴族は学園に在籍していなかった。もっとも、対立派閥とは名ばかりで、実際には考え方が違うだけで対立まではしていない。

 もし在籍していたとしても、追随して退学していただろう。


 そして、学園は生徒が殆ど居なくなった。




 ウィッキーとミリアムが婚姻して学園を辞めてから数日。

 王城にオリヴィアの姿があった。

「オリヴィア、どうか機嫌を直して学園に戻ってはくれんかね」

 対外的な接待に使われる豪奢な応接室で、とても香りの良い紅茶を飲みながら、オリヴィアは王と接見していた。


「料理長のチーズタルトはまだかしら」

 オリヴィアが呟くと、王は後ろに立つ者へと視線を向ける。

 ドアに1番近い者が急いで厨房へと向かう。

 オリヴィアの実家の公爵家は、影の王と言われていた。

 ウィッキーが考えているよりも、遥かに権力があるのだ。


「王立学園が無くなると困るであろう?」

 王の言葉に、オリヴィアは冷ややかな視線を向ける。

「私は困りませんわ。大体、あんなクソの役にも立たない婚約者を選ばなきゃいけなかったのは、どこの誰のせいかしら?」

「ウッ」

 王家とその周辺の高位貴族から、婚約者はちゃんとした家から選ぶようにと、しつこいくらいに何度も何度も言われたせいだった。


「学園では成績も素行も悪かったのに、それも放置されてましたわね。まぁそれは侯爵家にも言える事ですけど、あちらは既に虫の息でしょうからね」

 オリヴィアの言葉に、部屋の中にいた人間はウンウンと何度も頷いた。



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