通達




 ウィッキーの実家である侯爵家へ、ウィッキーの有責での婚約破棄の通達が届いたのは、本人が学園から帰るよりも先だった。

 突然の婚約破棄に意味が分からない当主は、公爵家へと先触れを出し、いつでも出発出来る準備をして返事を待っていた。


 何も知らないウィッキーが帰宅すると、エントランスをグルグルと歩き回っている侯爵がいた。

「父さん、何してんだよ」

 帰宅の挨拶もせず、ウィッキーが父親へと声を掛ける。

 ウィッキーに気が付いた侯爵は、顔を真っ赤にしながら息子を殴り倒した。


「何すんだよ!」

 床に倒れ、鼻血を出しながらウィッキーが叫ぶ。

「何するかだと!?それはこっちの台詞だ!何をしたんだ、お前は!!」

 殴られた自分以上の怒りを示す父親の姿に、ウィッキーがひるむ。

「公爵家から、お前有責での婚約破棄の書簡が届いたぞ!調査報告書と証人の署名のある書類を、公的機関に提出済みだとまで書かれていた!お前は何をしたんだ!!」



 流れる鼻血をぬぐいもせず、ウィッキーは父親を見上げた。

「婚約、破棄?」

 自分以外に婿入り出来る立場の者がいないのに?

「公爵家の邪魔をしない、後継を残せる健康な体、それしか条件を出されていないのに、なぜ婚約破棄をされるのだ!!」


 婚約破棄などしたら困るのはオリヴィの方のくせに、そこまでして俺の気を引きたいのか、あの女は!

 愚かなウィッキーは、そんな風にしか思わなかった。

 まだ自分に都合の良い幻想の中にいるのだ。


「あの女は、俺とミリアムの仲に嫉妬して、大騒ぎをしているだけです!明日にはまた、婚約者に戻ってますよ!」

 ウィッキーの言葉に、侯爵の顔から表情が消えた。

「ミリアムとは誰だ?」

 普通ならば侯爵の変わり様に不穏な空気を感じ、言葉を選ぶのだろうがそこはウィッキーだ。


「俺の恋人です!オリヴィと違って可愛い女です!」


 侯爵が再び愚息を殴ろうと拳を振り上げた時、公爵家から先触れへの返信が届いた。

『二度と私的に会う事は無い』

 それだけが書かれた紙を手に、侯爵は膝からくずおれた。



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