第2話 美術室の幽霊
「なんでこうなったんだ?」
玄太は美術室の窓からサッカー部の練習を眺め、ため息をついた。
イーゼルに大きなキャンバスを置いたものの、未だ真っ白だ。
なにも描ける気がしない……
描き方も知らない……
テーブルに置かれた林檎を見て、また、ため息を一つ。
そんな玄太の隣で、夏菜は鉛筆で林檎を描き始めた。
「お姉さんは、絵が上手なんですか?」
「いいや。俺と同じレベル。どうして、美術部の顧問をしているのかわからない」
「あぁ。それなら、美術部の顧問だった佐藤先生が産休に入ったから、代わりに顧問を引き受けたみたいですよ」
「——そうだったのか。で、他の部員は?」
「いません」
「えっ?」
「私と藤原君の二人だけです」
「うっそだ……ろ?」
「正確に言うと、三名ほどいたのですが退部したそうです」
「なんで?」
夏菜が玄太をじっと見つめる。しばし、沈黙。
「この美術室、霊気を感じませんか?」
「……この位のざわざわ感なら、体育館の倉庫とか三階の男子トイレとか、どこでも感じるぞ。大したことないだろ?」
「視えませんか?」
玄太は、霊気の感じる美術室の一角を見つめた。
「女の子だな。セーラー服を着ているところを見ると、古い霊だ。でも、悪さをする感じでもないし、そのままでいいんじゃないか」
「駄目です! 彼女の霊気は、もっとずっと弱かったんです。それが、先月位から徐々に強くなりました。今では、勘の良い子たちが姿を見るまでになってしまって。幽霊が怖くて、美術部の子たちは退部したんです。実害が出ている以上、このままにはできません」
「夏菜さんのその通りよ、玄太。あの子を救ってあげなさい」
突然現れたかすみ先生。白いエプロンをしてベレー帽をかぶっているのは、画家スタイルを意識してのことだろうか? でも、どこかズレている。玄太は、そう思った。
「はっ! 読めたぞ! このために俺を美術部に入れたんだな」
「それもある。否定はしない。さぁ、玄太。修行の時間です!」
かすみ先生が目を光らせて、玄太に詰め寄る。
「……わかったよ。今、祓う」
両手で印を結ぼうとした時だった。
「待って! 祓わないで!! まずは、彼女の話を聞くべきだわ」
「私もそう思う。玄太、お前は幽霊を何だと思っている?」
二人に責められて、玄太はたじろいだ。
二人の目力、迫力がある……。 あり過ぎだ。
「ゆ、幽霊は、この世を彷徨う霊魂だ。消えて欲しいなら、お祓いすればいいじゃないか」
「アホ。私たちと彼女違いは、生きているか死んでいるか。それだけの差だ。彼女にも生きていた頃の記憶がある。感情がある。どうして若くして亡くなったのかは分からないが、心残りがあるから成仏できていないのだろう? その心残りとなっていることを解決してあげたら、彼女は浄土へ行き美術室から消える。違うか?」
確かに姉のいう通りだ。
玄太は、仏道修行でお祓いのやり方をマスターしてからは、『霊を祓う』ことだけ考えていた。相手がどうしてこの世に留まっているのか、そんなことを気にしたことはない。
でも、夏菜は違う。祓う前に浄霊をすることを考える。
玄太は、姉と夏菜の視線を痛いほど感じた。
「そうだな。彼女の想いを受け止めなきゃな」
「彼女の心残りを探すのは、多分私の方が得意だと思う。ちょっと時間をちょうだい」
夏菜はそう言うと、少女をじっと見つめた。
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