続。弟は、彼女のために仏道修行を未だ続けていることに気がついていない。<美術室の幽霊編>
月猫
第1話 美術部に入りなさい。
あの騒動から一か月。
恐ろしいほど女子に囲まれていた玄太だが、今は閑古鳥が鳴いている。
理由は簡単だ。
将来、頭をツルツルにしてお坊さんになる男に、女の子の興味はない。
「高校は、高野山の学校に行くらしいよ。どんなにイケメンでも坊主はね~」
(髪の毛があろうがなかろうが、俺は俺だぞ‼)と、玄太は思った。女子に囲まれる生活に嫌気がさしていたものの、こんな風にソッポを向かれると寂しいものだ。男心とは、そういうものなのである。
玄太が寺の息子で、将来はその寺を継いで頭をツルツルにする話をみんなにバラしたのは、もちろんかすみ先生だ。
「あれ? 玄太、まだ帰らないの? 修行あるんだろ?」
ぼぉっとしていた玄太に、にやけ顔で声をかけてきたのはサッカー部のそこそこイケメンの
女の子に囲まれていた俺を
「安藤先生から、放課後残れっていう命令が下された……」
「えっ? かすみんに? まさか、二人っきりか⁉」
かすみ先生は、男子に『かすみん』と呼ばれていて、かなり人気がある。
「いいや、夏菜さんも一緒だ」
「夏菜ちゃん! おいおい、なんで美人二人に囲まれるんだよ、お前は‼ 俺、ここで宿題するフリでもしてようかな」
「部活は?」
「はぁ。サッカーやったらモテると思ってたんだけどさ、俺向いてなかったわー。今、激しく後悔中。行かないと、鬼の田中先生にしばかれるから行くけれど」
安氏は背中を丸め、重い足取りで教室を出て行った。
「藤原君、安氏君と仲良いんだね」
「えっ? 夏菜さんには、俺たち仲良く見えるの?」
「うん。いい感じでオーラ交わってたよ」
「えぇ――――⁉」
驚いている玄太の頭をコツンと叩く者がいた。
振り返れば、安藤かすみだ。
「大きな声を出して騒がしいわね、玄太!」
「す、すみません」
玄太は、反射的に謝ってしまった。
「かすみ先生、私たち二人に話があるということは、また何かあったのですか?」
夏菜が神妙な顔で訊ねる。
「この間、二人に井上内親王の似顔絵を描いてもらったでしょう」
「はい」
「あぁ」
かすみ先生が眉間にしわを寄せて、二人の顔を交互に見た。
「二人のあの絵は……ひどい! ひどすぎる‼」
「……」
玄太と夏菜は、顔をしかめた。
「あの絵じゃ、井上内親王の美しさが伝わってこないのよ! 悲劇のヒロインは、美しくあるべきなの。美しいからこそ、悲劇がより切なく苦しく悲しいモノとなって、人々の心を打つ。同時に、百川を恨む井上内親王の怨念も倍増するのよ。それがなんなの! 二人が描いた、あのちんちくりんな似顔絵は‼ そこで、二人に新たな任務を与えます。美術部に入りなさい。入部届は、出しておいたから。ちなみに、顧問は私。宜しくね」
「はっ?」
「……えっ?」
驚く玄太と夏菜に背を向け、かすみ先生は教室を出て行った。
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