08-30 密会

 案内されたのは街道から外れたとある貴族の別荘だった。

 意外とカゲシン近くに潜伏していたものだと思ったが、聞けばオレとの会談のために数日前に移動してきたという。


「今回はご足労頂き感謝いたします。

 既に何度かお会いしておりますが言葉を交わしたことは無かったと思います。

 エディゲ・ハルドゥーンと申します。

 アドッラティーフの孫、ムバーリズッディーンの次男です。

 現在、エディゲ家の当主を務めております。

 お見知りおきを」


 会談は一対一で行われた。

 双方、従者もなしだ。

 オレは遮音結界を張っている。


 ハルドゥーンだが、若い男だ。

 聞けば十四歳になったばかりだという。

 補佐役なしで良いのかと聞けば、「カンナギ殿も十六歳でしよう」と返された。

 一応、成人しているらしい。

 体格は良いとは言えない。

 身長は一五〇あるかないかで体重は確実に五〇キロ以下だろう。

 名門らしく整った顔立ちだが、祖父や父親と違って肌の色は白めだ。

 母親がテルミナス系だという。

 ただ、魔力量は結構ある。

 本人によれば一族で最も多く、十三歳で上級魔導士の資格を取ったという。

 魔力は多分まだ増えるだろう。


「今回、カンナギ殿にお越し頂いたのは我々の未来を相談するためです。

 簡単に言えば、我々エディゲ家はカンナギ殿と提携したいのです。

 我々、エディゲ家と、です」


 簡単な挨拶の後、ハルドゥーンは直ぐに本題に入った。


「我々には、我が一族には多くの帝国貴族がおり、何れも実務官僚として能力が高く、経験も豊富です。

 帝国内外でも我が一族以上の事務官僚集団はそうはいないでしょう」


 確かに、それはそうかもしれない。


「オレと提携する?

 意味が分からないな。

 現在のカゲシンでは実務官僚が不足している。

 エディゲ家の官僚が復帰すれば歓迎されるだろう。

 わざわざオレと提携する必要はない」


 故意に乱暴な言葉を使う。

 だが、ハルドゥーンは全く動じなかった。


「確かにそうでしょう。

 バャハーンギール殿下とアーガー・ピールハンマド宰相の下に付くのであれば、ですが」


「あの二人の下に付くのはイヤだと」


「付くこと自体は問題ありません。

 正直に言えば、あの二人に対して我々は面白い感情は持っておりません。

 ですが、感情は理性で抑え込むことが可能です。

 問題は将来性が皆無な事でしょう」


 体格が華奢なので、年齢より幼くみえる。

 結構な美少年だ。

 多分、ピンクのお姉さんやスルターグナの好みだろう。

 しかし、頭の中身は外見と比例していない。


「我々はあの二人についてよく知っています。

 二人とも自分より下と認定した者、一旦敵と認定した者からの助言は一切聞き入れません。

 ピールハンマド殿は過酷な千日行を達成した自分は誰よりも優れていると信じている。

 同様に千日行を達成した先達である祖父が生きていれば、あるいは千日行達成直前で事故にあった父が生きていれば抑える事が出来たでしょうが、今や彼はこの世で唯一の千日行達成者です」


「バャハーンギールも唯我独尊なのか?」


「バャハーンギール殿下は地方領主の庶子として過酷な幼少期を過ごしています。

 これは彼の引け目なのですが、同時に自身を特別視する根拠ともなっています。

 これだけ辛い前半生に堪えてきた自分は他の貴族より優れていると」


 劣等感の裏返しって奴か。


「我らがあの二人に協力すればカゲシンの衰退を緩める事は可能でしょう。

 ですが、緩めるのがせいぜいです。

 帝国をかつての形に戻すのは不可能に近い」


「クチュクンジとトエナ公爵家に加担するというのは?」


 意地悪く聞いてみる。


「クチュクンジ殿下はバャハーンギール殿下よりはマシかもしれません。

 ただ、クチュクンジ殿下とトエナ公爵家が帝国全体を支配するのはほぼ不可能でしょう。

 何よりの問題はトエナ公爵家には、そしてクチュクンジ殿下にもそれぞれ配下の官僚機関があることです。

 我らが加担しても下働きになる可能性が高い。

 それでは、われらエディゲ一族は衰亡します」


 ハルドゥーンは淀みなく話し続ける。

 話の大半は死んだ祖父や他の補佐役の受け売りだろうが、本人の力量もそれなりにあるのだろう。


「エディゲ一族というか死んだ宰相閣下は帝国玉璽、特に正印を持っていたと聞いている。

 それを提供すれば無下には扱われないのではないのか?」


 オレの問いに少年は軽く微笑んだ。


「よくご存じで。

 しかし残念ながら現在の我々は帝国玉璽を保持しておりません。

 祖父を暗殺した者がついでに強奪していきました」


 良くわからん。


「話が分からん。

 そこの話、最初から教えてくれるか?

 正直、あのアドッラティーフ宰相があっさりと殺されたというのが分からん。

 この話、誰も詳しいことを知らない。

 トエナ公爵家とクチュクンジの手引きとの話にはなっているが具体的な話は誰も語らない。

 カゲシンは暗殺が横行する社会だ。

 帝国宰相は当然暗殺には備えていたはず。

 それが何であっさりと暗殺されたんだ?」


「流石に鋭いですね」


 ハルドゥーンは溜息をついて話し始めた。


「祖父が暗殺された原因、第一は諜報の敗北です。

 暗殺された時に祖父はカゲシン郊外の別荘の一つに居ました。

 複数ある別荘のどれに祖父が滞在しているのかは極一部の者しか知らない形です。

 ですが、ウィントップ公爵家の滅亡という事態にカゲシンにいた官僚は祖父に急使を飛ばしました。

 この使者が後を付けられたわけです」


 確かにウィントップ公爵家滅亡なら急使を出さざるを得ないか。


「第二は暗殺実行犯の選定です。

 祖父は常に護衛を連れていました。

 一個小隊、五〇人少しですが複数の上級魔導士を含む質の高い部隊です。

 また半日以内の距離に一個大隊、千人規模の部隊も待機していました。

 この護衛部隊を制圧して祖父を殺すには一個連隊規模の部隊を動員するか、あるいは守護魔導士や国家守護魔導士を動員するしかありません」


「なる程、一個連隊規模の兵員を集めるには時間もかかれば兆候も隠せない。

 準備段階で察知できるというわけか」


「その通りです。

 祖父の不意を突くとすれば、少数の質の高い魔導士部隊しかありませんが、既存の守護魔導士、国家守護魔導士は常に動向が見張られています」


「それで、どうやって暗殺が実行されたんだ?」


「未知の国家守護魔導士が現れたのです」


 なんだ、それ!


「セリガーの一桁とかフロンクハイトの枢機卿が密かに帝国内に入っていたとかか?」


「残念ながら違います。

 引き籠りのフロンクハイト枢機卿が帝国内に侵入など有り得ませんし、セリガーの一桁も帝国宰相を暗殺して露見すれば国家間の戦争は必至です。

 そこまでの危険は冒さないでしょう」


「結局、誰に殺されたんだ?」


「アーガー・シャーフダグ、です」


 はあ?


「シャーフダグに似た誰かって意味か?」


「本人です。

 シャーフダグは吸血鬼に転化していました。

 それにより、強力な魔導士に成っていたのです」


「いや、転化しても魔力量は一段階程度、うまく行って二段階程度しか増えない。

 シャーフダグは従魔導士程度だった筈だ」


「かなり特殊な転化を施されていたようです。

 魔力量が一〇倍になる、代わりに寿命が一〇分の一になるという特殊転化法のようです。

 手間暇にコストも高いようですが、セリガーにはそのような秘儀があると」


 寿命一〇分の一って!

 滅茶苦茶非人道的な手法だが、セリガーならやりそうなのが怖い。


「シャーフダグはカゲシン裏の院に収監されていました。

 彼は祖父とアーガー・ピールハンマドに強力な恨みを抱いていましたので、脱獄と引き換えにそのような転化を受け入れ、暗殺犯になったのでしょう」


「そうか、アーガー家は元々僧正家で帝国宰相を務めた家柄。

 帝国宰相が帝国玉璽、少なくとも仮印を持っている事を知っていたわけか」


 シャーフダグは、帝国宰相の義務には無頓着だったが特権には強く拘っていたからな。


「帝国玉璽、仮印でも何かに使えると踏んで持って行ったわけか」


 ハルドゥーンはーが頷く。


「祖父が帝国玉璽の仮印を持っていたのは確実です。

 保管係も死んでいますので、帝国の帝冠と帝国玉璽の正印があったかどうかは全く分かりません。

 仮にあったとすればシャーフダグが持ち去ったのでしょう」


「ついでに教えてくれ。

 当時オルダナトリスにいたというアーガー・ピールハンマドに帝国宰相暗殺とクチュクンジ蜂起を知らせたのはお前たちか?」


「正確には帝国宰暗殺だけです。

 あの時点ではまだクチュクンジは蜂起していませんでした。

 ですが、シャーフダグの後ろにトエナとクチュクンジがいるのは明らか。

 政権を握ったクチュクンジが我らエディゲ家を弾圧する可能性は極めて高く、我々は地に潜ることにしました。ピールハンマド殿をカゲシンに呼び戻すことでクチュクンジの眼を逸らすことが出来ると考えたのです。

 当時のピールハンマド殿自身もエディゲ家に対して含む物があったように思われましたので、それを解消する意味もありました。

 祖父が『自分が死んだらピールハンマドを呼び戻せ』と遺言していたと伝えたのですが、彼は大変感動していたそうです。

 帝国宰相に就任してしまったのは予想外でしたが」


 ピールハンマドのエディゲ家に対する恨みを解消し、クチュクンジに嫌がらせができるって訳か。

 そつがない。


「地に潜るというわりにお前の兄は捕まって死んだようだが」


「後継ぎの男子が二人もいて前当主の葬式を出せないなど一族の尊厳にかかわります。

 後継ぎの男子が二人いて、同時に二人とも捕まるのでは世間に間抜けと言われるでしょう。

 それ故に兄は残り、私は地に潜ったのです。

 実際、兄が捕まったことで、クチュクンジの我らに対する追及は一時的にはかなり緩みました。

 我らの多くはそれで生き延びることが出来ました。

 兄は我らを逃すために覚悟の死を選んだのです」


 ハルドゥーンは唇を噛んでいる。

 なにそれ、こわい。

 どこのゴシショだよ。

 こいつもその内、『死者に鞭打つ』って『日暮れて道遠し』とかほざくんだろうか。


「我々エディゲ家は帝国の宗教貴族として、マリセア正教と千日行達成者を神格化することで権力を保ってきました。

 ですが、もはや、その手は使えないでしょう。

 千日行達成者のみが帝国宰相として権力を振るえるというのは欺瞞です。

 ですが、我々はうまくやってきました。

 しかし、現在、ピールハンマド殿はその遺産を喰い潰しています。

 千日行達成者が帝国宰相として威厳を保つには、少なくとも極端な失政をしないという前提が必要でしょう。

 改革をするにしても少しずつ行う必要があったのです。

 ピールハンマド殿は性急な改革に打って出た。

 急進的な政策は多くの敵を産みます。

 数年もしないうちに千日行達成者は無謬であるとの幻想は消え去るでしょう。

 これからは、武力が物をいう乱世になる」


「それで、オレに取り入りたいと?

 クロスハウゼンに紹介して欲しいって話か?」


 少年は首を横に振った。


「いいえ、クロスハウゼンではなく、カンナギ・キョウスケ殿、あなたと提携したいのです。

 より正確に言えばあなたを派閥トップとして推戴し、その下で権力を握りたいと考えています」


「オレ?

 オレは正式にはほとんど部下がいないぞ。

 クロスハウゼン旗下の一部隊長だ」


「クロスハウゼン家もカゲシンの師団長、少僧正として歴史ある一族です。

 その下には確たる官僚がいます。

 これから我らがクロスハウゼンに仕えたとしても政権中枢には入れないでしょう。

 一方でカンナギ殿、あなたにはまだ信頼できる家来が少ない。

 特に文官はほとんどいない。

 我らは短時間で側近に成れるでしょう。

 カンナギ殿にとっても悪い話ではない筈です。

 このままでは、あなたがどこかの領地を得ても、ろくに統治はできない」


「それは、そうかもしれないが、・・・」


「カンナギ殿、あなたの欠点は自己評価が極めて低いことです。

 自己評価が低すぎるので、多少の理不尽でも自分が我慢するだけであればと受け入れてしまう。

 野望も抱かない。

 自分の能力からすればこれぐらいで充分と自己満足してしまう。

 ですが、これは極めて危険です。

 あなたは能力が高すぎる。

 故に、あなたにはその気が無くても、周囲はそうは考えない。

 あなたを危険視して排除に動くでしょう」


「オレはそこまで能力が高いとは思わないが」


 少なくとも、できるだけ隠しているつもりだ。


「言われるとおりに現状ではそれを知る者は少ないでしょう。

 ですが、知れ渡るのは時間の問題です。

 今は乱世なのですよ」


「オレの立場は既に危険だと言いたいのか?」


「このままクロスハウゼンに行っても数年後には排除されるでしょう」


 それは、確かにそうかも知れないが。


「ちなみに、そちらではオレの実力をどの程度と認識しているんだ?」


「あなたの情報は以前から可能な限り集めています。

 祖父はあなたに注目していたのですよ。

 能力が高く、女性の趣味も良いと」


 ロリコン仲間認定でしょうか。


「私自身もあなたの趣味には感嘆しています。

 ガーベラ会戦で黒色変異のケイマン族美少女の戦巫女ナユタ殿を獲得されたのは流石でしょう。

 並の男性であれば、筋肉美とやらに幻惑されて、ただ強いだけの女戦士を選ぶところです。

 ですが、カンナギ殿は十二歳の戦巫女を選ばれた。

 彼女は極めてレアです!」


 オレとしては筋肉が少なくて、魔力量があって、ケイマンの上級貴族出身者で、できれば美人という条件に当てはまっただけなんだが。

 しかし、こいつも既にロリコンなのだろうか?

 十四歳で?


「ちなみにピールハンマド殿は、ネディーアール殿下が劣化したため彼女に興味をなくしています。

 殿下と親しくしているカンナギ殿を『見損なった』と嘆いていたとのことです。

 ですが、ナユタ殿を見てその考えを改めたと」


「ネディーアール殿下が劣化した?」


「胸が大きくなりすぎだと」


 ロリコンの好みから外れたってことか。


「ネディーアール殿下の場合、母親を見れば遅かれ早かれこうなるのは予見できたはずです。

 それでありながら彼女に固執していたピールハンマド殿に見る目がなかっただけでしょう」


 確かに、ガーベラ会戦から帰ってからはピールハンマドのちょっかいは無かった。

 良くわからんが、オレとネディーアールには良い話なのだと思う。


「話を戻しますが、あなたの魔力量は、ガーベラ会戦の結果やそれ以前の戦いの結果などから少なくともクロスハウゼン・カラカーニー、バフラヴィーと同等以上と見積もられます。

 決定的だったのは最近あなたがデュケルアール様を妊娠させたとの話でしょう。

 彼女が以前妊娠した際には、妊娠直後の性欲を満たすために毎日二〇人以上の男性が必要になったのですよ。

 ところが今回は平時と同様に五人だけ。

 それで妊娠していたというのですから、おかしな話です。

 彼女を満たしていた男性がいたわけで、状況的にそれはあなたしか有り得ない。

 しかも、あなたは妊娠直後のデュケルアール様と並行してネディーアール殿下の相手もしている。

 異常な魔力量でしょう。

 恐らくはクロスハウゼン・カラカーニーを超える、セリガーの一桁と同等以上と我らは考えています」


「デュケルアール様、そう言えば宗主の乳母はエディゲ家出身だったか」


「サライムルク様は我らに今でも情報を提供されています」


 まさかセックスで足がつくとは。

 ところで、デュケルアールの経験人数ってどれぐらいなんだろう?

 考えたくないが。


「現状、我らが、我が一族が復活できる手立てはそう多くは有りません。

 その中で我らはカンナギ殿を選びました。

 少なくとも現在、他に話はしていません。

 大した縁もない我々を簡単に信頼できはしないでしょう。

 ですが、我々は真剣です。

 今日この場で結論できるとは思っていません。

 後日、ご返答を頂ければと考えますが如何でしょう?」


 確かに独立は考えていたし、独立すれば頼りになる文官、官僚組織が必要なのも事実だ。


「一つ、聞いておきたい。

 仮にオレが人族でなかった場合でもオレに協力してくれるのか?」


 オレとしてはギリギリの質問のつもりだった。

 だが、華奢な少年は踏み込んできた。


「それはあなたが『預言者』だという意味ですか?」


「何故、そう思うんだ?」


 平静を装って問い返す。


「あなたのような極めて魔力量の高い人物が突然現れるのはあまりにも不自然だからです」


「預言者は精霊から使命を与えられて世直しをするんじゃないのか?」


「一般的にはそう信じられています。

 ですが、我が家に伝わる所ではそうではありません。

 言い伝えではありますが、我が家もかの最終皇帝の子孫の一家系とされています。

 我が家に伝わる所では最終皇帝も、当初は自身の存在に悩んだそうです。

 最終皇帝は自身が預言者であることを隠して独自の勢力を築き、それから世界制覇に乗り出したとされます。

 ですが、我が家に伝わる所では、それは結果論だと。

 最終皇帝は、当初は世界制覇などする気はなく、悩んだ末に自身の子供たちに押し上げられる形で覇者となったと、そう伝わります。

 最終皇帝は精霊から使命など与えられていなかった。

 カンナギ殿、あなたもそうなのではありませんか?」


 歴史ある貴族って、一体どれぐらいの情報を隠しているのだろう?


「取りあえず、今はその返答はできない。

 ただ、それで良ければ、遠くない将来に連絡させてもらう」


 オレたちは数種の連絡手段を確認して別れた。




 一日遅れでネディーアール殿下と合流したら盛大にブーたれていた。

 つーか、いきなりビンタされて、そのままベッドに連れ込まれた。

 実は、ここまでは覚悟していたんだが、・・・。


「もう、出発とは何事だ!

 まだ、三回しかしていないのだぞ!

 前と後ろと口で一回ずつだ!

 三〇時間以上我慢させられてこれで終わりだとは言うのか!

 四~五回は失神して筋肉が脱力して動けなくなるまでしてくれるのではなかったのか!」


 出発準備中に戸外で盛大に文句を言うお姫様。


「ですから、既に予定より遅れているんです。

 脱力して動けなくなったら移動できないでしょう」


「どうせ遅れているのだから一日でも二日でも同じではないか!

 大体、手枷も足枷も無いのはどーゆーことだ!

 全く気分が出ないではないか!」


 横ではシマが溜息をつき、アシックネールが頭を抱えている。

 手枷、足枷って、そんなの数えるほどしか使っていないじゃないか。

 それもオレが持ち込んだんじゃない。

 デュケルアールが持ってきて既につけていたのをヤッただけだ。

 そもそも手枷足枷の両方をつけてヤッたのは一回しかない。


「予定から遅れているって事はカゲシンからの追っ手も迫っているって事です。

 少なくともここからは直ぐに移動する必要があります」


 ネディーアールはうーうーと唸っていたが、やがてしぶしぶと頷いた。

 理解してくれたかと思ったら、着替えに引っ込んでしまう。

 で、着替えてきたら、・・・その格好は何でしょうか?

 ミニスカに黒ニーハイって。

 上着は赤くて緩め。

 その格好で何故かオレの乗馬に乗ってくるお姫様。

 黒ニーハイって、そんなもんどこから手に入れたんだ?

 この世界で伸縮性のある素材ってとっても貴重なんだが。

 ゴムはあるが極めて貴重で数が少ない。

 オレが以前手に入れたのは魔獣というかカイコみたいな魔虫の糸から作った物でえらく高価だった。

 それを調達して黒ニーハイに加工してもらうのにどれだけの手間と時間と金を掛けた事か、・・・あ、そうか、これ、オレが作って提供したやつだ。

 ここで使ってくるとは。


「時間が無いのなら致し方ない。

 ジャニベグ殿とシャールフみたいに馬の上でヤッてくれ。

 皆に見えてしまうが、其方の認識阻害魔法とかをかければ何とかなるであろう」


「魔獣馬ですから二人乗りでもなんとかなりますが、移動中に馬の上でヤレっていうんですか?」


「時間が無いが、私はこれ以上耐えられん。

 心配ない。

 足はこのソックスでむき出しにならないし、スカートは短いから邪魔にならない。

 上着も緩めだから裾から手を入れて胸を揉むのにも支障はない。

 最後に下着は穴あきだ。

 完璧であろう。

 直ぐに突っ込んでくれ!」


 ・・・何言ってんだ、この淫乱。

 いくら何でも、こんな状況で欲情するほどオレは非常識ではない。


「専用肉奴隷がこんなに欲情してお願いしているのにご主人様は精を注いでくれないのですか?」


 突然、口調を変えて耳元で囁くネディーアール。

 えーと、・・・うん、・・・まあ、・・・致し方ない、・・・のかな。

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