08-29 旅立ち?
一月二二日、ライデクラート襲来から二日後、タージョッから情報を得た翌日、オレはカゲシンから離脱した。
極めて急な旅立ちである。
何か色々と不穏なので旅立ちを早めたのだ。
当初の予定は二月初めだった。
屋敷をどうするのかとか、自護院、施薬院の仕事をどうするのかとか、色々とあったからである。
ハトンの全金徽章も問題だった。
一月末の試験での獲得が目に見えていたのだが、逆に言えばそれまで獲得できない。
ただ、ネディーアールの例もあるので特別に試験を受けられないかと聞いてみれば、試験官がいれば可能だと。
試験問題は使いまわしが多いので担当講師に貰えばよいという。
誰か試験官になってくれる講師はいないかと探していたら、『お前がやればいいだろ』とバフシュ・アフルーズに言われてしまった。
確かにオレも講師である。
身内は不味いだろうと言ったら、身内に融通を聞かせるのが貴族だろうと不思議な顔をされてしまった。
貴族制度万歳!
そんなことで、試験問題を取り寄せて、オレの監督のもとハトンに書き込ませ、オレが採点して結果をシャイフに提出。
ハトンは無事全金徽章持ち医療魔導士となった。
ちなみにシャイフから頼まれてハトンは年齢不詳にしている。
ネディーアールの最年少全金徽章の記録を崩さないためだ。
貴族制度万歳!
屋敷の維持管理だが、サムルを名目上のメインとして、古参の侍女ワリーとシャーリを残した。
三人とも『吸血鬼恐怖症』なので、連れて行くのは困難と思われる人材である。
屋敷だが、売却はしない。
強制接待の女性たちの居場所が必要なのだ。
将来デュケルアールを脱出させる件もあるのでそれまでは維持する事となった。
女性たちの管理はサムルだけでは無理なので、数か月はスルターグナが手伝いに通ってくれることとなる。
ちなみに、施薬院業務も過半はスルターグナに押し付けた。
捕虜の女性陣は以前からモーラン家の宿舎だったので、そちらはそのまま。
捕虜女性、そして一部の接待女性をカゲシンに馴染ませるための礼儀作法などはデュケルアール様が申し出てくれた。
ちょっとだけ不安だが、彼女からの申し出を無下にできないし、他に当てもない。
カゲシンを離脱することについて、反対というか、微妙な意見を出してきたのがナユタである。
「主様が指揮官なのですから、武力で制圧してバャハーンギールもピールハンマドも始末してしまえばよいのでは?」
まさかのクーデターお勧め!
それ、宗教貴族の大量殺戮が必要なんですが。
オレ、そんなのやりたくないし。
客観的に見ても新師団は半数以上が採用一か月未満の元難民で、残りもミッドストンで募集した元難民。
オレ個人に対する忠誠心なんて期待できない。
その辺りを説明したらしぶしぶ頷いた。
ちなみに牙族だと、部下になって三日でも強い指揮官には付いていくという。
更に言えば、そーゆー武力蜂起が普通らしい。
やっぱ、蛮族だよな。
カゲシンからの脱出で最大の難関がカゲシン正門だが、オレ自身はカゲシン郊外の新師団駐屯地に日参しているので出入りは簡単である。
アシックネールやハトンたち従者も同様。
私兵として同行するスルスー小隊は最初から駐屯地居住だ。
旅行用の各種装備も駐屯地に集積してある。
最難関がネディーアールだが、この朝、オレより先にカゲシン城門をくぐった。
実はネディーアールはしばらく前から度々地方からの『祝福』依頼のため、カゲシンから外に出ていた。
全て日帰りだが、カゲシン外に出る実績を作っていたわけである。
勿論、彼女には監視が、それも複数付いている。
何度か行動を共にすることで、誰がどこの監視なのかを確認していた。
ネディーアールは監視をまく算段は整ったと言っていたので多分大丈夫だろう。
そんなことで、オレはいつも通りに午前八時過ぎにカゲシン郊外の駐屯地に入った。
「オレ、このままアルダ=シャールに向かうから」
幹部を集めて宣言したら、案の定騒然となった。
オレは命令書を片手に説明する。
「ここにあるように招集命令が出た。
クロスハウゼン師団本隊からだ。
緊急招集だから、これから直ぐに出立する。
留守部隊の代理指揮官はレニアーガー・フルマドーグだ。
それと、ゲレト・タイジだが、クロスハウゼン師団への出向が解除となる。
牙族集団の管轄はモーラン家だ。
既に話は付いている。
タイジの第二魔導大隊もモーラン家からの出向が多いがそれも解除だ。
今日中にモーラン師団の駐屯地に移動してくれ」
「ちょっと待ってください。
何がどうして、どうなっているのか。
順序だてて説明をお願いします。
そもそも緊急招集って、うちはクロスハウゼン師団から独立して新師団って話だったんじゃあないんですか?」
レニアーガーが猛然と抗議する。
「あくまでも予定だな。
この部隊はまだ書類上は『帝国第十一軍所属クロスハウゼン特別旅団』なんだ。
旅団長はクロスハウゼン・バフラヴィー閣下で、代理旅団長はネディーアール殿下。
オレはその補佐で、魔道連隊長だ。
現在、この部隊を母体として新師団の設立が進められているのは事実だが、新師団は師団長も決まっていない」
そう、オレの師団長はあくまでも内定だ。
バャハーンギールらが提示した条件をオレは正式には受諾していないから決定しているはずがない。
「いや、それ、確かに書類上はそうかも知れませんが、カゲシンの上の方に訴えれば簡単に覆ると思いますが」
「その通りだが、オレは覆すつもりはない」
「新師団長就任が消えますよ!」
「別に師団長になりたくはないから」
オレの返答に師団本部かっこ仮に集結していた幹部一同が驚愕する。
とんでもない衝撃らしく、狼狽えている者も少なくない。
師団長就任ってすんごいことで、それを辞退するなんてありえないんだろうな、一般には。
「一つ言っておくが、オレがこのままこの部隊を師団にして師団長に就任したら、とんでもないことになるぞ。
上は今、新たな戦争を起こそうとしている。
新師団はそれに使われる予定だ。
クロスハウゼン師団討伐か、あるいは旧ウィントップ領の制圧。
どちらにしても、とんでもない苦行になるのは見えている。
下手をすれば全滅だ。
それが嫌だから、オレはアルダ=シャールに向かう」
驚愕していた全員が押し黙る。
恐らく、皆何らかの噂は聞いているのだろう。
「ヘロンで一回戦っただけの兵士とウィントップ難民の師団ですよ。
そこまで無茶を言いますかね?」
「このままだと確実にそうなる。
師団長だの連隊長だのに就任しても戦死したら意味がない。
オレがいなくなって、そしてゲレト・タイジと第二魔導大隊が消えれば新師団の戦力はかなり落ちる。
上も無茶は言えなくなるだろう。
つまり、オレが離脱するのはお前たちを守るためでもある」
詭弁かもしれないが、嘘は言っていない。
「確かにそうかも知れませんが、・・・こんな百万回に一回のチャンスを棒に振るなんて。
そもそも自分に代理が務まるとは思えません」
レニアーガーは不安気だ。
「上がなんか言ってきたら、『自分には師団長は無理だから誰か適当な者を寄こしてくれ』って言えばいい。
それでも出征を命じられたら、攻撃なんて無理で、守備隊ぐらいしかできないと言えばいいだろう」
レニアーガー以下幹部たちがなんとなく頷く。
「私たち第二魔導大隊がモーラン師団に行くのは良いのですが、それ、上が認めるのでしょうか?」
聞いてきたのはタイジの第一正夫人であるテスナだ。
「現在の帝国法と慣例では、自護院の師団内では師団長が人事権を握っている。
大隊長クラスは命令されれば、それまでだ。
ゲレト・タイジと第二魔導大隊については、クロスハウゼン師団とモーラン師団からそれぞれ転籍命令が出ている。
上が何か言ってくる前に急いで、今日中に転籍するのがいいだろう。
そうすれば、バャハーンギール殿下やアーガー宰相が何か言ってきても、『師団長に言ってください』で済む。
モーラン・バルスポラト殿がお前たちの面倒を見てくれるだろう」
テスナが頷く。
「それはそうとして、タイジは大丈夫なのか?」
ゲレト・タイジは最初からここにいるが、一言も喋っていない。
反応もない。
ただ、ボーっと立っている。
何というか、・・・真っ白に燃え尽きた、とでも言うのだろうか。
実を言えばタイジは昨日師団会合を欠席していた。
今日は何とか出てきたのだが、・・・一昨日と言えば、アレだよね。
「実はタイジ様は一昨日の夜、とても頑張られたのです!」
テスナが誇らし気に話し始める。
「一昨日の夕方、あのクロスハウゼン・ガイラン・ライデクラート様がわざわざタイジ様を尋ねてこられたのです。
何でも強行軍で移動してきたので魔力補充が必要だと。
以前、ライデクラート様にはタイジ様のために『前立腺マッサージ』を伝授して頂いたのですが、それの確認がてら魔力補充をして欲しいとのことでした」
「その話、受けたのか?」
「勿論です!
クロスハウゼン・ガイラン・ライデクラート様と言えばスラウフ族にも聞こえた美人で勇者です。
その方から魔力補充を求められるなど男性としての誉れでしょう!
タイジ様にとっては一生自慢できる話ですし、私たちも誇らしい話です!」
テスナの返答に師団幹部たちが騒めく。
「それ、まさか、ライデクラート様としたって言うのか⁉」
レニアーガーが悲鳴のような質問をする。
「当然です!
一昨日、タイジ様は夜の最高記録を達成されたのです!
実に一日で十七回です!
ライデクラート様の前立腺マッサージは素晴らしい効果でした!」
場が更にどよめく。
地球では男性の回数は一晩せいぜい五回とされているが、カナンでは一〇回と言われる。
周囲の反応からして十七回というのはかなり多いのだろう。
・・・オレ、最近、コンスタントに一日二〇回を超えているんだが、・・・秘密にしといた方がよさそうだ。
「タイジ様はその十七回のうち、七回をライデクラート様の中で出されたのです!」
「ライデクラート様はいたく満足されていた。
タイジ様は、あのライデクラート様を満足させた男なのだ!」
テスナに続いてタイジの第二正夫人であるオルジェイトが胸を張る。
「十七回!信じられん!」
「嘘だろうー、でもオレだってライデクラート様が相手をしてくれれば十七回ぐらい・・・」
「魔力なのか、精力も魔力量なのかー」
「くそー、オレの方が体格はいいのにー」
場の反応がすさまじい。
オレが師団長に就任しないって宣言した時よりすごいんだが。
ライデクラートとヤったって、そんなにすごい事なのか?
つーか、それを誇りにするって。
あー、でも、周りの反応からすると『誇り』になってるんだな。
それは、いいが、タイジ本人の反応が全くない。
オレは騒めいている集団を放置してタイジに歩み寄った。
「おい、タイジ、大丈夫か?」
白いままのタイジに問いかける。
タイジがボーっとした顔で振り向く。
そして、数秒。
「あっ、あっ、キョウスケ!」
タイジの両眼からぶわっと涙が溢れだした。
そのままオレにつかみかかる。
「キョウスケ、お願い!
僕にパンティー分けて!」
「おい、突然、何を言い出してんだ!」
「僕、このままではダメになる。
おかしくなる。
僕、もうお尻にメイスなんていやなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー」
感情が復活したのだろう。
一気に溢れ出した涙と鼻水でグチャグチャになった顔で捲し立てる。
「おい、まさか肛門にメイスを入れたのか?」
横にいるテスナに聞く。
「ええ、前立腺マッサージに汎用メイスを使いました」
「まさか、メイスヘッドを?」
「いえ、それは流石に無理です。
入れたのは柄の方だけです。
ライデクラート様によれば汎用メイスは戦場でもどこでも手に入りやすく、それ専用の器具を用意しなくても良いのが利点だと」
そうか、・・・柄の方だけか、・・・ちょっと安心、・・・ってわけでもないのか?
「キョウスケ、パンティーちょうだい!
僕、女性の使用済みパンティーを被って興奮できる普通の男に戻りたいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「使用済みパンティーを使うより、前立腺マッサージの方が普通だろう」
タイジの魂の叫びにレニアーガーが戸惑った声を出す。
その周囲では他の男性たちが大きく頷いている。
度々思うが、普通ってなんだろ?
「なるほど、ゲレト殿は後ろを攻められるのが好きだと。
つまり、『受け』ですね。
しかし、自分が受けであることを認めるには葛藤があると。
いいですね、実に良い!
創作意欲が掻き立てられます!」
スルターグナ、お前は口を開かんでいい。
少なくとも、そのヨダレはなんとかしろ!
「タイジ様、使用済み下着でしたら私たちが幾らでも作りますが?」
「テスナ、うちの者に聞いたのですが、カンナギ殿はネディーアール殿下の下着を熟成させて芸術品に仕上げたのだそうです。
タイジ様はそれが欲しいのでしょう」
戸惑った顔のテスナにオルジェイトが意見する。
「え、あの噂の下着はカンナギ殿が提供者だったのですか?」
テスナ、そんなに大きな声で叫ばないでほしいんだが。
不穏な空気に、アシックネールとハトンが話は終わったと師団幹部たちを退室させ始める。
対処が早いのは有難い。
一方でタイジはオレに縋りついたままだ。
縋りついたまま『パンティーちょうだい』と繰り返している。
これ、どーしよう?
ライデクラート恐怖症はオレとタイジしか理解できない話だし、・・・ライデクラート隊長がタイジの所に行ったのはオレが拒否したから、・・・いや、送り込んだのはオレじゃないぞ、アシックネールだ。
でも、オレにも、その、罪悪感というか、ほんのちょっとだけ責任があるような気がしない訳ではない。
「分かった。
一枚、やるよ。
一枚だけだからな」
こんなに泣いて頼んでいるのを見捨てるのは忍びない。
オレは亜空間ボックスから『クラス九』、最も高いレベルの下着を取り出してタイジに渡した。
タイジは嬉しそうに受け取ると直ぐに革袋を開き、顔を突っ込む。
「ああ、なんて凄いマナの香りなんだ!
僕、これでお尻でなくても頑張れる!
キョウスケ、ありがとう、本当にありがとう!」
涙ながらに何度も礼を言うタイジ。
良かったのか、な。
「頂いたのは良いですが、・・・」
「前立腺マッサージの方が実績はあると思いますが」
後ろではテスナとオルジェイトが戸惑っている。
カナンの女性って男の精を搾り取ることに関して真剣すぎると思う。
「下着を被るのと前立腺マッサージは併用できますよ」
「なるほど!」
そこに、いらぬ助言をするスルターグナ。
そっちも頷くなよ!
まあ、でも取りあえず良かったのかなと思っていたら、オレの肩に手が置かれた。
「カンナギ殿、あんた、なんで女性の使用済みの熟成パンティーなんか持ってるんですか?」
レニアーガーが呆れ果てたという体で首を振る。
あれ、さっき人払いをしたような、・・・そー言えばレニアーガーって副旅団長でタイジよりも上だった。
「いや、タマタマというか、偶然というか」
「タマタマとか、偶然とかで熟成パンティーは持ってちゃいかんでしょ!」
御尤も。
でも、タイジは見捨てられなかったし、・・・。
「えーと、ここだけの秘密ってことで」
「あれで、そんな悠長なことが言ってられるんですか!」
レニアーガーが指さした先には、互い違いのウサ耳を嬉し気にピクピクさせながらルンルンと部屋を出ていく変〇仮面の姿が。
外で待機していた他の幹部たちがタイジの姿に驚愕している、・・・手遅れ?
おい、モーラン・マンドゥールンもスルスー・メニアクもその場では被らんかったぞ!
家の中だけで使用するように言っとくべきだった。
「パンティーを渡したのが間違い、いや、そもそも普段からそんなもんを持ち歩いているのが間違いって分かってください!」
そのあと、延々と説教された。
何故か予想外に手間取ってしまったため、師団駐屯地を出たのは午前一〇時過ぎだった。
別れ際にスルターグナが「私の本返してください!」と絡んできたためさらに遅れたのだ。
スルターグナ謹製のやおい本だが、亜空間ボックスに突っ込んだまま行方不明になっている。
亜空間ボックスだが、フォルダで仕分けされているがパソコンではない。
ソート機能もないし検索機能も無い。
であるから中に何が入っているのかは一つ一つ開けて確かめるしかない。
フォルダはオレが意識すれば中身の画像が頭の中に浮かぶのだが、フォルダによっては中身が膨大。
いや、大半のフォルダが妙にたくさん入っている。
イメージとしては体育館の床に無秩序に物資が広げられている感じだろうか。
パッと見では何が入っているのか良く分からない。
剣とか数千本単位で入っているので一つ一つ意識しないと何がどーゆー物なのか判別できないし、機能を調べるには取り出すしかない。
更に言えば、しばしばコンタミしている。
剣のフォルダに斧が入っているぐらいならかわいい方。
先日は、弁当のフォルダに生きた山羊が入っているのが発見された。
生きた山羊でもフォルダ内ではフリーズして動かないので、最初は山羊のオブジェと勘違いした。
試しに取り出してみたら動き出したので慌てて再収納したが。
スルターグナの本だが、何時も使用している雑用フォルダに入れたつもりだったのだが、見当たらない。
慌てていたのでどこか変なフォルダに入ってしまったのだろう。
こうなると探すのは至難の業、というか異様に時間がかかる。
スルターグナには金貨一枚で許してもらった。
駐屯地を出て、そのままカゲクロに向かう。
ここで、センフルール勢と合流して物資も整える。
取りあえずの出発となった。
一行だが結構大人数。
つーか、オレ一応貴族だからそれなりの人数で移動しないとまずいらしい。
オレに同行する女性陣だが、アシックネールにハトン、ナユタ。
それぞれ侍女が付く。
ハトンは元シャールフ侍女だった二人を連れている。
侍女の下に更に下働きがつくから、これだけで二〇人ぐらいになる。
護衛の私兵としてスルスー小隊五〇人プラスその下働き。
センフルール勢も下働きがいるから二〇人ぐらい。
合計で一〇〇人を超えている。
ちなみに全員騎馬。
移動速度優先で徒歩は勿論、馬車もつれていない。
ネディーアールはカゲクロ東方の小領主の館にいるはずだが、彼女の一行が加わったら一五〇人ぐらいになるかもしれない。
人件費が安い世界とはいえこれだけの人数がオレの配下というか給料を払う人数と考えると眩暈がする。
アシックネールは慣れろというが。
センフルール勢だが、オレがアルダ=シャールに向かうと言ったら付いていくと即決だった。
だが、センフルール勢は留学生で、それも多分に人質の意味を持つ留学生だからそう簡単にカゲシンからは出られない。
前回の出征の時もネディーアールに同行すると言ってそのまま第十一軍に付いてきてしまった訳で、後からかなり問題になったらしい。
ガーベラ会戦で活躍したため不問に付されたが、次は勝手に出ないようにと釘を刺されたという。
それが、また、だ。
いいのかと思っていたら、許可の申請すら出さず、勝手に出てきたらしい。
下級メイドは正規に正門から出させたが、シノ・シマ以下六名は夜陰に乗じて迷彩魔法展開でカゲシンの城壁を越えてきたという。
完全に違法である。
「私たちはあなたの血に依存していますから、付いていかないという選択肢はありません」
シノさんがニカっと笑う。
「そんなことで、責任もって扶養してください」
扶養って。
「よくお目付け役のミスズさんが許しましたね」
「事後報告です。
置手紙をしてきました」
「・・・怒り狂って追いかけてくるんじゃあ・・・」
「宗主から呼び出しがあってもミスズが残っていれば取りあえず凌げます。
ミスズまでいなくなれば外交問題に発展しますから、ミスズはカゲシンから出ることはできません。
つまり、追いかけてくることもできません」
確信犯ですか。
後ろではシマが蒼い顔で「流石にまずかった」とか「そりゃキョウスケの確保は大事だけど」とか「やっぱりミスズには了解を取るべきだったんじゃあ」とか呟いている。
いいんだろうか?
しかし、これから引き返すのは悪手だ。
気を取り直して前進を指示する。
まずはネディーアールとの合流だ。
既に予定より遅れている。
ネディーアールは怒っているだろう。
だが、急ぐという目論見は早々に破綻した。
カゲクロを出て一時間もしないうちに止められたのだ。
四〇歳ぐらいの男性を中心とした一団が待ち構えていたのである。
「カンナギ・キョウスケ殿とお見受けいたします。
我が主人が是非にお話をと申しております。
お手数ですが半日ほど時間を頂けないでしょうか?
主人の下までご案内したいのです」
集団は一〇人と少し。
そう強い者はいない。
蹴散らすのは簡単だ。
ただ、メインの男性は知らない顔ではない。
「ひょっとして、オレが来るのを待ち構えていたのか?」
「そろそろ頃合いと思い、数日前からカゲクロに見張りを立てておりました」
「師団駐屯地にも手の者がいたとか」
「否定は致しません」
随分と諜報に長けている。
「一つ聞かせてくれ。
今、あんたは誰に仕えているんだ?」
「以前と同じです」
訝しがるオレに男はすました顔で続けた。
「私は、今も昔もエディゲ家当主の直属です」
男は静かにそう言った。
従者のうち三人は明らかに一〇代前半の少女。
残りもせいぜい一〇代後半。
この男がエディゲ家一族というのは間違いないだろう。
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