08-26 ホントにいいの? (一)

 ライデクラートが去った後、アシックネールはハトンを連れて情報収集に走った。

 ライデクラートは一つ宿題を残していった。

 カゲシン中枢の状況を探る事である。

 ライデクラートが話したカゲシン政権の動きは、ほぼ全て推測だ。

 大筋では間違っていないだろうが詳細は分からない。

 特に探るべきは今回の謀略を主導したのが誰かということ。

 そして、彼らが落とし所をどこに置いているか、だ。

 クロスハウゼンには三人の重要人物、核となる男性がいる。

 カラカーニー、バフラヴィー、そしてシャールフだ。

 このうち、カラカーニーは既に死んでいる。

 仮にカゲシン政権がカラカーニーの死だけで満足するのであれば、事を荒立たせずに妥協が可能かもしれない。

 カラカーニーに加えて、バフラヴィーとシャールフのどちらか、あるいは両方の死を欲しているのならば妥協は難しい。

 これを探るのは極めて困難だが、断片でも分かれば大きい。


 アシックネールを見送って、オレはネディーアールを自宅に誘った。

 二人きりで話をするためである。


「ライデクラート殿の件は助かりました。

 その、苦手にしていましたので、察して頂いて有難かったです」


「ふむ、やはりそうか。

 以前からそれらしき事は言っていたが、ライデクラートでもダメとなると其方の筋肉女子嫌いは国家守護魔導士クラスだのう」


 ネディーアールが変に感心している。


「それにしても、其方、あっさりと承諾したな。

 セリガーの第九位と戦って勝てると思っているのか?」


「まあ、何とかなるかと」


「その根拠は?

 其方、セリガーの第九位と戦ったことがあるのか?」


「第九位と会ったことはありませんが、第七位とは会っています。

 第七位と同等かそれ以下であれば問題ないでしょう」


「第七位、・・・ひょっとしてあの時か?」


「ええ、まあ、あの時です」


 思えば『永遠の霊廟』での月の民の争いの調停にネディーアールが立候補したことからオレとの接点が出来たんだよな。

 随分と昔のように感じるが、まだ一年ちょっと前の出来事だ。

 ネディーアールって当時からかなり変わっていたんだな。

 あんな僻地に自ら行きたがる内公女なんて他にいない。

 内公女というかカゲシンの女性貴族はカゲシンから出ない。

 カゲクロなど近郊の別荘とかには行くが、それ以上は出ない。

 夫の遠征に付いてきただけのスタンバトアが『変わり者』と自称していたぐらいだ。


「そうか、あの時か」


 ネディーアール殿下が独り言ちている。


「しかし、もう少し勿体ぶるというか躊躇した振りぐらいしても良かったのではないか。

 ライデクラートが驚愕しておったぞ」


 恐らく、セリガーの一桁と戦うというのは国家守護魔導士クラスでも命がけなのだろう。

 わざわざライデクラート隊長を送り込んできたのだから、バフラヴィー以下のクロスハウゼン首脳はオレの説得は難航すると考えていたと思う。

 しかしこれ、ライデクラートが体で説得する前提だよね。

 改めて恐ろしい世界だ。


「でも、ネディーアール殿下も止めませんでしたよね」


「まあな。

 其方が勝てるというのであれば勝てるのであろう」


 ネディーアールが笑う。

 しかし、良い女になったよなぁ。

 一年前に比べて身長というか足が伸びて胸は一回り以上大きくなった。

 一方でウエストは以前より細いぐらいだ。

 そんでもって名器だし。

 こんな美女と毎日できる環境になるとは地球時代には考えもしなかった。


「其方は母上と私を毎日ヒイヒイ言わせる男だからな。

 それだけの魔力量があるならセリガーの一桁に勝てても不思議ではない」


「確かに少しは躊躇すべきだった、ですかね。

 でも、ネディーアール様との婚姻をクロスハウゼン首脳に認めてもらえそうですから、悪くないと思いますが」


「それはあるな」


 ネディーアールが満足げに頷く。


「それは兎も角として、私がアルダ=シャールに行くのは確定ですがネディーアール様はどうしますか?

 行った場合、カゲシンには簡単には帰れない可能性が高いのですが」


「当然、私も行くぞ」


 まあ、そうだろうな。


「ホントにいいんですか?

 一応、断っておきますが、二度と戻ってこられない可能性もありますよ」


 この子、頭は良いけど直情的でもあるからな。

 本当の意味が分かっているか不安だ。


「生まれてからずっとカゲシン育ちだからな。

 未練が無いと言えば噓になる。

 だが、このままカゲシンに居ても展望は開けまい」


 予想以上にあっさりだ!


「其方にも話は来ているやもしれぬが、私の所にはバャハーンギールの『正夫人に成れ』との話がひっきりなしだ。

 様々な部署の様々な人間が『良い話』とか『助言』とか『忠告』とか言って同じことを話していく。

 正直、聞き飽きた」


「そんなに多いのですか?」


「恐らく、カゲシンにいる限りこの話は永遠に続く。

 クロスハウゼンはシュマリナから戻らぬし、ベーグム改めガーベラ家もヘロンから動くまい。

 どちらもバャハーンギールのために働く気はない。

 カゲシンに戻ってトエナ討伐するのも面倒だが、トエナを討伐しても粛清に怯える日々が続く。

 ならば最初から戻らない結論になるのは当然だ。

 後継ぎを失ったナーディル師団も、単独でカゲシンに戻ってトエナやクロスハウゼンの討伐を命じられるのはいやであろう」


「トエナ公爵家もそこら辺は理解しているのでしょうね」


「そうであろうな。

 フサイミールの叔父上に聞いたのだが、トエナにはクチュクンジの次男がいるらしい。

 クチュクンジが死んだとしても旗印には不自由しない」


「三師団がカゲシンに戻らないのであれば当分トエナ討伐はない。

 焦らず地道な勢力拡大に努めると」


「結果として、バャハーンギールに七人の正夫人が揃う事はない。

 故に、こちらへの圧力が絶えることも無い」


 現政権は帝国内の権限の多くを喪失している。

 オレも色々と情報を集めているが、ヘルステン財務部算用所主席筆頭補佐によれば、帝国各地からの税金、名目上はマリセア正教へのお布施が集まらないらしい。

 戦乱による損害や疲弊、あるいは交通の遮断を名目に諸侯はお布施を出し渋っている。

 当てに出来そうなのは直轄地、それもカゲシン近郊だけだという。

 カゲシンに集まる『お布施』は帳簿上で前年の七割、実際に送られてくる額は更にその半分以下、つまり前年の三割程度ではないかと。

『トエナ公爵家が自立し、三師団がカゲシンにいない状況では武力による圧力が効かない』とは、ヘルステンの言である。


「バャハーンギール=ピールハンマド政権は権力基盤が弱いですからね。

 誰も積極的に娘を送り込みたいとは思わないでしょう。

 しかし、ネディーアール様を正夫人に迎えたとして、それで権力基盤が固まるとは思えないのですが」


「バャハーンギールらがまともに基盤を固めるとしたら一〇年は必要であろう。

 だが、彼らにはその時間が無い。

 私の正夫人の話も、今回のクロスハウゼンに対する策謀も根は同じだ」


 現在のカゲシンには帝国玉璽が無く、ニフナニクスの帝冠も宗祖カゲトラの錫杖も無い。

 宗主シャーラーンは病気。

 バャハーンギールは宗主どころか宗主継嗣ですらなく、摂政代理という意味不明な地位だ。

 宰相アーガー・ピールハンマドは正式に任命されたが、後ろ盾のエディゲ宰相家は壊滅している上に絶望的に人望が無い。

 ピールハンマドを積極的に支えているのは柱頭行者に代表される宗教過激派だけだ。

 宗教規制強化で、ガーベラ会戦時の祈祷成功で集めた支持者も大半が脱落したという。

 何時、政権を失ってもおかしくない。

 一発逆転を狙ったのがクチュクンジのアルダ=シャール蜂起、なのだろう。


「そんなことで私は其方についていく。

 そもそも、付いていかねばヤレないではないか。

 私は毎日キョウスケとヤレるのであれば、何処に行っても構わぬぞ」


 ・・・情緒の欠片も無いな。


「あの、せめて『一緒に居られれば』とかにしてもらえませんか?」


「一緒にいるだけでヤルことをヤラねば意味が無いではないか!」


 ・・・なんで、こんなに好き者になっちゃったんだろ、・・・って、オレか?


「まあ、幾つか条件はある。

 其方についていく、其方の正夫人になるという事だが、まず、第一正夫人にしてほしい。

 それで、毎日、シテ欲しい」


「第一正夫人は、そうでしょうね」


「次に、その、其方の専用にしてほしい。

 これから私が妊娠したとしても、『代理』は使わないで欲しい。

 母上のように妊娠した後の欲情期間も其方が相手をしてほしいのだ」


 また、分からん言葉が出てきた。


「すいません。

『代理』ってなんですか?」


「あー、そうか、知らぬのか。

 そー言えば上級貴族だけの風習ではあるな」


 ネディーアールの説明では、女性が妊娠した場合、特に魔力量の高い女性の妊娠では最初の一か月は性欲が極めて強くなる。

 この期間に男性が多くの精を注ぐと妊娠期間が短くなるのだが、逆に言えばそれしか効能は無い。

 精を多く注いでも生まれてくる子供の性別や魔力量などが変化することは無いと証明されている。

 妊娠後の性交は夫婦間の愛情が深まり妊娠期間が短くなって女性の負担が低下する程度の意味だ。

 これは、男性側からは利点が少ない。

 男子の跡継ぎが必要な貴族では、特に魔力量の高い男子の後継ぎを必要とする高位魔導士の上級貴族男性は、より多くの女性と交わり、より多く妊娠させて、より多くの子供を得るべきなのだ。

 結果として多くの貴族男性は妊娠した夫人の相手をしない。

 ここで活躍するのが愛玩魔獣ディプラーである。

 だが、魔力量の高い女性はディプラーでは満足できない事が多い。

 デュケルアールはディプラーを使ったことがあるが全く満足できなかったという。

 しかも、一回使用しただけでそのディプラーは衰弱死したそうだ。

 一般に上級魔導士以上になるとディプラーでは『足りない』という。

 このため、上級貴族、特にクロスハウゼン家のような魔力量の高い家では妊娠後の女性に対して『代理』の男性を宛がうそうだ。


「今回、母上は妊娠後も其方に面倒を見てもらってとても良かったと感謝していた。

 私もあのようにしてほしいのだ」


「それは了解しました」


 オレとしてもネディーアールを他の男性に委ねるのはいやだしな。


「ところで、スタンバトア様やファラディーバー様も『代理』を使っていたのですか?」


「そうだぞ。

 スタンバトア殿はブルグル・タミールワリーが担当していたはずだ」


 いきなり生々しくなったよ。

 ゲッソリだ。

 しかし、カナンってオレが知らない風習がまだまだあるんだな。

 この世界の貞操ってなんだろう?


「もう一つは母上の事だ。

 先ほども話したが、宗主が死んだら其方が引き受けて欲しい」


 肉奴隷の話ね。


「夫の後継ぎ以外となると娘の嫁ぎ先に行くのが普通だ。

 そして、母上の娘は私だけ。

 そんなことで、其方に母上の面倒も見てもらいたい。

 幸い体の相性は悪くないと思う。

 母上も其方が相手であればあと一人か二人は子を産めると言っていた。

 其方の一族繁栄の為にも良い話と思うのだが」


 うーん、子供の事は考えてなかったな。


「私は正直なところ以前は母上とは溝があったと思う。

 だが、其方のおかげで今は毎日親密に過ごしている。

 この関係を続けたい」


 親密な関係って、毎日レズってアヘってるって話でしょうか。


「それは、先ほど承諾しましたが、・・・ところで、デュケルアール様は今回一緒にカゲシンから離脱させないのですか?」


 かなり困難だが、今後カゲシンと完全に切れる覚悟であればやりようはあると思う。

 オレたちが離脱した後だとデュケルアールの見張りはより強固になる可能性が高い。


「それは、残念ながら難しい。

 母上が拒否しているのだ。

 おじいさまからも何れはカゲシンを離脱してシュマリナにと言われていたから、母上にはそれとなく話していたのだが反応は芳しくない。

 母上は宗主が生きている限りカゲシンから出ないと言っている。

 一〇年以上真摯に調教してくれた殿方を見捨てることはできないと。

 だから、今回は一緒には行けぬ。

 機会を見てカゲシンから離脱させることになろう」


 調教って真摯にやるものだったのか。

 知らんかった。


「デュケルアール様は宗主に恨みは無いのですか?

 ネディーアール様は以前、クロスハウゼン家は宗主に色々と恨みがあると言われていましたが」


「それに付いては色々と話したのだが、母上とはかなり見解が異なる。

 例えば、バフラヴィーの姉妹が暗殺された件などは、母上に言わせれば宗主は関わっていないという。

 元々、クロスハウゼンがカゲシン貴族社会で敵対視されていたのが原因だと」


「軍隊という存在自体が宗教貴族から害悪とされていたって話ですか?」


「それに加えてクロスハウゼン家が他の宗教貴族、特に宗家と婚姻関係を結ばないのが問題であったと。

 母上が宗主の室に入り、バフラヴィーがスタンバトア殿を娶ったことでかなり緩和したが、以前は今と比べ物にならないぐらい異端視されていたそうだ。

 そんな状態だから、宗家とクロスハウゼンの関係が悪化したとの噂が流れた段階で多くの宗教貴族がクロスハウゼンに謀略を仕掛けたらしい。

 宗主はむしろ止めた方だと」


 多くの宗教貴族が『宗主の意に沿って』動いたのは確かだろう。

 行き過ぎて宗主が慌てて止めたってところか。


「先日、宗主がネディーアール様を手籠めにしようとしたのはどうなのですか?」


「そのことなのだが、母上は私が宗主の女になることが、私のためだと本気で考えていたらしい」


「・・・良く理解できませんが、・・・」


「まず世の理として、男性の方が女性よりも魔力量が多い傾向にある。

 医学的に言えば男性はマナ節でのマナ産生量が多いが、外部からの魔力の取り入れは苦手だ。

 一方、女性の魔力総量は男性に劣るが、男性から魔力供給を受けることが出来、魔力の回復能力に優れる。

 基本的に、女性魔導士は一段階上の男性魔導士と同格とされる。

 男性魔導士は自分よりも一段階下の女性魔導士を複数従者として引き連れて、彼女たちの魔力を満たす。

 結婚相手もそうなる。

 男性魔導士が自分と同程度、あるいは自分より魔力量が多い女性魔導士を相手にする場合、その女性だけで一日分の精力を使い果たしてしまう」


 これは、その通りだ。

 自分より魔力量の多い女性を抱えると大変なのだ。

 その女性にかかりきりになるため、他の女性の相手が出来なくなる。

 シノさんの姉の、あのピンクのオネーサンは夫を伴っていたが、彼は他に夫人を娶っていなかった。

 レニアーガー・フルマドーグは上級魔導士だが、子作りの相手として『正魔導士』を希望していた。

 自分より上だと維持できないからである。


「従来、人族の女性魔導士では『守護魔導士』が限界と言われていたそうだ。

 ところが母上は『国家守護魔導士』クラスだ。

 それも、魔力量だけであればカラカーニーのおじいさまよりも上とすら言われている。

 今回初めて聞いたのだが、母上は私の本当の父が相手でも満足できなかったらしい」


 ネディーアール殿下の実の父は確か、デュケルアールの異母兄でバフラヴィーの父親だ。


「毎日であれば話は違ったのかもしれぬが、父上には他の女性もいた。

 何より、母上の相手をすると精力が完全に枯渇したという。

 故に、毎日母上の相手をするのは不可能だったのだ。

 母上は慢性的に欲求不満で、特に妊娠後には強烈な欲求に悩まされたという。

 それを救ってくれたのが宗主だと。

 毎日一〇人以上の男性を用意してくれたと母上は感謝していた」


 ・・・これって、良い話、なんだろうか?

 どう反応していいか分からん。


「私も母上と同じぐらい魔力量がある。

 母上は、私が誰と結婚しても性的に満たされることは無いと考えていたらしい。

 それであれば宗主の女になって多くの男を宛がってもらう方が私のためだと。

 宗主と母上でそのように話し合っていたらしい」


 娘に乱交を勧める母親ねぇ。

 やっぱりデュケルアールって、思考が凌辱系エロゲーの完堕ちヒロインだ。

 あー、考えてみれば、かの『国母様』も同様だったのだろう。

 自分が満足するためには複数の男性が必要で、・・・だからと言ってショタを二四人はやり過ぎだと思うが。


「だが、現在は母上も意見を変えている。

 其方の存在を知ったからだ。

 母上は私にくれぐれも其方を大事にしろと、手放すなと言われている」


 そー言えば、最初のころはオレを使い潰すなとしきりに言っていたな。

 最近は言わなくなったが。


「つい昨日も母上は宗主と会っていたようだ。

 あの男は失明したままで、男性機能も役に立たないそうだが、母上の母乳を飲んで感激していたそうだ」


 へー、そーですか。


「ところで、其方、シャーと言われたら、なんと続ける?」


「シャアですか。

 それなら、ザクでしょう」


 ゲル〇グよりはザクでしょう。

 リック〇ムとかちょっと違う。

 百式は大尉だし。


「ふむ、シャーザクか。

 悪くないな」


「えーと、何を言ってるんですか?」


「名前だ、名前。

 母上が宗主に会った際に妊娠した可能性が高いと報告したのだ。

 あの男はとても喜んで、母上が産んだ子供は全て無条件で自分の子として認知すると約束したらしい。

 それで、男だったら名に『シャー』と付けるのを許すと言ったそうだ。

 女だったら母上の好きにしてよいと。

 宗主には言っていないが母上の子は男子にしたであろう。

 母上から相談されていたのだ」


「え、ちょっと待って下さい。

 それでシャーザクですか?」


「悪くないと思うが。

 母上に言っておこう」


 そんな安易な。

 いいのか、それで?




「話を戻すが、カゲシンから脱出し取りあえずはアルダ=シャールに行くのであろうが、その後はどうするのだ?

 其方、シュマリナに留まるつもりか?」


 ネディーアールが話を飛ばした。

 うん、この子、先走り過ぎる所があるよね。


「しばらくはシュマリナに留まろうと考えていますが、最終的には、・・・。

 正直、決めかねています」


「それは、センフルールの者たちとの関係か?」


「それも、ありますが。

 一つお聞きしますが、バフラヴィー様とシャールフ殿下の関係はどちらが上になるのでしょう?」


「そこだな、それが一つの問題だ」


 姫様が頷く。


「バフラヴィーとシャールフ、確かにどちらが上とも言えぬ。

 バフラヴィーはクロスハウゼンの継嗣だが、シャールフは名目上公子だ。

 しかも、シャールフがクロスハウゼンの直系であることはクロスハウゼンの上層部は知っている。

 魔力量的にもシャールフは将来バフラヴィーに追いつく可能性が高い。

 恐らく、二人だけであればそれなりにうまくやっていくと思うのだが、周りがいる。

 更に、そこに我らが加わると話がややこしくなる」


 クロスハウゼンがシュマリナで独立するとなればクロスハウゼンが統治する事となる。

 最高権力者を巡って配下が勝手に争いを始める事は少なくない。

 バフラヴィーの側近とシャールフの側近がそれぞれオレを取り込もうとするとか、あるいは、新参者のオレがスケープゴートにされるとか、ゆーうつな未来が待っていそうで怖い。


「私も、我らは早めにシュマリナから独立すべきだと思う。

 おじいさまが生きておられれば話は違ったのだがな」


 まさか、ネディーアールがそんな事を考えていたとは。


「カラカーニー様の存在はそんなに影響があるのですか?」


「うむ、非常に大きい。

 キョウスケ、其方、ガーベラ会戦でバフラヴィーが我らに『逃げろ』と言った時の事を覚えているか?

 あの時、バフラヴィーは私にクロスハウゼンを率いろと言った。

 自分の息子が育つまで支えてくれとは言わなかったのだ。

 その意味が分かるか?」


 確かに、そんな風に言っていたと思う。

 全く気にしなかったが。

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