07-42 初めて

 それは、レザーワーリたちの初夜の儀が終了した直後だった。


「後片付けは下の者にさせる。

 其方たちは、早く休め。

 明日、いや、今日は、一日かけて軍を再編する。

 明後日にはカゲシンに向けて進軍を開始せねばならん」


 バフラヴィーは早めに休めと言っておきながら、明日、というか今日の予定を確認し始める。

 それだけ時間が無いのは確かだ。

 ところが、それに異を唱えた者がいた。


「あー、バフラヴィー、キョウスケはこちらで使う。

 予定から外してほしい」


 おずおずと、しかし、きっぱりと、ネディーアール殿下が声を上げる。


「うん、何が言いたいのだ?」


 クロスハウゼンの若き領袖が怪訝な顔になる。


「カゲシンに向かう準備は膨大だ。

 捕虜の確認に、負傷者、死者の手続き、それをまとめてから部隊の再編、物資の確認、時間は全く足りぬ。

 キョウスケを遊ばせておく余裕はない」


「いや、だから、キョウスケはこちらで使う。

 使うのだ。

 頼むから、使わせてくれ!」


「其方、いい加減に、・・・」


「あー、もう、ネディー。

 その話、今、ここでする事じゃないでしょう?

 もう、少し落ち着いてからにしませんか?」


 バフラヴィーの言葉に横からアシックネールが口を出す。

 こいつ、こーゆー時、全く躊躇しない。

 貴族社会秩序から言えば、トップの言葉を遮るのはご法度の筈。

 実際、バフラヴィーも呆気に取られている。


「だが、今しかないではないか。

 急がねば、キョウスケが取られてしまいかねん」


「それは、確かに、そうですが」


「ちょっと、あんたたち、さっきから何を話してるの?」


 ナディア姫とアシックネールの会話にスタンバトアが割って入る。


「だから、その、・・・ああ、つまり、褒美としてキョウスケを貰いたい、そういうことです」


「は、褒美?

 あなたの?」


 ナディア姫の言葉にスタンバトアだけでなく皆が怪訝な顔になる。

 カゲシンの内公女は可能な限り一人称を使ってはならない。

 聞いている方が主語を付け足さないと時々意味が通らない。

 ちなみにスタンバトアも内公女だが、臣籍降下して一番良かったのは『私を私と言える事』と言っていた。

 本人も結構ストレスらしい。


「あー、だーかーらー、今日は朝から、いや、昨日もたくさん戦ったではないか。

 名目上はケイマン・オライダイも討ち取ったのだぞ。

 褒美を貰って当然ではないか!」


「それで、褒美にキョウスケって?

 あなた、何を言い出してるの?」


 えーと、ちょっと、待って。

 ナディア姫の褒美にオレって、・・・そーゆー意味?


「そもそも、先ほどの話では、婚約候補が全滅ではないですか?」


「全滅?」


「あー、それは、その通りなんですよ」


 良くわかっていないスタンバトアにアシックネールが説明を始める。


「ネディーアール様の結婚相手として候補に挙がっていたのは、クテンゲカイ家の息子二人とウィントップ公爵家継嗣の三人です。

 ついでに言えば、ナーディル師団のセイフッディーン殿、ベーグム師団のニフナレザー殿も密かに狙っていた節がありました。

 ですが、そのうち四人は亡くなられたみたいです。

 ニフナレザー殿もあの状態ですし、その弟は今さっきトゥルーミシュと初夜の儀を果たしてルンルン・アヘアヘです。

 ネディーアール様と釣り合う魔力量の男性って、もうキョウスケぐらいしか残っていないんですよねぇ。

 バフラヴィー様が引き受けるわけにも行かないでしょう?」


「考えていなかった、いや、そこまで考えが及ばなかったが、言われてみればアシックネールが言う通りだな」


 バフラヴィーが真面目な顔になる。


「だが、だからと言って、今、・・・いや、そうか、キョウスケの奪い合いが始まりかねんという話か」


「はい、その通りです」


 アシックネールがしたり顔で引き取る。


「前みたいに、キョウスケの横に私とジャニベグさんがいる状況なら話は楽だったんです。

 ジャニベグさんはクテンゲカイ侯爵家の正夫人の娘。

 彼女より格上の女性なんてそうそういません」


 ちなみに現在、シャールフとジャニベグは、斎女様と一緒に自分のテントに引き上げている。


「ジャニベグさんと私がいれば、キョウスケに新たに夫人を世話するとしても第三正夫人か、それ以下。

 これでは、送り込む方もうまみは少ない。

 ですが、現在は私一人のようなもの。

 スルターグナは僧都家の娘、ハトンは平民の出に過ぎません」


「えーと、ひょっとして、オレに結婚の打診が来ているって事ですか?」


 おずおずと尋ねたら、皆に溜息をつかれた。


「私も、面倒だから後回しにしてたんだけど、その話は頭が痛いのよねぇ」


 スタンバトアの姉御がゲソっとした顔になる。


「正確には、キョウスケにも、来ているって状況ね。

 全体会議の直前にはアナトリス侯爵家からバフラヴィー様に夫人を入れたいって、打診があったわ。

 最上の女性を用意するから、第二正夫人にしてほしいって。

 それから、シャールフにも」


「えーと、バフラヴィー様が第一で、シャールフ殿下がその次の標的ってことでしょうか?」


「なに、現実逃避してんですか」


 オレの言葉にアシックネールがジト目になる。


「バフラヴィー様がアナトリス侯爵の娘を蹴ったら、その女性がそのままキョウスケに回ってきますよ。

 更に言えば、タルフォート伯爵はキョウスケを第一目標に定めたっぽいです。

 タルフォート伯爵としても、バフラヴィー様に夫人を送り込みたいでしょうが、アナトリス侯爵と張り合っても勝算は薄い。

 キョウスケならば、第一正夫人、少なくとも第二正夫人が取れそうって感じです。

 既にタルフォート伯爵第一正夫人から、私に打診がありました。

 更に言えばレトコウ連隊の連隊長もキョウスケの女性の好みを細かく聞いてきています。

 タルフォート家もレトコウ家も貴族としては伯爵ですが、両家共にマリセアの僧侶位階では少僧正。

 クロスハウゼンと同格です。

 無下には断れません」


「ちょっと、なんで、いきなり、そんな、・・・」


「なんでもなにも、彼らの前であれだけ活躍しといて、キョウスケ、自覚が無さすぎです。

 この混沌とした政治状況で、指揮官として実績のある魔力量が高い魔導士なんて、どの勢力も喉から手が出るほど欲しいんですよ」


 言われてみれば、・・・つーか、やっぱ、活躍し過ぎた。

 特に、ケイマン・オライダイは。


「そう言えば、モーラン旅団のバルスポラト様も、ジャニベグさんがいないんなら、モーラン家からご主人様に正夫人を、って言ってましたよ。

 それから、さっきの帰りがけに、ベーグム家、じゃなくて、ガーベラ家の方からもご主人様に女性を世話したいって言われました。

 あと、小さめの伯爵家、四つぐらいから婿養子、って話もありましたよー」


 スルターグナが更に爆弾を落とす。

 うう、想定以上に拙い状況かもしれん。

 特に、モーランの筋肉集団は拙い。


「そんなことで、ネディーアール様がキョウスケとくっつくのは、悪い話ではないんです。

 ネディーアール様より格上の女性なんてまずいませんから、全部断れます。

 クロスハウゼンがキョウスケを確保するには最善。

 それで、ネディーアール様自身が満足なら、オールオッケーでしょう」


 いや、アシックネール君、勝手に話を進めないで欲しいんだが。

 オレが、ネディーアール殿下とくっつく?

 ナディア姫がオレの嫁?

 いや、いや、いや。

 まて、まて、まて。

 確かに、ネディーアール殿下は、美少女で、美人になりかけで、胸は現状でもEカップ弱あって、今後の成長余地も充分で、ウエストも細くて、足は長くて、この一年で伸びた身長の大部分が足だよなぁー、プロポーション良すぎだろう、そんで魔力量も多いからオレが頑張っちゃっても壊れなさそうで、生唾もんなのは確かだけど、でも無茶苦茶我儘で、気まぐれで、唯我独尊で、何と言っても背景がドロドロだ。

 あの、アーガー・ピールハンマド君なんて、手を出そうとしただけで、謹慎処分だからね。

 変態宗主猊下のお気に入り、あの執着は尋常じゃない。

 本当に手を付けちゃったら完全敵対は必至だ。

 カゲシン追放は確実だな。

 帝国外に逃げても朝敵扱いで、どこまでも追ってこられそうな気がする。

 早めに死んでくれないかなぁ、宗主。

 なんで、助けちゃったんだろう?

 あー、いや、仮に宗主が死んだとしても、なあ。

 ネディーアール殿下の許嫁、正式に結婚でもしちゃったら、もう、完全にクロスハウゼンの中核だよ。

 逃げようがない。

 バフラヴィーや、肛門メイス閣下はまだいいよ。

 確実に厄介な事情を抱え込んでる母親のGカップ・デュケルアール様とか、どーすんの?

 変態道のど真ん中驀進中の弟シャールフ殿下、それとセットのジャニベグに至ったら、頭痛が痛いどころの話じゃない。


 考えてみれば、オレがこのカナンの地に来て最初の目標は、そこそこ文明の香りがするところで、医者でもしながら、それなりの生活をする事だった。

 必要最低限の文化的生活ってやつが望みだったのだ。

 その、必要最低限っていうのが、こちらではとっても贅沢な内容と判明したので、修正を強いられたが、のんびり、ゆっくり、スローでもないがそんなに早くもない生活を送るのが目標、というのは変わらない。

 そーだ、オレ、独立するんだった。

 帝国の辺境で節度使やるんだった。

 田舎で美少女育てて、ダメだったら、シノさんと交渉して月の民に紛れ込む予定だった。

 そのために、穀物その他の物資まで買い込んでいる。


「ネディーアールをキョウスケと、か。

 確かに、キョウスケの確保は重要だ。

 だが、ネディーアールの結婚はある意味シャールフよりも面倒だぞ。

 キョウスケは、元は平民だからな。

 確か、内公女の降嫁先として前例がない筈だ。

 やるとすれば、一旦、臣籍降下させて祖父上の養女としてキョウスケに娶せることとなるが、あの宗主が許可を出すとは思えん。

 素直に死んで、・・・クチュクンジが手を下してくれていれば、ある意味簡単だが、・・・」


 バフラヴィーがなにかブツブツ言っている。

 うん、やっぱ、断ろう。

 ここで、ナディア姫に手を出すのは、自ら縛られに行くようなものだ。

 オレはマゾじゃない。

 今後の選択肢がなくなる。

 ナディア姫に手を出して、そして、捨てるって展開になっても、拙いよな。

 タージョッみたいに、あちらから勝手にやってきて、勝手に去っていったのは、オレの責任じゃない。

 ジャニベグやアシックネールのように、経験豊富過ぎる女性であれば、お互い様と言える。

 だけど、ネディーアール殿下は、そーゆー意味では、お嬢様っぽい。

 男性経験、なさそうだし。

 オレなんかが傷物にしていい相手じゃない。


「バフラヴィー様、正式な手続きは後から考えればいいんですよ。

 取りあえずは、ネディーアール様がキョウスケの横にベッタリしていれば、当座は何とかなります。

 未婚の内公女が愛人を抱えた例は、ガートゥメン様他、何人もいますから」


「アシックネール、あなた、ネディーアールにそんなフシダラな事させようって言うの?」


「そうは言いますが、スタンバトア様、これが一番簡単ですよ。

 正式な手続きとか言ってたら、キョウスケの第一正夫人はタルフォート伯爵あたりに取られちゃいます」


 さて、どうやって断ろう。

 断って、・・・済むかなぁ?

 独立計画、急ぐ必要があるかも。

 しかし、独立となったらアシックネールとの関係も微妙になる。

 他の申し出、特にモーラン系の筋肉集団は脅威だ。

 クロスハウゼンの後ろ盾のない状況では、断るのも一苦労。

 下手に邪険に断ったら、一族と完全敵対しかねない。

 独立の妨げになるのは確実だ。

 タルフォート伯爵とかレトコウ伯爵とかの娘を貰って後ろ盾、・・・いや、相手も見ずに考えても無駄だな。

 最悪、シノさんに頼めば、センフルールには行けるが、一方通行だし。

 最後の手段に取っておいた方が良いだろう。

 あー、どこかの田舎伯爵の婿養子って話、緊急避難としては悪くない、かも?


「アシックネールの手は、確かに酷い内容、真面には推奨できぬが、・・・手っ取り早いのも確かか。

 ネディーアールとキョウスケはそれで良いのか?」


 バフラヴィーが聞いてくる。

 うん、この場は『正式な手続きをしてから』と言うのが良さそうだ。

 取りあえず時間は稼げるだろう。


「いや、ちょっと、その前に、ネディーアール、あなた、男性との経験はあるの?

 確か、無かった、わよね?」


 スタンバトアが突然、聞いた。

 あー、初めてなんだ。

 でも、こちらの『初めて』って、事前練習たくさんしている『初めて』だからな。

 タージョッなんか、性獣相手に前も後ろも毎晩練習していたぐらい。

 人間相手は初めてでも、処女ではない。

 少なくとも、オレ的には。


「そこが、問題なんですよねー。

 この子、初めて、どころか、処女膜の処理すらしていないんですよ。

 男の精を飲んだことすらない、ですよね?」


 アシックネールの問い掛けに、ネディーアール殿下が、顔を真っ赤にしてうーうーと唸る。

 え・・・、膜・・・、残ってんの?


「ちょっと、待って!

 それ、本当なの?

 ネディーアール、貴女、もう、十五歳でしょう?」


 スタンバトアを始めとした女性陣が一斉に驚愕する。

 こちらでは、女性は適齢期になったら、処女膜は『処理』しておくのが常識だ。

 女性が初めてだからと痛がっていては男性が興ざめするから、事前に処理しておく。

 男性とは初めてでも、アヘってイキまくるのが、正しい女性とされている。

 であるから、膜どころか、初めてでも絶頂できるよう練習しておく。

 毎晩、性獣と二穴予習していたタージョッは、カナンでは正しい女性である。


「アシックネール、貴女が付いていながら、なんでこんなことになってんの?」


 バフラヴィー第三正夫人のヌーファリーンが妹のアシックネールを問いただす。


「いや、だから、色々とよんどころない事情があったんですよ」


 アシックネールはそう言うと、姉の耳元に口を当てて、囁いた。

 例によってオレは聴力を強化して聞いている。


「宗主対策だったんです。

 あの変態も、流石に膜が残っている女には手を出さなかったんですよ」


 へー、そう、だったんだ、・・・・・・・・・。


「いや、では流石に、今夜は無理であろう。

 慣らしていないのなら、かなり痛い筈だ。

 それでは、真面な性交はできまい」


 バフラヴィー第二正夫人のファラディーバーが冷静に諭す。


「ネディーアール、では、この話は後日、で良いな?」


「う、いや、でも、今夜、・・・せっかく、その気になったのだから、・・・だって、トゥルーミシュだけ、ずるいではないか」


 もごもごと、口ごもる姫様。


「トゥルーミシュも奥手だったが、練習していたのだ。

 処女膜が残っている女性の相手など、やりたがる男はこの世にいないぞ」


「うう、だから、その、後ろの穴だけ使えばよいかと、・・・」


 せっぱつまっているのか、意味不明なことを言い出すネディーアール殿下。


「あー、ネディー、あなた、後ろだって、ほぐしたことないでしょう。

 いきなりで後ろに挿れたら、切れますよ」


「切れるって、なにが?」


「肛門が切れるんです!

 切れ痔になります!」


 アシックネールの言葉に愕然とするお姫様。


「それを言うなら、口で飲む、よね。

 肛門じゃない」


 ヌーファリーンが首を振って嘆息する。


「口は、・・・口はいやだ。

 だって、おしっこが出る所だぞ!

 ばっちいではないか!」


「いや、普通だから。

 みんな、普通に飲んでるから」


 ネディーアールの抗弁にスタンバトアが呆れる。


「ああ、分かったわ。

 ちょっと待っていなさい」


 そう言うとスタンバトアが部屋を出ていく。

 いきなりどうしたのだろう?




「いいですか、ネディーアール様、肛門性交は、普通ではありません。

 肛門は、元々、性交のためにはできていません。

 帝国外では、まず行われていないそうです。

 帝国内でも一部の風習なんです」


 スタンバトアが去った所で変な説明を始めるアシックネール。


「え、そうなのか?

 だが、皆、やっていると聞くぞ。

 元は、月の民の風習だと。

 高い魔力量の月の民の女性は排便がほとんどない。

 だから、後ろの穴をほぼ性交のためにだけ使うと」


「先日、センフルールのピンクのお姉さんに教えてもらいましたが、センフルールではまず行わないそうです。

 セリガーやフロンクハイトでは、高位の女性が、下位の男性を支配する方法として利用されているとかで、それが、誤解して伝わったんだとか」


 へー、そうだったんだ。


「帝国では、第二帝政中期頃から始まり、第三帝政、つまりアナトリス帝国期で流行し、カゲシンに引き継がれたそうです。

 ほら、アナトリス侯爵家の女性と言えば後ろの穴のテクニックで有名じゃないですか」


 へー、それも知らんかった。


「月の民では、妊娠維持のために女性の子宮に精を注ぎ続ける必要があります。

 最低でも三日に一度。

 後ろの穴なんかに出してる余裕なんてないんです」


 確かに、月の民はそんな話だった。


「第二帝政で後ろの穴が始まった時は、自分は月の民と同じぐらい魔力量が高いから、肛門を性交専用に使えるのだと、魔力量を誇示するためと言われたそうです。

 ですが、実質は不倫のため、だったとか。

 後ろに出させれば妊娠しませんからね。

 最初は、最上位の魔力量が高い女性だけの話だったそうですが、そのうち、下位貴族の女性も見栄を張って参入し、一般化し、現在に至るそうです。

 ですから、ネディーアール様が肛門性交を頑張る必要はありません」


「そうなのか?」


 アシックネールの言葉に涙目のネディーアール殿下。


「でも、普通に前でやるのは嫌がられるし、口でするのはイヤだ。

 後ろが一番マシだと思う」


 それでも、涙目で抵抗する姫様。

 テンパッテるなぁ。


「後ろでも、慣らしてないんなら、痛いのは同じです!

 だーかーらー、・・・あれ、えーっと、ちょっと待ってください。

 キョウスケ、あなた、膜が残っていても平気なんでしたっけ?」


「あー、まあ、問題ない、な」


 即答する。

 うん、致し方ない。

 カナンで処女膜が残っている女性の相手をできる男性は少ないだろう。

 ここはオレが出るしかない。

 いや、オレも、処女膜の残っている女性とは初めてだが、カナンの他の男性よりはずっとマシな筈だ。

 うん、これは、人助け、だな。


「本当か?」


 ネディーアール殿下がおずおずと問う。


「大丈夫です。

 私に任せてください。

 膜が残っていても、全く問題ありません。

 可能な限り痛くないように、気持ちよく初体験が出来るようにいたします!」


 オレとしては可能な限り紳士的に言上したつもりだったが、何故か、微妙な顔になる殿下。


「あ、あの、アシックネール。

 キョウスケ、なんか目がギラついてないか?

 膜が残っていてむしろ良かった、ぐらいの勢いではないか?」


 アシックネールに耳打ちする殿下。

 えーと、聞こえてるんですが。


「まあ、そうですね」


「今、思ったのだが、あの宗主ですらいやがった処女膜ありの女性でも平気、むしろ望ましいって、キョウスケは宗主以上の変態ってことでは?」


「何を今更」


 何故か呆れるアシックネール。


「まあ、キョウスケは、男性同士はダメみたいですから、宗主とは方向性が違います。

 ですので、必ずしも『格上』ではありません。

『同格』ではありますが」


 君たち、オレのことどう考えてんのかね?

 その時、スタンバトアの姉御が戻ってきた。

 その手には何故か、所謂大人のおもちゃと塗り薬の容器が握られている。


「ヘロンの貴族から入手してきたわ。

 ネディーアール、急だけど、取りあえずこれで処理しましょう。

 痛み止めの薬も貰ったから。

 急だから、感じて濡れる所までは無理かもしれないけど、最初の痛みはなんとかなると思うわ」


 臆面もなく、怪しげな道具を処女の前にひけらかす姉御。

 いや、ちょっと待て。


「あー、すいません。

 スタンバトア様、それは、その様な道具は必要ありません。

 私が責任もって初めてでも問題なく執り行いますので」


「執り行うって、キョウスケ、あなた、処女膜の残っている女性とヤルつもりなの?」


 信じられないという顔でオレを見る。


「あのね、キョウスケ」


 スタンバトアが改まった口調でオレに向き直る。


「あなたが変態だということは承知しています。

 ですが、せめて、治す努力はしましょう。

 処女膜の残っている女性とヤリたがったなんて、世間に知れたら、鼻つまみ者もいいところよ!」


 どうやら、真剣に言っているらしい。


「いや、でも、これは、個人の趣味で、良いじゃないですか。

 ここだけの秘密にしとけば、問題ないと思います」


「それじゃあ、シャールフと同じじゃないの!」


 姉御が激昂する。


「頼むから、止めて!」


「個人のひっそりとした趣味ぐらいいいじゃないですか!」


 ネディーアール殿下クラスの『本物の処女』がこのカナンで残っているなんて幸運は、この先、まず無いだろう。

 この機会を逃したら、一生後悔する!


「ネディーアール、あなたは、これでいいの?」


「うう、うう」


 スタンバトアの問いに、真っ赤な顔で唸るだけの姫様。


「バフラヴィー様は、どう考えますの?」


「あーいや、・・・」


 何故か、そっぽを向いているバフラヴィー。


「ネディーアールが良いのなら、それでいいのではないか」


「バフラヴィー様!」


「キョウスケの変態は、強固で揺るぎない重度のものだ。

 いまさらどうにもならん。

 逆に言えば、キョウスケに対する褒美にもなるという話だ。

 膜を処理するのは簡単だが、それで、キョウスケにその気がなくなったら、また面倒だろう」


「あー、それはバフラヴィー様が正しいですねぇ」


 アシックネールが例によってどや顔で評する。


「性癖からすれば、ネディーアール様の膜を事前処理しちゃったら、キョウスケはこのまま出奔しかねないですよ」




 こうして、オレとネディーアール殿下の『初めて』が決定した。

 非公式ということで、付き添いはアシックネール以下数名となったのは僥倖だろう。

 同時に、オレの変態呼ばわりが更に悪化した気がするが、・・・まあ、致し方ない、・・・致し方ない、・・・だって、カナンで天然物の処女美少女なんて日本カモシカより貴重じゃないか!


 オレは、努めて平静な風を装っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る