07-39 戦いを終えて
戦いを終えて、オレは救護所、つまり野戦病院に移動していた。
正確には、ケイマン総司令部襲撃が一段落した時点で引き上げた。
しかし、なんで、あーなったんだろう。
まあ、ナディア姫を見捨てるって選択は無かった。
見捨ててたら、ずーっと後悔してただろうし。
でも、彼女一人助けるために、オレ、何人殺したんだろう?
収支決算酷くね?
いや、こーゆーこと考えちゃいけないんだってーのは分かっている。
素直に、オレツェー、天才?英雄?ヒッャハーしといた方が精神的にも楽だし、周りもそれを望んでいる。
でもさ、なんとなく考えてしまう。
テロリストを撃ち殺した警察官に『何故、足を撃たなかった?』と詰め寄る頭お花畑の自称人権派代議士とまでは行かないけど、やっぱ、もっと人命大事にしときたいと考える今日この頃。
そんなだから、病院に来て医療行為してると、なんか気が楽になるのですよ。
偽善と言えば偽善だけど、何もしないよりは精神的には楽だ。
そもそもさー、とっさの事で、滅茶苦茶やっちゃったんですよ、今回。
これまでのオレは、ある意味、リミッターを掛けていた。
例えばラト・アジャイトの時だって、その気になれば一撃で倒せていたと思う。
だけど、それじゃ異様な強さで目立ってしまう。
目の前の敵にギリギリ勝つぐらいの強さ、そこら辺を基準にしていたのだ。
それが今回は、まあ、派手にやった。
だって、気が付いたらナディア姫、オライダイと一騎打ちしてて、数秒以内にたどり着かないと死んじゃいそうな感じで、そんで、バッサ、バッサと切り捨てて直行してしまった次第。
オライダイの相手とか、もうちょっと苦戦を演じた方が良かったよなー。
色々とやっちゃったけど、中でも驚いたのは、剣が刀になっていた事。
走っている間に一番いい剣を取り出した。
触れた物を亜空間に吹っ飛ばす、理論的には何でも切れる亜空間ソードだ。
この剣、まず使うことは無いだろうと趣味丸出しで作った剣だが、趣味で調整しているうちにオレの魔力にすごく馴染んでいたらしい。
それで、バッサ、バッサ、やっていたのだが、二~三人切ったところで、何となく、『切るだけなら直剣よりも反りのある刀の方がいいなぁ』とか思ったのだ。
そう、思っただけ。
で、気が付いたら、剣が刀になっていた。
何が何だか分からない。
亜空間ボックスから取り出した時には直剣だったはず。
だが、オライダイの前に出た時には刀になっていた。
自分でも理解できない。
でも、これ、多分、オレがやったのだろう。
柄の部分は同じだし。
検証が必要だが、取りあえず、今はできない。
自分で自分の能力が分からないって、これ如何に?
あと、オライダイ討ち取りの手柄はネディーアール殿下に擦り付けるつもりだが、・・・大丈夫だよね?
「ご主人様ー、戦場でパンツ頭に被ってたんですってー?
生パンツ大王って言われてますけどー、何やったんですかー?」
そーいや、コイツもいたな。
聞けば、今日一日、野戦病院のテントで過ごしていたらしい。
そうしろと命令したのはオレだけど。
「スルターグナさん、ご主人様は、パンツは被っておられません。
兜の上に積まれただけです」
ハトンは良い子だ。
あまり、フォローになってないけど。
そー言えば、オライダイ倒した後も酷かった。
遅れて到着した味方は、オレの姿を見て固まっていた。
まあ、固まるわな。
しっかし、抱き着いていたネディーアール殿下まで離れた途端、訝し気な顔をするのはちょっと酷いと思う。
鼻まで摘まんでいた。
そりゃ確かに異様な臭いだったとは思うけど。
下半身丸出しの女性、大半が虎耳ボ〇・サップ系、合計一〇〇人以上に取り囲まれ、何十枚もの生パンツを、野獣が纏っていた異臭漂うぼろ布が生パンツに含まれるのか甚だ疑問であるが、体中に積み上げられ、更に現在進行形で生パンツを追加されている状況は、いささか普通でないのは認めざるを得ないような気がしないでもないのかもしれない、多分。
シマは「あんた、何やってんの?」と呆れかえっていたが。
え、なんで抵抗しなかったのかって?
顔の上半分タイガーマスクのボ〇・サップが発情して、下半身丸出しで、しかも見て分かるぐらい下半身ドロドログチョグチョで、生パンツを手によだれダラダラの顔で、しかも集団で迫ってきたら、君、戦う?
逃げるよね、普通。
戦うとか、無理だから。
オレも逃げようとしたんだよ。
でも、ナディア姫抱き着いてるし。
気が付いたら三六〇度包囲されてたし。
モーラン・マンドゥールンの解説では、ラト・アジャイトの時と今回では微妙に状況が違ったらしい。
前回は、オレが『降伏しろ』と宣言し、ラト族のボブ・〇ップ、じゃなくて女性集団が一斉に降伏した。
だが、今回、オレは降伏を促す発言をしていない。
「ケイマン司令部の女たちは、兄貴の武勇を見せつけられて、降伏のポーズを取った。
だが、兄貴は降伏を受け入れる素振りを示さなかっただろう。
それで、焦ってたんだと思う」
そこに、あの黒猫族、じゃなくて、黒虎族の少女がオレに生パンツを捧げるという挙に出る。
聞けば牙族でも女性から男性への求婚は、人族と大差ない。
普通は口頭での申し込み、熱烈な場合は服を脱いで自分の肉体をアピールする。
オレがマンドゥールンの姉妹や従姉妹からさんざんやられているアレだ。
仰向けに寝転がってM字開脚するのは神聖決闘や戦争に伴う物で特殊な例になる。
だが、上記は成人女性の場合だという。
「未成年の場合は、惚れた相手に下着を送るんだ。
相手が貴人だと直接話すこともできない場合が多い。
それで下着を渡す。
私の匂いが気に入ったら、将来、夫人の一人に加えてくださいって話だ。
成人女性の場合は直接嗅いで貰えばいいが、未成年だとそうもいかん。
そんで、成人女性でもこれを行う場合がある。
女性の匂いを重視する男性は少なくないだろう?
そのような男性に対してはこの方法が有効なんだ」
「・・・・・・ラブレターとかではだめなのか?」
「手紙では匂いが分からないじゃないか」
牙族は、多かれ少なかれ匂いフェチらしい。
良くわからん風習だが、男性の対応方法はラブレターに似ている。
つまり、全く脈が無い場合は、受取自体を拒否するのだ。
受け取った場合は、その時点で一度は使用して検討するという意味になる。
「兄貴は最初の一枚を受け取っただろう。
それを見て、不安だった女たちが兄貴を『女を下着の匂いで選ぶ男』と判断して雪崩を打ったんだな」
そうか、最初の一枚か。
でも、最初の黒虎族少女はなかなかの美形だったからなぁ。
体毛と瞳は黒く、肌は白く、顔も額がやや狭いぐらいで、タイガーマスクではない。
何より美形だった。
魔力量も結構あったと思う。
そんな子がいきなりパンツ脱ぎ出したら、そりゃ、びっくりして固まるよね。
受け取っちゃうよね。
致し方ない。
「勿論、受け取って使用した上で断ることも可能だ。
だが、今回も優秀な女が多い。
ケイマン総司令部だからな。
少し調べたが、優秀な幕僚や事務官僚が多数いる」
「事務官僚とは思えぬ筋肉量ばかりの気がするが」
「総司令部だからな。
事務能力は勿論、戦士としても優秀でなければ総司令部には勤務出来ないと聞く」
その筋肉至上主義、いい加減にしてくれないかね。
「そんな事で、是非、兄貴には今回の女たちも可能な限り妊娠させて欲しい。
モーラン家としては、是非とも欲しい人材ばかりだ。
今回は色々なタイプがいるから兄貴も楽しめると思う」
眩暈が、・・・・・・・・・・。
色々なタイプって、確かに良く見れば、ボブ・〇ップ系以外もいる。
チャック・ノ〇ス系とか、スティーブン・セ〇ール系とか、ブルース・ウ〇リス系とか。
・・・あんまし変わらんと思うのはオレだけか?
例外は、例の黒虎美少女とその取り巻きで、彼女たちは『巫女』らしい。
ただ、巫女は全員若い。
妙に若い。
色々と聞いていたら、またロリコン認定された。
そんで、捕虜は後で考えるとして、活動を再開しようとしたが、・・・、パンツをどうするかが問題に。
「取りあえず、保管しておいてください。
ここで捨てるのは拙そうですから。
使ったことにして、後ほど密かに処分するしかないでしょう」
アシックネールに相談したら、鼻を摘まんだまま胡乱な顔で意見された。
で、大量の生パンツを亜空間ボックスに放り込もうとしたら、ここで、変な文章がポップした。
『着用後下着フォルダーに自動で分類します。Y/N』
はい、そうですね。
オレの亜空間ボックス、既存で『着用後下着』フォルダーがありました。
それも『貨幣』フォルダーの下に。
今の今まで忘れてたけどー。
調べたこともないけどー。
って、既存枚数一万枚以上ってなに?
着用後下着一万枚って、普通に捕まるよね。
逮捕だよね。
どこかの体育館に溜め込んでた下着をズラーっと並べられてテレビで報道される変質者だよね。
顎が外れそうになってフリーズしていたら、ハトンにつつかれて我に返り、取りあえずYesを選択しておく。
ところで、自動分類って何をどーゆー基準で分類するんだろう?
あー、あと、ケイマン・オライダイの兜を外したら、何故かパンツを被っていた。
なんで?
で、何故か、これもオレが被せたのかと聞かれる始末。
マンドゥールンが、最初から被っていたと証言してくれたが。
パンツ以外の事も話そう。
ケイマン軍総司令部では多数の捕虜と多くの重要書類を獲得した。
更に捕虜の案内で付近のテントを回る。
捕虜が極めて従順なため、スムーズに事は運んだ。
まずは、フロンクハイトのテント。
ここには、枢機卿の一人とその妻たちが残っていた。
残っていたのは、枢機卿マウノ・ハロネン。
オレたちが戦場で倒した枢機卿である。
戦闘後、体の損壊が大きく、ここで復活待ちだったという。
棺桶みたいな防水処理を施された箱に入れられ、大量の血液が注がれた中に横たわっていた。
意識が無いから、抵抗も何もない。
周りには彼の女たちがいたが、全員、ハロネンに限界まで血液を捧げており、体力も魔力も、そして気力も尽きていたためこれまた簡単に制圧された。
つーか、オレが行く前に発見した部下たちが、残らず殺して、油をかけて燃やしていた。
オレが指示する暇もない。
月の民ってそーゆー扱いなのね。
もう一つのテントで発見されたのはある意味、枢機卿よりも大物だった。
カゲシンの僧都フアラジュである。
攻勢前日にカゲシンから第十一軍司令部に派遣され、ヘロン救出作戦を強要した使者である。
あの後、カゲシンに戻ったと聞いていたのだが、なんと、ケイマン軍司令部に来ていたらしい。
ひょっとして最初から仕組まれてたって話?
ここにはオレが最初に踏み込んだのだが、まあ、酷かった。
戦争の真っ最中だというのにフアラジュは奴隷と事に及んでいたのだ。
フアラジュはカゲシン貴族典型の褐色肌に肥満体の体をベッドに横たえ、その上に、『白綿毛モフモフで小型でありながら筋肉もしっかりしたネコ系牙族奴隷』が後ろ向きで跨り、尻尾でフアラジュの顔をペシペシしていた。
すぐ横で戦闘が行われていて、これを続けていたのだから、呆れると言うか、大物と言うか。
オレたちが踏み込んでも、『自分は帝国貴族、下々の兵士が勝手に入ってくるな』、と放言する始末。
オレが、自分も貴族なこと、ここにいたフアラジュは敵との内通疑惑で拘束すると宣言すると、自分はカゲシンの命令でここに来たから後ろめたいことは何もないと断言した。
ちなみに誰の命令かと聞いたら、『クチュクンジ帝国宰相臨時代理』だという。
うん、色々と聞きたいことが多そうだ。
多そうだが、ここで聞くことでもない。
オライダイが死んだこと、帝国軍本部に連行してバャハーンギール殿下の下に突き出すと宣言したら、流石に顔が蒼くなった。
蒼くなったのだが、・・・。
「頼むから、この娘だけは取り上げないでくれ。
『白綿毛モフモフで小型でありながら筋肉もしっかりしたネコ系牙族奴隷』は貴重なんだ!
やっと手に入れたんだ!」
脱力した。
取り上げるも何も、基本、あんた死罪だよと宣言して、面倒だから猿ぐつわかまして縛り上げるように命じた。
命じたら、・・・リタ君、亀甲縛りにする必要はないんじゃないかなぁ。
つーか、多少は服、着せようよ。
素っ裸の中年太り男性の亀甲縛りなんて誰が見たいのか、とか思っていたら、部下たちには好評でした。
オレ、兵士の大半が女性だって事、未だにしばしば忘れる。
そんなこんなで色々とやっていたら、何時の間にか近くまで味方が進撃していた。
それで、捕虜と書類を抱えて、問題なく帝国軍司令部まで戻ることが出来た次第。
聞けば第六線陣地での反撃は無事成功。
フロンクハイトのアハティサーリ枢機卿はバフラヴィーとタイジが協力して倒したという。
敵親衛大隊も壊滅。
オレたちが到着した時には、第六線陣地の堀は死体で溢れており、ヘロン市の住民ボランティアが、嬉々として、死体を検分していた。
死体の鎧や武器、そして書類関係は提出だが、それ以外の服や小銭なんかはボランティアが自由にしてよいとの条件だという。
暗がりの中、かがり火に照らされて死体をあさる集団。
ボランティアたち、ほぼ全て女性は、皆、笑顔。
死体の山を前に笑顔。
うん、命軽いよね。
オレたちも歓喜で迎えられた。
マンドゥールンがオライダイの首を槍に括り付けて先頭に立っていたからね。
逃げ帰る予定が総大将の首取って来たんだから。
バフラヴィーも涙の笑顔でネディーアール殿下と抱き合っていた。
他のメンバーも疲労困憊だけど、笑顔だ。
捕虜と書類の束も引き渡した。
全身包帯でグルグル巻きのファラディーバーが、フアラジュ僧都をとっても嬉しそうな笑顔で迎えていた。
ちなみに戦いはまだ続いている。
第六線陣地での反撃成功、アハティサーリ枢機卿撃破、ケイマン総司令部制圧で大勢は決した。
更にベーグム第一歩兵連隊がケイマン軍第一軍団司令部を撃破し第一軍団長を討ち取る。
これが止めとなり、ケイマン軍は潰走状態に陥ったという。
トゥルーミシュ=レザーワーリが頑張ったらしい。
東側のケイマン第二軍団は撤退。
メハン川東岸にいた敵の分遣隊も退却したらしい。
西側の第三軍団は、中央部の第一軍団の残余と共にヘロン河河畔に追い込まれているという。
で、帝国軍の大半はこれを囲んでいる。
第六線陣地に残っているのはクロスハウゼン旅団だけだ。
第五線陣地での死闘、そして第六線陣地での総反撃と旅団は消耗が激しい。
ただ、前線で総指揮を執る者も必要、との話で、シャールフが第一魔導大隊他若干の兵を率いて、前に出ている。
総司令部代理、らしい。
バフラヴィーによれば、アハティサーリ枢機卿撃破の直後、龍神教の斎女殿が満面の笑みで現れて、感謝の言葉と共に、『追撃戦は任せろ』とシャールフたちを引き連れて出て行ったという。
良くわからんが、バフラヴィーは戦い直後にシャールフを説教し、そのまま魔力切れで昏倒したという。
アハティサーリとの戦いで魔力を使い果たしていたらしい。
しかし、直後に説教って。・・・良く分からないが、聞かない方がいい気がする。
そんなことで、実質、斎女殿に指揮を任せたわけだ。
オレはタイジや他の者と共に野戦病院に入り、戦いの終結を待った。
暗がりの中、戦闘は続いたが、終結は意外と早く、午後九時頃には戦いはほぼ終わったという。
ケイマン第三軍団は降伏せず、最後は精鋭を集めて突破を図った。
帝国軍は、シャールフ司令部の適切な指示で、それを待ち構え殲滅したという。
斎女殿の指示だろうが、素直に従うシャールフもそれなりに有能なのだろう。
ケイマン軍のうち、東側の第二軍団とヘロン河西岸の第四軍団は退却した。
第一軍団と第三軍団はほぼ壊滅。
特に第一軍団の精鋭重装歩兵部隊はほぼ全滅した。
後の計算では、ケイマン軍の損失は約七万。
戦死三万、捕虜四万、捕虜の大半は負傷で動けない者である。
ケイマン軍は動ける限り戦ったのだ。
帝国軍も無傷とは行かず、死傷者は二万を超えた。
ただ、戦死者は三千に満たない。
帝国軍奇跡の勝利である。
こうして、戦いは終わった。
一部部隊が残党狩りにでたらしいが、会戦は終わり。
フアラジュ僧都の尋問と、ケイマン総司令部から押収した資料の簡易分析が、取りあえずの結論をまとめたのもこの時間だった。
バフラヴィーは総司令部に幹部を集めて、分析結果の報告と今後の方針検討を始めようとしたのだが、ここで、一つ問題が発生した。
前線から戻ってきたシャールフ大隊が、ヘロン要塞の北東に勝手に舞台を設定して、ハジメてしまったのだ。
「本日、朝の約束を果たそう!
まずは、我がクロスハウゼン第一魔導大隊の勇者たちからだ!
皆の前で私の精を注ごうと思う!」
闇の中、煌々とかがり火がたかれた舞台の上で、シャールフが拡声魔法使用で絶叫する。
三名の大隊兵員が紹介され、更にもう一人。
「本日の戦いで、私を助け、指導してくれた、最も頼りになった者を紹介しよう。
クテンゲカイ侯爵家令嬢ジャニベグ殿だ!
彼女は、間違いなく勇者の中の勇者である!
私、マリセア・シャールフは、クテンゲカイ・ジャニベグを第一正夫人として迎えることをここに宣言する!
今日が、私と彼女の初夜の儀である!」
「ああ、殿下!
このような素晴らしい舞台を誂えて頂き、このジャニベグ、感激で言葉も出ません!」
そうして、始めてしまう二人。
場所は、前線から帝国軍が戻ってくる場所である。
拡声魔法で喘ぎ声を響かせて、更に、舞台上にいた三人も横から加わる。
舞台の周囲には発情した帝国軍女性兵士が詰めかけ、歓声を上げながら自慰行為を始めるというカオス。
ちなみに、例の斎女殿は舞台脇かぶりつきで目を爛々と輝かせていた。
ツカエネー、つーか、仲間だな。
そんなんで、バフラヴィーたちが気付いた時には、もはや止めようが無かった。
当然ながら釈明に追われる事となる守役とその第一正夫人。
「あれは、バフラヴィー殿が許可したのか?
些か、品位に悖ると思うのだが」
「カゲシンの公子が公衆の面前でというのは、いくら戦いの報酬と言っても限度があると思うが」
アナトリス侯爵やタルフォート伯爵は、言葉には気を使っているが、今直ぐ止めさせろとの表情。
バャハーンギール系宗教貴族たちになると激怒と言っていい。
「カゲシンの、マリセアの正しき教えを実践し諭す立場である公子がなにをしているのです!」
「カゲシン公子の徳も品位もない!
直ちに中止を!」
「クロスハウゼンの指導はどうなっている!」
自動謝罪マシーンと化したバフラヴィーとスタンバトアは、ただひたすらに頭を下げ続ける。
「奇跡的な勝利のその夜に、それを指揮した総司令官と第一正夫人がなんでこんなことになってるのよ!」
謝罪の合間に悪態をつく姉御。
「まあ、こーなるのは見えていたが」
「ネディーアール、見えてたんなら病院なんかやってないで、こっちを何とかしなさいよ!
あんたの同母弟よ!」
「姉上、それはそうではありますが、止めようが無かったというか、・・・。
そう、私は戦いの間はキョウスケの部下だったわけで、そのキョウスケが病院に行くといったから、致し方なかったのであって、・・・」
何故か、オレに責任転嫁するナディア姫。
えーと、君、確かに病院にいたけど、医者の仕事はしてなかったよね。
マンドゥールンたちと、ケタケタ笑って酒盛りしてただけだよね。
「まあ、キョウスケは医者としても優秀ですから。
全金徽章をとった医者ですよ。
ネディーアール様も全金徽章を取りましたし。
ほら、今年の夏に宗主猊下の一命を救ったのがキョウスケですよ。
病院に欠かせない人材なんです」
「あー、そう言えば、そんな話もあったわね。
猊下を救ったのはすごかったみたいだし。
キョウスケって多才よね」
アシックネールの言葉に、何となく納得するスタンバトア姉御。
「それはそうと、あなたはなんかやったの?」
「あー、私は仕事しましたよ!」
スタンバトアの問いに胸を張る赤毛。
「今、舞台上には殿下の他は女性ばかりじゃないですか」
「そりゃ、精を注ぐ相手だから、・・・」
アシックネールがチッチッチッと指を振る。
「殿下は、朝の宣言の後、全軍にお触れを回したんです。
それには、男女を問わず活躍した者を推薦するように、ってあったんですよ。
殿下は、男性相手でもヤルつもりだったんです。
男女差別はしない方ですからね。
ですので、勝手ながら『男性が推薦された場合は自分の代わりの女性を指名することが出来る』って一文を付け加えておきました。
どうです、見事に女性だけになったでしょう!」
「まあ、流石はアシックネールね。
最悪の事態は避けられたってことね!」
とくとくと説明するアシックネールとそれを称賛する姉のヌーファリーン。
「それは、・・・確かに良い仕事、なのか?」
謝罪疲れでゲッソリとしたバフラヴィーが呟く。
「ねえ、それができるなら根本的に止めることは考えなかったの?」
「ああ、それは無理です」
スタンバトアの問いにアシックネールがあっさりと返す。
「シャールフ殿下は男女差別をしない方で、相手が女性だけでも文句は言わないと思いますが、全くできないとなったら暴発は確実です。
大河を堰き止めるのは極めて難しいんです。
私に出来るのは、その流れをわずかに変える事だけです。
堰き止めるのはスタンバトア様がやって下さい」
あ゛ーっと、姉御が声にならない唸りを上げる。
「私、私なの?
あー、でも、シャールフは男性だから、やっぱり第一にはバフラヴィー様が頑張るべき仕事よね?」
「あー、まあ、確かに、そう、かもしれぬが」
既に遠い目になっているバフラヴィー。
「そうだ、シャールフの件は確かに私が第一で頑張ろう。
だが、シャールフの更生には、宗主猊下が重要だ。
そういうことで、スタンバトア、其方は宗主猊下を頼む。
シャールフをそちらの道に誘わないよう諭してくれ。
其方の父親だからな。
私には意見できぬ」
再び、苦悶の唸り声を上げる姉御。
「もう、ここだけの話、あの人、早めに死んでくれないかしら。
夏の大病の時に死んでくれてたら、私もこんなに悩むことなかったのにぃ」
「キョウスケが助けちゃいましたからねぇ」
ヌーファリーンの言葉に、何故かその場の全員が胡乱な目つきでオレを睨むことに。
何でだ?
シャールフの宴は、小一時間、四人で終わった。
流石の性欲魔人も限界だったらしい。
で、明日も続ける、らしい。
ま、オレの担当じゃない。
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