07-36S ケイマン・ナユタ 私の運命

 私、ケイマン・ナユタはケイマン族族長の一族です。

 私の祖父はケイマン族の族長でした。

 祖父の息子である父もそうでした。

 そして、父は異母弟であるオライダイに殺され族長の位を奪われました。

 だが、オライダイは、殺した男の娘である私を殺しませんでした。


「お前は使い道があるからな」


 オライダイは私を『巫女』にしました。


「俺は、俺の望む神託を出す巫女を必要としている。

 分かるな?」


「事前にオライダイ様の命令を聞いて、それをあたかも神託のように話す巫女が必要だと。

 神秘的な力はないが、有る振りをしろと。

 そうして、オライダイ様の命に従っている限り、私はそれなりの生活をさせてもらえると。

 そのような考えでよろしいでしょうか?」


「その通りだ」


 オライダイは顎毛を捻りながら言いました。


「お前、馬鹿ではないな。

 オレの息子の嫁の一人にしても良いかもしれん。

 まあ、その前にオレが試してからだな」


 こうして私は『揺るがす者』の『戦巫女』になりました。

 ケイマン族でも現在はマリセアの正しき教えが主流となっています。

 ですが、古来の『揺るがす者』信仰も続いています。

 特に、戦争では『揺るがす者』の『神託』が重んじられます。

 その『神託』を出すのは女性の聖職者、『巫女』です。

 中でも筆頭巫女は『戦巫女』と呼ばれ、重要な戦いの前には必ず祈りを捧げ神託を得るのが決まりです。


 通常、筆頭巫女には、経験を積んだ高齢の巫女が選ばれます。

 前任者もそうでしたが、プライドが高く、オライダイの意に沿わなかったようです。

 それで、私が任命されました。

 普通ならば、巫女になりたての十二歳の少女が筆頭巫女など有り得ません。

 それが可能となったのは、私が『希少種』だったからでしょう。

 私はケイマン族長の直系で、自分で言うのもなんですが容姿が整っており、筋肉量の少ない貧弱な体格で、魔力量が多かったのです。

 魔力量が多いと儀式で魔道具をたくさん光らせることができます。

 筋肉量が多ければ戦士とされていたでしょう。

 華奢な体格の美人は威圧感が少なく、巫女向きとされます。

 そして決め手は私の体毛が黒い事でしょう。


 私の体毛ですが、人族の医者によれば『黒色変異』というそうです。

 一定の割合で生まれる突然変異で、遺伝とか、先祖返りとか、ではないと。

 つまり、単なる偶然。

 神秘性の欠片もない話ですが、真実でしょう。

 ただ、滅多に存在しないのも事実です。

 周囲の者は『黒き者の生まれ変わり』と私を称えます。

『黒き者』とは帝国では『最終皇帝』と呼ばれる歴史上の人物です。

 巨大な魔力を持つ月の民の魔導士で、現在の帝国の礎を築いた英雄でした。

 彼も、体毛が黒く、瞳も黒かったそうです。

 彼の血統はケイマン族にも伝わっています。

 私は幼少より、『黒き者の生まれ変わり』とされ、崇められ、恐れられていました。

 黒い毛は月の民の象徴でもあり、恐怖を表す色でもあります。

 黒い体毛に、豊富な魔力量、華奢で見栄えの良い外見。

 多くの聖職者とケイマン族内外の有力者が『黒き者の生まれ変わり』の筆頭巫女就任を支持したのです。


 ちなみに、オライダイは私が『黒き者の生まれ変わり』だとは全然信じていません。

 しかし、信じている振りをしています。

 実を言えば私自身も同じです。

 だいたい、私の体毛は、黒の男のような真っ黒ではありません。

 良く見れば、ケイマン族の特徴である縞模様があるのです。


 ともかく、こうして、私はそれなりの生活を手に入れて現在に至ります。

 私は、オライダイが望む通りの『神託』を出し続け、そして、彼は勝ち続けました。

 私は『勝利の巫女』となったのです。

 少なくとも、昨日までは。




 ですが、本日。

 どうも雲行きが怪しくなってきました。

 帝国軍を追い詰めての決戦。

 三方を川で囲まれた台地に敵を誘導し、殲滅する。

 中途半端に数が多い敵軍は要塞に籠ることもできず、こちらが得意としている野戦で擦り潰される。

 勝利は確実と思われました。

 少なくとも朝の時点では、誰も勝利を疑っていなかったでしょう。

 それが、時間が経つにつれ、皆の顔色が悪くなり、今や、悲壮感まで漂い出しています。


 先ほどまでの軍議では次の、恐らくは今日最後の攻勢計画が討議されていました。

 最終的には『確実』な勝利のために親衛大隊の投入が決定されています。

 危険です。

 少なくない者が安堵していましたが理解しているのでしょうか?

 最強の第一親衛大隊を投入して、確実に勝利と言いますが、もう後がないとも言えます。

 オライダイ自慢の重装歩兵の半分を半日で擦り潰した相手です。

 魔導砲部隊とやらは未だ健在。

 フロンクハイトの枢機卿を倒したカンナギ・キョウスケという男もそのままです。

 最も経験がある第一軍団長は最後まで厳しい顔のままでした。

 何よりの問題は、オライダイが最後の突撃をエルベクに任せた事でしょう。

 私が知る限り、オライダイは大きな手柄を他人に譲るような男ではありません。

 相手が実の息子だとしても。

 オライダイは、成功確率はあまり高くないと考えているのでしょう。

 だから、エルベクに任せたのです。




 雨が小降りになりました。

 前線から鬨の声が伝わってきます。

 味方の突撃が始まったのでしょう。

 仮に、ですが、突撃が失敗したら、ケイマン軍は退却せざるを得ないでしょう。

 重装歩兵部隊の大半を失って敵軍を破壊できないのでは、実質的な敗北です。

 味方の士気は地に落ちるでしょうから、一旦は退却するしかありません。

 ゴルデッジ市は破壊しましたから、ギガ・ウォック要塞まで引くしかないでしょうか。

 兵数的にはまだ有利ですから、全軍が壊滅とはならないでしょうが。


 その場合の問題は、誰がこの敗北の責任を取るか、です。

 オライダイはエルベクに責任を取らせるつもりでしょう。

 第一親衛大隊、親衛騎兵大隊まで与えたのに敵陣の突破に失敗したと。

 ただ、それだけで済むかどうか。

 エルベクが突撃で戦死したら、兵士たちの怒りと憤懣を浴びて首をはねられる生贄がいなくなります。

 その場合、次の生贄は?


 そこまで考えて私は首筋が寒くなりました。

『勝利の神託』を出したのは私です。

 オライダイが敗北の責任を私に擦り付ける。

 可能性は低くない、いや、かなり高いように思えます。

 どうすべきなのか?

 思考を巡らせますが良い案が浮かびません。

 逃げる事も考えるべきでしょうか?

 逃げる、とすれば、帝国に降伏するのが最も簡便です。

 幸い私は『希少種』。

 無事に降伏できれば、物珍しさから需要はあるはず。

 うまく高位貴族の性奴隷になれれば、安穏とした生活が手に入るかもしれません。

 籠の鳥という意味では現在とさして変わらない生活でしょう。

 勿論、可能であれば勇者の子供を産みたいとは思います。

 噂に聞く、クロスハウゼン・カラカーニーが、黒い体毛の牙族に興味を示してくれたらうれしいですが。

 夢見すぎでしょうか?


 そんな事を考えていた時、一人の伝令が、悲壮な顔で転がり込んできました。


「申し上げます!

 第一歩兵師団長が、エルベク様が戦死されたとの報告が上がってまいりました!」


 徽章からすると伝令は第一軍団司令部からです。


「なんだと!」


 オライダイよりも先に叫んだのは彼の第二正夫人であるシキル殿です。

 見るからに豪傑という外見ですが、意外にも気配りの方でもあります。

 私が最も世話になった方でしょう。

 エルベクの生母でもあります。


「戦況は?」


 オライダイが冷静に質問します。

 伝令が報告を始めます。

 味方の攻撃は順調に行っていたようです。

 第一親衛大隊と二つの重装歩兵大隊は敵第五線陣地を制圧していました。

 これまでと違って、敵は白兵戦で頑強に抵抗したようですが、アハティサーリ魔導大隊の援護が入るとどうにもならなかったようです。

 そうして、味方は敵第五線陣地を突破し、第六線陣地に向けて突撃を開始したとのことですが、その直後にエルベクが戦死したようです。

 前線の指揮は第一親衛大隊長とアハティサーリ枢機卿が継承したようで、現在も戦闘は続いているとのことでした。

 敵第六線陣地は尾根の向こう側。

 後方からは戦況が良くわからないようですが、親衛騎兵大隊、そして第一騎兵大隊の突撃も始まっているため、順調だろうとの報告でした。

 総司令部の空気が少しだけ弛緩します。


 ただ、問題はオライダイ長男エルベクの戦死です。


「バールマタ殿が、第一軍団司令部に戻られ報告されました。

 エルベク様は敵魔道砲の直撃を受けて戦死されたとのこと。

 ですが、直後エルベク様の大盾に細工の跡が見つかったとのことであります。

 バールマタ殿は、『図られた』と。

 バールマタ殿はイェケ様の仕業と断定され、糾弾されております」


 バールマタはエルベクの第三正夫人です。

 今回は彼女がエルベクに付いていたようです。

 イェケ殿はオライダイの第一正夫人です。

 オライダイの正夫人では最も若く、最も新しい、最も名門出身の夫人です。

 ですが、高慢で、考えの浅い方でしょう。

 少なくとも私とはあまり合いません。

 問題は、そのイェケ殿が現在、総司令部テント内にいないという事実です。

 部下によれば彼女は軍議の直後に所用があると総司令部を出ていったとの事。

 現在も戻っていません。


 総司令部は大混乱になりました。


「イェケを探して、つれて来い!

 バールマタもここに呼べ!」


 オライダイの怒号に、周囲の兵士が大慌てで走り出します。

 何がどうなっているのでしょうか?




 と、その時でした。

 突然、轟音と共に総司令部テントが揺れました。


「敵襲!敵襲です!」


 誰かが叫びます。

 その直後、再び轟音と衝撃が襲います。

 総司令部テントが音を立てて崩れていきます。

 私たちは慌てて退避しました。

 ケイマン族の総司令部テントは、移動可能な物ですが、極めて強固に作られています。

 多少の雨風は勿論、ファイアーボールの直撃にも耐えるのです。

 それが、たった二回で崩壊するとは尋常ではありません。

 ファイアーボールならばよほど大きな物でしょう。

 あるいは、話に聞く魔導砲かもしれません。

 総司令部は大混乱に陥りました。

 しかし、それは、瞬時に収まりました。

 オライダイが一喝したのです。

 この辺りは流石としか言いようがありません。

 オライダイ第二正夫人、第三正夫人がてきぱきと指示を出します。

 総司令部の旗が立て直され、点呼が取られます。

 しかし、敵の攻撃も続きます。

 ファイアーボールが断続的に撃ち込まれ、そして、敵の騎馬兵が突入してきました。


 敵は総司令部テントの崩壊に伴う混乱を当てにしていたのでしょう。

 ですが、敵が突入してきた時には混乱は既に収まっていました。

 突入してきた敵は、十名と少し。

 何れも精鋭のようです。

 しかし、混乱を脱した兵士たちが適切に迎撃します。

 ケイマン総司令部の兵員は、基本的に事務作業員です。

 ですが、ケイマン族総司令部は事務官にも戦闘力を求めます。

 通常部隊であれば中隊長程度は充分に勤められる者が事務をしているのです。

 そうそう抜けるわけがありません。

 ですが、敵も必死でした。

 突入してきた兵士の一人がオライダイの前にまで達したのは立派でしょう。

 その兵士、見た目はあまり強そうには見えませんでした。

 体格は小柄。

 ですが、魔力量は膨大です。

 無詠唱でライトニングボルトを連発する技量も卓越しています。

 魔力量だけならオライダイよりも上でしょうか。


「マリセア・ネディーアール、ケイマン・オライダイと見受ける。覚悟!」


 マリセア・ネディーアールと言えば、マリセアの内公女の一人です。

 最も魔力量が高い公女とされ、軍議でもしばしば名前が挙がっていた存在でした。

 確か、セリガー共和国連邦に引き渡される予定だったはずです。

 ネディーアール殿下の言葉に、オライダイの護衛が一斉に盾を構えます。

 ですが、オライダイは彼らに身振りで下がるように命じました。


「小娘、よくぞ、ここまで来た!

 褒美に余が直々に相手をしてやろう」


 そう言ってオライダイは、被っていた下着の上から兜を被ります。

 ネディーアール殿下は、オライダイの重厚な鎧に、魔法は通じないと見たのでしょう。

 剣を掲げて馬上から跳び上がりました。

 もの凄いジャンプ力です。

 人の頭のはるか上。

 そして速い。

 普通なら跳び上がって打ち掛かるのに一瞬の間があるのですが、それが有りません。

 恐らくは風魔法を併用したのでしょう。

 マナの強烈な流れが感じられました。

 そのネディーアール殿下の一撃をオライダイは真正面から受け止めます。

 左手の篭手、です。

 ネディーアール殿下の剣は鋭く、速く、重厚でした。

 技術的にも優れていたと思います。

 彼女としては渾身の一撃でしょう。

 ですが、オライダイの篭手はびくともしません。


「ほう、折れぬか。

 良い剣だ。

 余の篭手に傷を付けたのは誉めてやろう」


 オライダイの声が笑っています。

 そして、両手に部下が差し出した剛剣を構えました。

 オライダイは両手に強靭な篭手を嵌め、両手に剣を持って戦います。

 両手の篭手は重厚で、特にその手背の部分は厚さ三センチを超えます。

 両手に頑強な篭手と巨大な剛剣を持って戦うのがオライダイの戦闘スタイルです。

 剣と篭手の重量は片手だけで十キロを越えます。

 常人では装備する事すら大変でしょう。

 ですが、両手に重い篭手と剣を持って振り回すのがオライダイという男です。

 鍛えられた体躯に、圧倒的な魔力量、そして緻密な身体魔法制御がこれを可能としています。


「では、こちらからも行くぞ!」


 オライダイの右手が振りかぶられます。

 これみよがしの一撃。

 ネディーアール殿下は盾で受けましたが、圧力に押されて後退します。


「ほう、壊れぬか。

 その盾もなかなかの物だな」


 今度は左手で一撃。

 ネディーアール殿下は剣では受けきれないと踏んだのでしょう。

 今度も盾で受けます。

 何とか耐えましたが、兜の開口部から見える顔色は良くありません。

 オライダイの斬撃が続きます。

 右手、左手でゆっくりと、代わる代わる一撃。

 オライダイは完全に遊んでいます。

 ですが、ネディーアール殿下は全く反撃できません。

 オライダイの一撃が重く、それを受けるだけで精一杯なのでしょう。

 魔法も出せません。

 あるいは、魔力切れでしょうか?

 視線を振れば、後方では、殿下と共に突進してきた兵士たちが囲まれています。

 帝国の精鋭なのでしょうが、総司令部の兵も精鋭です。

 既に、全員乗馬を失い、一か所に追い詰められています。


「簡単に殺すなよ」


 本部護衛隊長の言葉に兵士たちが不敵に笑い、頷きます。

 こちらも、いたぶりに入っているようです。


 どうやら、敵の総司令部襲撃も終わり、と思った時でした。

 突然、派手な閃光と爆発音が響き渡ります。

 ファイアーボール?

 しかし、普通のファイアーボールの大きさではありません。

 大きく数も多い、少なくとも五発以上。

 更に、オライダイとネディーアール殿下を取り囲むようにもう一度爆発が起きます。

 何があったのか?

 しかし、考える暇は有りませんでした。

 護衛隊長の首が飛びます。

 立っている兵士の首が飛ぶなど見たことが有りません。

 更に、数名の兵士が倒れます。


 気が付けば、目の前に一人の兵士がいました。

 目立つ格好ではありません。

 体格も普通です。

 オライダイとは頭一つ違います。

 筋肉の量ではオライダイの半分でしょう。

 兜は帝国の汎用型で、鎧も同様の皮鎧です。

 魔力もさして感じません。

 ただの一般兵士に見えます。

 盾はなく、右手に一振りの剣、いや、刀、でしょうか。


「カンナギ・キョウスケ、ネディーアール殿下に助太刀いたします!」


 男は叫びながら、オライダイに突進します。

 護衛の兵士が駆け寄りますが、間に合いません。

 しかし、オライダイは冷静でした。


「貴様が、カンナギか!

 来い!余が直々に倒してくれよう!」


 叫んだオライダイがカンナギの一撃を例によって左の篭手で受け止めます。

 次の瞬間に起こったことは、全く信じられない出来事でした。

 オライダイの篭手がカンナギの一撃を受け止めた、ように見えました。

 ですが、それは一瞬でした。

 カンナギの刀はオライダイの篭手を切断したのです。

 あの分厚い、魔力で補強されている篭手を一撃で切断?

 有り得ない!

 ですが、流石と言うべきでしょうか。

 オライダイは左手を切断されたにもかかわらず、右手の斬撃は止めなかったのです。

 しかし、ここで更に驚愕が起こりました。

 カンナギの胴に迫るオライダイの剛剣が宙に飛びました。

 カンナギの刀はオライダイの左篭手を切り飛ばし、返す刀で右手の篭手も切り飛ばしたのです!

 オライダイの両手から滝のように真っ赤な血が噴き出します。


「オライダイ様!」


 両脇から兵士が迫ります。

 オライダイ第二正夫人、第三正夫人、更に護衛の兵士たち十数名。

 特に第二正夫人のシキル殿はオライダイ以上の体格と筋力を誇る豪傑です。

 ですが、勝負は一瞬でした。

 シキル殿は兜ごと頭を割られ、第三正夫人は首を飛ばされました。

 他の兵士たちも、あっというまに命を刈り取られます。


「ネディーアール様、オライダイに止めを!」


 カンナギ殿の言葉にネディーアール殿下が我に返り、持っていた剣を水平に突き出します。

 それは、棒立ちになっていたオライダイの喉元に突き刺さりました。

 ネディーアール殿下が剣を引き抜くと、オライダイはどうと前に倒れました。

 両腕から大量に出血していましたから、その前にほとんど死んでいたのでしょう。

 カンナギ殿はオライダイに近寄ると、あっさりとその首を切り落としました。


「マリセア・ネディーアール殿下が、ケイマン・オライダイを討ち取ったぞ!」


 カンナギ殿の言葉に周囲が静まり返りました。

 これは、威圧、なのでしょうか?

 良くわかりませんが、敵も味方も、全ての兵士が動きを止めています。

 体の奥から、震えとも感動とも何とも言えない感情が沸き上がってきます。

 私は理解しました。

 これが、この方が、私の運命なのだと。


「そうだ、オライダイを討ち取ったんだ!」

「勝ったんだ!スゲェー!」

「マジかよ!」


 少しして、帝国軍兵士が声を上げ始めました。

 ネディーアール殿下がカンナギ様に抱き着きます。

 泣いているようです。

 そして、それが契機となったのでしょうか。

 ケイマン族の兵士が逃げ出しました。

 精鋭の兵士が恐怖に顔を引きつらせ、パニックと言っていい状況です。


 そして、残った兵士は、カンナギ様に降伏しました。

 屈強な兵士たちが、いえ、かなり上位の士官までもが、腹を上にして足を開き、陰部を露出させています。

 正式な降伏の儀式、全ての権利を捧げ、相手の所有物になるとの宣言です。

 これ程の武勇を見せつけられたのです。

 皆、カンナギ様の女になりたいのでしょう。

 その子種が欲しいのでしょう。

 しかし、凄い数です。

 百人以上いるでしょうか?

 これほど多くの兵士が、しかも一流の女性が一斉に無条件降伏するなど聞いたことが有りません。

 後世の絵物語の題材になることは間違いない、極めて感動的な情景です。

 私も同様に降伏の作法を行おうかと考えて、そして、止まりました。

 私は、十二歳の未成年です。

 見目は良い方だとは思いますが、成人した女性の魅力はありません。

 目の前で降伏している女性たちは、皆、鍛え抜かれた体躯を持つ、女性戦士の魅力にあふれた方ばかりです。

 この人数です。

 カンナギ様の寵愛を受けられるのはほんの一握りでしょう。

 この女性たちに混ざって、私が選ばれる確率は高くありません。

 他の方法を考えねばなりません。


 私が悩んでいるとカンナギ様が小声で呟くのが聞こえました。


「また、ボブ・〇ップのM字開脚。

 また、やっちまったのか」


 どうやら、カンナギ様は降伏した女性に、あまり良い感情を抱いていないように見受けられます。

 こんなに感動的な光景なのに何故でしょう?

 ですが、私には好機です。

 私は意を決してカンナギ様の前に進み出ました。


「え、黒猫族?

 いや、縞がある。

 てーことは、ひょっとして黒色変異か?」


 カンナギ様は、ネディーアール殿下に抱き着かれたままですが、私を見て正確に素性を言い当てました。

 医学の知識があるのでしょうか。

 私は敵意がないことを示すため、ゆっくりと服を脱ぎます。


「え、ちょっと、なにを?」


「どうか、お使いください」


 そうして、私は下着をカンナギ様に捧げました。

 カンナギ様は、何故か、呆然としておられましたが、なんとかその手に下着を握らせることに成功しました。

 本当は頭に被ってもらいたかったのですが、兜をしていますので致し方ありません。


 そして、周囲の女性が一斉に下着を脱ぎ始めました。

 脱いだ下着が次々とカンナギ様に捧げられます。

 その手に強引に下着が押し付けられます。

 手だけではなく、肩や兜の上にも下着が積まれていきます。

 カンナギ様が下着だらけになるのに数分もかかりませんでした。

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