07-33S インタールード 苦戦 (一)
豪雨の中、ケイマン軍総司令部のテントには幹部が集結していた。
ケイマン・オライダイ及び総司令部の幕僚、第一から第三まで三人の軍団長、軍団長の幕僚、攻勢の主体である第一軍団からは第一歩兵師団長と第二歩兵師団の第四歩兵旅団長も出席している。
フロンクハイトからはアハティサーリ・ウルホ枢機卿。
それぞれの従者、オライダイの護衛などを含めれば参加人員は五〇を超える。
「コシラは?」
「師団長は残念ながら、先ほど」
代理出席している第四歩兵旅団長が報告する。
魔導砲により右足を失った第二歩兵師団長はショック状態で後送されたが、治療が間に合わず戦死していた。
貴重で有能な指揮官の戦死にオライダイが顔を歪める。
戦況は想定外の苦戦だ。
戦況図だけ見れば、ケイマン軍は大きく前進し、多くの敵陣地を制圧している。
なのに、戦いは終わっていない。
帝国軍は塹壕を掘りまくっている。
ここまで四つの陣地線を突破したが、帝国軍にはまだ陣地線が残されている。
こんな作戦は聞いたことがない。
カゲシン自護院では、野戦陣地は弱体の物を複数よりも強固な物を一つと教えていたはず。
複数陣地は後退戦の時間稼ぎだけとされる。
ところが、今回、帝国軍は複数の陣地を作り、後退しながら戦っていた。
捕虜によれば、帝国軍の大半も想定していなかった戦法だという。
ケイマン軍は帝国野戦築城に対する戦い方を模索してきた。
過去の戦いにおいて帝国軍は野戦築城と投射魔法で数の劣勢を補っている。
故に、帝国軍の強固な野戦陣地を突破するのがケイマン軍の命題であった。
そして、それに対するオライダイの回答が『重装歩兵』だった。
帝国軍の投射武器に耐え、魔導部隊のファイアーボールを無効化し、白兵戦で陣地を突破する。
オライダイは入念にも、それを二セット用意した。
重装歩兵部隊二個梯団の連続攻撃で突破できない陣地はない。
それがケイマン・オライダイの、いやケイマン軍首脳の確信だった。
だがしかし、午前中の二個梯団の突撃は、確かに帝国軍陣地を突破したが、帝国軍陣地の全てを突破出来はしなかった。
重装歩兵部隊の稼働時間は短い。
フルプレートメールは、意外と動きやすくできている。
重量は体の各所に分散してかかるように設計され、見た目よりも軽く、動きも阻害されない。
だが、皮鎧より重量があるのは事実であり、密閉状態になるため体温調節が難しい。
更に、このプレートメールは魔力で防御力をあげる魔導具だ。
装着者は着用中自動的に魔力を吸い上げられる。
魔力の消耗は尋常ではない。
これらにより、重装歩兵部隊の稼働時間は基本二時間、無理をしても三時間とされる。
それも原則、一日一回だ。
勿論、演習では一日二回の突撃を行ったこともある。
だが、演習は実戦ではない。
午前中の突撃が終わって、オライダイ自慢の重装歩兵部隊は休憩と再編成に入った。
兵士たちは疲労困憊しており、それ以上進むことが出来なかったのである。
そして、休養と再編で判明したのは想定外の損害であった。
原因ははっきりしていた。
魔導砲である。
魔導砲の威力は凄まじい。
当たればほぼ一撃だ。
「ラト族の者から話は聞いていましたが、確かになかなかの威力です。
自分も二回ほど狙われました。
言われた通り、盾を斜めに構えて上に逸らしましたが。
事前情報が無かったら危なかったでしょう。
完全に止めることは自分でも無理です。
大隊長クラスでも弾くのは困難でしょう。
一般兵士なら当たった時点で終わりです」
第一歩兵師団長エルベクの話に場が動揺する。
エルベクはオライダイの長男である。
エルベクの盾と鎧は特別製。
魔力量はケイマン軍でも有数。
それで、やっと、だとは。
ケイマン軍も魔導砲には注意していた。
ラト族第三騎兵旅団からの情報があり、帝国軍がこれを増強してくるのも予想していた。
だが、同時に白兵戦で対処できるとも考えていた。
魔導砲を増強するといっても、時間的に百門単位は不可能。
数十の単位であれば、その損害は許容できる。
そう、一回だけの突撃と、それに対する砲撃であれば許容できたであろう。
魔導砲は大きく重く移動困難な兵器である。
簡単には退却できないから、突撃が成功すれば破壊できるはず。
ところが、である。
帝国軍は、複数の陣地線を退却しながら戦うという戦法を使った。
結果としてケイマン軍は何度も突撃を繰り返すことになり、その度に魔導砲の洗礼を受けることとなる。
困ったことに、白兵戦で魔導砲を破壊する目論見も失敗していた。
帝国軍の陣地は、一直線ではなく、ジグザグに折れ曲がっている。
魔導砲部隊は、斜め前の陣地が制圧された時点で退却を開始する。
想定より退却が速く、捉えるのが困難だ。
そして、最大の問題が魔導砲退却時にその援護で出てくる特別中隊である。
当初、この中隊が反撃に出てきた時には、ケイマン軍首脳は唖然とし、嘲笑した。
重装歩兵部隊は白兵戦闘に特化した部隊である。
それに、平地で反撃してくるとは。
精霊ですら立ち入らない場所に入ってくる愚者としか見えない。
ところが、だ。
この中隊は重装歩兵部隊を蹂躙した。
側面からの突撃とはいえ、プレートメールで完全武装した兵士の隊列に突っ込んで、それを薙ぎ倒し、平気な顔で撤収していったのである。
突撃された重装歩兵大隊は一〇〇名近い死傷者を出して大混乱に陥った。
魔導砲部隊を制圧するどころではない。
そして、この中隊の反撃は一度ではなかった。
二度三度と繰り返され、その度に味方は大損害を出す。
中隊の先頭に立ち率いる者の素性はすぐに特定された。
カンナギ・キョウスケ。
あのラト・アジャイトと神聖決闘を行い、殴り倒した男である。
プレートメールの重装歩兵は白兵戦に特化している。
特に防御力が高い。
大盾の恩恵は大きいが側面からの攻撃でもそう倒されるものではない。
ところが、カンナギはそのプレートメールの兵士を殴り倒す。
片手剣で一撃。
兵士はフルフェイスの兜を被っている。
視界や聴力を犠牲にして防御に特化した装備だ。
兜内部は打撃を喰らっても直接響かないよう革製のベルトがあり、兜と頭部の間には数センチの間隙がある。
故に頭部に打撃を貰っても兵士が倒れることは稀だ。
その兵士をカンナギは殴り倒す。
一撃で。
カンナギに倒された兵士を検分したオライダイは息を呑んだ。
頑丈なフルフェイスの兜が凹んでいる。
酷い場合は十センチ近くひしゃげているのだ。
カンナギに倒された兵士の全員が一撃で昏倒しており、半分は即死している。
残りの半分も、頭蓋骨骨折などの重傷。
フルフェイスの兜を被った兵士を殴り殺す。
オライダイでも不可能ではない。
だが、片手で、ほぼ一〇〇パーセントの確率で可能かと問われれば、正直、自信がない。
部下たちの前で言える事ではないが。
カンナギは重装歩兵の戦列を無人の野を行くが如く突っ切る。
カンナギの両脇のプレートメールの兵士がカンナギの開けた穴を確保し、その両側にいる月の民二人が活動するスペースを作る。
両脇の月の民、センフルールの留学生二人も脅威だ。
月の民にしか使えない『竜』とかいう鞭のような魔法を振り回し、プレートメールの兵士をなぎ倒す。
フロンクハイトの魔導士によれば、月の民の二人は魔力量の関係か『風鎧』という近接防御を使用していないらしい。
よって、多人数で囲めば何とかなる、らしいのだが、カンナギのためにそれは不可能だ。
斯くして味方兵士の損害は止めどが無かった。
午前中、二波の突撃が終わった時点で、魔導砲による損害は八〇〇人を超えていた。
想定の倍である。
第一波の突撃で魔導砲を排除できなかったため第二波でも損害を出してしまったのだ。
しかも、魔導砲は味方の指揮官を集中して狙っていた。
指揮官だろうと、重装歩兵としては一人。
事前には軽視していたが、二回目の突撃となった時点で、予期しなかった事態が発生した。
この世界の常として、指揮官の大半は男性である。
指揮官男性を数多く失った結果、その配下の女性兵士も戦えなくなってしまったのだ。
戦死した第二歩兵師団長は、十数人の女性、夫人と高級使用人を引き連れて参戦していた。
その内、五人が重装歩兵である。
五人の内、戦死したのは一人だけだが、残り四人は魔力の供給源を失い、それ以上に精神的に大きな打撃を受け、もはや戦士としては使用できそうにない。
少なくともこの戦いの間はダメだろう。
午前中の突撃が終了し、再突撃が必要となり、重装歩兵を再編して分かったのは、第三波に使用できる重装歩兵が五〇〇〇人を切っていたという信じ難い事実だった。
戦死・戦傷の兵士以外にも疲労で戦えない兵士が多数存在し、戦えない女性兵士を回復させる男性が不足している。
特定の男性に属していない女性兵士には、急遽、一般歩兵大隊から男性を派遣したが、間に合っていない。
二時間の休憩の後、ケイマン軍首脳は、第三波に全てを投入すると決意した。
残る帝国軍、第四線陣地、第五線陣地を一気に突破する。
活動可能な重装歩兵は第一梯団に集められた。
第一梯団だけで精一杯なのだから仕方がない。
第二梯団も整列はしたが、見た目だけ。
敵に、第二梯団も活動しているように見せかけるハッタリである。
一個梯団で二線の陣地を突破する方策も考えられた。
フロンクハイトの魔導大隊を前に出す。
カンナギ中隊を放置していては魔導砲を制圧する術がない。
故に、まず、カンナギ中隊を潰す。
カンナギ中隊が潰れれば敵魔導部隊は撤退が困難になる。
カンナギ中隊が潰れることによる精神的動揺も期待できる。
カンナギ中隊を潰して魔導砲部隊を制圧し、そのまま帝国軍陣地を全て突破する。
そのためのフロンクハイト魔導大隊、フロンクハイト枢機卿。
負ける要素がない。
ところが、カンナギ中隊は捕捉できなかった。
カンナギ中隊の一回目の突撃、二回目の突撃。
何れでもカンナギ中隊は、フロンクハイト魔導大隊をきれいに避けて撤退していった。
恐らくは魔力探知で、察知して避けたのだろう。
理論としては分かるが、異様である。
確かに、フロンクハイト枢機卿の魔力量は突出している。
だが、重装歩兵部隊には多くの上位魔力保持者がいる。
重装歩兵部隊のど真ん中に居て、接近してくる枢機卿を察知して回避するなど、有り得ない。
まるで、上から見ているような話である。
なにをどうやっているのか?
どうして、そこまで精緻な魔力探知が可能なのか?
誤算もいい所だ。
だが、三回目の突撃では、うまく行った。
カンナギ中隊が中央から突撃してきたため、二個の魔導大隊が左右から挟撃することに成功したのだ。
これで、カンナギ中隊は少なくとも片方の大隊と接触する形となる。
接触すれば魔導大隊と中隊。
勝負はついたような物。
だが、再び、想定外が発生した。
フロンクハイト魔導大隊が敗北したのである。
「我々は、カンナギもさることながら、センフルールの留学生二人が真の脅威であると考えていました」
アハティサーリ枢機卿が苦渋の顔で告げる。
「二人の留学生に防御を提供している中央の三人、特にカンナギをまず排除し、続いてセンフルールの二人を排除と考えていたのです。
可能であればセンフルールの二人は生け捕りと考えていたのは否定できません」
枢機卿が頭を振る。
「もっと慎重に、カンナギを相手にしている間、センフルールの二人には部下を当てて、自由にさせないようにすべきだったのでしょう。
ですが、この場合、部下が倒されてしまう危険がありました。
我々の配下の女は、センフルールの二人に直接対峙できる力はありません。
マウノ・ハロネンは、そして私は、これを回避したかった。
カンナギの魔力量は守護魔導士程度。
我々であれば一瞬で排除できる。
故に、カンナギを排除した後にセンフルールの二人を個別に対処すれば良いと考えたのです」
フロンクハイトの枢機卿が間違いを認めることは、特に公の場でそれを認めることは滅多にない。
「浅はかでした。
部下の女がやられても、死体を確保できればすぐに復活できます。
多少は記憶が跳んだかもしれませんが、その程度です。
ですが、我々はそれを忌避した。
結果がこれです」
「カンナギが想定以上だったと」
オライダイの問いにアハティサーリが頷く。
「目撃した者の証言では、ハロネンの『地竜』が消えたように見えたそうです。
理論的に、『地竜』が消滅することは有り得ません。
恐らくはハロネンの『地竜』はカンナギに巻き付いていたのでしょう」
実際にはハロネンの『地竜』はキョウスケによって破壊されたのだが、アハティサーリは有り得ないと考えていた。
「ハロネンは二本の『地竜』を展開していたそうです。
予定であれば、一本の『地竜』でカンナギは排除されていたはず。
ですが、二本の『地竜』で締上げたにもかかわらずカンナギは排除されなかった」
「其方たちの『竜』とやらは無敵ではなかったのか?」
「一つだけ例外があります」
オライダイの問いに枢機卿が忌々し気に答える。
「防御者の魔力量が『竜』の使用者と同等かそれに近い場合、防御者が防御に全力を注げば、潰すのは困難です。
少なくともかなりの時間がかかる。
恐らく、敵は初めからこれを狙っていたのでしょう。
カンナギが数秒間ハロネンの『竜』に耐える。
そこをセンフルールの二人が横から攻撃する。
ハロネンは『風鎧』も展開していたはずです。
センフルールの二人にハロネンの『風鎧』を貫通するだけの力量があったことも誤算でした」
ハロネンの『風鎧』を破壊したのもキョウスケであるが、アハティサーリは勿論、知らない。
「何にしろ、最大の誤算はカンナギ・キョウスケです。
彼は今年八月の帝国の魔力査定で『守護魔導士』に認定されています。
我々も当然、その程度と考えていました。
守護魔導士としても、平民出身の魔導士としては破格です。
ですが、ハロネンの『地竜』に耐えたとなると、彼の魔力量は帝国基準での『国家守護魔導士』、それも、上位でしょう。
クロスハウゼン・カラカーニー、あるいはバフラヴィーと同等の能力と推測されます」
「ラト・アジャイトを殴り倒したのは、まぐれではないと言う事か」
ケイマン首脳陣最長老の第一軍団長が顎毛を捻りながら唸る。
「月の民は、殺されても復活すると聞く。
ハロネン殿はどれぐらいで復帰できるのだ?」
「少なくとも、今日明日には無理です」
血族、それも上位の血族は、殺されても組織が残っていれば回復は早い。
脳や心臓がズタズタにされても、残っていれば修復されるのだ。
だが、体組織が全て失われれば、回復には時間がかかる。
マウノ・ハロネンは上半身を丸ごと失っていた。
心臓を含む上半身全てというのは酷い。
そのままでは、復活に数か月はかかる。
ハロネンの妻の一人を殺して、心臓その他の臓器を提供させたが、それが活用できたとしても一か月はかかるだろう。
記憶は、・・・恐らく、年単位で失われている。
それでも頭部が確保できたのは幸いだった。
それがなければ回復したとしても別人、つまり全ての記憶が失われていただろう。
「カンナギの件は分かった。
それで、次の攻勢だが、・・・時間がない。
だが、攻勢を止める選択肢はない」
オライダイの言葉に、会議出席者全員が深刻な顔で頷く。
そう、攻勢は中止できない。
重装歩兵による突撃第三波は結局、帝国軍陣地第四線を突破しただけに終わってしまった。
実を言えば、急の雨はケイマン軍にとっても悪くはなかった。
天候が保たれていたとしても、重装歩兵部隊には引き続き突撃を継続できる余力はなかっただろう。
雨で再編の時間が取れたのが事実だ。
だが、懸念は多い。
帝国軍魔導砲は制圧されていない。
ハロネン魔導大隊まで撃破したカンナギ中隊も健在だ。
そして、重装歩兵部隊の損害は想定の十倍以上に達している。
損害は隠しようがなく、兵士の士気は如実に蝕まれている。
だが、それでも、ケイマン軍に攻勢中止と言う選択肢はない。
いや、攻勢を続けるしかない。
攻勢を仕掛けている側が、攻勢を中止して退却するというのは、敗北を認めるのと同義だ。
ケイマン・オライダイは多額の費用を投入して、国家を傾ける勢いで重装歩兵に投資していた。
完成した重装歩兵部隊は、ケイマン軍の、オライダイの誇りであり、その権力基盤でもある。
カナン最強のケイマン軍重装歩兵集団。
重装歩兵部隊の攻勢中止は、その権威を失墜させ、オライダイの権力基盤を崩壊させるだろう。
失われた重装歩兵は戻らない。
ならば、『不敗』は守らねばならない。
勝利すれば、損害は許容される、はずだ。
少なくとも敗北した場合よりははるかにましだ。
だが、攻勢を続けるのも、至難の道である。
「現在、使える重装歩兵は?」
「二〇〇〇を超える程度かと」
第一軍団長の言葉に場が沈黙する。
八〇〇〇人いた重装歩兵部隊が二〇〇〇人。
「あと、一時間まてば、五〇〇人程が回復できると報告されています。
ただ、その後は厳しい。
明日の朝まで待っても、三〇〇〇に届くか疑問でしょう」
魔導砲の犠牲者は、死亡率が高い。
生き残っても重傷が多い。
腕や足を失った兵士は、傷が癒えたとしても兵士としては使えない。
実は帝国軍のクロスボウの被害者も結構酷い。
一般のクロスボウではケイマン軍のプレートメールはまず貫通できない。
だが、プレートメールでも脚部や膝関節は、前面は強固に防御されているものの、背面は装甲が薄い。
ほぼ無い場合もある。
帝国軍クロスボウ兵はそこを狙っていた。
命中率は低いが矢数は多い。
膝関節にボルトが当たれば医療魔導士でも治療は困難だ。
「一般兵部隊は?」
「こちらも少なくない損害が出ています」
オライダイの問いに再び第一軍団長が返答する。
ケイマン軍は通常歩兵部隊でも攻勢を行っている。
午前中の二回の重装歩兵部隊の突撃後には、第一軍団の通常歩兵部隊が突出部の左右を広げる攻撃を行った。
第三波の攻撃時には、第二軍団、第三軍団も同時に攻撃を行っている。
だが、これらの攻勢は成功したとは言い難い。
最終的には多くの場所で前進を獲得したが、損害はケイマン側が圧倒的に多い。
特に悲惨なのは、最左翼の第三歩兵師団である。
帝国ベーグム師団に攻撃を仕掛けたのだが、その陣地はびくともせず、多大な損害を受けて退却する羽目に陥った。
第三歩兵師団第五歩兵旅団は攻勢能力を喪失している。
これは分かっていた結果だ。
魔導部隊に掩護され、陣地に籠る帝国軍歩兵に対して、通常歩兵部隊は分が悪い。
それ故に重装歩兵部隊が整備されたのだから。
「ふん、腐っても帝国。
楽に勝たせてはくれぬということか」
オライダイが腰を大きく突き上げると膝の上の女が嬌声を上げた。
「次だ!」
オライダイは精を注いだ女を放り出す。
脱力した女を護衛の兵士が回収する。
同時に、次の女が彼の前でしゃがみこみ、口での奉仕を開始した。
更にオライダイは被っていた下着を脱ぎ捨てる。
侍女の一人が慌てて下着を脱ぎ、彼の頭に被せた。
カンナギ・キョウスケが見たら、『変態〇面ケモ耳バージョンかよ』と驚くだろう。
だが、本人は至って真面目である。
戦場では、特に戦いが長引いた場合には、男性指揮官が女性兵士に精を注ぐのは、褒美であり義務である。
オライダイも直属の伝令兵に順番に精を注いでいた。
前線に命令を伝達し、最新の情報を持ち帰る伝令兵は、優秀な兵士が選抜されている。
彼女らにオライダイが直接精を注ぐのは、その魔力・体力を回復させるだけでなく、忠誠心を獲得するために必要な行為であった。
会議の間にも女の相手をし続けるのは、トップが自ら兵を労わっている事を示す示威行為でもある。
勿論、戦場で何人もの女を相手にするのは並大抵のことではない。
牙族男性では性欲喚起に嗅覚的刺激を使用する場合が多いが、オライダイは女性のほのかな、あまり熟成されていない香りを好んだ。
遊牧民女性では、普通下着は腰布系で、麻布、あるいは毛織物が多い。
だが、オライダイはこの目的のために高価な木綿製のパンティーを採用していた。
牙族男性に良く使用される数日間熟成させた下着は長時間効力を保つが、ほのかな香りは直ぐに失われる。
オライダイは夫人や使用人、数十人の女に専用下着を穿かせ、次々に取り換えることで欠点を補っていた。
数十人の女性と数百枚の高価な下着を用意できる首領ならではの解決方法である。
会議に参加しているケイマン軍幹部の大半もオライダイ同様に、会議中も女性の相手をしていた。
下着を被っているのも同様である。
会議開始時にオライダイから下賜されたのだ。
女の相手をしていないのは高齢の第一軍団長だけだが、彼も下着は被っている。
折角の下賜を無にする事はできない。
ちなみに、アハティサーリ・ウルホも女の相手をしていたが、下着の下賜は断っていた。
彼は自ら調達した黒いレース製の下着を被っている。
フロンクハイトの文化と技術力を見せつける姿に、オライダイは不満だったが、口には出さなかった。
カンナギ・キョウスケがここに居たら、変態〇面集団に絶叫していただろう。
牙族遊牧民の軍議では、特に戦いが長引いた場合には、よくある光景だが。
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