05-16 そう言えば講師だった

 通常八月は夏休み体制で、カゲシン施薬院は講義も試験も間引き運転で閑散としている、・・・のだが、今年に限っては講師達がフルで動員され喧騒に満ちていた。

 施薬院講師達が動員されているのは、一つは、色キチガイ、じゃなくて、変態を極めし者、じゃなくて、宗主猊下の治療と介護のためである。

 宗主の傍には上級医療魔導士が最低一人、下級医師を含む看護人が最低十人、二十四時間体制で控えていて、治療と介護にあたっている。


 もう一つの理由は、臨時で試験が行われているためだ。

 宗主猊下治療薬、現状では、作れる者が少ない。

 そもそも宗主の薬を作ってよいのは施薬院でも講師以上、かつ、『譲緑』以上という決まり。

 このため、ネディーアール殿下とモローク・タージョッの二人を急遽、講師にという話になった。

 結果として現在、タージョッは施薬院の一室で猛勉強中である。

 彼女の準備が出来次第、講師達が特別に作成した試験を受け、資格を取得していく予定になっている。

 まあ、出来レースだ。

 ちなみに、タージョッはゲレト・タイジと一緒に勉強している。

 タイジはオレ達が百日行を行っている間に施薬院の試験を消化し、もう少しで全科目クリアまで来ていた。

 このためか、タイジも特例試験を受けさせる話になったらしい。


 タイジの特別扱いは、意味が分からなかったが、聞けばスラウフ族対策という。

 施薬院は、従来、牙族の留学生を全く受け入れていなかった。

 牙族で医師を志す者が少なく、受験生の試験成績が悪いことが理由だが、施薬院側が牙族に対して偏見を持っていたのも否めない。

 施薬院側が牙族を差別して勉強を教えなかった事実もあったわけである。

 この問題はカゲシンとスラウフ族間の懸案の一つだったらしいが、今回、ゲレト・タイジという例外が現れた。

 タイジに全金徽章を取らせればカゲシンと施薬院はスラウフ族族長にいい顔できるという話である。

 で、オレも施薬院で二人に勉強を教える事になった。

 ちなみに、ネディーアール様は、・・・バフラヴィーと一緒に地方巡業なので、帰り次第缶詰、の予定ではある。




 そんな、休業体制返上過剰勤務で不快指数マックスの施薬院に、オレはこの日も朝から顔を出した。

 単純に仕事が溜まっているのだ。

 夕方からはピールハンマドの千日行達成祝賀会なのだが。

 ・・・祝賀会も仕事だけどな。

 そして、顔を出したら、シャイフから女性を紹介すると言われた。

 そー言えば、そんな話も有った。


「一つ、忠告させてもらうが、若いうちは見た目に流されやすいかもしれぬが、第一正夫人と第二正夫人の片方は貞淑な者が良いと思うぞ」


 部屋に入ると、シャイフから厳粛な顔で忠告されてしまった。

 オレの女の趣味って、かなり誤解されている気がする。


「正直な所、二人とも貞淑な方が良いのですが」


 何故か、首を傾げられる。


「聞いたところでは、クロスハウゼン・ガイラン・トゥルーミシュを袖にして、あえて、クロイトノット・アシックネールを選んだと聞いたが」


 そうか、あえて選んだって話になっていたのか。

 つーか、ブローニング、有名だな。

 ・・・誤解は解いておいた方がいいだろう。


「あえて、という訳ではなく、・・・ここだけの話ですが、ガイラン家の方はかなり強烈な性癖がありまして、・・・」


 シャイフが口をあんぐりと開けて、続いてこめかみを抑える。


「そうか、分かった。クロイトノットの娘の方がマシという話なのだな」


 え、これだけで理解するって、・・・。


「いや、詳細はいらぬ。私は知らなくて良いことはあえて知らずにいるべきだと考えている」


 流石だな。

 一二・七の詳細聞いちゃったオレとは人生経験が違う。


 シャイフの第一正夫人が二人の娘を連れてくる。

 一人はこの春に施薬院に合格したばかりの十四歳。

 シャイフ嫡男第一正夫人の三女で名はシャイフ・エケベギータ。

 おっとり型少女だが魔力量は正魔導士程度あり、施薬院では上位だ。

 もう一人は、身長一五〇弱、その身長もアホ毛で五センチぐらい稼いでいるという、頭のテッペンから声を出す少女で、それなのに十七歳、もう少しで十八歳という合法ロリ、・・・誰の趣味なんだ、というルカイヤ・スルターグナ。

 こちらはシャイフ第一正夫人の娘の娘で、医療貴族ルカイヤ僧都家の娘だという。

 魔力量は正魔導士に少し足りない程度だが、タージョッよりは上だろう。

 それぞれ、自己紹介しているが、ゆったりマイペースに、高周波高回転が被るから、意味不明、・・・正直、顔と名前を覚えるのも億劫だ。

 ハトンが覚えるのに期待だが、取りあえずはシャイフ孫一号、二号と呼ぼう。

 年上の方が二号というのも何だが、見た目は一号の方がでかいからな。

 しかし、・・・この二人もオレの嫁になるのだろうか?

 シャイフとの関係で一人は嫁にする必要があるのだろう。

 第二正夫人あたりに入れてくれると嬉しい、とシャイフ夫人には言われたが。

 ・・・取りあえず、保留、いろいろと保留。

 だって時間ないし。




 オレは二人を引き連れて教室に移動する。

『高級医薬品』教室が拡充することになり、今日はその顔合わせでもある。

 こちらも以前からの懸案だったのだ。

 集まったのは、旧面子からゲレト・タイジにダナシリ、そして、アシックネールにタージョッ。

 ナディア姫とトゥルーミシュは出張中で不在。

 シャイフは宗主の所に戻り、ついでにバフシュ・アフルーズも欠席だ。

 実はバフシュは意外と忙しい。

 あれでも、施薬院上級講師。

 宗主の治療には参加していないが、それ故に一般患者が列をなしている。

 オレとシャイフが離脱しているためだ。

「おかげさまでウハウハだ!」と叫んでいた。




 そんなことで、本日の仕切りは全てオレである。

 新たに加わるのは、先に書いたシャイフの孫二人を含めて六人。

 まずは、施薬院特別講義で一緒になった、エリート学生のセヴィンチ・カームラーン。

 彼は、元々、シャイフが高級医薬品を作製可能な人材として採用した者の一人らしい。

 相変わらず礼儀正しく、品行方正で、真面目。

 正魔導士の資格を持つ。

 自己紹介し、「この講義に参加できて光栄だ。是非とも新しい技術を習得したい」と締めくくった。

 文句なく、真面目、逆に面倒じゃねってぐらい正しい生徒である。


 続いては、同じく特別講義で一緒だった、メンドー緑君ことアスカリ・ アブルハイル。


「元々、僕は自護院志望なんだけど、それは何故かと言えば実家が辺境で、辺境と言ってもそれほど辺境ではないのだけれど、カゲシンからは街道を使っても時間がかかるから、なかなか帰省は難しいのだけれど、実は二年前から、正確には二年とえーと何か月だったったけ、数えた方が良い、え、いらない、えーと、それぐらいカゲシンに住んでいて、一度も帰省はしていないのだけれど、これは、確かに帰省に時間がかかるという事はあるのだけれど、夏休みの大半を帰省に使用するのは、そう、いやでもないのだけど、今回は、まあ、たまたま、何となくで帰省していなかっただけで、決して帰省費用を節約しようとしたわけでは無くて、・・・」


 放っておくと、例によって十分以上話し続けるので適当に中断させたが、習得すれば高給取りになれる高級医薬品には興味津々らしい。

 こいつも、まあ、講義上の問題は少ないだろう。


 問題は、三人目の男。


「ふむ、特別な講義というのであれば、私が選ばれるのは当然だが、君が教える側だというのかね?」


 例によって例のごとく遅刻して現れた、歩く下心、シャハーン・アウラングセーブは何時もの様に上から目線だった。


「平民出の君が特別な呪文を受け継いでいるとはとても思えないのだが、講師の方々からのお話も有る。

 まあ、特別に聞いてあげても良いと思っているよ」


 何で、コイツ、こんなに偉そうなんだろう。


「シャハーン殿、私も一応、施薬院常任講師に任じられているのですが」


「いや、施薬院の金色徽章なんて、実際の医療現場では何の役にも立たないからね。

 医者にとって大切なのは、まずは歴史。

 先祖代々受け継がれてきたその家独自の医療呪文の数と質だね。

 続いて、社交。

 医者として広く貴族社会に受け入れられる事だ。

 カンナギ、平民出身の君にはその両方が欠けている。

 よって、本当の医者として成功するのは不可能なんだよ」


 ・・・オレ、カゲシンの医療業界ではそこそこ知られてきたと思ってたんだがな。


「だったら、帰ったら」


 オレより先にタージョッが切れた。


「習うことが無いって考えてるなら、とっとと帰ればいいじゃない。

 言っとくけど、カンナギは医者としてあんたの十倍以上稼いでるわよ」


「か、金を稼いでいるから医者として上だとはならないだろう!」


 まあ、確かに、その通り。


「私は、あの、バフシュ・アフルーズ上級講師の一番弟子なんだぞ!」


 そうだったのか?

 バフシュの診察や手術でこいつが一緒にいたのを見たことが無いんだが。

 女関係の時は横にいたけど。

 横を見ると、皆も、怪訝な顔をしている。


「キョウスケが百日行の間、僕、バフシュ先生と一緒に手術することが多かったけど、シャハーンさんっていなかったよね?」


 タイジが素朴に質問する。


「たまたま、一緒ではなかっただけだ」


 シャハーンは胸を張って答える。


「社交の場では三日に一度は同席させて頂いている」


「また、それ?」


 Bカップは呆れ声だ。


「おう、なんだ、アウラングセーブではないか。

 其方、医者を辞めたのではなかったのか?」


「ジャニベグだとぉ!

 何で、其方がここに来る。

 ここは施薬院だぞ!」


 そこに、最後の参加者が入ってきた。

 オレの自称第一正夫人、クテンゲカイ・ジャニベグである。

 シャハーンもクテン系の貴族だ。

 年齢も近いからジャニベグと知り合いなのは不思議ではない。


「それは、私もこの講義に入るからだ。

 施薬院入講資格はちゃんと取ったぞ」


 ジャニベグはオレの百日行の間に施薬院入講試験を受けて合格したらしい。

 オレが医者としても活動していたので、必要だと考えて入講試験を受けたようだ。

 名門出身で、魔力量は施薬院どころか帝国内でも上位。

 胸はDカップだから、あっさりと高級医薬品講義に選抜された。

 けな気というか、努力家ではある。


「どうせ、試験官に金を融通して試験問題を教えて貰ったのであろう」


「失敬な、ちゃんと勉強したぞ。

 施薬院に問い合わせたら、必要な教科書を教えてくれたから、二か月ほどで何とかなった。

 私の頭脳をもってすれば容易い話だ」


 こいつ、勉学も武術も魔法も、全部成績はいいんだよな。

 ハイスペック・ビッチってなかなかいない、・・・オレの周りに居なくてもいいんだが。


「それより、お前、ちゃんと借金は払え。

 お前に入講試験の問題を融通したと主張してる奴と、その問題の模範解答を作ったと自称してる奴が、クテン屋敷に金を払ってくれとやって来たぞ」


 ジャニベグの爆弾に会議室全体が、ものすごーーーーーーく微妙な雰囲気になってしまった。

 施薬院の中で裏口入学の話って、・・・。


「知らん、そんな奴、私は知らん!」


 シャハーンが真っ青な顔で否定する。


「そう言えば、借金が大変だって、こないだボヤいていたわね」


 Bカップが吐き捨てる。


「タージョッ嬢、それは違う。

 借金は、その、あの、そう、三月に病気になって、治療費がかさんだためで、・・・」


「ああ、そう言えば一緒に入院していたんだよ。

 僕は一種類だけだったけど、シャハーン殿は梅毒、淋病、クラミジアと三種類全部だったし、奥さん方も全員だったから、僕の妻は一人しか感染していなかったのが不幸中の幸いで、入院費も薬代も大変だったと、あー、僕は数日の入院で済んだから、入院日数もシャハーン殿の方が何倍もだったから、その分のお金も、えーと、でも、実家から臨時でお金を送ってもらったとか言ってたから、うらやましいという訳ではないけど、まあ、うちの実家は貧乏なわけじゃないけど、兄弟が多いので、・・・」


「アスカリ、その話は、そこら辺で」


 エリート学生のセヴィンチ君が慌ててメンドー緑君を止める。

 会議室の空気が更に微妙になってしまった。


「アウラングセーブ、大体、お前こそ、なんでここに居るのだ?

 医者は辞めたのではなかったのか?」


「ジャニベグ、入講試験に受かっただけの其方と違って、私は本格的な医者として三年以上の実績があるのだ。

 誰が医者を辞めたなどという話をしたのだ?」


 こいつ、メンタル強いな。


「先日のレトコウでの紛争で、医者ではないと宣言したと聞いたが」


「え、あ、いや」


 あー、単なる虚勢か。


「ベーグム師団に徴集され、魔導部隊に入れられたら、自分は医者だと言い張って医療部隊に移り、現地に着いて流行り病が蔓延していると聞いた途端、また魔導部隊に戻ったそうではないか。

 その際に医者を辞める宣言したと聞いたぞ」


 そんで、龍神教の捕虜になったと。

 分かってはいたがシャハーン、グダグダだな。


「何それ、医者としての敵前逃亡じゃない」


「タージョッ嬢、いや、それは、その、誤解だ。

 私はもともと外科系が得意で、流行り病は専門でなかっただけなのだ」


 タージョッの言葉にシャハーンが慌てるが、そこにジャニベグの追撃が飛ぶ。


「ほう、そうだったのか?

 其方はクテンで三年程医者の手伝いをしていたと聞いたが、私は其方が手術をした話を聞いた事が無いのだが」


「それは、その、だから、そう、其方が聞いていないだけで、私は手術もしていたのだ」


 赤毛のチャラ男は額に汗をかきながら必死に取り繕う。


「あー、わかった、わかった」


 ジャニベグが手を振る。


「アウラングセーブ、其方とは古い付き合いだ。

 古なじみとして言わせてもらうが、其方に軍人は無理だ。

 技量も無ければ体力も無く、何より胆力が無いからな。

 宗教家として修行するのも無理だろう。

 其方が医者を選んだのはある意味正解だ。

 其方が貴族として生きて行くには他に道が無かろう」


 容赦ねーな。


「その上で言わせてもらうが、このキョウスケは医者としても一流だ。

 レトコウ紛争では流行り病の鎮圧を主導し、戦後は負傷兵の治療に活躍している。

 千切れた腕をくっつけられる医者はクテンにはいない。

 カゲシンでも数人と聞く。

 キョウスケはその一人だ」


 こちらの医学って歪なんだよな。

 科学の発展が滞ってるのに、合目的に使える魔法が存在している。

 結果、全体としては中世レベルなのに、一部医療は地球を凌駕している。

 切断された腕の再接合なんて、地球でオレが出来たとは思えない。


「そこのゲレト・タイジもかなりの腕だ。

 キョウスケやタイジの治療を受けた者の話を聞いたが、皆、驚愕し、感謝していた。

 其方も素直に教えを乞うべきではないか?

 其方の、懐具合からもその方が賢い選択だと思うが」


 あれ、・・・ジャニベグがまともな事を言っている。

 変な物食べたかな。

 赤毛のチャラ男は、しばらく口をパクパクさせていたが、いきなり手鏡を出して髪を整えると、妙なポーズとキメ顔で、宣言した。


「カンナギ君、まあ、そうだね、君が特にというのであれば、私も教えを乞うのに吝かでは無いよ。

 代わりに私が君に決定的に欠けている社交の術を伝授してあげよう。

 我がシャハーン家秘伝の社交術だ。

 医療貴族内では有名で垂涎の的とされている物だ。

 一部ではあるが、特別に伝授しても良い。

 勿論、それなりの謝礼は頂くが」


 会議室の空気が再び、更に、異様に、微妙になってしまった。

 微妙が微妙で微妙になって、もう分けわからん。


「あんた、その社交で性病貰ったんでしょ」


 タージョッ、目つきがツンドラ気候だ。


「あー、いやー、その、私ぐらい社交範囲が広いと、極稀に事故が起きることはあるから、・・・」


「お前、社交というが、お前のは『針金』ではないか。あれで社交も無かろう」


 必死に取り繕うシャハーンに再びジャニベグの痛烈な一撃が突き刺さる。


「あー、『針金』ですか。それはダメですねぇー」


 ハーっとアシックネールが息を吐く。

 しかし、・・・『針金』か。

 聞いちゃ、いかんな。

 オレはシャイフにスルースキルを学んだのだ。

 こんな所に突っ込んでもいい事はない。

 見ればエリート学生セヴィンチ君も目を逸らし、ため息をついている。


「『ハリガネ』って、どーいう意味ですかぁ?」


 オイ。


「『ハリガネ』って金属の『針金』の事ですよねぇ?

 細長くて、ひょろひょろしてて、くねくね曲がる」


「アスカリ、ちょっと待て」


 セヴィンチが慌てて止めるがメンドー緑君は止まらない。


「ハリガネだと社交がダメなんですかぁ?」


「そのままの意味だ」


 あっさりと肯定する八九式露出狂。


「シャハーンのアレは固い事は固いが、細すぎて話にならんのだ。

 あれでは女を満足させるのは無理だろう。

 つまり社交も何もない」


「シャハーンのアレって、男性器のことですかぁ?」


 アスカリ、そこまで、確かめる意味はあるのか?

 女性の過半が顔真っ赤だぞ。


「うむ、その、アレだ。指で折れそうなぐらい細い」


 あー、やっぱりジャニベグはジャニベグだった。

 さっき、一瞬、まともに見えたのは、オレの願望の為せる業だったのだろう。


「わ、わ、わ、わ、わ、私は、針金なんかじゃない!

 そっちの女が、ユルユルでガバガバだから、そう感じただけだ!」


 猛り狂った赤毛が、論評不能の反撃に出る。


「あー、うむ、諸君、そろそろ、貴族に相応しい言動に戻るべきと考えるが、・・・」


 セヴィンチが咳払いして注意するが、勿論、全く、完全に、どう考えても、何の効果も無かった。


「ふむ、では、そのユルユルでガバガバの中に入った途端、三秒も持たずに全て出し尽くして、幸せそうなアホ面をさらして動けなくなったのはどこのどいつだ?」


 もう、品性の欠片の痕跡すら無い。


「そりゃ、私とお前では魔力差が大きいから、吸い込まれやすいのは有るだろう。

 だが、少しは堪えて、女を喜ばせようと努力するべきだ。

 三こすり半どころか、一こすり半もなかったではないか」


 あー、つまり、だな。

 シャハーンとオレはいわゆる『穴兄弟』という奴なのだろうか?

 うん、深く考えるのは止めよう。


「『針金』は致し方ないが、『早漏』は努力と気力で改善する。

 それ以前に、指とか舌とか、やることはいくらでもあるだろう。

 ただ、女に乗っかって、腰を振るだけならディプラーと変わらん」


 出来の悪い親戚に真摯なアドバイスだが、・・・言われる方はキツイぞ。


「うわ、針金で早漏って、最悪じゃないですか。

 この人、そんなんで、社交なんて出来てたんですか?」


「コイツ、見てくれはそこそこだし、金払いはいいからな。

 宴会に呼ぶと高い酒を差し入れてくれると有名だった」


 アシックネールとジャニベグって、時々、仲良くなるよな。


「その点、キョウスケはいいですよね」


「うむ、硬さも、大きさも、上々。

 持続力、魔力量に、テクニックと申し分ない」


「結婚相手は夜の相性を確かめてからが鉄則ですよねー」


 いや、あの、そんなことで褒められても、・・・。




「ねぇ、タージョッ、あれ、どうなの?」


「うん、私も経験はそうないんだけど、アイツの夜の方は一流なんだと思うわ」


 アホ毛高周波娘ルカイヤ・スルターグナの問いにBカップが顔を赤らめながら答える。

 それを見た、歩く下心が顔を憤怒に染める。


「違う、今のは違う!

 みんな、こんな、変態女の言うことなど信じてはダメだ。

 私は、針金でもなければ、早漏でもない!」


「あーでも、確かに細かったかも」


 アスカリ、・・・・・・・・・・・・・・いや、もういいか。


「性病講習会の時に、実際に感染した例としてシャハーンの男性器を見たけど、確かに細かった感じがしていたかもしれないような、えーと、人差し指か、いや、小指ぐらいの太さだった、それか子供の中指・・・かなぁ。

 近くに寄って確かめた訳じゃないけど、あーなんか、細いなーって記憶が、あー、でも、あれから大きくなるのかなー、でも大きくなるって言っても限度があるしー」


 セヴィンチがアスカリの肩に手を置いて首を振る。

 シャハーンは、・・・アウアウ言うだけで言葉が出てこない。


「あー、でも、シャハーン、細くても、早くても、君には奥さんがたくさんいるから、いいじゃないか。

 たとえ、金目当ての結婚で、金の切れ目が縁の切れ目で離婚されかけていたとしても、現時点では僕よりたくさんの奥さんがいるんだから、いいじゃないか。

 ここで、カンナギ殿をおだてて、金稼ぎの方法を聞き出すって言ってただろ。

 がんばろうよ」


 しかし、・・・アスカリって偏光グラス越しに空気を読むのがうまいよな。

 ジャニベグの毒性をうまく引き出して、更に増強してくれている。

 ・・・・・・・・・・・・・どーすんだ、これ?

 この場の責任者はオレなんだが。

 シャハーンはアウアウ言っていたが、アスカリの言葉に、キッとした顔でこちらに向き直る。


「カンナギ・キョウスケ、私が、この私が、この社交の公爵と呼ばれたシャハーン・アウラングセーブが貴様に負けることなど有り得ぬ。

 いや、有ってはならない!

 この借りは必ず返すぞーぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 そう言って、赤毛のチャラ男は去って行った。

 彼の従者である女性二人は、この騒ぎの間も無表情で横に立っていたのだが、無表情のまま主人を見送り、その後、馬鹿丁寧に礼をしてから去って行った。

 ・・・・・何だったんだ?




「うーん、カンナギ殿は随分と恨みを買っちゃったねー。

 でもシャハーンはものすごーーーーーく執念深いけど、お金のためには節操無いから、直ぐに本心を隠してすり寄って来るから大丈夫だよ。

 せいぜいあちこちで五~六年、陰口をばら撒く程度だと思う」


 何が大丈夫なんだ?

 アスカリ、・・・いや、こいつに言っても無駄か。


「まあ、仕方がない。

 アウラングセーブを講義に入れるのならば最初にガッチリ締めて、どちらが主人かあのスカスカな脳みそに刻んでおかねばならんのだ。

 でないと、まともな授業にならん。

 キョウスケは恨みを買ったが正しい事をしたのだ。

 気にすることはない」


 ・・・こっちは確信犯か。

 つーか、そもそも、何で、オレが恨みを買ってるんだ?

 オレ、ろくに話してないんだが。


「うん、その、大変だったけど、これ以上悩んでいても時間の無駄だから、講義を始めた方が良いと思う」


 ゲレト・タイジはそう言うと、そそくさと講義のプリントを配り始めた。

 その後の授業が、意外とまともで充実した内容になったのは、良かったのだと思う、事にしよう。

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