05-14 別に呼んでくれなくても (二)
「現在の帝国内には僧侶位階を有する諸侯が数多く存在する。
中には、僧正、少僧正といった高い位階を持つ者すら存在する。
更に、恐ろしいことに彼らはそれを世襲で獲得する」
ピールハンマドの演説は続く。
「諸侯が公爵や伯爵を世襲することは在地領主として当然であろう。
だが、僧侶位階はそうではない。
カゲシンにおいてはどんなに位階の高い家に生まれたとしても力量が不十分であれば出世は許されない。
しかるに、在地領主たちは何の修行も研鑽も無いままに自動的に僧侶位階を獲得し、勝手に説教を行い集まった浄財を我が物とする。
ある日突然、僧正となった男が、勝手に部下を僧侶に任命し、民に説法を行う。
そんな説法に民を救う力は有るのか、そんな僧侶が民の指標たり得るのか、断じて否だ。
そんな集団が信徒の浄財をかすめ取り世俗の欲望に乱費する。
許される筈が無い!」
修行しただけで人に説教する資格が有るかって話も有るよな。
しかし、この人、結構、アジテーターの素質が有るな。
会議の参加者の過半は陶酔した目付きになっている。
・・・オレも目をキラキラさせておこう。
「だが、それを宗主は許容している。
歴代宗主も許してきた。
カゲシン宗家は諸侯を甘やかせ過ぎたのだ!
では、何故にカゲシン宗家は諸侯の横暴を許容し続けて来たのか。
簡単な話だ。
カゲシン宗主自らが修行などほとんどしていない。
故に、諸侯に対して何も言えぬ。
地域領主が僧正や少僧正を名乗りカゲシン本山の意向から外れた行いをしても文句も言えぬ。
つまり、宗主が変わらねば、マリセア正教の尊厳は取り戻せぬのだ!」
会議参加者の大半が立ち上がって拍手する。
オレも慌てて拍手に参加した。
良く分からんが、エディゲ宰相嫡子のムバーリズッディーンが許容しているから、恐らくはこれが彼らの本音なのだろう。
「現在の宗主猊下は御病気とお聞きします。
我らが期待できるのは次の宗主になりましょう。
ピールハンマド様は、次の宗主にどなたをお考えなのですか?」
参加者の一人、宗教系と思われる男が質問する。
「残念ながら、現時点では保留だ」
ピールハンマドは、どかっと椅子に座り直すと忌々し気に答えた。
「先日、成人されている二人の公子にそれぞれお会いした。
私は宗主を目指すのであれば修行を行い功徳と研鑽を積むべきと助言した。
だが、お二人のどちらからも明確な返答は頂けなかった」
周囲から、落胆とも悲鳴とも取れるような声が上がる。
多分、ピールハンマドは、二人の公子に強く修行を迫ったのだろう。
曖昧な言葉を許さず、言質を取ろうとしたのだろう。
険悪になっても不思議じゃない。
オレもこの人とは合わんな。
友達にはなれない。
「残念ながら、事はそう簡単には運ばぬ」
エディゲ・ムバーリズッディーンが静かに言った。
「だが、今回の宗主選定は好機だ。
カゲシンではここしばらく、在地領主に阿った宗主選定が行われてきた。
今回は、その論理が働かない状況になっている。
この機会に、宗主選定には本人の資質、修行の有無を重視する前例を確立するのだ。
皆も、この目標に向けて結束し、努力して欲しい」
ムバーリズッディーンの残された右目が座を支配する。
「言っておくが、在地領主、世俗主義者たちも必死だ。
彼らは権益を死に物狂いで守ろうとするだろう。
宗主就任に修行が必要となれば、各地の僧正、少僧正就任にも修行が必要との流れになるだろう。
それは彼らにとって決定的なダメージとなる。
故に抵抗は絶大だ」
「彼らには帝国の苦しい現状は分からないのでしょうか?
普通に考えれば改革が必要だと分かる筈です」
一人の男がムバーリズッディーンに質問する。
「馬鹿だからだ。
何もしなくても帝国が永遠に続き、利権を貪れると思い込んでいる馬鹿だからだ!」
紫髪の男が被せ気味に叫ぶ。
「確かに、何も考えず自らの利権にのみ執着している痴れ者もいる。
だが、帝国の窮状を理解し改革が必要だと考えている者も存在する」
片目のリーダーが二人を制する。
「そして、その者たちこそが最大の障害になる。
彼らは現在の帝国に問題がある事を理解し、彼らなりの解決策を提示している。
彼らは、カゲシン中枢に諸侯の代表を参画させようとしているのだ。
マリセアの正しき教えの中枢にいる我らを排除し、自分たちだけで帝国を支配しようとしているのだ。
自分たちの権益を守り、強化するために!」
「寄生虫が増えるだけでは有りませんか!
そんな方法で帝国が再建できるわけがない!」
先程の男性が再び叫ぶ。
「寺院の数を減らし、真面目に修行する者への歳費を大幅に減額すれば帝国の財政は改善する」
「ですが、それでは、帝国はマリセアの精霊の御加護を失ってしまいます!」
「その通りだ!」
二本の指が欠けた左手を振り回してムバーリズッディーンが断言する。
「マリセアの教えが衰退すれば、国家は遠からず衰退するであろう。
それは明らかだ。
だが、彼らの方法でも帝国は一時的に持ち直すだろう。
せいぜい十年か二〇年だが、彼らはそれで百年持つと考えている」
「冷静に考えれば、そんな方法に未来が無い事は分かり切っています。
丁寧に教え諭していけば彼らも理解するのでは有りませんか?」
新たな男が声を上げる。
「我らの改革が進展すれば、在地領主たちは権限を大きく制限され、利権も収入も減る。
基本的に欲が深く、マリセアの正しき教えから遠い者を改心させるのは極めて困難だ。
更に、こちらにも弱みがある。
マリセアの正しき教えの徒を名乗りながら、修行もろくにせず、功徳も積もうとしない堕落した僧侶がカゲシン内部にも存在する」
「それは、確かにそうですが、・・・」
「彼らは堕落した僧侶の存在を盾に、僧侶全体の数を減らそうと画策しているのだ」
「敵に付け入る隙を与えないためには、カゲシン内部の改革が必要ということですね!」
「全く、その通りだ」
ムバーリズッディーンの言葉に細面の男が叫び、ピールハンマドが再度立ち上がる。
「まずは、一定以上の修行と功徳を積んだ方を次のマリセア宗主に推戴する。
続いて、現在の簡易化された僧侶位階制度の厳格化を行い、僧侶の規律を改善し、その質を向上させる。
その上で地域領主から過剰な僧侶位階を剥奪し、マリセアの正しき教えの指導をカゲシン本山に一本化する。
それにより、カゲシンの財政は健全化し、帝国の再建は成し遂げられるのだ!」
ピールハンマドの言葉に再び皆が拍手する。
だが、ここで、オレの横の男が意を決したように手を挙げた。
「ピールハンマド様、カゲシンの財政問題は、単にカゲシンや諸侯の歳入の問題だけではなくて、帝国全体の生産性の低下が根本的な問題と考えるのですが、・・・」
「ザイヌルよ、其方の言う、セイサンセーとやらを改善するためにもまず、我らの改革が必要、そうではないか?
改革が成就すれば其方の懸念するところにも手が届くであろう。
まずは、改革に手を貸すのだ」
ピールハンマドは自信たっぷりに断言する。
「ですが、・・・」
男、ハトンのメモによれば、算用所のザイヌル・アービディーンは、それでも少し、モゴモゴとしていたが、ここで押しても益は無いと悟ったのだろう。
軽く頷いて着席した。
「さて、長期計画はそれとして、短期的な話もしておこう」
ムバーリズッディーンが再び話を主導する。
「明日、カゲシン本山の広間において、ピールハンマドの千日行達成祝賀会が開催される。
カゲシン内外から多数の有力者が参加の予定だ。
宗主猊下は健康の点から出席を控えられるが、二人の公子は本人が出席される。
帝国七諸侯は、シュマリナ太守を含めて本人か継嗣が出席の予定だ」
確か、公爵家が三個、侯爵家が四個で帝国七諸侯だ。
現在はシュマリナ侯爵家が取り潰し状態で宗主の弟が太守になっているが、数年後に正式に侯爵就任の予定と聞いている。
「その席で、ピールハンマドのアーガー家家督相続、続いて位階を大僧都に進めることを発表。
更に帝国宰相補佐官就任を公示する。
ここまでは、まず問題なく進む物と考えている」
千日行達成の結果として大僧都ってことかな。
オレも百日行達成の結果として権僧都になっている。
僧都が子爵相当らしいから、そのちょっと下、名誉子爵とかだろうか。
「それから、結婚式。
ピールハンマドと内公女殿下の婚姻だが、これは出来ればスラウフ族の儀式、九月一日以前に行いたい。
極めて厳しい日程になるが、既に各方面に根回ししている。
ピールハンマドが宗主の婿になれば儀式での立ち位置もより上位にできる」
オレは初耳だが、メンバーの多くに通達されていたようで、皆、手元の日程表を見ながら頷いている。
だが、ここで、異論があった。
「ムバーリズッディーン殿、その、某の相手は、あの方で決まりでしょうか?」
何と、ピールハンマド本人である。
「気持ちは分からぬでもないが、宗主の婿というのは一種の資格だ。
割り切ることも必要であろう」
「ですが、私はマリセアの正しき教えの徒として、第一正夫人とは真摯に向き合い、尊敬しあえる関係になりたいと考えております。
しかし、ガートゥメン殿とはそのような関係になれるとは思えません」
会議室に、何とも言えない空気が流れる。
「ガートゥメン殿は宗主第一正夫人本人の娘だ。
其方も知っているように、ここ十年以上、宗主猊下に子は産まれておらぬ。
既存の内公女で、未婚の者はわずかだ。
まして、正夫人の実子はそうだ」
ムバーリズッディーンは、聞き分けの悪い子供に諭すように話す。
「確かに素行に問題は有るが、美人で見栄えは良い。
行事で横に立たせておくには充分であろう。
其方の懸念は分かるが、彼女のお気に入りはゲインフルールに追いやった。
二度とカゲシンに戻ることはあるまい」
ゲインフルールは帝国の西部でセンフルールに近い地域だ。
愛人がいたが、遠くに追放したから大丈夫だよって話かね。
「お気に入りとやらの問題では有りません。
彼女は、あの、バフシュ・アフルーズとかいう札付きと共にブンガブンガという如何わしい集まりの常連だというでは有りませんか!」
気のせいかな、最近、オレの周りに『あの』という形容詞で語られる人間が増えたような、・・・。
「避妊薬を常用し、母乳を出るようにして、『赤ちゃんプレイ』がお気に入りとか。
聞かされた身としては絶望的な気分になります」
カナンの医学レベルは、中世的なものと、『最終皇帝』が導入した妙に近代的なものとが混在している。
最終皇帝系の医薬品は大半の製作技術が失われているが、一部残っている物もある。
その一つが避妊用のホルモン剤、いわゆる『ピル』だ。
で、このピルが変に改造されたのが『母乳避妊薬』と言われるもので、避妊効果に母乳量促進効果を併せ持つ。
こちらの医学書で初めて見た時は、唖然としたが、かなり需要はあるらしい。
薬としては製作が困難な部類で、かなり高価なのだが、バフシュ・アフルーズが得意にしていた。
儲けがでかいと豪語していたが、・・・そうか、内公女を顧客にしていた訳か。
「経験人数が一〇〇人を超えた記念にブンガブンガを主催し、経験人数を一気に倍にしたとも聞きました。
彼女と結婚したら、私は自宅でブンガブンガが開催されるのを許容せねばならぬのでしょうか?」
確か、宗主の第一正夫人が『赤ちゃんプレイ』担当だったはずだ、・・・どうでもいいな。
「ガートゥメン様も正式に結婚されれば、生活を改められるのではないかと」
「これから断るとなると、トエナ公爵の機嫌を損ねかねません」
エディゲ家の係累と思われる男たちが懸命に取り成す。
「第二正夫人に予定されているクテン侯爵第一正夫人の令嬢は身持ちもかたく、乙女だと聞いております。
二人のうち一人が乙女であれば十分ではないかと。
贅沢を言えば切りが有りませんし、・・・」
「その、クテン侯爵の娘、確かに本人は乙女だそうだが、内公女である母親が間違いを起こして作った子供だと聞いている。
つまり、父親はクテン侯爵ではないと!」
ジャニベグが言っていた、アレか。
「噂は噂として、クテン侯爵は娘を認知している。
つまり公式にクテン侯爵家第一正夫人の娘だ。
対外的には問題あるまい」
「しかし、魔力量が少ないからクテンゲカイ家内部では使い様が無く、出自の問題から他の貴族家からも忌避されていると聞きました」
ムバーリズッディーンの言葉にピールハンマドが目に涙を浮かべて反論する。
この人、良くも悪くも純粋なのだろう。
潔癖症だと辛いだろうな。
「内公女の大半は貞淑で慎ましやかな方と聞きます。
何故、例外中の例外が私の相手なのでしょうか?
クテンゲカイ侯爵家の娘にしてもそうです。
私は訳あり女の処分場では有りません!」
なんか、可哀そうになってきた。
ピールハンマドって考えてみればオレ以上に急速に出世した例だもんな。
セヴィンチやアフザルが言っていたように、良家の子女で見栄えが良くて素行に問題が無ければあっというまに相手は決まる。
オレ達のように例外で出世した男に娶わせられる女性は基本残ってはいない。
訳あり女とその周辺がこれ幸いと狙ってくるのも道理だろう。
しかし、一〇〇人越えか。
ジャニベグで五七人だから、まさに桁が違う。
自宅でブンガブンガ、考えたくないな。
気持ちは分かる。
オレ、ピールハンマドとはいい友達になれそうな気がする。
「其方の気持ちは分かった。
だが、有力諸侯の娘は探せば何とかなるかもしれぬが、内公女、特に正夫人の娘は残っていない。
第一正夫人が内公女でないのは、帝国宰相として問題だ。
どうするつもりだ?」
「もう一人、正夫人の内公女が残っておられるではありませんか。
ネディーアール殿下です」
会議室がざわめく。
何故、ざわめく?
・・・今一つ意味が分からん。
「あの方か」
ムバーリズッディーンも顔を顰める。
「彼女は正夫人の娘ではあるが、母親はクロスハウゼンだ。
有力諸侯ではない。
帝国内での発言権は低い。
そもそも、其方と彼女では魔力量が違い過ぎる。
子は望めぬ」
確か、男性の魔力量が多くて女性の魔力量が少ない場合は、問題なく妊娠するけど、逆の場合は妊娠確率が極端に低下するんだよな。
「望めぬと断言はできない筈です。
過去には魔力量がかけ離れていた夫婦でも子を成した例はあると聞きます」
「極稀だから記録に残るのだ。
特にあの娘は極端に魔力が高い。
そして、其方は従魔導士にも届かぬ程度ではないか」
「ですが、彼女は『正緑』です!」
ピールハンマドが声を張り上げる。
「現在の宗家で唯一まともに修行された内公女です。
最も格の高い内公女と言って良いでしょう。
私は彼女との間で有ればお互いに尊敬しあえる関係になれると確信しています。
何故なら私と彼女は修行を通じて心が通い合っているからです!
マリセアの精霊を通じて結ばれているからです!」
あー、うん、いきなり精神科の領域に突っ込んできたな。
「確かに、百日行を突破されたのは偉業だ」
片目片足の補佐役は宥めるように話す。
「宗家一族の修行を忌避する風潮に風穴を開けた偉業は、私も大変喜ばしく思う。
だが、彼女の母親は軍人の娘だ。
他の六人の正夫人は彼女を正夫人として認めていない。
数合わせのおまけだ。
つまり、ネディーアール殿下は、正緑を取ったことを加味しても、政治的には第一正夫人の実子であるガートゥメン殿下より格下なのだ」
デュケルアール様って、数合わせだったのかね?
改めて思うが、オレってこの国の政治状況、貴族関係の知識が無さすぎだ。
今までは関係ない世界と考えていたが、・・・対策しないと拙いかもしれない。
「正緑を取った内公女が、何の修行もしていない内公女よりも格下というのは間違っています!」
「マリセアの正しき教えでは、その通りだ。
私も、将来的にはそうなるべきだと思う。
だが、現時点では違う。
ピールハンマドよ、現実を見るのだ」
若い千日行達成者が沈黙する。
「ネディーアール様は魔力量が極めて多い。
内公女に生まれていなければ優秀な軍人になったであろう。
その意味では、軍事系の貴族や諸侯に降嫁させ、優秀な魔導士を産んでもらうのが帝国にとって最善であろう。
実際、その方向で話は進んでいる」
ピールハンマドは頭を抱えていたが、やがて絞り出すように声を上げた。
「ムバーリズッディーン殿の言われる処は分かります。
ですが、私はどうしてもガートゥメン様と結婚する踏切りがつきません。
少しで良いのです。
時間を頂けないでしょうか」
義足の保護者は、首を振り、眉を顰め、ため息をついた。
「分かった。
元々、無理があるスケジュールだったのだ。
式はスラウフ族の儀式後に延期しよう。
ガートゥメン様については、色々とある方なのは承知している。
特に、素行の問題についてはトエナ公爵家に強く進言しておこう」
ピールハンマドが了承し、その後、事務的なスケジュールと役割分担についての打ち合わせが行われ、会議は終了した。
・・・・・・・・・・・と、思っていたら、何故か、終了後に捕まってしまった。
案内された先にはピールハンマドだけがいた。
従者すら連れていない。
「カンナギ、其方はネディーアール様と共に百日行を行っている。
お会いすることは可能だな?」
取りあえず頷く。
「内々にご意見を伺ってくれ。
私がお慕いしている事、結婚を願っている事をお話しするのだ。
しかる後、どのように婚姻に漕ぎつけるか相談したいと」
・・・間が、跳んでない?
「ピールハンマド様の求婚をお伝えして、内々にネディーアール様のご意向を伺うのですね?」
「いや、私がその気であることをお伝えすれば、ネディーアール様は必ず私との婚姻を希望される筈だ。
私達は修行を通して心が通じ合っているからな」
なに、この自信。
「もう一つ、ネディーアール様の弟、シャールフ殿下の件だ。
私は実を言えばシャールフ殿こそが次期宗主に相応しいと考えている」
正面から見ているが、どうやら真面目に言っているらしい。
「ムバーリズッディーン殿は、ああ言われていたが、私は次期宗主には諸侯の係累でない、諸侯とのしがらみがないシャールフ殿こそが最善であると信じる。
諸侯との関係が深ければ、諸侯の権益を削る改革などできぬ相談だ」
「シャールフ殿下は十三歳になったばかりと聞いておりますが」
宗主の健康状況からすれば、非現実的だ。
「十四歳になれば成人も可能だろう。私が補佐するから問題ない」
傀儡にしますって宣言だろうか?
「勿論、他の公子に差をつける必要がある。
十四歳に成ったら直ちに成人して、直ぐに百日行に入る必要が有るだろう。
その辺りの相談を早急に行う必要が有る。
そのためにもネディーアール様とは可能な限り早くお会いする必要が有るだろう」
ネディーアール様が受けないと言ったら発狂しそうだな。
「ネディーアール様は学業も優秀で聡明な方と聞く。
修行にも熱心で見目麗しい姫こそ、私の第一正夫人に相応しい。
夫婦二人で、シャールフ殿下を補佐し、帝国を再建していくのだ。
考えるだけでワクワクする話であろう」
ピールハンマドは、明日の祝賀会の後にと言っていたが、姫は既にバフラヴィーと共にカゲシンから出ている頃合いだ。
だが、今ここで無理と言ってもこの男は納得しないだろう。
オレは曖昧に頷いて部屋を後にした。
明日改めて、ネディーアール様に会えなかったと謝ることになるのだろう。
オレ、ピールハンマドとは友達になれないな。
オレは百日行を達成してしまった事を心底後悔しながら、露出狂が待ち構える家に向かった。
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