04-04 過去を振り返り未来につなぐ

 結論から言えば、クロスハウゼン師団の出陣は中止となった。

『師団長急病』のため、である。

 師団長を変更して出陣と予想したのだが、師団その物の出陣が中止になってしまった。

 吃驚だ。

 それでいいのかと思ったら、ベーグム師団が代わりに出るのだという。

 代わりの師団ってなんなんだ?

 つーか、そんなもんが直ぐに出られるはずが無いと思っていたら翌日には出陣してしまった。

 また、吃驚だ。


 オレの軍事知識というか常識をひっくり返す話なので各方面に詳しく聞いたところ、色々と裏事情が分かった。

 紛争出兵だが、元はベーグム師団が出る予定だったらしい。

 紛争地域がベーグム師団の『担当地域』だからだという。

 ところが、紛争当事者、それも双方からベーグム師団長は公平性に問題があるとの訴えがあり、クロスハウゼン師団が派遣されることになったのだそうだ。

 外されたベーグム師団長は不満タラタラ。

 で、今回の『急病』にこれ幸いと名乗り出たという。

 何でも、隙あらば出兵しようと用意万端で待ち構えていたらしい。

 随分と物騒な話だ。

 しかし、双方から公平性に問題があるって、・・・まあ、何となく予想は付くけどね。




 そんなんで、暇になった。

 せっかくなので家でゴロゴロすることにした。

 最近、働き過ぎだったからね。


 この世界、カナンに来て約九カ月が経過した。

 結構、色々とあったと思う。

 偶然からナディア姫を助け、無限監獄だかでシノとシマを助け、カゲシンの学問所に入って施薬院で医師資格を獲得した。

 そう悪くないように思う。

 当座の目標とした『この世界における正式な医師資格の獲得』を一年たたずに達成できたのは大きいだろう。


 根本的な話として言えば、地球に戻るのは諦めた。

 戻る手段が全く無い。

 手がかりすら無いし、そもそも戻ってどうなるという話もある。

 今のオレは明らかに地球時代とは異なっている。

 地球に戻ったら戸籍の無い不法滞在者だよな。

 多分、実験動物だ。

 ネットと密林とコンビニ弁当の生活に未練が無いわけでは無いが。

 手がかりゼロで拘るのも何だし、戻る手段が見つかれば改めてその時に考えるで良いだろう。




 そーゆーことで、このカナンで生きて行くことになるわけだが、これはなかなかに難しい。

 オレは基本的に社交が好きではない。

 人づきあいが下手というわけでは無い。

 会合とかでの評判は悪くなかったと思う。

 だが、好きではない。

 すっごく気を使って疲れるからだ。

 であるからして、長期休みとかでは一人で旅に出てしまうことが多かった。

 ところがだ。

 カナンでは一人で生きて行くのは無理だ。

 文明の発達度合いが低すぎる。

 コンビニどころかスーパーも無い。

 一人暮らしが不可能というわけではないが、現実問題として、掃除や洗濯などは人を雇った方が楽だ。

 つーか、人を雇用していないのは問題なのだ。

 従者ゼロの男性、イコール変人・変態扱いである。


 オレはこのカナンで生きていくしかない。

 生きていくとしたら、それなりに良い生活がしたい。

 特別豪華な生活は望まないが、それなりの生活はしたい、・・・地球の先進国基準で。

 問題は、地球の先進国基準の平凡は、こちらでは極めて贅沢な生活になってしまうことだろう。

 でもさ、隙間風と雨漏りがルーチンで埃だらけの部屋というのは、つらい。

 のみとシラミとダニだらけの麦わらベッドもきつい。

 ガチガチの黒パンと塩味だけのスープという食事もイヤだ。

 そんなことで、俺が許容できる『必要最低限の文化的生活』とやらは、ここらでは貴族、それも王侯に近いレベルになる。

 引き籠って王侯貴族の生活というのは事実上不可能だから、ストレス無く一定水準以上の生活レベルを維持するには、ある程度は出世して社会的地位を築くしか無い。


 そーゆーこともあって、正式な医師資格、それも一流とされる資格を獲得したわけである。

 オレが獲得した施薬院金色徽章は、結構レアだ。

 これがあれば帝国内の諸侯にはそれなりの待遇で召し抱えてもらえるだろう。

 バフシュ・アフルーズは何年かしたらどこかの土地持ち貴族のお抱えになろうと決めているらしい。

 その方が、面倒が少ないからという。

 施薬院金色徽章を持っていれば帝国内での就職には苦労しないらしい。

 何と言うか、喰いっぱぐれのない資格である。




 従者というか女性問題では、ハトンという婚約者とワリーとシャーリという高級使用人を獲得している。

 先日、改めて確認したが三人は将来的にオレがカゲシン以外に移住しても付いてきてくれると言ってくれた。

 彼女たちがいれば最低限の格好は付くだろう。

 この三人は大事にしなくちゃいけないな。

 ワリーとシャーリに関しては、『維持』も比較的楽になってきた。

 二人とも『性感マッサージ』だけで満足するようになってきたのである。

 つまり、挿れなくても良い。

 これは気が楽だ。

 ハトンは、・・・おしゃぶりとゴックンが大好きという問題は有るが、・・・何と言うか技術が向上してきたのか、毎朝、スムーズに終わるようになってきた。

 毎朝、おしゃぶりで起こされる生活、・・・うらやましい?

 現実には罪悪感の方が大きいです。

 まあ、でも、現時点において、当初目標の第一段階はクリアーした感じだろうか。


 え、タージョッ?

 未だに大変です。

 四日に一度、挿れなきゃならない。

 そんで、極わずかに出さないといけない。

 でないと、怒られるが、出し過ぎると多分、廃人。

 性的に廃人とかエロいのじゃなくて、寝たきり全介護になるだろう。

 毎回、ギリギリの精神集中が求められる。

 はっきり言わなくても地獄です。

 最近は自分に修行と言い聞かせて臨んでいる。

 なんとか、逃れたいんだが、・・・社会的政治的しがらみが強い。

 タージョッは友人として付き合う分にはいい子だと思うんだが、・・・余計つらい。

 でも何とか穏便に解消に持っていくしかないだろう。

 でないと、オレ、何時か爆発するというか、事故りそうだ。


 しかし、タージョッと『解消』するのは良いが、そうなると、次の婚約者、結婚相手を選定しなければならない。

 多分、十二歳のハトンだけでは周囲の納得が得られない。

 であるが、・・・厳しい。

 元からの話として、こちらの女性の大半はオレから見れば女に見えない。

 カナンでは、女性の絶対数が多いが、多い女性の大半は、言ってみれば『働きアリ』なのだ。

 日常の労働の大半を女性がする世界だから、平均的に男性よりも女性の筋肉量が多い。

 軍隊系は男性でも結構鍛えているが、カゲシンの主流の宗教貴族系だと男性は筋肉に乏しいのが普通。

 多分、女性が肉体労働の大半を担うから、そのように進化、というか選別されたのだと思う。

 それでも、上級貴族では、女性らしい女性もそれなりにいる。

 平民だとほぼ全くいない。

 高級娼婦とか、ハトンの実家のような一部の裕福な商人とか、多少の例外はある。

 だが、大半はオレから見れば男性生殖器が付いていないだけの存在である。

 以前、クロイトノット夫人がオレに女性を紹介してくれたことがあった。

 当時は、戦士とボディビルダーとすもうレスラーをわざわざ集めたとしか思えなかったのだが、今から思えば、平民としては結構マシな者を集めてくれたのだと分かる。

 天然痘の後遺症であばただらけとか、外傷や火傷の痕が残っているとか、疥癬など皮膚病患者とかはいなかったのだ。

 体重が軽い平民女性もいないわけではないが、そのような者は単純に栄養状態が悪いだけで、女性らしいわけではない。

 思えば、赤毛夫人には悪いことをしたものだ。

 まあ、でも、今から紹介されてもやっぱり断るとは思うが。

 そんなことで、タージョッの後釜は上級貴族の女性を狙わねばならないのだが、・・・タージョッで判明した魔力量という問題がある。

 タージョッはこちらの基準では従魔導士程度の魔力量だ。

 従魔導士は正魔導士の半分ぐらいの魔力量とされる。

 だが、タージョッの倍程度で、オレのを受け止められるのだろうか?

 試していないから良くは分からないが、正直微妙な気がする。

 正魔導士の一段階上の上級魔導士になると正魔導士の更に倍の魔力量となるから、それぐらいが『安全』ではなかろうか。

 問題は、正魔導士で千人に一人、上級魔導士は更にその十分の一という人口比率。

 更に更に、魔力量だけ良くても、『石垣』は除外する必要があるわけで、・・・厳しすぎる。




 まあ、タージョッとその代替のことは考えても結論なんて出ないから、置いといて、・・・それで、今後どうするか、である。

 これまでの流れから行けば、このままカゲシンでの生活を続けるということになるが、・・・この国、大丈夫かね?

 統治制度にガタが来ている気配もあるが、最大の問題はトップの健康問題、そして、継嗣が決まっていない事。

 マリセア教導国宗主マリセア・シャーラーン猊下、正式名称はクソ長いので省略、は現時点で三八歳と聞くが、健康は芳しくないらしい。

 息子は三人。

 長男は第四正夫人の息子、次男は第五正夫人の息子、三男は第七正夫人の息子。

 第一から第三までの正夫人に男子がいない。

 上二人は成人しているが、まだ二〇歳未満で、三男は成人すらしていない。

 ちなみに三男はネディーアール様の同母弟になる。

 お家騒動の臭いがプンプンだ。

 外野からすれば、とっとと跡継ぎを決めて欲しいが、まあ、難しいんだろうね。

 過去の例では、新宗主就任後に反対派の追放とか処刑とかあったらしい。

 頭の痛い話である。

 バフシュ・アフルーズが各地の貴族と交友しているのは避難場所確保という面があるのだそうだ。

 聞けばシャイフ主席医療魔導士殿も、それなりの伝手は確保しているという。

 やっぱ、逃げるべき?


 しかし、逃げると言ってもね-。

 現在の『帝国』はカゲシンが主導する連邦国家みたいな感じと理解している。

 諸侯で独自の税制や法律が有るので、小さな独立国の集まりともいえるだろう。

 神聖ローマ帝国、よりはまとまりが有るのかな?

 そのどこかに伝手が有ればいいのだが、現在の所は皆無だ。

 そもそも、各地の諸侯はどの程度の文明度なのだろう?

 この辺りは実際に見てみないと何とも言えない。

 取りあえず現時点で伝手が有るのは、センフルールとフロンクハイト、どちらも月の民、吸血鬼の国だ。

 どちらに行っても、『転化』の話になる。

 特異体質のオレが転化できるのか、という問題もあるが、最大の問題は転化が一方通行なことだろう。

 人族から吸血鬼に転化はできるが、逆は不可能。

 そして、吸血鬼に転化したと宣言した時点でオレは帝国内にいられなくなる。

 男性吸血鬼は帝国内の都市には特別な許可が無ければ入れない。

 吸血鬼の国がダメだったから、やっぱ帝国に、というのは無理なのだ。

 そして、オレが習得した医療技術は人族用で、体組織が全く違う吸血鬼には役に立たない。

 仮にリタやウィルヘルミナと結婚して、あちらに行ったら、女のヒモだろう。

 そんで、彼女らに愛想をつかされたら、詰む。

 オレ、女に愛想をつかされる事では、ベテランだから、・・・何故か、年末に破綻するんだよなぁ。

 学生の時からそうだ。

 あー、うん、ハトンは大事にして愛想をつかされないようにしよう。

 まー、そんなんで、月の民の国に、行くのはリスキーだ。

 センフルールもフロンクハイトも国情が悪そうって話も有る。




 短期的に改善したいのが、食事だ。

 正直、カゲシンの、というかカナン全体のメシが不味過ぎる。

 青髪毒舌娘フキが「味覚が欠如している」とまで言っていたが、あながち否定できない。

 こちらの高級料理、王侯貴族では、まず『量』が重視される。

 できるだけ上等な肉、味ではなくて格という意味で上等な物を可能な限り多く出す。

 宗主とか太守とか公爵とか言われる人々の食事は、一人三〇キロぐらいの肉が用意され、十キロ以上食べてしまうのだそうだ。

 贅沢、というか豊かさを示す指標が食事の量だけ。

 トップはとにかくたくさん食べて、貫禄のある体型を維持しなければならない。

 トップの体格が貧相では国や領地が貧しいという評価になってしまう。

 地球でもイギリスのヘンリー八世とかフランスのルイ十四世とか体重は一四〇キロを超えていたというし、その食事は冗談みたいな量だったという。

 一九世紀フランスの料理研究家は、「昨今の美食家は小食でルイ十四世の八分の一も食べない」と評したと伝わる。

 料理の質というか、手間暇のかかった料理で財力を誇示すべき、というのはダメらしい。

 料理人の知識と教養が低く人件費の安い世界である。

 食事の値段は大半が材料費。

 センフルール系の手の込んだ料理は、「肉を用意する金が無いから小手先でごまかしている」という評価。

 基準が根本から違うのだ。

 どんなに味の良い食事でも、量が少なければ客は不満。

 逆に言えば量が有ればそれで満足。

 そんなんだから、カゲシンで腕の立つ料理人というのは、オレの基準では、そもそも存在しない。


 だが、自分でというのもハードルが高い。

 地球時代に真鯛を一匹貰ったことが有る。

 思い立って、自力で調理しようと出刃包丁に刺身包丁とか買ったのだが、・・・おろすだけで三時間かかった。

 刺身とか、もう、それは無残な事に、・・・松皮造りとかやろうと考えたのがそもそも間違いだったと思う。

 動物の解体ってーのは結構な手間だ。

 そして、こちらでは肉は一頭買いが基本だ。

 切り身の肉、まして、しゃぶしゃぶ用の薄切り肉パックなんて存在しない。

 庶民は数家族で豚一頭とか買って、解体するという。

 ある程度以上の貴族では一家で一頭買って料理人が解体する。

 数人がかりで半日はかかる仕事だ。

 魔法を使えばと思って一度チャレンジしたが、あんまし変わらない。

 それでも肉は牛一頭分を処理して亜空間ボックス内に貯蔵したから、まだ何とかなっている方だろう。

 調味料事情はもっときつい。

 一般的に使用されている調味料は、塩、香草各種、ニンニク、ショウガ、というところ。

 唐辛子はあるが流通量が少なく値段も高いので一般的ではない。

 コショウ、クローブ、シナモンなんかも同様だ。

 セリガー共和国の特産とされる味噌、醤油もカゲシトではかなり高価だ。

 そして、味噌はまだしも、醤油は質が悪い。

 フロンクハイトの特産とされるケチャップやマヨネーズも同様。

 基本となる油と酢、両方ともに精製度合いが低く癖が強い。

 癖の強い酢と油で作られたマヨネーズなんか喰えたもんじゃない。

 つーか、ワインでも実感しているが、基本の醸造技術が未熟なので、醤油も酢もダメなのだろう。

 異世界転生ものラノベでマヨネーズとかケチャップとか作って大儲けなんて話が有るが、少なくともここではそんなことは不可能だ。


 そんなこともあって、オレの食事は大きくセンフルール一族に依存している。

 センフルール屋敷で最も料理が上手な、色々とふわふわしているハナは、マヨネーズもケチャップも手作りしている。

 マヨネーズは油の精製から行い、酢はセンフルールから取り寄せているそうだ。

 オレはハナが作った物を高額で買い取っている。

 ついでにワリーとシャーリの料理指導も頼んでいる。

 二人の料理技術が上達すれば、オレも満足できる食事がとれる、・・・と期待したい。




 中期的な話としては、旅がしたいと考えている。

 異世界漫遊、というのも否定はしないが、根本的な理由は、最終的なオレの落ち着き先の選定だ。

 やはり現地に行って確かめるのが基本だろう。

 問題は、この世界で旅行が難しい事。

 お伊勢参りみたいな風習でもあればいいのだが、あまり聞かない。

 観光旅行という概念は、ほぼ無い。

 留学はあるが、カゲシンは留学先であって、ここからどこに留学って話だ。

 まともに旅を考えるのなら商人のキャラバンに帯同するぐらいか。

 軍隊遠征もあるが、真面な現地視察にはならないだろう。

 あとは、外交使節団というのがある。

 カゲシンの外交使節正使に任命されるのはほぼ不可能だと思うが、それの随員であれば可能なような気もする。

 医師資格もあるからね。

 センフルールやフロンクハイトに向かう使節団とか無いのだろうか?

 今度、ちょっとそれらしい人に聞いてみよう。




 オレというか、カンナギ家としてはハトンが施薬院に入ったという話が有る。

 施薬院入講で銀色徽章が当たるからオレの助手としては十分なのだが、金色を取らせてやりたい気もしている。

 仮の話だが、オレがセンフルールとかに行くことになったら、ハトンの『転化』の話も出てくるだろう。

 それで、ハトンがカゲシンに残るとした場合、彼女の今後の問題がある。

 そうなった場合、ハトンが施薬院の金色徽章を獲得していれば、嫁の貰い手には苦労しないと思うのだ。

 カゲシンは男系社会で施薬院もそうなのだが、実質は女性が仕切っている家も結構ある。

 シャイフやバフシュは本人が医師として自立しているが、あのヒンダル家のように医療貴族でも当主が能力不足と言う家も多い。

 つーか、過半がそれかもしれない。

 そうであるから、現実の医療能力が要求される施薬院では、腕の良い女性医師は奪い合いの様相を呈している。

 金色徽章持ちの女性医師というのが希少価値で滅多にない事例なのだが、この場合は身分が下の女性でも結構いい所の第一正夫人になれるという。

 以前聞いたところでは、モローク・タージョッはそれを狙っているという話だった。

 ハトンは頑張る子なのでオレが教えれば一年ぐらいで金色が取れるのではないかと思う。

 健康が問題と言う宗主様も一年ぐらいは大丈夫、だと思いたい。

 まだ四〇前だし。

 その一年の間に、色々な貴族と交流して情報を集める事にしよう。




 纏めると、これから一年ぐらいはハトンを教育しながら帝国各地と周辺国の情報収集。

 ハトンが施薬院金色徽章を取ったら、本格的に落ち着き先の選定に入る。

 外交団に参加するとか、商人のキャラバンに帯同して現地に赴いて実地で検討だろう。

 正式な嫁探しは落ち着き先を決めてからだな。

 センフルール勢はセンフルールに行かない場合は縁のない話になるし、ネディーアール様などのカゲシンの貴族系列は、カゲシンに定住するのが前提になる。

 ハトンは取りあえず確保しとくとして、他の嫁候補は、・・・夢のまた夢だよな。




 考えるに最大の注意点は、カゲシン宗家の後継者争いに巻き込まれない事だろう。

 ただ、これは巻き込まれたくなくても、うまくは行かないかもしれない。

 現時点での帝国の最高権力者の選定だから、田舎でも帝国内であれば討伐対象地域になってしまう可能性がある。

 近隣の外国でも同様だ。

 この辺りは運としか言いようがない。

 積極的な対策としては、どこかの公子に取り入って対抗馬を潰すという手がある。

 現在のオレの能力をフルに発揮すればあながち不可能でもない気がするのはなんだろう?

 ただ、とても大変そうだから、希望としてはやりたくはない。

 相当に血なまぐさいというか、かなり悪辣で残酷な事もする必要が有りそうなのもマイナス要因だ。

 更に、それに勝ち抜いたら大物になってしまう。

 マリセア教導国宗主の腹心として国家運営とか、全然したくない。

 滅茶苦茶忙しそうだし、ストレス多そうで魂が摩耗しそうだし、政略結婚ばかりで変な嫁をたくさん押し付けられそうだし、そもそもオレってマリセア正教なんて全く信仰していないから、この国の延命処置に真摯に取り組む気が無い。

 消極的な対策としては、『出世しない』というのがある。

 ある程度の立場であれば、闘争において中立を表明するのは悪手だが、逆に弱小であれば無視される。

 オレの現在のカゲシンでの位階は『少僧都』だ。

 先日、施薬院講師になった時点で任命された。

 諸侯なら男爵に相当する位階だが、領地も領民もいないので国から多少の年金が入るだけの地位に過ぎない。

 一応、世襲できる最低の位だから貴族の中には入るが。

 これ以上、出世しない方がいい、のかな?

 そうなると、もう目立たない方が良いだろう。

 家の中の事は兎も角、出先では静かにしよう。

 こちらの標準とか平均とかが良く分からんが、何事も控えめにしといた方が良さそうだ。

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