03-07 一月十二日 勉強と薬術便覧
この屋敷に引っ越して、そろそろ半月。
それなりに生活パターンが決まってきた。
以前は夜遅く、ぎりぎりまで学問所で過ごしていたのだが、最近は講義と仕事が終わったら速やかに帰宅している。
いやぁ、明かりがついた自宅に帰れるっていいことですね。
地球時代にもあんましなかったから、うれしいです。
自宅で食事して、夜は、勉強会だ。
いや、ろくに娯楽が無い世界だから、ね。
気を抜くと、直ぐに、エロの世界が待っている。
はっきり言って、現状のエロは、タージョッにしろ、ワリーとシャーリにしろ、オレにとっては苦行でしかない。
それを防ぐためにも勉強会は必須なのだ。
我ながら、健全過ぎる。
しかし、セックスを恐れる日がやってくるとはね。
勉強会だが、基本メンバーはオレの他、ハトンとワリーとシャーリ、そしてサムル。
ハトンは施薬院に入るための勉強、ワリーとシャーリは学問所初級から中級への勉強である。
サムルはハトンの異母妹で、ハトンの従者として一緒に勉強しているのだが、通学を開始して早々に勉強場所を我が家に変更した。
環境が整っているためだ。
オレは学問所も施薬院も、ついでに自護院錬成所と算用所修養科も大半の教科書を買っている。
それを参考に出来るのが第一。
もう一つは照明だ。
当たり前だが、中世レベルの文明だから、夜間照明は、基本ランプか蝋燭。
魔法を使用した照明器具もあるのだが、あまり普及していない。
高価なうえに、使用にも少なくないマナが必要だからだ。
だが、オレは大量購入している。
地球文明と比較すると夜が暗すぎるんだよね。
オレ自身は暗くても平気で本が読めるのだが、暗い部屋はなんか悲しい。
薄暗くなるとエロの雰囲気も上がるし、・・・だから、大変なんだって!
そんなことで我が家では部屋ごとに最低一個の魔法照明器具が置いてある。
基本的には、スタンド方式だが、勉強部屋には十個ほどの卓上型も用意した。
タージョッによると公爵家、僧正家よりも照明が多いだろうとのこと。
そんな環境なので、タージョッもしばしばここで勉強しているし、タイジたちが来ることもしばしば。
特にタイジたちが来ると、エロ防止にもなるので有難い。
・・・繰り返すが、なんでオレ、エロを恐れることになってんだろう?
勿論、オレ自身も色々と勉強している。
基本的には、施薬院の講義の予習復習と履修証獲得のための試験対策だが、・・・実は、これ、そんなに時間はかからない。
正直、地球時代に比べるとかなり簡単なので、直ぐに終わってしまう。
そんなことで、現在取り組んでいるのが、薬術便覧、そのプロトタイプの作製である。
薬術便覧だが、元はオレが施薬院入講試験の薬術科の問題でキレかけたことが発端である。
一つの植物の、葉と茎と根と種でそれぞれ名前があり、更に別名も数種類、間違えさせるために名前を付けとんのか状態を強引に整理してやろうという魂胆である。
それで、シャイフの名前を借りて、整理本を作ることにしたのだ。
本を作って、それをシャイフと施薬院公認にしてしまえば、変な薬術名を覚えなくても良いし、オレの実績になるし、施薬院の仕事だからタージョッ以下の色仕掛けを防ぐことが出来るし、本が売れればそれなりの儲けが出る筈だし、ついでに世の医者のため、患者の為にもなるだろう。
オレにとっては一石二鳥三鳥の仕事なのだ。
それで、本を書いて出版なのである。
前に少し書いたが、この世界に活版印刷は無い。
だが、木版印刷はあり、発達している。
恐ろしい事に、この世界の木版印刷は下手な活版印刷よりも進んでいる。
魔法が有るからだ。
本を書く人間は、規格化された木の板に特殊インクで字や絵を描く。
これを印刷所に持っていくと、専任の魔導士が木版に仕上げてくれる。
インクで書いた側の反対側がそのまま木版になるのだ。
ちなみに、陰陽も選択できる。
表側のインクで書いた部分を黒くするか白くするか、選択できるわけである。
特殊インクは少々高いが、専用のケシゴムみたいな物もあるので、非常に使いやすい。
木版を『彫る』必要が無いから、失敗も無い。
インクで書いた板が魔法により数秒で木版の原版になる。
ちなみに、専用インクであれば紙に書いてそれを板に張り付けるのでもOKである。
しかし、これは便利過ぎる。
『トリセツ』には、魔法の存在が科学技術の発展を阻害しているとあったが、確かに下手な活版印刷ではこれに勝てない。
金属活字自体が作成にかなりの技術を要すると聞くし、金属活字が出来ても原稿を基に版を組まねばならない。
パソコン入力からのインクジェットだのオフセットだのには敵わないとは思うが、一足飛びにそんな技術は生まれないだろう。
いろいろと考える所はあるが、取りあえず現在のオレには大変に有り難い技術である。
『清書』の必要はあるんだけどね。
実は、オレ、地球時代は『象形文字』の使い手として知られていた。
看護師がオレの文字を形で覚えていたという話がある。
極力、電子カルテでの指示にしていたけど。
こちらに来て、文字はアルファベットになったから、かなりマシなのだが、・・・幸いハトンが、そしてサムルも字がきれいなので、清書は手伝ってもらっている。
まあ、施薬院の勉強にもなるから、・・・いいよね?
原版が出来れば、カゲシン学問所の出版は、学問所庶務課で引き受けているから、金さえ払えばすぐに印刷してくれる。
薬種商用の薬術便覧の書式は一枚ペラの印刷だが、このぐらいだと千枚単位でも数日で出来てしまう。
そういうことで、シャイフに許可を得て数日後、オレは出来上がった原版を庶務課に提出して注文を終えた。
後は黙っていても三日後には薬術便覧の書式原本セットが完成する。
食堂で水割りワインを片手にくつろぐオレ。
食事は従者のワリーが運んできてくれる。
従者が揃ったので自分で食事を運ぶ必要はない。
つーか、普通の男子学生は自分で食事を運ぶことはしない、やっちゃいけない。
オレ、滅茶苦茶変わり者だったのですよ。
だが、それも、過去の話だ。
今は対外的にもまともになった、・・・夜の安寧を犠牲にしてだが。
本当に、何とかならんかな、夜。
タージョッたちの相手は色々と辛すぎる。
特に、射精を義務付けられているが、最低限の量にしなければならない、というのが厳しい。
相手と一対一であれば、出さなくてもごまかせると思うが、毎回、何人も見学者がいるから、どーにもならない。
昨夜はタージョッの意識をほぼ飛ばしてから出した。
その方が彼女の受け入れ許容量が高まる、つまり、オレが楽になる、・・・多少だが。
ちなみに、ハトンのご奉仕は朝に定着した。
毎朝、ハトンがオレのをしゃぶって起こしてくれるのだ、・・・どこのエロゲだろう?
オレが半覚醒状態で発射しているので、オレ自身の感覚としては楽、・・・タージョッたちに比べると百倍嬉しい、・・・正直、ちょっと気持ちいい感じすらある、・・・まあ、大したもんでもないが。
ハトンによると彼女が毎日飲んでいる量は、オレが四日に一度タージョッの中に出している量よりも多いだろうとの事。
ハトンの方が魔力許容量は多いのか、膣よりも口の方が許容量は多くなるのか。
こちらの医学書では、女性による男性のマナ吸収効率は、膣と子宮が一番で、肛門・直腸がそれにやや劣る程度、口で飲むのは最も効率が悪いとされている。
胃酸で精液のマナが変性するとかなんとか、・・・良くわからん。
タイジたちにタージョッまで合流して食事タイム。
ちなみに、ハトンとその異母妹サムルによると学問所の『青』の食事はとても『高級』だという。
その日に焼かれたパンを食べられるだけでも贅沢らしい。
まして、毎日、肉が当たるのは最高なのだとか。
季節は冬で、食堂で出てくる肉は塩気が極めて強い保存肉なのだが、それでもいいらしい。
聞けば、普通は当たってもハムやソーセージなどの加工肉だという。
スープも毎回肉が入っていて高級なんだとか。
・・・オレにとっては『餌』なんだけどね。
正直、これで満足されると、我が家の食生活は永遠に改善しないので、・・・だが、これを最高と考えている人間にこれ以上を求めるのも、・・・難しい話である。
食堂では、聴力を強化して周囲の噂を拾うことも多い。
ここ最近は、・・・使者としてやってきた月の民の話が多い。
特に、八割以上がフロンクハイトについてだ。
男性からは熱烈な支持が、女性からは嫉妬と憤懣が。
まあ、目立つからなぁ。
男子学生では、彼女たちをパーティーに呼ぼうと手を尽くしている者が少なくない。
・・・月の民との交流は制限されてるんじゃなかったかね?
そんなことしていたら、何故か、シャイフ教室から、正確に言えばバフシュ・アフルーズからの使いがやってきた。
ちなみに、学問所で人を探すとなると昼時に食堂に行くのが鉄板である。
それで、シャイフ教室に行ったら、たいそう揉めていた。
一月十四から十五日にかけて自護院練成所の遠征実習がある。
遠征実習と銘打ってはいるが、一泊二日。
場所はカゲシト郊外の自護院演習場。
学校のグラウンドでテントを張る感じのお手軽遠征である。
この短期お手軽実習は、年に何回も、毎月のように行われている。
自護院練成所では遠征実習に参加しなければ卒業単位が貰えない。
それで、貴族の子弟がつらい行軍とかやらずに規定をクリアする方策として作られたのがこれだという。
これに十回出れば規定クリア、ということらしい。
真冬にテントで寝るというのは、それなりに大変ではある。
地球の先進国みたいな防寒性の高いテントなんて無いからね。
でもトイレは演習場に併設されたものを使用するし、食事は学問所食堂で作られたものを運ぶだけ。
なんだかね。
しかし、自護院の実習ではあるので、戦闘訓練があり、施薬院も駆り出される。
ただ、今回はシャイフ教室の担当ではないので、オレたちも関係ない、・・・ハズだった。
三日前までは。
「急遽だが、今回の練成所遠征実習はうちの教室で担当することになった」
この日の朝、シャイフ教室にやってきたバフシュ・アフルーズ講師は唐突にこう宣言し、そして、当然ながら大問題となった。
実習のわずかに二日前である。
自護院練成所の実習は可能な限り実戦に近くということで、毎回怪我人が続出する。
施薬院のフォローは必須であり、施薬院学生にとっては実技習得の場として有用でもある。
しかし、監督として駆り出される施薬院講師からは極めて不評だ。
僻地、野外での寝泊まりを強制される春秋の大型実習は勿論、今回のようなカゲシト郊外の実習も好評とは言えない。
毎回、『施薬院上級講師』が最低一名は動員されるのだが、自護院実習での手術料金は極めて安い。
貴族を相手にする場合の十分の一以下という。
まあ、国家のため、国防のため、施薬院より自護院の権力が上のため、だから致し方ない。
この世界の手術は魔法が主体であり、施薬院講師は平均的に魔力量が多くない。
自護院実習に付き合うと上級講師でも疲労困憊になるという。
であるから、忌避される。
そもそも、先月の実習はシャイフ教室担当だった。
「頼まれちまったもんは仕方ないだろう」
バフシュは言い張ったが、他の講師から反論される。
「今回の実習、フロンクハイトが見学に来るそうだな?」
事の発端はセリガーの使節が自護院練成所実習の見学を希望したことから、という。
検討の結果、公平を期して、セリガーだけでなくフロンクハイトやセンフルール勢も呼ぶことになったという。
実習内容も変更された。
実習は二か所の演習場で行われる。
第一演習場では、急遽卒業間近の上級生を集めて、月の民に見せるための実習が行われる。
本来の学生実習は上記とは別に第二演習場で行われることになった。
フロンクハイト勢の前で良いかっこしたいバフシュが本来の担当講師と掛け合って代わってもらった、というのが実情らしい。
勝手に受けてくるなよ、おっさん。
ここで、問題なのは実習が二か所で行われること。
第一と第二演習場はカゲシンをはさんで反対側、直線距離で一〇キロ弱。
医療チームは二つ必要となる。
第一演習場の方はバフシュが担当するから良いとして、もう一つの方が、・・・立候補する講師はゼロ。
「元の教室が急用で人手が足りず、最大手のシャイフ教室に泣きついてきた。
やむなく引き受けた。みんな、協力しろ」
バフシュはこんな話で乗り切ろうとしていた、・・・らしい。
だが、誰も協力するとは言わない。
シャイフは元の教室に頭を下げろと断言した。
しかし、ばれないと思ってたのかね?
それで、オレたちが呼ばれた。
よーするに泣きつかれたのだ。
「頼む、キョウスケ、第二の方、なんとかしてくれ!」
だが、オレは拒絶した。
実を言えば、この実習、タイジと二人で出ることになっている。
自護院の講義をさぼりがちなオレとタイジにとってポイントが高い実習は拘束時間のわりにお得なのだ。
だが、バフシュは引き下がらない。
「大丈夫だ。
中隊規模なんだから怪我人なんてそう多くない。
戦闘が終わってからで十分だ」
「そもそも、私は正式な講師じゃないですよ。
まだ銀色なんですから」
「別に金色でなくても講師の奴はいる。
お前、内公女様に講義してるじゃねーか」
結果として引き受けることにした。
バフシュに恩を売れる他にもメリットがあったからである。
誰もやりたくないので、シャイフも他の講師達もオレが担当することに異議を示さなかったのだ。
オレ、最下級だが講師になっちゃいました。
で、・・・。
「良かった、本当にお前がいて、良かった。
フロンクハイトとヤれそうだったら回してやるからな」
どーして、オレの周りには空気を読まずに大声を出すヤツが多いんだろう?
頼むから、あんたの同類と認定しないで欲しい。
周りも、・・・誰も疑問に思っていない所が悲しい。
ダメだ、・・・早くなんとかしないと。
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