03-08 一月十四日 自護院実習

 予定外はあったが、一月十四日は朝から軍服で出動である。

 お供を引き連れて実習の演習場に行った。

 行ったら、何故かまた呼びつけられた。


「自分たちが、魔導小隊の指揮を執るということですか?」


 オレが魔導小隊長でタイジが副隊長だという。


「小隊長の予定だった奴が第一演習場の方に行っちまったんだ。

 残りの中で上級魔導士候補はお前らしかいないからな」


 タイジと顔を見合わせる。


「本当に、自分らで良いんですか?」


「うん、そう、言われてたんだが、実際にお前を見て俺もちょっと不安になった。

 そっちはいいとして、お前、本当にそんなに魔力が有るのか?

 隊長と副長を入れ替えるか?」


 教官がオレを見て訝し気な顔になる。

 多分、オレに魔力を感じないのだろう。


「大丈夫です。

 キョウスケはボクよりずっと強いんです。

 ですから、キョウスケが隊長でお願いします」


 タイジが必死の形相で食い下がる。


「そうなのか?

 いや、俺もそんなにマナが見える方じゃないが。

 お前、前回の評価が異様に良いんだよな。

 まあ、どうせ訓練だ、気楽にやってくれ。

 ああ、数だけは二個小隊分いるから、よろしくな」


 随分と適当だと思ったら、お偉方はほとんど第一演習場に行っているらしい。


「いやあ、いきなり魔導小隊長って、ボクもびっくりだよ。

 でも小隊長ってことは個別魔法でいいんだよね。

 ボクも個別魔法で撃っていい?」


 タイジと逆にお気楽なのは、オレの従者をやっているリタ。

 メイド達を実習に参加させたいとシノさんに頼まれてこうなった。

 魔導士は二人の従者が認められている。

 今回はハトンとリタがオレの従者だ。


「撃たせてやるから、ちゃんとオレの命令に従っててくれよ」


「うん、分かってるよ、ご主人様」


 リタは開口部少なめの兜で顔を隠している。

 結構な美人でスタイルもいいから、目立たないように鎧も地味目にさせた。

 ちなみに、もう一人の従者であるハトンはガチガチ。

 タイジたちは既にマリモだ。


 リタによると、カゲシン演習場での実習は楽なので人気が有り、何時も定員オーバーになるという。

 中隊規模実習だから、原則は一般歩兵三個小隊、魔導一個小隊。

 だが、今回は一般歩兵小隊四個、魔導小隊は二個である。

 魔導小隊は一般歩兵と編成が大幅に異なる。

 ファイアーボールをある程度撃てる魔導士を核に、風魔法を使える魔導弓兵と抗魔力の強い盾持ち兵士の三人で一つの魔導班が作られる。

 この魔導班三個にかれらを誘導する兵士二名の十一名で魔導分隊。

 魔導分隊四個に小隊長、小隊副長の二個班を加えて魔導小隊となる。

 つまり、一個魔導小隊には原則十四名の魔導士が所属することになる。

 今回のリタのように魔導士の従者として魔導士が付く場合もあるからそれ以上になることもある。

 今回は隊長を欠く二個小隊分とオレたちなので、魔導士数は合計二七名。

 リタがいてくれてよかったのかな。




 取りあえず、魔導小隊を集合させてお話だ。

 問題は、オレの見た目が十五歳ってこと。

 タイジに至っては本当に十五歳だ。

 しかも二人とも筋肉質とは言い難く、まともな貴族でもない。

 迫力無い事、夥しい。

 指揮される学生は年上がたくさん。

 上級貴族もたくさん。

 軍の階級は代理坊尉ばっかりでオレたちの方が上なのだが、・・・聞いちゃいない。

 頭痛が痛い。

 不従順な部下を統率するってーのも実習なんだろうけど。

 ・・・開き直るしかないよね。

 自己紹介として、規定の倍ぐらいのファイアーボールを三連発してやったら、沈黙した。

 暴力賛成。

 軍隊って、こーゆーとこいいよね。

 何とか、集団練習に持ち込んだ。

 だが、弓はともかく、ファイアーボールの集団投擲は一回しか出来なかった。

 ここにいるのは新米、魔力の高い学生はいない。

 高いのは第一演習場だ。

 本番前にマナ切れにするわけにもいかない。

 これ、形になってんだろうか?

 疑問もいいとこだ。


 実習のメインである模擬戦は二日目。

 魔導小隊側が塹壕を掘って待ち構えているところに一般歩兵が突撃をかますという物だ。

 待ち構える方が大幅に優位だが、一般歩兵側が人数は多いし、魔導士側は統率が下手なので、いい勝負になるらしい。


「こっちも酷いが、救いは向こう側も指揮官予定者は第一の方に行ってるって事だろうな。

 あんまし優秀なのは残ってないだろう」


「そうかなぁ、アレ見てもそう思う?」


 リタが指し示した先を見たら、サッカー部の熱血イケメンキャプテンが爽やかな汗を流しながら奮闘していた。

 ネディーアール側近二号のミニ石垣だ。

 生物学的には女のはずだが、何度見てもそうは見えない。

 アレは、・・・異様に集中力が有って、魔力もあって、常識が有って、気配りもできて、意欲もあって、頭も悪くなかったような、・・・何か指揮官として超、優秀って気がしないでもない。


「ついでに、あっちも」


 むさ苦しい汗をかいた毛むくじゃらの柔道部主将がいました。


「彼は確か、牙族傭兵モーラン隊長の息子、マンドゥールン殿だよ。

 体術がずば抜けている上に頭もすごくいいんだ」


 タイジが絶望的な表情でつぶやく。


「なんで、そんなのがあそこにいるんだ?

 第一の方に行ってるべき人材だろ」


「そりゃ、二人とも成人してないからだよ。

 未成年は原則、実習禁止だから公式な所には出しづらいよね。

 本来なら二人とも小隊長なんてやらせてもらえない年齢だから、今回はとっても張り切ってるみたいだよ」


 変に事情通のリタがトクトクと情報を開示する。

 そうか、成人前か。

 二人ともゴリラだが。

 色々とゴリラだが。


「部下になる学生もお偉方の子弟とコネを作るチャンスだから張り切ってるってさ」


 権僧正兼都督補の娘と傭兵隊長の息子が指揮官、そりゃ、下も気合が入るよな。

 あちら側の訓練は至極順調なようで、兵士の掛け声は大きく、揃っている。


「かなう訳ないよ。

 大怪我する前にうまく降伏した方がいいと思う」


 タイジは真っ青だ。

 タイジの妻のスタイとナムジョンも、同じく青い。


「いや、ちょっと待てよ。

 いくら相手がエリートでガタイが大きくても、年下なんだぞ。

 あっさり負けたら、評価は最悪だ」


「そんなこと言ったってー、・・・モーラン殿と戦うなんて無理だよ」


「あのなー、タイジ。

 あーゆー、知能指数高い系のゴリラは、気力のない奴を最も嫌う。

 あっさり負けたら、一生、馬鹿にされて相手にされなくなるぞ。

 今後を考えると、少なくとも、ある程度善戦してから負けないとだめだ」


「そんなこと言ったって、善戦なんて、・・・。

 ところでキョウスケ、ゴリラって何?」


 おおう、つい、前世の知識が。


「ゴリラって南方の大陸に生息する猿に似た魔獣だよ」


 何故かリタが答える。


「ボクも実物は見たことないんだけど、大きいのは立ったら身長三メートルぐらいになるらしいよ。

 馬鹿みたいに力が強くて、筋肉モリモリで、抗魔力が凄くて、並みのファイアーボールなんかは跳ね返すって話だよ。

 言われてみれば、アレ、確かにゴリラだね」


 ツボに入ったのかケタケタ笑い出す十四歳のボクっ子。


「いや、上級貴族を魔獣扱いって、そんな、・・・」


「いいんだよ、それぐらいの気持ちでいかないとダメだって比喩だ」


「どこが、比喩なんだか、さっぱり、・・・」


 タイジはぐちゃぐちゃ言っているが、・・・うん、周りを見ればタイジが特別にダメって話でもない。

 こちらの兵士は、魔導士も含めて大半があちら側に呑まれている。

 仕方がないので、タイジを引き連れて壇に登り即席の演説を始めた。

 昔読んだなんかの小説の演説をパクッて、ぶちかます。

 困ったことに途中から曖昧というか、そもそも小説・・・マンガだったかな、・・・をよく覚えていなかったから、極めていい加減な内容になってしまった。

 仕方がないので、身振り手振りに顔芸で誤魔化す。

 多少、『威圧』とか『魅了』とか乗ってしまったかもしれないが、・・・バレなきゃいいよね?

 リタには口止めしとこう。

 結果は、悪くは無かったと思う。

 兵士たちの顔色が多少は良くなった感じだ。


 こうして、何とかかんとか部隊をまとめてその日は終わった。

 ちなみに、夜はテントで野営だが、テントの数は一個中隊分しかない。

 現実に参加しているのは六個小隊以上なので、三分の一は泊まれない計算になる。

 どーすんだろうと思っていたら、貴族の多くが豪華な個人テントを持ち込んでいた。

 キャンピングカーみたいな豪華さで、ベッドどころかソファーまで入っているのもある。

 こんなんで、遠征実習のポイントを認めていいのかね?


 ちなみに、夜のサバトについては普通にあった。

 オレのテントは妙にワクワクしているハトンと、何故か当たり前の顔で入って来たリタのおかげで大変だった。

「胸を生で揉ませるから、吸わせろ」という交換条件は断固として拒否したことを報告しておきたい。

 ・・・結局、一睡もできなかった。




 翌日は朝っぱらから演習だ。

 こちらの部隊は陣地、空堀と土塀を作って、その後ろに立てこもる。

 陣地は一直線。

 陣地の両端には線が引かれていて、両軍ともにそこから出たら失格になる。

 つまり、迂回機動は無しで、正面攻撃オンリーという演習である。

 オレは軍旗を背に陣取る。

 この軍旗を取られたら負け、一定時間守り通せば勝ちである。


 あちら側だが、大盾を構えた兵士がずらっと横隊を組んでいる。

 抗魔力の高い兵士が最前線に並んで、抗魔法処理された大盾を構えるのが、魔導士陣地に突撃かます場合の定跡らしい。

 つまり、横隊の後ろの方は抗魔力が弱い兵士が多いので、狙い目ではある。

 狙えれば、だが。

 で、横隊の前に指揮官二人。

 側近二号と牙族隊長の息子だ。

 二人ともフルプレートの高級そうな鎧に身を包んでいる。

 盾は扱いやすい小型。

 右手にはこれまた値段が張りそうな片手剣。

 戦列歩兵の前に出るとは、防御力によほど自信があるのだろう。

 二人とも先頭に立って突撃する構えだ。

 指揮官最前線というのは、無謀と言えば無謀だが、歴史的に見れば一概に悪い手でもないんだよなぁ。

 意外と生存率高いし。

 取りあえず作戦を少し変更。

 分隊長たちを集めて指示を出す。




 そうして、演習は始まった。

 主任判定官の合図と共にあちらさんは突撃を開始した。

 あれ?

 判定官の横に、ナディア姫と側近一号が座っているような?

 何でここに?

 いや、取りあえず今は放置だ。

 演習場の端と端に陣取っていた両軍だが、あっという間に距離が縮まる。

 距離八〇メートル。

 弓兵の射撃を開始する。

 こちらの弓兵は魔導士と同数で二〇名ちょっと。

 二〇〇の敵に対してあまりにも少ない。

 そういうことで狙いは最前線の指揮官二人、だけ、にした。

 一応、風魔法併用の強力な弓兵なのだが、・・・全然、当たらないというか当たってもびくともしないというか。

 ちょっと走るスピードが落ちた程度だ。

 矢尻が付いていない矢ではあるが、・・・判定官は負傷判定してくれない。

 それだけ二人の鎧が頑丈って事なのだろうが、・・・金持ちは有利だよね。

 距離六〇。


「ファイアーボール、上方投擲、距離五〇!」


 ファイアーボールだが、上級者になると風魔法併用で遠距離まで飛ばせる。

 だが、この部隊でそれができるのは数人。

 そういうことで、人力投擲。

 射程はせいぜい五〇メートル。

 八〇メートル投げれる奴は少ないので、合わせるとなるとこれぐらいが限界だ。


「来るぞ!全速で突っ込め!」


「俺に続け!走れ!」


 ファイアーボールの投擲方法には、水平投擲と上方投擲の二種類がある。

 野球のピッチャーのように低弾道で投げるか、放物線で上から落とすか、の違いである。

 上方投擲は水平投擲に比べて、距離が出るし、最前列の盾を避けることが出来るが、距離が合わなければ、すかされることになる。

 敵は、進撃速度を上げて前に出ることを選択したようだ。

 だが、まあ、予想通りなんだよね。


「まて、ファイアーボール、来るぞ!」

「盾を上に挙げろ!」


 実は、ちょっとズルをした。

 距離五〇と言ったら四〇に、つまり一〇メートル短く投げるように打ち合わせておいたのだ。

 だが、・・・流石と言うか、指揮官が良いのか、兵士が良いのか、あちらさんは慌てず騒がず、一糸乱れずに全兵士が揃って盾を頭上に掲げる。

 うん、すごい。

 でも、それでも、いい。

 部隊のファイアーボール着弾に合わせて、オレとタイジ、ついでにリタがファイアーボールを水平投擲する。

 三人ともに無詠唱だから奇襲になった。

 オレたち三人のファイアーボールで吹っ飛ばされて盾の壁が崩れたところに上から弾着。

 結構な損害になった。

 混乱したところに、オレとタイジが無詠唱で連発する。

 リタは、・・・三発で止めさせた。

 コイツが目立ちすぎると、色々と困るからね。

 止めに二回目の集団投擲が、・・・決まった。




「クソがぁ!俺はまだ負けてないぞ!動ける奴は俺に続け!」

「モーランに負けるな!こちらも行くぞ!」


 驚いた。

 指揮官二人が、雄たけびをあげて突進してくる。

 そう言えば一匹はメスだったっけ?

 付き従う兵士は数名。

 根性アルネ。

 オレとタイジが無詠唱でライトニングボルトを叩き込み、今度こそ演習は終了した。




 判定官の総括もそこそこに医者の業務だ。

 施薬院テントに走る。

 何でこんなに忙しいんだろ?

 テント内はさぞ大変だろうと思っていたが、意外とそうでもなかった。


「重傷者はぁ、残しておきましたよぉー」


 のんびりと言うか、ふわふわと言うか、この子は何時もマイペースだ。


「意外と頼りになるんだよねぇ」


 リタがうんうんと頷いている。

 施薬院テントを仕切っていたのはセンフルールメイド隊のハナだ。

 タージョッとダナシリだけではパンクするのが目に見えていたので、シャイフに掛け合って、参加を認めてもらった。

 シノさんから頼まれてもいたしね。

 勿論、月の民とはばれないように変装してもらっている。


「たぁくさぁん、処置できて満足ですぅ」


「助かったんだけど、精神的に色々と疲れたわ」


 タージョッがブスっとした顔で文句を言う。

 文句を言う顔も、かわいくないぞ。


 Bカップの不平不満は圧殺して大物の手術を開始する。

 オレをメインにリタとタージョッで一組、ハナをメインにタイジとダナシリでもう一組だ。

 中隊規模の実習では怪我人は少ないと聞いていたのだが、結構な数だ。

 何でかな、と思っていたら、「ここにいるのの半分は坊尉補殿の魔法にやられたのですが」と言われてしまった。

 うん、知ってた。

 でもさ、魔導小隊が勝ったら大体こうなんじゃないの?

 しばらくしたら見学希望の施薬院学生がやって来た。

 今日の施薬院見学者は全て第一演習場のはずなんだが?


「セヴィンチ・カームラーンです。

 今日の演習に参加していました」


 見れば、施薬院特別講義で一緒だったエリート君である。


「怪我は無かったんですね。

 良かったですね」


「私は魔導小隊の方でしたから。

 カンナギ殿の指揮下にいたのですが、・・・気づいていませんでしたか?」


 気づいてなかったよ。

 だって、こちらでは魔導士でも兜を被るからね、開口部大きいけど。

 それにしても、施薬院学生にしては魔力が多いとは思っていたが、自護院の正魔導士候補だったわけね。

 何で施薬院に入って来たんだろ?


「噂には聞いていましたが本当に手術をしているのですね。

 ところで、今日の主任講師はどちらに?」


 何か、妙に丁寧だな。


「ああ、人手が足りないので私がやっています。

 一応、最下級ですが講師の認定を受けましたので」


「・・・えーと、施薬院は昨年の十月入講でしたよね?」


「そうです」


 エリート君が沈黙した。


「そう言えば、私は施薬院の入講は先月ですが、自護院には二年前から入っています。

 カンナギ殿とはこれまで講義でも実習でもお会いしたことが無かったように思うのですが?」


「ええ、自護院練成所には十二月入講でしたから」


「・・・すいません、何時の十二月、ですか?」


「昨年の十二月です」


 絶句して頭を抱え込んでしまった。

 ごめんな。

 でも、ここら辺の事実はみんなに知られているから隠しようも無いんだよ。

 そーだよなぁ、少々異常だよなぁ。

 でも、出世しないと、良い生活できないし。

 オレ的な必要最低限度の文化的生活を達成するためには、ある程度出世しないと不都合なのだ。

 可能な限り周囲の軋轢を減らしつつ出世するって、難しい。

 なんて事を考えながら手術していたら、また来客があった。

 いや、不真面目に仕事してるわけじゃないよ。

 熱傷の処置、魔獣の代用皮膚の張り付けばっかりなので単調なのだ。

 それで、お客さんだが、・・・。


「キョウスケ殿、今日は私の負けだ。

 潔く認めよう。

 だが次回、次回はこうは行かんぞ。

 必ず私が勝つ!」


「いやぁ、トゥルーミシュの悔しそうな顔が見られただけでも今日来た甲斐があったわ」


「面白い戦いだったのう。

 最近は、抗魔力の強い隊長が率いる歩兵突撃を魔導部隊だけで止めるのは無理という定説だったが、やり方による、ということかのう。

 二人とも頑張ったと思うぞ」


 ネディーアール様とその側近一号二号。

 めちゃくちゃ姦しい。

 魔法のタイミングがどうだの、無詠唱魔法への対応が云々だの、本当に戦闘関係が好きなのだろう。

 しかし、いささか、うるさい。


「あの、すいませんが、手術中です。

 ここは施薬院の管轄です。

 部外者は立ち入り禁止ですよ」


「何の、我ら三人は施薬院入講済みじゃ。

 部外者ではない」


「あー、そうでしたね。

 では、実習にしましょう。

 ここは私が責任者なのです。

 そういうことで、ネディーアール様、手術をやりましょう」


「ちょっと待って、いきなり施薬院の実習って、今日は攻撃魔法の実習なの!」


「いえ、大変に良い機会です」


 何時の間にやら、クロイトノット夫人が後ろに立っていた。


「宗教本科の講義に出ていないと聞いて探してみれば、わざわざ第二演習場に来ているとは」


「ゲェ、母上!」


 赤毛夫人の登場にその娘が驚愕している。


「ナイキアスール、何時からそこに?

 いや、待て、これは、その、・・・そう、側近の出来を確認するためだ。

 トゥルーミシュとキョウスケの実習を監督するためで、・・・」


「では、自護院の実習は終わっていますから、これから施薬院の実習です。

 マリセアの正しき教えの講義を欠席したのですから、せめて、このぐらいしましょう」


 せめて、このぐらいって、・・・オレの本職なんだけどなぁ。


「いや、しかし、いきなり手術など」


「キョウスケ」


「私が補助しますので、ネディーアール様メインでやりましょう。

 何、簡単ですよ」


「なんか、私の武将としての人生が、なし崩しに医者にされてない?」


「ネディーアール様!」


 あ、プチっといったな。


「その言葉遣いは何ですか!

 そもそも、武将としての人生など存在したことすらありません!」


 あさってを見つめる姫様。

 知らぬ顔を決め込む側近一号。

 神妙な顔つきの側近二号。

 結局、三人まとめて手術をやらせた。

 なんだかんだ言って、姫様は直ぐに熱傷処置ができるようになってしまった。

 その後は、姫様とリタとで交互に争うように手術を行う。

 調子に乗らせれば、チョロイ。

 おかげで楽ができた。


 タージョッが隅で「才能ってなぁに?私って凡人?」とか落ち込んでいたけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る