02-27 皇妃流特訓

「フト、嫌な事があった時はグッと飲むのです。

 それで大概の事は解決します」


「う、う、うニャ。

 そんなに嫌なことは無かったのニャ。

 それに、この量飲んだらフトはウニャウニャになるのニャ」


 青髪くせっ毛マイナスAのフトが髪の毛と同じぐらい顔を青くしている。

 シノさんが持ち出したのは妙に大きなワイングラスだ。

 それに、たっぷりと琥珀色の液体が入っている。

 更に、シノさんは、同じグラスを人数分並べ始めた。

 そして、・・・一つのグラスに柄杓で酒が注がれていく。


「シノちゃん、その柄杓、どれぐらい入るのかな?」


「先ほど計量しましたが、一杯で約一八〇ミリリットルです」


「・・・何故、二杯。一杯で十分じゃないかなぁー」


「このグラスは五〇〇以上入ります。三杯までなら行けます」


 シマが恐る恐る苦言を呈する。

 が、サラっと無視される。


「シノ様、本日はお客様もいる事ですし、ブランデーは程々にしておかれた方がよろしいかと」


 ミスズさんの訴えに皆が懸命に頷く。


「お客様と言ってもハトンはもう寝てしまいましたからキョウスケだけです」


 見ればハトンがシノさんの足元で寝ていた。

 さっきまでオレの横にいたはずだが、・・・何時の間に?

 絨毯の上のハトンを確認する、・・・やたらと酒臭い。


「あの、・・・ブランデー飲ませましたか?」


「飲んだことが無いというので。

 一〇〇ミリリットル程度ですが」


 十二歳に一〇〇飲ませれば行くだろうな。

 と言うか、良く一〇〇ミリリットルも飲めたものだ。


「おいしいです、と言ってすいすい飲みました。

 いきなり意識を無くしましたが。

 生命に別状はなさそうですので問題ないでしょう」


「いや、いろいろと問題が有るかと」


「後はキョウスケが飲むで良いでしょう」


「えーと、何が、どー良いのか、・・・」


 シノさんは樽から琥珀色の液体を柄杓でワイングラスに注ぎ続ける。


「何で、ブランデーの樽があそこにあるのよ」


「多分、シノ様がご自分で調達されたのだと思います」


 明らかに焦った声のシマに、これまた顔色の悪いミスズが答える。


 オレは目の前に置かれたワイングラスを検分する。


「これ、ブランデーですよね?」


「勿論、そうです」


「センフルールではブランデーは樽から柄杓ですくう物なのですか?」


「んなわけ、ある訳無いでしょう!」


「樽から直接グラスに注ぐのは面倒です。

 柄杓が有りましたので丁度良いと採用しています」


 シマの文句をスルーしてシノさんが答える。


「客人が飲まないと他のメンバーが飲めないとのことです。

 まずは飲みなさい」


「別に、誰も、そんなことは、・・・少し、ゆっくりと飲みませんか?」


 シマ以下の顔色も良くない。

 オレが盾になるのが正しいのだろう。


「いいから、飲みなさい」


「はい」


 美人に凄まれるのは怖いです。


「ウソ、一気に飲んだの?

 いや、それより、なんで飲んじゃうのよー」


「いや、シノさん怖いし。・・・仕方ないだろ」


 シマの抗議に小声で弁明する。


「そりゃ、シノっちに凄まれて抵抗するのはキツイケドサ、・・・」


「では、客人も飲んだことですし、皆も飲んで良いのですよ」


 シノさんがにこやかに宣言する。

 宣言するだけならまだ良いのだが、・・・何故、オレのグラスに二杯目が注がれるのだろう?


「客人が飲みましたし、皆も飲まないと宴が始まりません。

 宴会という物は参加者が有る程度酒を飲まなければ盛り上がらないのです」


 にこやかに、意味不明な論理をまくしたてる女王様。


「それでは、まず、シマとミスズからです」


 指名された二人が青い顔でグラスを手にする。

 嫌がっていた割に飲むのは早い。

 シマは三回で、ミスズさんも五回で飲み干した。

 続いて、ハナ、フキ、フト、リタと年齢順にグラスを空けていく。

 噂には聞いていたが月の民はアルコールに強いようだ。


「では、二杯目です」


 空になったグラスに次々とブランデーが注がれていく。


「ではやはり、キョウスケからですね」


「へ、オレ、ですか?

 それも、今、直ぐに?」


 今、一気したばかりだと思うのですが。


「まずは乾杯しましょう」


 シノさんとグラスを合わせる。


「それでは一緒に」


 にこやかな笑顔と共に自分のグラスを傾ける美女。


「で、何で、また、一気飲みしちゃうのよ!」


「いや、つい」


 だってさぁ、目の前の美人に一緒に飲もうって誘われたんですよ。

 上着脱いで白いブラウス一枚ですよ。

 からだにピッチリのブラウスですよ。

 胸の形がくっきりですよ。

 黒い下着が透けてるんですよ。

 Fカップのブラジャーくっきりなんですよ。

 やっぱ、大きさと形と全体のバランスから見ればFかGぐらいが限界なんだよな。

 童貞諸君!

 夢を抱きたいのは分かるが、リアルIカップの女性とかブラジャー外したら悲惨だったよ。

 腹の上にデローンと垂れた肉塊というのは美しくも無ければ、エロくもなかった。

 やっぱ、大きさだけでなく形とかウエストとの比率とかもだねぇ、・・・。


「で、シノっちの魅力だけで飲んじゃったと、そう主張するわけ?」


「え、・・・オレ、今、言葉に出してた?」


「うん、言葉には出してなかったけど、色々と出てた。

 あんたさ、見た目はさわやか系なのに、時々、妙に中年エロ親父みたいな雰囲気を発散させるわね。

 何か、二七〇歳ぐらいの感じ」


「あのな、二七〇ってったら人族ではエロ親父じゃなくてミイラだから。

 枯れ切ってるぞ、それ」


「では、キョウスケも飲んだことですし、皆も二杯目に行きましょう!」


 オレとシマをマルっと無視してシノさんが場を仕切る。


「シマ、飲みますね」


「いや、その、ちょっと、・・・」


「ミスズ、血族の者が人族より酒に弱いなど有り得ない。そうでしょう?」


「それはそうですが、・・・」


「では、飲みなさい」


 ・・・シノさん、今の『威圧』が乗っていたよーな、・・・気がするんですが、・・・そこまでするか?

 シマとミスズさん、そして何故かハナの三人が青い顔でグラスを手にする。

 ハナ、・・・位置的に威圧に巻き込まれたんだな。

 三人がグラスを傾ける。

 なんだかんだ言って三人とも早い。

 威圧が効いているだけかもしれないが。

 ブランデーストレート、三六〇ミリリットル一気ってなかなかできる奴いないと思う。

 流石にきつい様で、飲み干した三人はへたってしまった。

 全員、ブランデー二杯、合計七〇〇以上、ボトル一本の量だもんな。


「フキ」


「ハイ、です」


 フキが観念したようにブランデーグラスを手にシノさんの前に出る。


「飲めないのですか?」


「あー、えー」


「では手伝いましょう。そこに座りなさい」


 手伝うって何を、と思っていたら、・・・。

 口移しですよ、奥さん!

 シノさんがブランデーを口に含んでフキに口移しで飲ませていく。

 黒髪の美女が青髪の美少女とディープキスです。

 すごい、スバラシイ、・・・じゃなくて、エロい、・・・いや、何と言ったらいいのだろう?

 アルハラ?

 セクハラ?

 パワハラ?

 どれもこっちの世界では無いのかな、・・・まあ、見た目が大変に宜しいから、このままでいいか。


 結局、六回ほどのキスでフキのグラスは空になり、解放されたフキはそのままソファに倒れこんだ。

 シノさんは、悠然とフトのソファに移動する。

 そして、また、エロい光景が再現される。

 先ほどと違うのは、ウニャ、フニャ、ムニャと独特の喘ぎ声が挟まることだ。


「あんた、色々とおかしいけど、そんなに飲んで問題ないの?

 どーなってんのよ!」


 いきなり背後から頭を鷲づかみにされた。


「何、ガン見してんのよ。

 この惨状に心が痛まない訳?」


「いや、痛むも何も、オレも飲まされてるだけだし」


「そりゃ、そうだけど」


 シマは声を潜めて話を続ける。


「今日はアンタたちがいるからシノっちも酒を無理強いはしないだろうって、ヨミだったのよ。

 それが、あんた、あっさり飲んじゃうって何なの?

 予定外もいいとこよ!」


「いや、だって、ここではこれが普通なんだろ。

 お前もみんなも結構強そうだし」


「もう、限界だってば」


 シマが指差した先にはフキとフトが並んで昇天している。


「シノ様、次、僕。僕にも飲み方教えてくださぁい!」


 リタが自らシノさんに抱き付いて、『口移し』をせがむ。


「限界かどうかは兎も角、嫌がっているようには見えないが」


「あー、リタはシノっち系列というか、変な方だから」


 シマが強引にオレの頭を回す。

 回った先ではハナがキャハ、キャハ、フワァと笑いながら『壺』と会話していた。

 置物の壺である。

 高さ一メートルぐらいの大きな壺だ。

 どうやら模様が人の顔に見えているらしい。

「うふふ、もっと食べましょうよぉ」とフォークに刺した肉切れを壺に押し付けている。

 うん、なかなかの酔っぱらいだ。

 と、ハナの横にいたミスズさんがいきなり立ち上がった。

 おもむろに服を脱ぎだす。


「ミスズはある程度以上飲むと、服を脱ぐ癖があるのよ」


 アチャーという感じでシマが止めにかかる。


「ミスズ、今日はお客、それも男がいるんだから、せめて下着は着てなさいよ」


 制止されたミスズさんがうつろな目つきでオレとシマをかわるがわる見つめる。

 いや、オレは構わないんだけどね、・・・そう、全然構わない、・・・Bカップぐらいかな、・・・。


「シマ、別にいいでしょう。

 ミスズは暑いのですし、キョウスケは気にしないでしょう。

 大体、見せて減る物でもありません」


「いや、そーゆーもんじゃないから。

 つーか、キョウスケの前で服を脱いだって話、ミスズが素面になったら自殺を考えると思うわ」


 確かにそうかもしれない・・・、いや、確かに減るもんでもない、・・・のかな?

 ・・・気にはしないんだけどな、うん。

 辺りを見渡すと、何故か部屋の隅に折り畳まれた毛布があるのに気付いた。

 一枚とって、さり気なくミスズさんにかけてやる。

 暑いと言っていた割に、素直に掛けられていた。


「気が利くわね。

 もう二枚取ってくれる」


 毛布を渡すとシマはフキとフトにそれをかけた。

 オレももう一枚取ってハトンにかける。


「ひょっとして、このための毛布か?」


「うん、まあ、・・・」


 微妙な顔でシマが答える。


「今日は使わなくても済むと思ってたのに」


「一つ聞くが、ここの宴会って毎回、こーなのか?」


「毎回、・・・ではない、と思う、・・・」


「おい、人の目を見て答えろよ」


「では、三杯目に行きましょう!」


 気のせいだろうか、テンションがさらに上がっている気がするのは、・・・多分、気のせい、きっと気のせい。

 どうやらリタがブランデーを飲み干したらしい。

 ・・・ちょっと待て!

 シノ=リタのディープキスを見逃したじゃねーか!

 なんてこった!

 リピートできないのか!

 誰か動画撮ってないのか!

 写真だけでもいいんだが、・・・まて、しばし、・・・。

 スマホやガラケーどころかカメラすらない世界でした。

 シマがジト目で睨んでいる。


「あんた、また中年オヤジになってたでしょ」


「それを言うならあっちの方だと思うが」


「え、いや、それはー」


 中身中年オヤジな黒髪美女はうれしそうにグラスを集めてブランデーを注いでいる。


「あのー、シノさん。考えるに、みんなそろそろ限界のような感じですが、・・・」


 横ではシマがすがるような目つきで頷いている。


「血族の風習として、宴会では『酒を飲むなら三リットル』というのがあります。

 せめて三杯、一リットル程度は平気で飲めるようでなければ一人前の血族とは言えません」


「いや、もう、みんな三杯どころか五杯も六杯も飲んでますよ。

 スパークリングワインに白と赤も出てたじゃないですか」


「ワインは酒に入りません。」


 地球時代、ビールは酒に入らないと主張する酒飲みはたくさん見てきたが、ワインまで酒じゃないというのは斬新だ。

 確かに、こっちでは昼からワイン飲んでるけどさ。


「キョウスケは知らないのでしょうが、これは始祖様以来の伝統なのです。

 私には下の者がきちんと酒を飲める一人前の血族に成るように導く義務があるのです」


 始祖様って例の地球人疑惑のある最終皇帝陛下だよな。

 んな、変な風習を残したのかね?


「本当にそんな伝統があるのか?」


 傍らのシマに尋ねる。


「正確には始祖様じゃなくて、リン皇妃ね」


「前にちょろっと聞いた気がするが、リン皇妃ってシノさんに似てるっていうご先祖?」


「逆、シノがリン皇妃に似てるって話。

 始祖様の最愛の皇妃と言われた方。

 ご先祖様だからねー。

 まあ、私のご先祖様でもあるんだけどさ。

 そんで、そのリン皇妃がめちゃくちゃ酒に強かったらしいのよ。

 更に彼女の妹も酒に強くて酒好きで、二人で誘い合って宴会を開いては『駆け付け三リットル』とか『最低三リットル』とか変な風習を作っちゃったみたい」


 三リットルという基準からして意味不明だ。

 酒飲みに理論を求める方が間違ってるとは思うが。


「その変な伝統を引き継いでいると」


「リン皇妃の子孫には妙に酒に強い人がいるのよ。

 一日中でも飲んじゃうし、好きだし、いくら飲んでも健康にも体型にも何の影響も出なくて。

 しかも、能力が高くて、位も高い人が多いから扱いに困るというか、・・・。

 シノっちもこれさえ無ければねぇ」


「ひょっとして、口移しで飲ませるのもリン皇妃からの伝統なのか?」


「うん、リン皇妃が気に入った子を『妹』認定して口移しで飲ませる『教育』をやってたらしいの。

 口移しで飲ませてもらえるのは名誉なことって話になっちゃってて」


「では三杯目の乾杯をしましょう」


 シノさんが機嫌よくオレとシマにグラスを渡す。


「それでは、乾杯」


 気持ちよさそうに三六〇ミリリットルのブランデーを一気飲みする美女。

 見守る二人。


「何故、二人とも飲まないのです?

 私一人で馬鹿みたいではないですか!」


「あ、いやー、ほら、客人を差し置いて飲むのはどうかと」


「お前、今更、人を盾にする気かよ。

 お前だってリン皇妃とやらの子孫なんだろーが」


「では、キョウスケが飲めばシマも飲むという事ですね」


 怒涛の如く寄ってきたシノさんがオレをソファに座らせる。

 右側に座った彼女の左手がオレの首に回される。

 ピッタリくっつかれました。

 オレの右上腕がなかなかいい感触になっています。

 適度に弾力のあるふくらみが密着してまして、・・・ええ、それは、もう、何と言うか、・・・。


「キョウスケはまだまだ飲めます。そうでしょう?」


 耳元でつややかな声が奏でられる。

 シノさんの右手がオレのグラスに副えられる。


「では、このままクーっと行きましょう!」


 ・・・行っちゃいました。


「裏切り者」


 ちっちゃいのが恨みがましい目つきで睨んでいます。


「では、ミスズもハナも飲みなさい」


「シノ様ぁ、僕はもう一度シノ様に飲ませて欲しいですぅ」


 リタは酔っているのかいないのか、・・・いや、酔ってるんだな。

 目がトローンとしている。

 いや、でもシノさんとリタのキスが見られたのは良かった。

 これで、オレの心残りは無い、・・・何のだ?

 向こうでは、グラスを持たされたハナが壺と語らいながら代わるがわるブランデーを飲んでいる。

 ・・・壺は飲んでいないが。

 こちらでは毛布を被ったミスズさんが両手でグラスを持ち、固まっている。

 大丈夫かと肩を叩いたら、いきなり立ち上がった。

 下着姿で仁王立ちになり、左手を腰に当て、グラスをあおる。

 グビッ、グビッ、ブハァーというマンガみたいな音声と共にブランデーを飲み干すメイド長。

 変に活性化したらしくシノさんに解放されてフラフラと近寄ってきたリタを捕まえてダンスを始めた。


「盛り上がってきました。いい感じです」


 シノさんが嬉しそうに立ち上がる。

 戸棚からギターを取り出す。

 いい声で弾き語りを始めた。

 かなりうまい。


「私たちも踊りましょう!」


 ハナが壺を引き連れて踊りに加わる。

 当たり前だが、壺は踊らない。

 盛大にバランスを崩したハナが、ミスズとリタを巻き込んで転がっていく。

 場所的に料理は巻き込まなかったが、リタはハナが持っていたブランデーを頭から被っていた。


「オイ、大丈夫か?」


「うちのグラスは魔法で強化していますからこの程度では割れません」


「いえ、そーゆー意味ではなくてー」


「濡れちゃったー」と軽やかに服を脱ぎだすリタ。

 ミスズさんは『胸帯』だが、リタは立体縫製の『ブラジャー』だ。

 BカップとEカップの差は大きいのか?

 にしても、シノさんといい、センフルールのブラジャーは『黒』が主流なのか?

 反対側では「暑いです」と言いながらミスズさんが白ワインをボトルからラッパ飲みしている。

 と言うか、ほとんどワインを被っている。

 大丈夫、・・・なのか?

 ハナは絨毯の上で壺を抱いたまま動かなくなった。

 にこやかな笑みでぶつぶつ言っているので命の問題はなさそうだ。


「ワインなどよりこちらを飲みなさい」


 シノさんが四杯目を配って歩く。

 あの樽、何リットル入ってんだろう?

 シノさんの弾き語りが再開される。

 ミスズさんがフキを強引に立たせてダンスを再開する。

 フキは念仏みたいな言葉を発しているが意識はほぼ飛んでいるようだ。

 対抗するかのようにリタがフトを抱えてダンスを開始する。

 フトは完全に意識が無く白目をむいている。

 両方ともにダンスというよりは貧乳シスターズが振り回されているだけだ。

 多分、少なくとも、恐らく、これはダンスではない。

 シノさんは機嫌よくアップテンポで歌い続ける。

 いや、いい声なんだけど、・・・なんだろね、コレ。

 シマを探したらオレの隣でブランデーを舐めていた。

 こいつも四杯目、だと思う。




「これ、このままで、いいのか?」


「もう、いいの。

 何でもいいの。

 どーなってもいいの」


 悟り切った目で呟く、プラチナブロンド。


「フラットスリーのリーダーとして子分を助けてやるべきだと思うんだが」


「言ってる意味が分かんないんだけど。

 何かとっても失礼なこと言ってない?」


「こーゆーのをセンフルールでは盛り上がると言うのか?」


「まあ、その、ごく一部だけの話というか、・・・」


「ここの宴会は毎回、こーなのか?」


「流石にここまでのは、ちょっと」


 遠い目で語る金髪美少女。


「昨年も酷かったから、今回はみんなで酒精の強い酒は隠したのよ。

 シノっちが文句言わないから安心してたら、・・・まさか樽を調達してたなんて」


「樽を持ち込んだのは初めてってことか?」


「あれ、五〇リットル入りの輸送用だから。

 何で樽なんか持ちだしたんだろ」


「それはキョウスケが来るからです」


 シノさんが隣のソファにやって来た。

 見ればメイド戦隊は五人全員絨毯の上で毛布を掛けられている。

 ハトンも端っこに入っていた。

 意外と面倒見がいいな、この人。


「二人とも、もう空になりますね」


 再び、柄杓が取り出され、オレとシマのグラスに問答無用で五杯目が注がれていく。


「盛り上がりましたが、皆にはピッチが速かったかもしれません。

 まだまだ特訓が必要です」


「ねえ、シノちゃん、これ、まだやるの?」


「勿論です」


「お客もいるのに、羽目外し過ぎだと思う」


「そうですか?」


 妹分の抗議に姉貴分が怪訝な顔で答える。


「ミスズも全部は脱ぎませんでしたし、フトは全く脱ぎませんでした。

 いつもより上品です」


 そーかー、フトも脱ぎ癖が有るのか。


「だからさ、コイツ男だよ。

 男の前で平気で脱ぐのって良くないよ」


「別に良いでしょう。

 キョウスケが誰かに手を付けたなら、それはそれです。

 元々、メイドの誰かとくっつけて血族に引き入れるという話だったでしょう」


「あの、本人の前で堂々と悪だくみを語られるのはちょっと、・・・」


「こういうのは、オープンにした方が問題は少ないのです。

 分かっていて手を出したのならば言い逃れはできません。

 それにあなたはこの程度では酔わないでしょう。

 まあ、酔って手を付けたとしても結果は同じです」


「そこまで考えて、ミスズさんたちが脱ぐのを許容していたと?」


「いえ、私は単に楽しくお酒を飲みたかっただけです。

 そういうことで、今日はゆっくりと酒を楽しみましょう!」


「もう、みんな潰れちゃったわよ!」


「まあ、確かに早いです」


 宴会が始まってからまだ二時間たっていない。

 ブランデーを飲み始めてからは一時間たっていないだろう。

 それでボトル二本分ぐらい飲んでいる。

 我ながらハイペースだ。

 ここの二人も同じだけ飲んでいるが。

 地球時代なら考えられない量だよな。




「しかし、ゆっくりと飲みながら語ることのできる相手が増えるのは良いことです」


「増えるって、・・・ひょっとしてキョウスケの事?」


「ええ、そうです。

 キョウスケは二リットル半までは平気だと確認されています」


「ちょっと、まったぁー!

 あんた、何時、どこで、確認されたのよ!」


 シマがオレの胸元を掴んでゆする。

 毎回思うのだが、コイツ本当に手加減が無い。

 この、ちっちゃいのは馬鹿力なのだ。

 オレでなかったら肋骨か頸椎がいってたと思う。


「そんなのどこでだっていいだろ」


「そうね、どこでもいいわね。

 問題は確認されてたって方よ。

 あのさ、シノちゃん、ひょっとしてキョウスケは酒飲めるって前提で計画してたってこと?」


「単にキョウスケに多くの酒を用意してやろうと考えただけです」


「やられた、完全に作戦ミス。

 つーか、確認してなかった私が悪いけど、・・・なんで人族なのにブランデー、二リットル以上飲めるかなぁ」


「そこはキョウスケです。

 いろいろと普通ではありません」


「言われなくても、そーだった」


 シマが絶望の声を上げた。

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