02-24 お見合い‼

「スッパイ殿、宜しければ当家の娘を娶って頂けませんか?」


 センフルール屋敷での『乾杯』後で、ダウラト・ジージャが言い出した。

 ・・・また、この話ですか。

 ため息、しかない。


「信頼できる使用人を紹介して欲しいとのお話でしたが、使用人を相手にするぐらいでしたら当家の娘をお願いしたい。

 将来、貴族の方を正夫人として迎えられるのでしょうから、第一正夫人とは言いません。

 ただ、一人は正夫人にして頂ければ幸いです」


「えーと、いきなりそんな話を頂いても、ちょっと、戸惑うと言いますか、・・・。

 そもそも、私は単なるド田舎出身の平民ですよ。

 貴族でもなんでもない。

 ダウラト家はカゲシトでも大店に入るのですよね。

 私とではつり合いが取れないと思いますが」


「確かに田舎出身の平民かもしれませんが、『単なる』とは言い難いでしょう。

 カゲシンに来られてわずか数か月で、施薬院学問所、自護院練成所、算用所修養科、に入講されている。

 そして、この様な薬を作るという特殊技能まで持っておられる」


「まあ、普通に見る目があれば、あんたは買い得だと思うわよ」


 何故か口を尖らせたシマが言う。


「そうは、言うが、・・・ここらの女性はオレの趣味から大幅にずれるんだよ。

 オレの趣味は、ほら、『始祖様の基準』だから」


 ちっちゃいのを引っ張って耳元でささやく。

 また、『筋肉系美人』とやらを紹介されても困るんだよね。


「ああ、私が好みのタイプとか言ってた、あれですか」


 シマの横にいたシノさんが反応する。


「シノさん自身が嫁に来てくれるのでしたら、転化も考えるのですが」


「流石に私とあなたでは魔力的につり合いが取れないでしょう」


「うーん、では、シマで妥協しますか」


 ワインがビンごと頭に来ました。


「妥協ってなにかなぁ、妥協って」


「いや、ちょっとした冗談じゃないか。

 この程度で頭にワインビン直撃って、殺す気か?」


「この程度であんた死ぬわけないじゃん」


「せめてガラスビンだけにしてくれ。

 ワインまで被ったら後始末が大変なんだ」


 言いながら、魔法で丁寧にシミを抜いていく。

 この一か月で洗濯系魔法は随分とうまくなった。

 一人暮らしの影響、・・・何度も家を荒らされたからな。


「いやなら避ければ良かったでしょう。

 あんたそれぐらいできるし」


「避けたら、倍の追撃がきそうなんだが」


「うん、まあ、それはそうだけど」


 認めるのか。


「あの、こちらの、ちっちゃいのが狂暴なんですが、善処をお願いしたいです」


 シノさんに泣きつく。


「確かにワインが入ったままのビンというのは問題ですね」


「ですよね!」


「中の酒が勿体ないですし、ビンもそれなりの値段です」


 そー言えば、こーゆー人だった。


「あー、まじめな話をすると、ダウラト家の女性って、比較的筋肉量が少ないように思うわよ」


 なんですと!

 シマさん、それ、重要!


「ダウラト商会は、センフルールの本国とも取引があるのよ。

 うちの男性はさっきあんたが言ってた『始祖様基準』を信奉してるのが多いからね。

 取引するダウラト家も比較的、それに近い女性を妻にしてるみたい」


 ふむ、センフルールの男性から忌避されない女性を選んでいるわけか。


「とりあえず、見るだけでも、見てみたら?」


 シマの提案に乗ることにした。

 いや、オレだって、何時かは女性従者を採用しようとは思ってたんだよ。

 いつかは、美人で気立てが良くて巨乳のお嫁さんが欲しい。

 そのためには、女従者を揃えねばならない。

 全てを拒否して山の中に引きこもったら一生独り身だよね。


「キョウスケ殿、まずはうちの娘たちに会って頂けませんか?

 何でしたら、今からでも」


 豪勢な食事して、ワインを飲んで個人的には宴会モードだったが、実はまだ昼過ぎだったりする。

 ここの人は昼でも普通にワインを飲む。

 若干一名、ワインにブランデーを混ぜてる人がいるが、他はワインだけだ。

 ダウラト・ジージャの話に乗り、ダウラト商会に行くことにした。

 だが、・・・。


「何で全員、付いて来るんですか?」


「いいじゃない、減るもんじゃないし」


 どこのセクハラおやじだよ。

 シノ・シマコンビにメイドが四人。

 流石にメイド長は留守番に残ったようだ。

 センフルールにも常識のカケラは残っているのだろう。

 ダウラト商会はセンフルール屋敷から比較的近く、カゲシトのメイン通りからは少し離れた場所にあった。

 店自体は結構大きい。

 そして、オレは満面の笑みで迎えられた。


「ダウラト・ホージャと言います。ジージャの息子です」


 出迎えたのはダウラト商会の副店長で跡取りのホージャ氏だった。

 後ろには、こちらの常識で年頃とされる娘たちがずらりと並ぶ。

 いや、まあ、オレの感覚では平均十歳は若い。

 聞けば、ホージャ氏がオレの事を色々と調べていたらしい。

 ホージャ氏はジージャ氏の次男。

 元は軍人志望で自護院にいたという。

 色々あって実家に戻ったのだが、自護院には現在も伝手があるとか。

 ちなみに、ホージャ氏は多少、魔力がある。


「私の友人たちは、あなたの戦闘指揮について語っていました。

 特に防御側であなたと対峙した中隊長が褒めています。

 魔導士で尚且つ指揮能力のある士官は貴重だと期待していましたよ」


 ダウラト家とホージャさんの紹介が終わり、話が進むかと思ったら、何故か、来客があった。


「やあ、キョウスケ。

 ダウラト家と縁組するって聞いたからお祝いに来たよ」


 やって来たのはゲレト・タイジ御一行。

 何でだ?


「ダウラト商会はうちの取引先だよ。

 ホージャさんからキョウスケのこと色々と聞かれてさ、それで、婚姻の事も聞いたから、その時は呼んでねって話しといたんだ」


 どこでどう繋がっているのか、世の中分らん。

 と言うか、・・・。


「タイジ、オレの事なんて話してたんだ?」


「変なことは話してないよ。

 ヒンダル家の関係はちょこっと話したけど、ヒンダルという名前は出してないから。

 施薬院での事とかはそれなりに話したけど。

 あと、縁組の事聞かれて、賛成したことぐらいかな」


「賛成した?」


「だって、キョウスケ、ほっといたら何時までも結婚しないでしょ。

 それ、おかしいから」


 えーと、結構、外堀埋まってないか、コレ。


「それから、・・・ヒッ」


「何、そちらはキョウスケの友達?」


 おお、凶暴な愛玩動物さんでした。

 後ろを見たら、・・・タイジがマリモになっていた。

 蹲って両手で頭を抱えている。

 頭髪は緑色で、両手の甲も緑色の毛が生えている。

 上から見れば緑色の丸い物体。

 北海道阿寒湖の天然記念物。

 うん、旅行で一回行ったよ。


「すいません。

 タイジ様は、その、恐怖感でこうなってしまう事が時々ありまして、・・・」


 スタイさんが取り繕う。


「あのさ、ひょっとしてだけど、自護院実習の時も、時々これになってた?」


「・・・はい、キョウスケ殿の背中で、・・・あの、・・・ほんの数回だけですよ」


 実習中に見えなくなっていた理由が分かったよ。


「確かに、恐怖を感じるのは仕方が無いかな。

 でも、このちっちゃいのは、狂暴そうに見えるけど噛みつく相手は選んでるから安心していいと思うぞ」


 メイスが来ました。

 反射的に頭上で受け止める。

 咄嗟に真剣白刃取りみたいになったけど、こんな非現実的な技が良く成功したものである。

 メイスだからかもしれないが。


「狂暴そうに見える、って何かな?」


「人の頭にメイス、フルスイングしといて言う言葉がそれか。

 つーか、死んだらどーする?」


「あんたが、この程度で死ぬわけないでしょう。

 瓶がダメって言うからメイスに変えたのよ。

 しかし、あんた変な技使うわね。

 これ、どこで習ったの?」


「昔見たマンガ、・・・あーえーと小説の中の技なんだが、・・・タマタマやって成功しちゃっただけで、・・・」


「ちょっと、もう一回やってみて」


「構えんでいい。

 つーか、止めよう。

 この技、明らかに実用的じゃない」


「言えてるわね。

 両手で力を均等に掛けるとなると、頭の上でしか成り立たないじゃない。

 失敗したら脳天に喰らう事になるわ」


「ねー、あのー、キョウスケ。

 君、こちらの方と仲いいの、悪いの、親しいの、親しくないの?」


 何故か復活したタイジが袖を引っ張ってくる。


「えーと、仲は悪くないと思うが、・・・」


「あなたがゲレト・タイジですね。

 私は、センフルールのシノです。

 カゲシンではシノノワールが正式名称になります。

 あなたの事は、ダウラト・ジージャや、このキョウスケから聞いています。

 なかなか能力の高い留学生と聞いています」


「あ、あ、あ、あ、あ、ありがとう、ございます。」


 焦り過ぎだ。

 つーか、なんでそんなに緊張してるかね。


「私はシマよ。

 シマクリールとか呼ばれてるけど、普段はシマでいいわ。

 私たち、いろいろと怖がられてるからね。

 魔力量も多いからマナ探知に敏感な人は特にダメみたい。

 えーと、タイジ君、別に敵じゃないよ。

 ホージャさんから聞いてない?」


「あ、はい、お聞きしていたと、確か思います。

 そ、その、初めての初対面で失礼を仕りました」


 見ればスタイさん以下の三人妻もガチガチだ。

 つーか、ダナシリ、君もマリモかよ。


「おい、ちょっと緊張しすぎだ。

 言葉も態度も変になってるぞ」


「いや、どうして、キョウスケはそんな普通の顔してるんだよ。

 センフルールって言ったら月の民有力三部族の一つだよ。

 センフルールのシノさん、シマさんって言ったらそこのお姫様だよ」


「お前だって、ガウレト族の族長一族なんだろう。

 オレよりよっぽど身分は上だろ」


「ガウレト族は族長で大僧都扱いなんだよ。

 月の民三部族は大僧正扱いなの」


 大僧都は伯爵相当だったはず。

 大僧正ってどれぐらいだろう。

 公爵ぐらいかね。

 改めて聞けば偉いんだよな、この人たち。


「それで、タイジ君は、今日ここには何をしに?」


「え、あ、はい。

 キョウスケがダウラト家の娘と結婚すると聞いたもので、見学に来ました。」


「じゃあ、私たちとおんなじだね。」


 どーしよう、この冷やかし軍団。

 そうこうしているうちに話はどんどん進展していた。

 ずらりと並んだ女の子は十二人。


「時間が有ればこちらで何人か選んだのですが、取り敢えず、集められる子は全員集めました」


 ジージャさん、そんなんでいいんでしょうか。

 女の子の意志はどうなるのかと、・・・。

 いや、意外と嫌がっている子はいないのか???

 ビミョーに顔が赤い子までいる。


「あの、みなさん、成人されているのですか?」


「いえ、成人前の者もおります。

 ですが成人前の娘を所望される方も多いですし、キョウスケ殿より年下の候補も必要と思いました。

 そう年も離れていないので、問題無いと思います」


「そうなのですか?」


「何でしたら成人までは表向きは婚約者という事でよろしいかと」


 良く分からないが、タイジやシマは特に反応していない。


「みなさん、今日はありがとうございます。

 今日は突然、このような形になって驚いている方も多いでしょう。

 私と結婚したくない方、そもそもまだ結婚はしたくない方、他に好きな人がいる方は、外れてもらって良いですよ」


 念のため、というか、少しは候補を絞ろうと声をかけたが・・・誰も、外れない。

 立ち去らない。

 えーと、・・・。


「あんた、何、言い出してんの?」


 シマが呆れ顔。

 タイジもシノさんも呆れ顔。

 ダウラト・ジージャとホージャは苦笑。

 ・・・オレ、何か、変な事言った?


「ここに来た時点で、女の子はみんな納得してるから」


 タイジがこっそりと忠告してくれた。

 いや、・・・親に無理やりとか考えちゃったオレが変なのか?


 十二人の女の子は全員、ジージャさんの子か孫だという。

 ホージャさんから見れば妹、娘、姪、らしい。

 全員がオレンジ色の髪をしているのはダウラト家の特徴かもしれない。

 皮膚の色は様々で、白い子からやや濃いめの肌の子もいる。

 ジージャ、ホージャの親子は白い肌なので、奥さんの影響だろうか。

 年齢は下が十二歳から上は十八歳まで、身長は一四〇センチちょっとから一六〇センチ弱まで。

 胸はAからBまで。

 ・・・一人ぐらいCがいてもいいんじゃなかろうか?

 つーか、こっちの世界って、地球より明らかに胸の偏差値低いよね。

 ツーカップぐらい。

 栄養問題が大きいとは思うけどさ。

 重要な事は、全員、比較的、筋肉が少ないって事だ。

 オレの目から見ても、全員、女の子に見える!

 これ、重要!

 最重要!

 いや、・・・年かさの子は、それなりに筋肉あるけど、・・・あと数年で立派なハートマン軍曹になれそうな子もいるけど、・・・よく見たら、普通に女子柔道部の子も、・・・男子柔道部でないだけマシか?


 しかし、どうやって選べと。

 一人一人、ゆっくり話をして、という感じではない。

 見た目だけで選べと言うのかね。

 だが、見た目と言っても、・・・。

 そもそも、センフルール軍団が周りにいるというのが間違いだ。

 シノ・シマコンビだけでなくメイド四人もかなりレベルは高い。

 全員、ウエストがくっきりとくびれているのが素晴らしい。

 中でもシノさんのパンツスーツ。

 立っていると特にヤバイ。

 つーか、ぴっちりし過ぎだろう。

 体形が露骨にわかるというか、凹凸が有り過ぎるというか、足が長すぎるというか。

 比べると、十二人のダウラト軍団は全員、量産型。

 汎用品と言うか、特徴に乏しい。

 暫く目を白黒させていると、シマがすすーっと寄って来た。


「あのさぁ、あの子が多分、一番頭いいわよ」


 端の方を指差しながらささやく。


「頭がいい?」


「あんた、どうやって選べばいいか悩んでたでしょ」


「選ばないって方法を真剣に考えてたんだが」


「暮らしていく上で女がいないのはまずいって、あんたも分かってるんでしょ。

 それに、この話は悪くないと思うわよ。

 第一正夫人じゃなくていいって話は、そうあると思えないけど」


 確かに、そうかもしれない。

 どうしても地球の感覚で『嫁』は一人というのが無意識に出てくる。

 だが、後から一番目、二番目に迎える前提の三番目と考えると基準も違う。

 そうなると、・・・


「素直で聞き分けが良くて、将来的にお金や人の管理を任せられそうな頭のいい子を選べばいいんじゃない。

 私なら、そうするけど」


 悔しいが、他に良い基準もない。


「じゃあ、ちょっと手伝ってくれるか?」


「え、私が?」


 シマだけじゃなく、センフルールのメイド隊とタイジ軍団も招集する。

 やることを説明したら、面白がったシノさんが参加を表明した。

 行ったのは、即席のペーパーテストだ。

 十二人に紙と筆記用具を配る。

 これはメイド隊がセンフルール屋敷から持ってきてくれた。

 問題を口頭で伝えて、自分で紙に書かせる。

 これは国語能力を見るためだ。

 問題の内容自体は算数系が主体。

 四則演算に文章題。

 文章問題は鶴亀算や時計問題、池周りを三人の子が回ってとかの定番問題をいくつか出した。

 採点はオレ自身がやったが、気付いたらシノさんとシマが勝手に参加していた。


「お見合いで試験なんて聞いたことないけど、キョウスケらしいね」


「キョウスケ殿は妻に助手としての能力を求めておられるのでしょう。

 施薬院での勉強を見ていれば納得できます」


「僕だったら、あっちの子かな。体格がいいし」


「そうですね。筋肉が付きそうな体格です」


 タイジとダナシリが勝手に論評してくれている。

 まあ、好きにしていてほしい。

 あと、筋肉はいらん。

 テスト結果をまとめてみれば、恐ろしい事にダントツがいた。


「君がハトンちゃんかい」


 シマが最初に示した子は、最年少の十一歳だった。

 十一歳なのに整ったきれいな字を書く。

 オレよりきれいだ。

 そして、回答はほぼ完璧である。


「はい、ハトンと言います。

 ダウラト・ホージャ第三正夫人の娘です」


「学問所に通っているんだね。

 講義はどこまで進んでいるのかな?」


「初級は全部終わりました。

 中級は半分ぐらいです」


「魔法系の講義は受けた?」


「いえ、その、生活魔法だけです」


 専科の生活魔法だけか。

 この子、多少は魔力がある。

 十二人の中では多分、一番だろう。

 白めの肌にダウラト一族由来の濃いオレンジ色の髪、瞳は緑色だ。

 身長はシマよりも低く、体重も少ないだろう。

 胸はAカップかそれ以下。

 まあ、十二歳だからな。

 目鼻立ちは結構整っている。

 栄養豊富な食事を与えて毎日風呂に入れてやれば結構美人に育つかもしれない。

 膝をつき視線を合わせて話しかける。


「君は勉強が好きかい?」


「その、嫌いではないと思います」


「算用所修養科に進む気はあるかな?」


「え、行かせてもらえるんですか?」


「でも、頑張って勉強しなくちゃだめだよ。

 君に頑張る気があるのなら、他の上級講義の学費も出してあげるよ」


「はい、頑張ります」


「うん、じゃあ、もう一つ。

 それで、僕のお嫁さんになってくれるかい?」


「いいんですか。

 成ります。

 成らせてください。

 あの、ふちゅちゅきゃものですが、よろしくお願いします。」


 目一杯噛んだな。


「宜しければ、この子を僕の嫁、当座は婚約者として頂けますか?」


 ジージャ、ホージャ親子に向かって宣言する。


「あの、本当にその子でよろしいのですか?」


 ホージャが戸惑った顔で返す。


「あの、全員、私の嫁候補と聞きましたが」


「実は、その子、まだ十一歳でして、・・・もう直ぐ十二歳になりますが、・・・まさか、選ばれるとは、・・・」


「頭の良い子ですので他の子と一緒に付けようと考えて、・・・まさか、一人目とは、・・・その、夜のお相手はまだ無理だと、・・・」


「あの、では、何故、ここに?」


「実は、本人が希望したのです」


 ホージャの言葉に思わずハトンを振り返る。


「学問所の食堂でお見掛けして、・・・その、キョウスケ様は色々と騒がれていましたので、・・・それで、その、きれいな方だなぁって思って、・・・それと、魔法がすごくうまいですよね?」


 そう言えば、一時期騒がれていたな。

 色々と突っかかられたこともあった。

 タージョッの元カレみたいな赤毛のチャラ男とか。

 しかし、オレ、食堂で魔法なんて使ってたっけ?


「何の魔法をみたんだい?」


「毎回、食事の時に、食堂から水をもらわずに、ご自分で水を作って、魔法で水を作っていますよね?

 無詠唱で、すごくスムーズに、魔法を使うそぶりもなしに水を作っていて、それも、魔力の漏れがほとんど、ないです。

 食事の時に自分のマナを使って水を作る人なんていません。

 それを、当たり前に毎回しているなんてすごいです。

 私の魔法の先生の百倍魔法がうまいと思いました」


 この子、オレが魔法で水を作るのに気づいていたのか。

 魔力の漏れに言及しているところからすると、マナが見えるのかもしれない。


「あの、やはり、この子にします。この子が良いです」


「あ、ああ、そうですか。

 しかし、・・・その、すいません。

 この子がメインで行くとは考えていなかったので、この子専属の下働きは、まだ二人しかいないのです。

 しかも、二人とも、料理や裁縫などの内職系で、その、荷物持ちをできる者がおりません」


「早急に、力仕事が出来る者をつけるので、少し日にちを頂けますか?

 あるいは、もう一人、選んでいただけるとか?」


「いえ、ハトンだけで他はいりません。

 下働きもその二人だけで、充分。

 むしろ、筋肉系の下働きはいりません」


「しかし、・・・力仕事は、・・・ハトンでは日々の荷物持ちもできません」


「いえ、全く、完全に、絶対に、筋肉系女子はいりません!」


 オレの熱意が通じたのか、ジージャとホージャの親子は何とか納得してくれた。

 ふう、危なかった。

 と、オレが二人を説得している間に後ろはおかしなことになっていた。


「じゃあ、ハトン。

 改めてこれからよろしくね。

 あたしが推薦してあげたんだから、ちゃんと覚えとくのよ」


「はい、シマ様。これからもよろしくお願いいたします」


「ハトンは良い子ですね。

 キョウスケは常識が乏しいですから、困ったことが有ったら相談に来なさい」


「ありがとうございます。シノ様」


「今後は私のことは『シノお姉さま』と呼ぶことを許します」


「はい、シノ、お姉さま」


「もう一度、言ってごらんなさい。

 もっと、憧れと敬愛と従順さを言葉に込めるのです」


「え、えーと、シ、シノお姉さま」


「もっと、恍惚とした感じで」


 ・・・何を、教えてるんだ?


「すいませんが、お気を使って頂いているのだと思いますが、少し微妙な内容になっていませんか?」


「今後を考慮すると、最初から序列を認識させておくべきだと考えます」


「シノちゃん、ちょっと急すぎるよ。少しずつにしよーよ」


 なんとか、センフルール勢からハトンを奪回する。

 一方、更に後ろも変な話になっていた。


「筋肉は無い方が好みと言ってたけど、体格も小さい方が好みみたいだね」


「胸もおしりも小さい方が好みなのでしょう」


 スタイが論評する。


「僕とは女性の好みがかなり違うなぁ」


「いわゆる、ツルペタと言われる体形ですね。

 人族の一部では、そのような幼女に対してしか欲情できない者がいると聞きます」


「ツルペタって、何のこと?」


「陰部などの体毛が生えていない、あるいは薄い、ツルツルの状態で、胸やおしりも発達していないペッタンコの状態の女性を指すのだそうです」


「ダナシリって物知りだね。

 しかし、そーゆー趣味って、・・・そもそも十一歳の女の子って、・・・うちの部族だと犯罪じゃないかなぁ」


「完全に犯罪、異常者です。

 所謂、幼女趣味という変態で、人族でも少数派と聞きます」


「・・・生理が始まる前の女性だったら、・・・」


「ジージャ殿が許容しているのですから、流石に初潮は迎えていると信じたいです」


「初潮を迎えたばかりの女の子か。

 やっぱりキョウスケの女性の趣味は独特だね」


「独特というよりも、異常と言う方が、・・・」


「ダナシリ、こちらでは、他人の女性の趣味に口出ししないのが礼儀とされます。

 例えそれが犯罪であったとしても」


 ・・・こちらに聞こえないように話しているつもり、なんだろうな、・・・。

 聴覚が良いのも考え物だ。

 でも、ここで、反論してもねぇ。

 ・・・今日の所は諦めよう。


 まあ、兎にも角にもこうしてオレは最初の『嫁』というか『婚約者』を得た。

 この子が、オレのハーレムの記念すべき第一号、・・・なのだと本人が主張するようになるとは、少なくともこの時には全然全く分かっていなかった、・・・と、思う。

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