02-21 香ばしい道の話
「また、派手にやらかしたものです」
「かなり気を使ったつもりなのですが」
「とても、そうとは思えません」
「いや、言い掛かりですよ。
音も光も遮断しましたから外部にはわからなかったはずです」
「フキ」
シノさんの言葉に青色の髪と瞳をしたメイドが進み出た。
身長はシマより少し高いが、体型はシマと同じツルペタ・ロリ系列。
永遠の霊廟にも来ていた子である。
「キョウスケ宅より走り出た無頼の徒は全員が無慈悲な『威圧』を受けており、その精神と記憶に障害を残すレベルと認めましたです。
全員が口から泡を吹き、糞尿を垂れ流していたのです。
意味不明な言葉を発しながらカゲシト正門まで駆けて行ったのです。
注目を浴びないと考えるのは馬鹿か感覚が麻痺した変人だけなのです」
永遠の霊廟ではまともに話していないが、なかなか辛辣な子だ。
ちょっと大げさだろう。
メイド服がかわいいから許せるが。
「あなた、解放する前に一人一人『威圧』し直したそうですね」
「いや、ほら、完全に忘れてもらおうと思いまして、・・・」
「家から出た時点で全員が便失禁していたです。
おしりがモッコリしていたです。
キョウスケ宅からカゲシト正門方向に茶色い道が出来てたです。
二〇人余りがズボンの中にたっぷりと汚物を蓄え、そのまま全力疾走したのです。
それでも最初はまだ良かったのです。
何人目かが、前の者の汚物に足を取られて転倒したのです。
汚物に塗れ、ショックで嘔吐なのです。
そこに後続が激突してまた転倒、また嘔吐、なのです。
更にその後続が激突と、あっという間に汚物塗れの山が出現したのです」
「僕はフキに呼ばれて駆け付けたんだけど、凄かったよ。
上からも下からも出しちゃいけない物を出しながら、のたうち回ってるんだよ。
あんな光景見たことない。
二度と見たくも無いけど」
「夜目の利かない人族が夜中に全力疾走して転ばない筈がないニャ。
かわいそうだったニャ。
でも、助けるのもやめたニャ。
バッチいニャ」
「とにかくぅ、臭いがぁ、酷かったですぅ。
みんなで水を出してじゃぁぶじゃぶ洗いましたがぁ、とおっても苦痛な作業でしたぁー」
メイド集団からフルボッコです。
「全員が便失禁するまで『威圧』するのはどう考えてもやりすぎです。
しかも、私が到着した時にはあなたは逃亡していました」
別に逃亡なんて、・・・そう言えば売春宿に行ってたな。
「結果から言えば全てが悪かったとは言えないのです。
騒ぎに驚いて顔を出した住民は惨状に驚き、臭気に顔をしかめ、多くが速やかに家に戻ったのです。
汚物集団は住民に問い詰められても返事すらせずに走り去ったのです。
ですので、住民たちに詳細は知られていないのです。
正門の門番たちも問い詰めることなく門外に放逐したのです。
上級貴族の高級使用人もいたですが、本人も名乗らなければ、それに気づく衛兵もいなかったのです。
あの状況では仕方が無いのです」
まー、そんな集団が来たら通しちゃうのかなー。
金目のものを持ち出すって状況でもないだろうし。
逆に入る方向だったら絶対ダメだったかもね。
「奇跡的に大きな騒ぎにならず収まったのですが、一歩間違えば衛兵所から取り調べがあったのは間違いないのです。
それを、我々が隠蔽したのです」
「消臭の魔法はシノっちと私だよ。何か、反論ある?」
シマも目つきが怖い。
「いえ、何もありません。すいませんでした!」
土下座である。
走り去った後まで考えていなかったよ。
「キョウスケさんの家自体もとんでもない臭いだったですニャ。
あんな家に良く今も住んでますね、ニャ」
「フト、無理に語尾にニャをつける必要はありません」
ニャ、・・・なんなんだ?
確かにオレの家は悲惨な状況だ。
貴族向けの一軒家だからそれなりに広いが、中央で二〇人以上が垂れ流したのだ。
水で洗い流したが隅々まで入り込んだ臭いは除去が困難だ。
オレは嗅覚を抑えて暮らしている。
「後で消臭の魔法を教えますので、速やかに臭いを消しなさい。
社会迷惑です」
シノさんの言葉にメイド集団が揃って頷く。
オレは黙って従った。
「ところで、ひょっとしてオレって見張られてました?」
「勿論です。先日も騒動を起こしたばかりですから要注意対象です」
「少なくともこちらに対して悪いことをした記憶は無いのですが」
「悪意が無ければ良いとは限りません。
あなたは下手に能力があるため何をしでかすか分かりません」
「何か酷い言われようの気がするのですが」
「今日は、そんなあなたに手綱を付ける話でもある訳です」
「でも、オレからは何もしていないですよ。
今回の話も仕掛けられて反撃しただけですから」
「あなたは教科書を大量に買っています。
確認できただけで二〇冊以上」
「確かに買いましたが、友人のゲレト・タイジも一緒に買っています。
教科書を買う者は、少ないかもしれませんが、特別でもないと思いますが」
「特別です。
ゲレト・タイジは牙族の留学生です。
知識を故郷に持ち帰る役目を持つ留学生が教科書を購入するのはそれなりにあることです。
ですが、図書館を利用できる国内の学生は高額な教科書など滅多に買いません。
特に金銭に余裕のない者はそうです」
「えーと、結構目立っていたと」
「そうです。
ですが、もっと目立った事があります。
あなたは『青』の学生証を『買った』そうですね」
「ええ、まあ」
「でも、周りには、自分は平民だって、言っちゃってる」
シマが言葉を継いだ。
「ウソを言ったって直ぐにばれるからな。
貴族の教育なんて受けていないし、従者すらいない」
二人が揃って呆れ顔になる。
「学生証を二段階上げるなど聞いたことがありません」
「田舎の下級貴族だとか言い張ってれば目立たなかったのにさ。
にしても、一体、どうやったわけ。
とんでもない大金を払ったって聞いたけど」
仕方が無いので素直に事情を話す。
隠しても多分調べられるだろうし。
「金貨、五〇〇枚って、あんた、バカぁ!
つーか、そんな金額、よく持ってたわね」
怒られました。
美少女の『あんた、バカぁ』、なら許す。
「だって、そうしないと『青』の学生証貰えなかったし」
「それで目ぇ付けられない訳ないじゃない。
しかも家には日雇いの家政婦しかいないって、泥棒さん、いらっしゃーい、でしょ」
言われてみれば、そうだった。
金貨五〇〇枚ポンと出せる奴の自宅なんて、狙われない筈が無い。
水と安全は無料だと無意識に考えてるんだよなぁ、オレ。
「金貨五〇〇枚を簡単に支出する。
それで、キョウスケ。
あなたはあと何枚の金貨を持っていますか?」
シノさんの目つきが厳しい。
「いや、まあ、それなりには、・・・」
「詳しくは話したくないのでしょうが、一つだけ答えなさい。
キョウスケ、あなたは収納魔法を使えますね?」
「あ、ええ、まあ」
嘘じゃない。
亜空間ボックスの他に収納魔法も覚えたのだ。
下位互換なのでほとんど使用していないが、時間経過させた方が良い物はこちらに入れている。
「ああ、そっか。
カゲシトにそんな大金どうやって持ち込んだのかって話ね」
「そうです。
大金の所持者はそれに応じた入市税を払う必要があります。
あなた、脱税です」
う、考えてなかったよ。
都市に入るだけで税金って・・・そう言えば地球でも外国旅行で入国時には大金の持ち込み制限があったっけ。
「今回は、大金は私に預けていたという事にしなさい。
貴族は持ち込み制限が無いのです」
「有難いですが、それは法律的には大丈夫なのですか?」
「所謂、『裏技』です。
褒められた方法ではありませんがぎりぎり合法です。
商人は為替を使用していますので、今後はそれを利用した方が良いでしょう」
「わかりました。お言葉に甘えます」
「そんで、どこで収納魔法、習ったのよ?」
シマちゃんが許してくれません。
「いや、ほら、永遠の霊廟でみんな使ってたから」
「使ってたから?」
「使ってたから、便利だなぁって思って、真似した」
「真似したらできたと、いうわけ?」
「いや、魔法って大体、見て真似して覚える物だろう」
「まあ、それは確かにそうだけど」
「多分、キョウスケはそうなのでしょう」
シマは頬杖突いているが、シノさんは変わらない。
「ですが、皆がそうではないことをキョウスケは認識すべきです」
変わらない表情でお叱りでした。
「ま、私も似たようなとこあるから、分からない訳じゃないけど、あんたが薬づくりで教えるのに手間取ったのが良く分かるわ」
「いや、全部が見ただけでできるわけじゃないってのは理解してるぞ。
例えば『水竜』とか『火竜』とかいうのはなかなか真似できなくて、・・・」
「シノ様、こいつ殺してもいいですかあ?」
赤い髪とピンク色の瞳をしたメイドが、半眼で尋ねる。
胸が結構ある。
ウエスト細い。
好みのタイプ、・・・だが、・・・おっかないな。
「殺してもいいですが、多分、あなたでは殺せません」
「え、そうなの?」
「簡単に始末できないから苦労しているのです。
ゴキブリと一緒です」
「あの、流石に、ちょっと。
私は駆除対象の害虫ですか?」
「あー、今のはシノちゃん特有のギャグだから気にしないで」
シマのフォロー・・・なのか?
「ものすごーく分かり辛いんだが」
「今後は何か仕出かす前に事前に相談しなさい、という意味です」
「すいません、前との繋がりがさっぱー分からないんですが。
あー、と言うか、相談に乗ってくれるという事ですか?」
シノさんは鷹揚に頷いた。
「あなたは極めて特異な存在ですが、敵対状態ではありません。
取り込んで飼いならせば便利な存在になると結論しています。
あなたがこちらにある程度依存した状態になるのが望ましいのです。
ですので、可能な限り頼るようにしなさい」
「すいません。
今、十七つぐらい意味が分からないのですが、僕は歓迎されているのでしょうか?」
「あー、シノちゃんとしては、かなり気に入ってる感じだから、安心してていいよ」
「歓迎しています。
この様に餌付けもしています。
口に合いませんか?」
「はい、とてもおいしい餌付けです」
マジうまいです、ここの食事。
カナンにきてから食べたなかで最もうまいと断言できる。
亜空間ボックス内の弁当よりも上だ。
加えてテーブルに着いているのが美女と美少女、シノさんとシマである。
至福の時間です。
もう、このまま餌付けでいいかも。
シノさんはいつも通りと言うか、体の線がはっきりと分かる細身のパンツスーツである。
シマは意外と普通のお嬢様スタイル、白のブラウスに濃い目の青いスカートだ。
活動量にそぐわない気がするが意外と似合っている。
「それでね、今更なんだけど、二人もみんなも、今後は食事の間に〇んこの話は止めようよ。
どーして二人して平然としてんのかなー、もう」
シマちゃんが静かに怒っていました。
シノさんと二人、謝っておきましたです。
「うん、いや、色々とすいませんでしたが、料理は素晴らしいですね。
全部おいしいですが、特に前菜に出たテリーヌには感動しました」
「今日のテリーヌを作ったのは?」
「はあい、あたしでえす」
ふわっふわした感じのブルネットの子が間延びした声で答えた。
「青魚をスモークしてマリネしてますよね。
それに、リンゴを焼いたものを組み合わせるセンスがいいです。
丁寧に固めてあって、・・・これ、固めるのに一回蒸してますかね?」
「いーえぇ、そのままぁ冷製で固めていまぁす」
「じゃあ、詰めた人のテクニックが凄いんですね」
「キョウスケ、これ、何で固めたのかわかる?」
「え、ゼラチンだろ」
「うん、ゼラチン。良く知ってるねー」
あれ?
何か、ミスった?
「そもそも、テリーヌという言葉を知っていた時点で驚きです」
シノさんがしみじみと呟く。
「えーと、テリーヌ、で、いいんですよね?」
「まあね」
「あんまし、一般的ではないってことかな?」
「うん、うちとフロンクハイトの郷土料理かな。
ゼラチンの作成が難しいから、他では作れないんだよね」
シマが淡々と答える。
「あんた、ゼラチン作れるの?」
「作ったことは無いけど、動物の皮から作るんだよな」
もう、今更だから素直に答える。
「ひょっとして、ここらには膠もないとか?」
「膠は有りますし、使われています。
煮凝りも、煮凝り料理もあります。
ただ、無味無臭のゼラチンを作るという発想が無いようで、血族以外での作成と使用はほぼ有りません。
我々は魔法で生成していますが、魔法なしでの作成は手間暇がかかります。
ゼラチンという存在を知らなければ魔法での精製も困難ですから」
ふむ、だったらオレでもゼラチンは作れそうだ。
「あんた、自分でもゼラチン作れそうだとか考えてない?」
「・・・どうして、分かった?」
「ゼラチン作っても、テリーヌ作れるの?」
「・・・メイドさん、貸して下さい」
「やっぱ、料理はできない訳ね」
「いや、全然、料理できない訳じゃないぞ。
お前よりできるんじゃないか。
ただ、テリーヌとなると専門的過ぎるだけで」
「私、テリーヌ、作れるよ」
絶句だ、シマちゃん意外。
「センフルールの女性は料理を一通り叩き込まれるのが伝統なの。
私も料理当番に入るんだよ。
シノっちもね」
「御見それいたしました」
センフルール女子いいな。
本気でセンフルールというか、シノさん狙いに傾きそうだ。
真面目な話、ナディア姫よりはシノさんの方が脈はありそうな気がする。
つーか、さっきから目の前の白いブラウスに包まれたFカップの水蜜桃が気になって仕方がないです。
問題は、オレが『転化』できるのかどうかってことだ。
その辺りが良く分からん。
ただ、『トリセツ』を信じるのであれば、オレがシノさんやシマと子供を作るのは可能と言う事になる。
「センフルールの女子はレベルが高いですね。
あと、その、私的には、皆、比較的筋肉量が少ないのがポイント高いです」
シノさんやシマは勿論、ここにいるメイドたちもレベルが高い。
シマによればここにいるのは高級メイドで彼女たち自身も月の民の貴族階級であり、それぞれにまたメイドが付いているという。
だが、この屋敷の下働きの人族家政婦も、『比較的』筋肉量が少なく、オレの目から見ても女性に見える女性が多い。
「その分、力仕事が出来る下働きが少ないんだけどね」
シマが自嘲気味に付け足す。
「ひょっとして、筋肉量が少ない女性を優先して採用しているってことなのか?」
「そうです」
シノさんが、なぜか興味深そうに答える。
「センフルールの男性は筋肉量の多い女性を好まない傾向があります。
当屋敷の下働きですが、何かあった場合は、転化させる可能性があります。
その場合は一族の男性に引き受けて貰います。
念のため、血族男性に拒否されそうな女性は採用しないようにしています」
「それは、・・・センフルールの男性全員がそうなのですか?」
「全員ではないけど、・・・元は始祖様の趣味なのよ」
シマが説明に入る。
「始祖様は、帝国建国までは様々な勢力と結ぶために、色々な女性と婚姻したり、子供を産ませたりしてたんだけど、建国後は、『これからは趣味でない女性は相手にしない』って宣言したんだって」
「始祖様の女性基準というのがありまして」
シノさんが紙に数字を書き出す。
「アンダーバストは八〇センチ以下、可能な限り七五以下。
ウエストは、最大七〇以下、可能な限り六五以下で、六〇以下が望ましい。
そーゆー基準です」
「逆に言うと、始祖様は、帝国建国以前は、その基準以上の筋肉系女子とも、頑張って、歯を食いしばって関係していたと、そういうことですか!」
始祖様、苦労してたんだな。
始祖様、地球人だもんな。
そーか、帝国を建国するために、〇〇菊とかマツ〇・デ〇ックスとかとも頑張っていたわけか。
そりゃ、目標が達成されたら、もーいいわってなるよな。
「歯を食いしばっていたかは分からないですが、好みでない女性と交わるに際して目隠しをしていたという記録はありますね」
目隠ししてまで頑張ってたのか!
帝国建国のために身を削ってたんだな。
オレ、目隠ししたら、ブ〇ース・ウイリスのお尻に頑張れるだろうか、・・・ちょっと、自信ないな。
「話を戻しますと、始祖様の女性基準は、人族の筋肉系女子を完全に排除しているのです。
まあ、私が、その、始祖様好みの典型的な体型なのですが」
うん、シノさんが好みか、始祖様、なかなかいいな!
「ちなみに、ヒップの基準は無いのですか?」
「私やシマは小さめですが、始祖様はヒップに関しては、大きいのも小さいのも趣があると話されていたようですね」
「素晴らしいですね!
私も、どちらかと言えば、お尻は小さい方が好みですが、大きくても差支えはありません!」
「あんた、さっきから、何、熱弁してんの?」
何故かシマが呆れ顔だ。
失敬な、始祖様に失礼だろう。
「良くは分かりませんが、キョウスケの女性の好みが始祖様に近いというのは、興味深いですね」
「あー、それは、前にシノさんにお話ししましたが、多分、始祖様と私が『同郷』だからでしょう」
「こいつ、何を言い出したの?
やっぱ、バカなの?」
シマがオレを指さして露骨にディスる。
「ここだけの話ですが、始祖様は、この惑星ではないどこかから時空を超えてやって来たとの伝説があるでしょう」
「あー、でも、あれ、結局、よくわかんないんでしょ?」
「まあ、そうです」
シノさんがシマに答えた後にオレに向き直る。
「キョウスケも少しは聞いたと思いますが、月の民には、『預言者』伝説があります。
センフルールの始祖様に相当する人物が、フロンクハイトやセリガーにもいるのです。
それぞれ、『黄金の預言者』、『麦の預言者』と呼ばれています。
皆、強力な血族の魔導士でした。
そして、それぞれ、このカナンでない惑星からやってきたとの伝説があるのです」
そうか、フロンクハイトやセリガーにもいたのか。
「でも、それ、証拠ないんだよね?」
「そう、本人の証言だけです。
ただ、少なくない預言者が同様な話をしているため、強ち嘘ではないのではないか、とされています」
「それは、知ってるけど、・・・始祖様も晩年はその話はしなくなったって聞いてるよ」
「そうですね。それで、問題なのは、・・・。
キョウスケ、良いですか?」
シノさんに促されて、ちょっとだけ詰まる。
だけど、・・・まあ、いいか。
「あー、シノさんには話してしまったことなんだが、ここだけの話にしてほしいんだが、オレも多分、このカナンという惑星以外からここにやってきたんだと思う。
多分、だが、始祖様と同郷、同じ惑星だと思う」
「何、言い出してんの?証拠は?」
「証拠は全くない。始祖様と同様に、だ」
シマだけでなく、メイド軍団も訝しげな顔になる。
「問題は、キョウスケは血族ではない、と思われる事です。
これまでの預言者は全て血族、人族の言う所の月の民、吸血鬼でした。
始祖様も、『晴天とは空一面が雲に覆われた日の事だ』と主張する程度に血族でした。
牙もありました。
キョウスケは太陽が勢力を誇り、紫外線満載の時間に気持ちいいといいますし、牙もありません」
「・・・意味、分かんない、・・・」
シマがボツリと言った感じで呟く。
まあ、オレもオレが何者なのかよくわからんが。
「血族でない預言者が有り得るのか、という話でもあります。
ただ、キョウスケの能力、セリガーの序列第七位に対抗できる戦闘能力も込みで考えれば、確保しておきたい人材であるのは事実でしょう」
「あのー、そのような話、オレがいない所でやってほしいのですが」
「あなたのいる所でないと意味がありません。
具体的に言いますが、あなたに嫁を世話しようという話です。
うちのメイドたちはどうですか?」
「え、ここにいるメイドさんの中から、ですか?」
改めて見るが、四人とも結構な美形だ。
二人は、ツルペタ・ロリ系列だが、結構な美形。
シノさんやシマ、あるいはナディア姫にはちと劣るが、それでもかなりの美形。
タージョッなんかとはレベルが違う。
と、思っていたら、メイド隊の後ろから、ズズーッと前に出てきた人がいた。
「シノ様、そのお話ですか、本気なのですか?
この男、かなりの変態との話ですが」
「えーと、この方は?」
シマにこっそりと聞く。
「うちのメイド長のミスズよ。
私たちのお目付け役でもあるの」
ほう、メイド長、か。
見た目は、二〇台後半だが、月の民だから、多分もっと年上なのだろう。
「この男、女性に精を注ぐよりも自分で処理する方が好きと公言したと聞きます。
始祖様と同郷という話もどうでしょうか。
少なくとも、始祖様にはそのような変態趣味はありませんでした」
そーか、月の民でも変態扱いなんだ。
でも、始祖様は、・・・ああ、そうか、帝国建国のために身を削っていたんだったな。
多分、オレよりもずっと忍耐強い性格だったのだろう。
ブ〇ース・ブラザーズに両脇からキスされても平然としていられるぐらいに。
「まあ、変態なのは事実ですね。
夜中に素っ裸になって月に向かって吠えるという趣味もあるようですし」
いや、ちょっと、マテ。
「あの、素っ裸だったのは致し方なかっただけで、・・・少なくとも月に吠えてはいませんし、・・・」
「別に責めてはいません。
普通の男なら、一つや二つの変態性癖があって当たり前でしょう」
「シノちゃん、それは流石に、世の男性に謝ろう」
シノさんの微妙な言葉にシマが突っ込む。
「認めるんだ」
「認めるのニャ」
「びっくり、ですわぁ」
「やっぱり変態なのです」
メイド隊からもフルボッコだ。
「あのー、メイドの皆さんは、本当に、オレとの結婚を了承しているのでしょうか?」
「リタは、考えてもいいと言っています」
赤毛の女の子が「ハァイ」と手を振る。
「リタ、十四歳だよ。
多少の変態は気にしないよ。
でも、男は強くないと認めないよ。
ちなみに、Eカップだよ」
十四歳でEカップですか!
「リタは私の異母妹になります。
うちの序列では私とシマに次いで第三位です。
これでもセンフルールに帰れば結構なお姫様なのですよ」
シノさんの異母妹か。
言われてみれば髪の色以外は結構似ている。
シノさんをやや小型にしたシルエットだ。
お尻が小さめで、ウエストも極めて細い
これは、いい!
これは、来ている!
「でも、こちらの貴族みたいに直ぐに肉体関係はナシだよ。
一年ぐらいは婚約期間だね」
あー、さいですか。
そうね、最近、結婚の押し売りとか、美人局とか、直ぐにセックスしろって話ばっかりで麻痺してたけど、これが普通だよな。
「それと、僕と結婚するなら転化するのと、従者も何人か揃えてもらわないと」
「転化は私が請け合いましょう。
相性は悪くない筈です。
ただ、従者は早急に、揃えてください」
あーそうなんだ。
ここでも従者がネックなのか。
どこでも従者だな。
オレが転化できるのかって話もあるけどさ。
あと、人族と月の民の関係からすると、人族社会から月の民社会に移動は可能だが、その逆は不可能だ。
この辺り、慎重に考える必要がある。
「私たちの留学期間はあと少なくとも一年以上、恐らくは三年以上あります。
まずは、ゆっくりと考えてみてください」
シノさんの言葉にオレは静かに頷いた。
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