02-16S モローク・タージョッ 手術に参加してしまう

 キョウスケは鎧下に施薬院の上着だけ引っかけて鷹揚に施薬院テントに入って来た。

 そして、当たり前のように仕切りだした。

 怒鳴る兵士に怒鳴り返して、患部を出させ、あっという間に兵士を三つの列にまとめてしまう。

 軽症、中等症、重症、ということらしい。

 軽症の火傷と言ってもここに居るのは結構酷いけど。

 キョウスケは軽症のグループを薬術科講師の軟膏列に並ばせると、自分は入り口に戻り、そこで緑のお団子になっていたゲレト・タイジを引っ張って来た。

 あたふたしているタイジを中等症の列の前に座らせ、いきなり処置を開始する。

 どこに持っていたのか、大きな軟膏の瓶がドンと置かれた。


「これ、抗生剤とステロイドの軟膏な」


「はい?えっ?ステロイロ?」


 タイジが長さの違う耳を痙攣させている。


「いいか、まずは患部をよく洗う。

 そこの水でもいいが、衛生面から最後は魔法で出した水が良い。

 その後、この軟膏を塗りつける。

 丁寧に塗ったら、ガーゼを当てて包帯を巻いて終わりだ」


 説明しながら流れるように処置が終わる。


「最後に鎮痛剤と抗生剤を一回分飲ませておけ」


 キョウスケはこれまた、どこからか薬の瓶を取り出すと、ダナシリに渡した。

 そして、直ぐ、次の患者に取り掛かる。

 今度は、ほとんどをタイジにやらせ、三例目はタイジとダナシリに全部やらせてしまった。


「じゃあ、この列は頼むな」


 涙目で処置を続ける牙族二人を後に、本人は重症の列に座る。


「タージョッ、そっちに魔獣の代用皮膚があっただろう。持ってきてくれ」


 こいつ、何時の間に、そんなものがあると知ったんだろう?

 そう言えば一昨日、一瞬、ここに来ていたって話だったけど。

 大体、こんな高級材料を勝手に使って良いのだろうか?

 そう、思いながらも私は何となく指示に従ってしまった。

 キョウスケの前にいる患者の火傷は酷い。

 皮膚が剥げ落ちて筋肉が露出している。

 見るだけでつらい。


「じゃあ、麻酔するからな」


 キョウスケがそう言って患者の上腕に触る。

 その途端、患者の顔が柔らかくなった。

 って、今、麻酔かけたの?

 呪文は?

 良く分からないうちに処置が始まっていた。

 キョウスケは指先から出した水で患部を洗い、メスとピンセットを器用に操って傷をきれいにしていく。

 そして、これまたどこからか取り出した大瓶のドロっとした軟膏で筋肉の欠けた所を埋めていく。

 聞いたら、『筋肉補充剤』だという。

 そんな高級な薬、どこから手に入れたのだろう?

 つーか、どこから取り出したのだろう?

 足元の鞄からだとは思うけど、こんな大瓶が入っていたようには見えない。


「タージョッ、代用皮膚を切ってくれ」


「切るって、何を、どーするの?」


「傷の大きさを見て、やや小さめに切ってくれればいい。

 大体でいいんだよ。

 美容形成じゃないんだから」


 まごついていたら、私の手元から代用皮膚を取り上げて、はさみで簡単にカットしてしまった。


「おい、次からは、頼むぞ。

 つーか、グローブしてないのか?

 はやくグローブぐらいしろよ。

 グローブ魔法ぐらい習ったろう」


 良く見たら、コイツ、何時の間にか、両手にグローブをしていた。

 何時、付けたのだろう?

 私は、慌ててグローブ粉を取ってくると、呪文を唱えて両手の表面に広げグローブにする。

 グローブ粉は医師の両手を守り清潔を維持する手袋を作るため専用に調整された粉だ。

 私は一分ちょっとでグローブの形成が終了した。

 我ながら上出来だと思っていたら、「遅い」と怒鳴られた。

 見たら、キョウスケは一瞬でグローブ形成が終わっていた。

 両手を一振りしたら汚れたグローブが消え、もう一振りしたら新しいグローブに成っている。

 えーと、グローブ粉は?

 見れば代用皮膚の圧着が終わっていた。

 長さ十センチ、幅五センチほどの代用皮膚。

 前に見学した時は、同じぐらいのの圧着に小一時間掛かっていたような、・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・もう、どーでも良くなってきた。


 それから私は、ひたすら代用皮膚を切ることになった。

 局所麻酔をかける。

 患部をきれいにして筋肉補充剤で埋める。

 代用皮膚を圧着する。

 保護のワセリンを塗り、ガーゼを当てて包帯を巻く。

 麻酔を解除して、鎮痛剤と抗生剤を飲ませる。

 キョウスケは何時の間にかそこらの兵士をリクルートしていて包帯巻きまでやらせていた。

 一時間と半ばで八人いた重症火傷の処置は終わってしまった。

 馬鹿みたいな速さだ。


 何時の間にか施薬院テントはとても静かになっていた。

 薬術科講師の女性が何とも言えない表情で、ちらちらとこちらを見ている。

 彼女の処置はまだ終わっていない。

 私がすっかり終わった感じになっていたら、バフシュ講師と話していたキョウスケが戻って来た。


「手術をやるぞ。そっちの左腕の患者だ」


 ハイ?

 手術?

 誰がするの?

 って、まさか、あんた、メインで執刀する気なの?

 キョウスケは、ゲレト・タイジの所に行くと、残っていた処置を終わらせてしまう。

 そのまま、タイジとダナシリに指示を出し始める。

 私も当然のように動員された。

 患者を手術台に運んで寝かせる。

 これは兵士たちがやってくれた。

 キョウスケは当たり前のように兵士に指示を出す。

 兵士たちは何も言わずに命令に従っている。

 これ、なんだろう?

 命令に従っているのは私も同じだ。

 何で、私、コイツの指示に従ってるんだろう?

 そう、思っていたら、また、理解できない事件が起きた。

 アイツが、患者に全身麻酔をかけた。

 いや、気が付いたらかけていた。

 何、これ?

 って、これ、本当にかかっているのだろうか?

 試しに突いてみたが全く反応が無い。

 ・・・・・・・・・おかしい?

 ちょっと、待って、・・・・。


 全身麻酔魔法の難易度は局所麻酔の何倍もある。

 教科書に載っている基本は『九段階法』で、九つの魔法を順番にかけて完全麻酔を成立させるものだ。

 普通は、一時間以上かかると聞いている。

 上級者になると、魔法を合併してかけることで、七段階法、五段階法、三段階法と数が少なくなり、時間も短くなる。

 究極とされる全身麻酔を一段階でかける魔法の使い手は、施薬院全体でも十人ほどだそうだ。

 つーか、アンタ、今、呪文唱えてなかったと思うんだけど?

 そう考えているうちに手術は始まっていた。

 キョウスケが手術をやるぞって言ってから十分ぐらいしか経っていない。


「左上腕の粉砕骨折だ。

 上腕を切開して開放の上で、骨片の除去と上腕骨の修復、及び挫滅筋層の整復を行う」


 宣言と同時に、メスが入る。

 筋層をより分けて引っ張って、骨を出して、砕けた骨片を取り除く。

 欠損した骨を魔獣由来の代用骨で補う。

 よどみなく手術が進む。

 骨を繋いでいる途中でバフシュ講師がやってきた。

 自分の手術が終わったのだろう。

 何も言わないまま、じーっと手術を見ている。

 薬術科の講師も処置が終わったらしく、やって来て、じーっと見ている。

 恐らく私の顔は青くなっているだろう。

 でもキョウスケは、周囲の視線を感じていないらしい。

 そのまま手術を終えてしまった。

 途中でバフシュ講師に手助けを頼むのかと思ったけど、そんなことも無く終わってしまった。

 これって、結構、上級の手術じゃないのだろうか?


 戸惑っていたら、バフシュ講師が、「大物をやる」と言い出した。

 最初に運び込まれてそのまま放置されていた両足の潰れた平民の兵士だ。

 びっくりした。

 なにがって、両足が使い物にならないどころか、命も危ないと思われていた兵士をバフシュ講師が手術するって言い出した事。

 重症過ぎて、平民で、手術する価値は無いって判定されていた兵士だ。

 そして、足の片方がキョウスケと私たちに丸々任されてしまった事。

 バフシュ講師が兵士に全身麻酔をかける。

 これまた、数分だ。

 だが、キョウスケは当たり前の顔をして手術の準備に取り掛かっている。


「また、太っとい足だな。こりゃ、より分けるのが大変そうだ」


「兵士の足なんて、みんなこんなもんだぞ」


 キョウスケのボヤキにバフシュ講師が答える。

 二人は、そのまま軽口を叩きあいながら手術を開始した。

 恐らく、柱か何かが彼女の両足の上に倒れたのだろう。

 兵士の太ももは左右公平に潰れている。

 手術においてはシャイフ伯父を凌ぐとさえ言われるバフシュ講師。

 だが、それに負けない速度でキョウスケは処置を進めていく。

 その様子を残り二人の講師が呆然とした顔で見つめている。

 もう、悔しさとか羨ましさとかどうでも良くなってきた。

 コイツは明らかに違う。

 夢中で手伝っていたら、手術はもう終盤に成っていた。


「お願い、一回だけやらせて」


 思い切って言ってみたらキョウスケはあっさりと許可してくれた。

 骨の圧着、簡単にやっていたように見えたけど自分でやってみたら全然できない。

 焦っていたら、キョウスケが手を副えてくれた。

 あっさりとできた。

 今のは、何?

 キョウスケが一瞬私の中に入って来た気がした。

 コイツは何をやったのだろう?

 理解できないのだけれど、恐らくは、私のマナを制御して魔法として組み立てた、のだと思う。


「今の感覚を覚えとけば、次回から一人で出来るよ」


 あっさり言うけど、これ、とんでもないかもしれない。


「じゃあ、オメーらも、やってみるか?」


 キョウスケと私のを見ていたバフシュ講師が他の学生に振った。

 それからは学生たちがメインで筋肉の整復や皮膚の縫合が行われた。

 バフシュ講師とキョウスケが指導役だ。

 学生達が興奮した割に手術のスピードは遅かったけど、終わった時にはみんな満ち足りた顔をしていた。


「大腿骨粉砕骨折の整復手術って、これ、Aクラスの手術の補助ということで申請していいんでしょうか?」


「まあな」


 上級生の質問にバフシュ講師が鷹揚に答える。

 バフシュの補助をしていた学生たちが手を取り合って喜んでいる。

 これって、つまり、私たちもポイント付くってこと?

 施薬院入講三か月でAクラス手術の補助なんて聞いたことない。


「いろいろと話すことはあるが、明日だ。今日は寝るぞ」


 バフシュ講師の言葉に気付いてみれば、深夜零時を回っていた。

 分かった途端、ドーっと疲れが押し寄せてくる。

 自分のテントに戻ろうとして、ふと、キョウスケたちはどうするのかと、気が付いた。

 彼らは自護院で参加していたから昨日まではそちらで寝ていたはずだ。

 自護院に戻るのかと思っていたら、施薬院付の兵士たちが新たにテントを立てていたことが分かった。

 それもキョウスケの方は簡易ベッドまで作られているという。

 何、このVIP扱い?

 しかも、キョウスケのテントの前には女がずらりと並ぶ。

 薬術科講師まで並んでいるのはびっくりだ。

 何でコイツ、こんなにモテてんだろう?

 妙に、むかつく。

 ところが、驚いたことにアイツは居並ぶ女性たちをスルーして一人でテントに入ってしまった。

 何が何だか分からない。

 テント前で並んでいた女性たちは驚きと屈辱で顔が歪んでいる。

 ・・・ここまで非常識なヤツだったとは、・・・。


 その夜、私は従者と二人、ダナシリから借りたカイロを握りしめて耐えた。

 ダナシリはゲレト・タイジのテントに行ってしまったのだ。

 その夜は、全く眠れなかった。


 次の日、現地実習最終日は、自護院の上級魔導士の魔法実演がメインだ。

 ファイアーボールとか、ライトニングボルトとか、至近距離で見たのは初めてだった。

 カゲシトで暮らしている貴族なら普通は見ないだろう。

 母や祖母は武芸大会でしか見た事無いと言っていた。

 多分、私の兄弟も同じだろう。

 上級魔導士が短縮詠唱でバンバン魔法を撃つ。

 もの凄い威力だ。

 闘技場の観客席から見るのとは全然違う。

 この実演は兵士が魔法に慣れるため、ということだけど、確かに必要だと思う。

 知らずに横で発射されたらパニックになりそうだ。

 実演の後は、実習の総評になったけど、何故かアイツが最優秀になっていた。

 次席がゲレト・タイジだ。

 ショウガブツカン魔法だかを成功させたとか何とか。

 良く分からないけど、二人とも上級魔導士を目指して修行するように言われていた。

 上級魔導士って正魔導士より上だ。

 って、今さっき、魔法を実演していたのが上級魔導士だ。

 アイツ、多分、今の時点で上級魔導士並なんだろう。

 表彰式の後は、兵士たちに揉みくちゃにされていた。

 タイジも何人かいた牙族兵士に声を掛けられていたけど、キョウスケは大量の女性士官からの熱烈なお誘いを受けていた。

 すっごく奇麗な筋肉の人もいて上着を脱いでアピールしてたけど、キョウスケは関心が無い様で早々に切り上げて施薬院側に戻ってきてしまった。

 贅沢な奴というか、女性に対して失礼だと思う。


 夕方からは鎮痛剤の製作講義になった。

 何故か、キョウスケが教える側で、バフシュ講師が教わる側だ。

 特殊な薬とかで私とタイジ達も教わることになる。

 作れるようになれば、かなりのお金になるらしい。

 特別に、とか言ってるけど、ホントだろうか?

 大体、『エンショー』ってなによ?

 サイトカン?

 サイトカイン?

 もう、何が何だか分からない。

 文句を言ったら「こないだ貸してやった教科書にも載ってただろ」とか言われた。

 立て続けに色々と質問されて何も答えられない。

 もっと勉強しろよ、とため息をつかれた。

 私が、勉強不足って!


「モロークは入講三か月にしては知識がある方だぞ」


 バフシュ講師が庇ってくれたけど、恥ずかしさと悔しさで息が出来なくなった。

 そして、私が良く分からないのに、キョウスケは実際の薬剤製作を始めてしまう。

 私は二回やっただけでマナが尽きた。

 バフシュ講師はともかく、タイジが何回も繰り返しているのはショックだ。

 ダナシリですら三回、私よりも上だ。

 結局その日のうちに薬剤作成に成功したのはバフシュ講師だけだったけど。


 なんだかんだで、一日、隣に居たせいか、キョウスケとは少し打ち解けた感じにはなっていた。

 夕食後、テントに入る時間に成ったら、キョウスケが自分のテントに来ないかと誘ってきたのだ。

 これは、朝に説教した甲斐があったのかとも思ったけど、いざ誘われたら足が震えた。

 キョウスケに秋波を送っていた女性は数十人はいた。

 その中から私が選ばれたのだ。


 それまでにも何度か男性に誘われたことはあった。

 試験前日に偶然遭遇しただけで誘ってきたシャハーンは別にしても、まともな男性から誘われたこともある。

 だが、一度も応じたことは無かったから経験はゼロだ。

 しかも、出先で何日もテント生活だから、お世辞にも身ぎれいとは言えない。

 躊躇っていたら、ダナシリが「頑張って」と言ってきた。

 侍女のコニも「悪くないと思います」と言う。

 意を決してテントに入った。


 テントの中が妙に明るい。

 床と言うか地べたに何故か穴が、・・・水が溜まっている。


「ちょっと、あんた、何やってんのよ。テントの中に水溜めるって?」


「水じゃねーよ、お湯だ。

 さっき、しばらくしたら来てくれって言ったと思ったんだが。

 まー、そーゆーことで、オレ、これから風呂に入るから、小一時間待っててくれるか」


 風呂?

 実習先の野外のテントの中で風呂?

 確かにコイツのテントは講師用の大きなテントだけど、中に風呂を掘るって、・・・。

 妙に、小ぎれいだったのはこれか?


「あんた、まさか、毎日、風呂に入ってたってわけじゃないでしょうね?」


「あのなー、こっちは自護院の実習にも出てたから体中ドロドロなんだよ。

 風呂ぐらい、いーじゃねーか」


「いや、いーも何も、あんた、コレ、まさか魔法でお湯を張ったの?」


「そりゃ、そうだ。こんなの従卒に頼むのは迷惑だろう」


「って、穴は?」


「うん、普通に掘ったぞ、魔法で」


 呆れた。

 見れば、風呂の壁面はきれいに固められていて、洗い場には排水口、周囲には防壁まである。


「あんた、何、マナの無駄遣いしてんのよ。

 こんなことして、仕事できなくなったらどーするつもりなの?」


「いや、オレ、お前の数倍仕事してるから。

 余ったマナをどう使おうと個人の勝手だろう」


 確かにコイツ、仕事はしてる。

 言い返せなくなってしまった。

 黙って睨みつけていたら、目を逸らされた。


「あー、ひょっとして、お前、風呂に入ってないのか?」


 当たり前じゃない。

 悔しいけど、言い返せない。

 そうだ、私には余ったマナなんて無い。

 そもそもこんな量の水を魔法で出すなんて、何時間もかかるだろう。


「あー、なんだ。良かったら、先に入るか?」


 戸惑っていたら、キョウスケは、さっさと、石鹸にタオル、更にはバスタオルまで用意してしまう。

 そして、「小一時間外を見てくる」と言って、そのまま出て行ってしまった。


「せっかくだから、入りませんか?」


 呆然としていたら侍女のコニの指摘で我に返った。

 服を脱いで風呂に入る。

 二人で洗い合ったけど思った以上にドロドロだった。


「彼、平民って事でしたけど悪くないですね」


 湯船に浸かっていたら、侍女のコニがボソっと言った。


「自護院実習では最優秀ですし、手術も上手です。

 この風呂を見れば魔力量もかなりのものでしょう。

 下手な貴族より、出世するんじゃないですか。

 タージョッ様のお相手としては、かなりいいと思います。

 何より見目が良いですし」


 私は黙って頷いた。


「今夜は、頑張りましょう。私も交ざっていいですか?」


 この子、キョウスケとしたいだけじゃないかと思ったけど、私は初体験だ。

 私は承諾すると、二人でいそいそと準備を始めた。


 そういうことで、アイツが帰って来た時には、それなりの準備が出来ていた。

 髪はコニが丁寧に洗ってまとめてくれたし、服はちょっとだけ薄着にした。

 このテントは暖かいから裸でも大丈夫なぐらいだけど、若い男性相手ならチラッと見える程度がいいってコニが言ったからだ。

 そんなんで、メチャクチャ緊張して待っていたのに、帰ってきたアイツは私達を無視して風呂に入ってしまった。

 お湯を浄化して、仕切りの腰壁をぐっと上げて、手際よくさっさと入った。

 イライラしながら待ってたら、私たちのとの間の仕切りの壁が解除されて、・・・風呂もお湯も石鹸も無くなっていて、・・・テーブルがありました。


「ナニコレ?」


「いや、机無いと出来ないじゃないか。

 ああ、椅子は面倒だから掘り炬燵形式な。

 足元には、熱源を入れといたからあったかいぞ」


「いや、だから、テーブルって?」


「え、薬剤作製の続きだよ。

 お前、あの調子じゃ一生できないから集中特訓ってことで」


 それから一晩中、薬を作った。

 私のマナはとっくに尽きていたのだが、アイツが私の手を通じて薬を作り、その感覚を覚えろって事らしい。

 いや、確かに、最初にそんなことも言っていたような気もするけど、・・・まさか、本当にそれだけって。

 一晩中、薬の勉強って、なに?

 私が間違ってたの?

 コニは不貞腐れて寝ちゃうし。

 もう、何なのよ!

 ・・・・・・・・・・いや、コイツはこーゆー奴なんだろう。

 変な期待をした私が馬鹿だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る