02-15 自護院練成所遠征実習(三)

 模擬戦は防御側の勝利で終了した。

 後片付けも訓練らしいが、オレとタイジはダッシュで施薬院開設の救護所に向かった。


 着いたら、そこは戦場だった。

 負傷者が殺到している。

 大半は軽症だが、ファイアーボールで大火傷とか、城壁から落ちて骨折とか、重症もそれなりにいる。

 バフシュ・アフルーズ医療魔導士殿ともう一人の施術科医師はそれぞれ学生一人と数人の従卒を助手にして手術に入っていた。

 特別な手術室は無くて、手術しているのが横から見える。

 野戦病院って感じだ。

 薬術科の講師と残りの学生二人が軽傷の処置を行い、ダナシリとタージョッがその周りをうろうろしていた。


 ざっと見て、手術待ちで並んでいる者を整理する。

 タイジにはダナシリを補助に付けて『軽めの二度』程度の火傷を割り振った。

 オレは『二度後半』から『三度』の火傷を担当する。

 タージョッが助手だ。

 酷い火傷には魔獣の皮膚を材料にした代理皮膚を張り付ける。

 初めての処置だが、まあ、数回やれば慣れる範囲。

 しばらく処置を続けたら、重症熱傷はいなくなったので、骨折手術を手伝う事にする。

 バフシュ講師は胡乱な目つきで、許可してくれた。

 タイジ、ダナシリ、タージョッを助手に、兵士の骨折処置に取り掛かる。

 いろいろと面倒なので、まず全身麻酔をかけてしまう。

 こちらの全身麻酔は地球より簡単でリスクも少ない便利技術だ。

 粉砕骨折だが、骨が欠損した部位は事前処理された魔獣骨片で埋めた。

 マナで固定すれば立派な骨になる。

 なんか、スーパードクターになった気分だ、・・・こちらでは普通なんだろうけど。

 途中からアフルーズが後ろに立っていたが、特に何も言わないままに手術は終了した。


「大物をやる。オレが左をやるから、お前は右をやれ」


 終わった途端にアフルーズ先生からのご指名が入った。

 患者は男性士官、だと思う、で、両足大腿が潰れている。

 アフルーズの助手は上級生二人。

 オレの助手は相変わらずの三人だ。

 基本やることはさっきと同じ。

 ただ、今回は大柄な男性の大腿部だから筋肉層が厚い。

 地味に大変である。

 バフシュ講師は、流石に早い。

 オレの三割り増しぐらいで早い。

 流石である。


 処置が全て終わった時には、時刻は深夜零時を回っていた。

 オレとタイジも部屋、というかテントを貰ってそこで休むことになった。

 簡易とはいえベッドが当たるのは有難い。

 アフルーズは上級学生の一人と二人の従者を引き連れてテントに入っていく。

 タイジはスタイ、ナムジョンに加えてダナシリまで引き連れてテントに入った。

 他の男性たちも似たような感じだ。

 一人でテントに引き籠った男はオレだけだったと思う。

 ちなみに、テントの前にズラーっと並んでいた、欲望に塗れたギラギラした目付きの集団は無視した。

 ・・・エロどころか、恐怖しか感じないよ。

 しかし、・・・君たち、こんな日でもすることするの?

 ・・・してるようだった。

 聴力が良いのも考え物だと思う。


 ところがだ。

 今回はこれで終わらなかった。


「あんた、男性機能不能説が流れてるけど、ホント?」


 朝食の席でタージョッが叫ぶ。

 ・・・むせた。


「ちょっと待て。突然何なんだよ」


「あんた、この遠征に出てからずっと一人で寝てるって話になってるわよ。

 女性兵士や下士官からの誘いやお願いを全て断ってるって。

 それ、マジ?

 昨日も一人で寝てたみたいだけど」


「いや、確かにずっと一人で寝てたよ。それが悪いのか?」


「ウソ!」


「あーでも、タージョッさん、キョウスケは結婚していないからしかたが無いんだよ」


 タイジがフォローに入る。


「だからって、あれだけ誘われてて、それを振り切って一人で寝るって、・・・あんた、本当に男なの?

 性欲が無いの?

 おかしくない?」


 まさか、年下の女の子に性欲が無いのとか聞かれる日が来るとは、おじさん、思いもしなかったよ。

 オレから見れば君たちは色情狂だよ。

 どーして、そんなにやりたいのかね?


「タージョッさん、その、あの、カゲシトでは、その、男女間の性的な接触がかなり自由な感じですが、私たちの部族では、そのような行為は決められた相手とのみ行う事でした。

 キョウスケ殿の故郷もそうだったのだと思います」


 タイジに続いてスタイが応援に入ってくれた。


「まあ、スタイが言ったように、オレとしては不特定多数の女性と、そーゆー関係を持つのは抵抗があるんだよ。

 女性兵士というか、筋肉もりもりの女性は、あまり好みじゃないってのもあるが」


「そんなんじゃないわよ。

 三日も四日も女性無しでいられる成人男性なんておかしいじゃない。

 精液溜まり過ぎてパンパンになっちゃう。

 普通なら体がおかしくなっちゃうはずよ!」


 タージョッ君、興奮しすぎだ。

 貴族令嬢として『精液溜まり過ぎてパンパン』なんて言葉、後で気が付いたら悶え死ぬぞ。

 死なないのか?

 つーか、オレの方が顔赤いよ。


「え、キョウスケって、筋肉のある女性は好みじゃないの?」


 こっちはこっちで変なカラミをしてくるな。


「牙族では、女性は筋肉がある方がモテるよ。

 どーゆー筋肉がいいかって話は多々あるけど」


「いや、多少は筋肉があった方がいいとは思うし、筋肉が多い女性を好む男性がいることも知ってる。

 ただ、オレの趣味としては、筋肉ガチガチというのはちょっと」


「ちょっと、待ってよ。

 人族でも筋肉系の女性ってかなり人気だよね。

 クロスハウゼン・ガイラン・ライデクラート坊官なんて美人で有名だし」


 むせました。

 吹きました。

 噴射しました。

 ・・・我ながら悲惨です。


「ちょっとー、何なのよ、もー、汚いわねー」


 悪い、タージョッ、本当に悪い。

 オレって呼吸してたのか、酸素呼吸、・・・してたんだな。

 実感。

 いや、すいませんです、みなさん。

 しかし、・・・。


「ごめん。想定外の所で変な名前を聞かされたんで、・・・その、・・・」


「想定外って誰?」


「いや、だから、クロスハウゼン・ライデクラートとか言ってたような、・・・」


「言ったよ。最近のカゲシトで美人って言ったらクロスハウゼン家って聞いたけど?」


「そうなの?」


「そうなのって、違うの?」


「ううん、違わない」


 タイジの質問にタージョッが答える。


「最近の社交界では美人って言ったらクロスハウゼン家って感じね。

 女性的な美人の筆頭が現クロスハウゼン家当主の娘で、宗家に嫁入りしたデュケルアール様。

 凛々しい感じの筋肉系美人がクロスハウゼン家当主の第三正夫人になったガイラン家出身のライデクラート様。

 この二人が同い年で親友。

 それぞれタイプの違う美人として有名よ」


「クロスハウゼンの美しき双璧と呼ばれていますね」


 ちょっと、待った。

 スタイくん、双璧って、・・・いや、確かに壁というか石垣だったけど、・・・。

 なんか色々とショックだ。

 ライデクラート隊長が美人?

 いや、イケメンではあるよ。

 でもさ、宝塚の男役どころじゃないよ、あれ。

 オールブ〇ックスのフルバックだよ。

 この国というか、この世界というか、ともかく美意識がかなり違う気がする。

 オレ、ダメかもしんない、・・・。

 いや、ちょっと、待て。


「そのライデクラート様じゃなくてもう一人の方は、どんなタイプなのかな?」


「デュケルアール様ね。

 清楚な感じで、もう直ぐ三〇歳って話だけど、二〇歳ぐらいにしか見えない方よ。

 顔立ちもきれいだけど、スタイルもすごくいいの。

 二人も子供を産んだとは思えないウエストね」


 逆立ちしても勝てない、とタージョッがため息をついた。


「子供まで美人なのよ」


「へー、そうなんだ。美人の子供となると、もう結構、大きいの?」


 もうすぐ三〇歳の娘って、何歳だ?


「私と同い年よ。

 今、十四歳。

 悔しいけど美人で頭が良くて、魔力はカゲシンでも有数なの。

 彼女、十三歳になる前に施薬院の入講資格を取っちゃったのよ。

 美人で天才なんて、うらやましすぎて涙が出るわ」


 あれ?


「ひょっとして、その娘というのは、ネディーアール様かな?」


「そうだけど、知ってるの?」


 キター、オレ様、復活。

 いやー、そーだよねー、美人の基準が石垣だけってわけじゃないよねー。

 ナディア姫の母親ってシノさんが美人って言ってたGカップだよね、うん。


「あー、うん、何だな。

 オレの女性の趣味は、デュケルアール=ネディーアール系なんだよ」


「って、あんた、たった今まで、デュケルアール様のこと知らなかったでしょ」


「いや、ネディーアール様は知ってるから。

 あとライデクラート隊長も」


 特にあまり知りたくない方をより良く知ってしまっていますです。


「ふーん、良く分からないけど、キョウスケはナムジョンよりもスタイ、スタイよりもダナシリが好みってこと?僕は、女性は色々なタイプがいた方が良いと思うけど」


「いや、タイジの趣味には口を出す気はないよ。

 女性の好みはその男性によりけりだろう。

 まあ、いろいろなタイプの女性がいた方が良いっていうのは、同意するけど」


「ふーん、じゃあ、タージョッさんはキョウスケの好みのタイプなんじゃないの?」


 タイジくん、君、何を言ってんのかな。

 BカップとGカップが同じタイプって、有り得ないだろ。

 子猫と虎が同じタイプって話だぞ、それ。


「ま、まあ、あんたの女性の趣味は置いといて、あんた自身の事よ。

 三日も四日も女性無しって、あんた、やっぱり不能?

 それとも何かの病気?」


「いーだろう。人のことだよ、ほっといてくれよ」


「だから、私は、あんたが病気じゃないかって心配してるのよ。

 病気なら治ることもあるし」


 これ、そんなに追及すべき話題か?


「だからぁ、時々は、その、自分で処理してるから。男性機能は問題ないんだよ」



 なんか、ピシッと音が聞こえた気がした。



「キョウスケ、それ言っちゃダメ。

 それ、やっちゃいけない。

 そんなことしていいのは、せいぜい成人前までだよ。

 いや、そんな非道徳的な事、成人前でも普通は無いよ」


 タイジが辺りを気にしながらコソコソと話しかける。


「あんたねぇ、世の中に男性は少なく、女性は多いの。

 男性の精液が滅多に当たらない女性も少なくないのよ。

 そりゃ私みたいな成人前や成人しても結婚後の女性は別として、フリーの女性は少なくないの。

 特に、ここにはたくさんいるじゃない!

 貴族の、優れた遺伝子を持つ男が精液を無駄に捨てるって、精霊の教えに反する行為よ。

 まして、あんたみたいな魔力持ちが精液を無駄に捨てるって。

 男性の精液に含まれるマナは女性にとって魔力補給で大きな意味を持つってこと、知らない訳ないでしょ?」


 十四歳の女の子がセーエキ、セーエキって連呼するのはいいのか?

 それとも、何だ、これが、こっちの世界の常識ってやつなのか?

 断固、抗議し、・・・ちゃって良いんだろうか?

 まずい・・・かも知れない、・・・。


「いや、ほら、オレ、平民だから、そこんとこ良く分かんなくって」


「そういや、そうだったね。キョウスケって無茶苦茶ド田舎の出身って話だったね」


「あー、あんた『青』だから忘れてたわ。

 でも、施薬院で医者やってくんなら、最低限の常識くらい覚えとかないと、とんでもない事になるわよ」


「そんなにとんでもない事なのか?」


 タージョッとその従者、タイジ、スタイ姉妹、全員が一斉に大きく頷く。


「おう、お前ら、朝から大声で何やってんだ?」


 バフシュ・アフルーズ医療魔導士殿が従者を連れてやってきた。

 施薬院関係者の食事は同じ場所で提供される。


「あー、先生。聞いてください。こいつったら、・・・」


 あー、あー、ってタージョッ君。

 何を言いつけてるのかな。

 食堂の従卒が朝食を並べていく。

 何で講師と一緒に朝食をとることになってんだよ。


「ふーん、あー、そうか。あー、なんだ、オレは他人の性癖には口を出さない主義なんだ」


 タージョッの偏見だらけの説明を聞き終わったアフルーズは生暖かい視線をオレに送りながら言った。


「いや、何だったら、『男一人愛同盟』ってーのがあるから紹介してやってもいいぞ」


「え、まさか先生もそんな趣味が」


「早とちりすんじゃねぇ!」


 アフルーズがタージョッに偉い勢いで反論する。


「いろいろアウトローと言われる俺様でも、流石にそこまでの変態趣味はねえ。

 そーゆー趣味の奴らを知ってるってだけだ」


「あのう、人族ではそんな趣味が蔓延しているのですか?」


「してるわけねーだろ。

 そんな極め付きの変態野郎がそんなにいてたまるかよ。

 あくまでも極一部の話だ」


「ですよねー」


 タイジ君、友人を極め付きの変態みたいな目付きで見るのは止めよう。

 ファイアーボール教えてやったじゃないか。


「しかし、なんだ。キョウスケと言ったな。

 お前、何なんだ。

 ド田舎の平民出身って、そんな変態、じゃなくて、一風変わった性的伝統のある所で育って、それであの手術の腕か。

 とんがり過ぎだろう。

 取りあえず、その性癖、直せとは言わんが、隠した方がいいと思うぞ」


「先生、もっと、ちゃんと」


「あー、そうだな。

 何つーか、独身女性がこれだけ居るところで、それを無視するってーのは、女性陣全員から反発を喰らう。

 ここにもまだ相手のいない女がいるじゃないか」


 先生、それ、タージョッさんのことでしょうか?

 この子、いいとこのお嬢さんですよ。


「先生、私、まだ成人してません」


「おお、そうか、すまん」


「でも、捨てるぐらいなら、貰うわ。

 口で飲むだけでいいんなら、マナ回復になるし」


 ・・・また、吹きました。

 今度は幸い、ナプキンで押えました。


「何やってんの、あんた」


 何やってんのじゃなくて、ですね。

 あの、タージョッさん。

 そんな、口で飲むだけって、さらっと言わないで下さい。

 もう少し恥じらいというか、少しぐらい顔を赤くしてもいいんじゃないかなぁ。

 ・・・いや、タージョッはそれなりにかわいいよ。

 シノさんみたいに女には成っていないし、シマちゃんやナディア姫に比べたらツーランクぐらい落ちるけど、・・・貴族女性では平均ちょっと上ぐらい?

 中学生なら、クラスで二番目ぐらい、・・・決して一番のレベルではない。

 石垣兵士軍団よりは一〇〇レベルぐらい上だが。


「話は聞いたわ。

 いくら何でも若い男が口だけで満足できるわけないじゃない。

 ねえ、坊や、今夜はお姉さんがいろいろと教えて、あ・げ・る」


 上級生の一人に後ろから抱き付かれた。


「おう、そうか、聞いてたんなら話は早い。

 一応言っとくが、こいつは平民だからな。

 あと、ちょっと変態だ」


 まて、変態は確定なのか?


「平民と言っても、この子の手術の腕があれば喰いっぱぐれないでしょう。

 うちも大した貴族じゃないし、まずはマナの相性みとこうかなと。

 ついでに先輩として変態の治療も」


「それはもっともだな」


 なにが『もっとも』なのだろう?

 誰が誰の変態を治療だよ。

 タージョッと上級生が睨み合ってる気がするのはなんでだ?

 変な汗がタラーりと流れる。

 俺の体は汗を必要としないはずだが、精神的な影響だけで汗が流れるってーのはどーなんだ?

 いや、それよりだ。

 この人、やたらと胸を押し付けてくるけど、レベルワン、だよね。

 攻撃力かなーり低いです。

 確か、そんなに足も長くなかったし、・・・。

 タージョッはBカップあるよね。

 いや、Bカップの攻撃力も知れてるけど、レベルワンよりは上だよね。

 つーか、この人、何時までくっ付いているんだろう。

 この状況で振り払うのもためらわれる。

 ひきつっていたら、薬術科の講師がやってきて上級生を引きはがしてくれた。

 助かったと思ったら、「私の部屋に来てもいいのよ」と耳元で囁いて行く。

 げっそりだ。


「うん、これだけ誘いがあるんだから、今夜は誰か呼ぶか行くかしろよ」


「あ、はい、善処いたします」


 もはや全面降伏だ。

 つーか、なんで『自分で処理した』ぐらいでこんな事になってんだろう?



「しかし、そんなんで今まで良く施薬院でやって来れたな。

 お前、どこの教室だ?」


「教室、ですか?」


「おい、まさか教室も知らんのか?」


「先生、ここにいる私を含めた四人は十月の入講です」


「え、じゃあ、まだ一年ちょっとってことか?」


「いえ、今年の十月です。

 ですので、まだ誰も教室には入っていません」


 タージョッによると施薬院に入った学生は二~三年かけて一通りの知識を学ぶ。

 その後に特定の医師に師事して学ぶ事になる。

 これを『教室』と呼ぶらしい。

 医局制度みたいにも見えるが、ちょっと違う。

『教室』に入る制限が大きいのだ。

 この世界の魔法技術は基本一対一で教わるため、弟子の数を制限する必要が有る。

 当然、人気の教室は入るのが難しい。


「はあ、ちょっと待て。それでオレと対等に手術できるのかよ。俺、自信無くすぞ」


「いえ、先生が担当した足の方が損傷は大きかったですし、手術が終わるのも先生の方が早かったです」


「あのなー、お前、何歳だよ。

 俺はお前の倍は生きてるぞ。

 大体お前、ほとんどの術が無詠唱か短縮詠唱じゃねーか。

 オレがこれできるようになったのは、つい数年前だぞ」


 すいません。

 見た目は兎も角、中身はあなたと同じぐらいです。


「先生、私も、です。

 私もこいつにプライドずたずたにされたんです。

 本当なら十月の入講試験は私がトップでドドーンのはずだったんです。

 それが、直前になって、伯父様から『変な男が試験を受けるからお前と同じ組にする。様子を教えてくれ』とか言われたんです。

 気にもしてなかったのに、いざ当日になったら私の方が忘れ去られちゃって。

 伯父様まで私の事ほったらかしで、こいつとどっか行っちゃうし」


 はて、今の話は?


「まて、十月の試験でやらかしたってのは、・・・お前ひょっとして、今話題の『月人の薬売り』か?」


「その変な名称は知りませんが、多分、その話題は私です」


 少なくとも講師の間では噂になっているってことか。


「そーか。そーだったのか。

 でもお前、評判良くないぞ。

 変態は兎も角として、薬の作り方を出し渋ってるって話を聞いてる」


「すいません、この話、あまりするなって言われてるんですが。

 ちょっとだけお話すると、別に出し渋ってもいませんし、教えていない訳でもありません。

 ただ、その、先輩学生相手に言うのは問題があるのかもしれませんが、相手の技量と知識の問題がありまして」


「あー、うん。何となくわかった」


 アフルーズが頷いた。

 今ので分かるのか?


「その弟子というか教える相手の技量はみんな同じか?」


「まあ、似たレベルですね。大差ありません」


「お前、昨日の手術でも、別に技術を隠してる感じは無かったもんな。

 多分、技術が隔絶してるから教わる方は何が悪いのかすら分からんのだろう。

 お前、二種類の魔法を並行して使うとか普通にやってるもんな。

 実は、お前に教わっているという学生の一人は知っている。

 あいつ、ろくに手術もできないぞ」


 あー、そーですか。

 そーでしょーねー。

 そーだと思ってました。


「困ったことに、教える相手は、私の意見は通りません。

 多分、政治的な話なのだと思いますが」


「ハァ、そうか。政治的か。

 うーん、しかし、どうなってんだ、・・・。

 決めてんのはジジイだと思うが、・・・あのクソジジイは何を考えて、・・・いや、あのジジイを甘く見ると、ろくな事になんねえからな、・・・」


 何を考えているのか。

『クソジジイ』って主席医療魔導士殿のことだよな、多分。

 口に出しちゃいけないが。


「あー、おい、キョウスケ。

 お前の作る薬って、相手にそれなりに技量があれば伝授は可能なんだな。

 例えば俺とか?」


「ええ、先生でしたらまず問題なく覚えられると思います。

 でも、他には教えてはいけないことになってるんです」


「それは、表向きの話だろう」


 アフルーズが黒い笑顔を見せる。


「先生、それは食堂でする話ではないです」


 オレもちょっと黒かったと思う。

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