02-10 一歩進んで二歩戻る

 さて、良いところから報告しよう。

 学問所の講義は順調である。

 施薬院の方では講義を受けて実習をしてという感じだ。

 実習は実際の手術や治療、製薬などだが、まだ見るだけである。

 施薬院に正規入講して一か月だが、ものすごく早いらしい。

 施薬院入講三年目から実習に入るのが普通だそうで、そーゆー意味では少々目立つ。

 しかし、見るだけなら制限は無いし、直ぐに手術を見たい変わり者もいた。

 タージョッがそれであり、オレは便乗している。

 講師や先輩学生の実技を見学するのだが、・・・参考になるところは少ない。

 全くのゼロではない。

 例えば粉砕骨折の整復に魔獣の骨を粉末にしたものを使用するなどはなかなかに参考になった。

 ただ、施術技術、つまり外科手術内容については貧弱だ。

 術者のマナ操作が不安定なのと魔力の絶対量が足りないのが原因だろう。

 施薬科の方も似たようなものだ。

 しかし、施薬科・施術科共に、この世界の医療技術がどの程度なのか、医師の標準レベルや、治療内容など、その辺りを知る資料としては大変に有意義だと言える。

 これからすると地球の現代医学は大したものだと実感してしまうよ。


 施薬院でオレが苦労しているのは薬術科だ。

 言ってみれば、現代日本の漢方みたいな物だが、材料が廉価で豊富なのでカナンで最も普及している医学である。

 こちらには魔獣・魔木・魔草という物があり、それらを材料とすることで地球の漢方よりよほど優れた薬を作っている。

 まあ、抗生剤とか無いのは変わらんのだが。

 ひたすらに暗記だけの科目だが、以前にも書いたように教科書がぐちゃぐちゃだ。

 これについては抜本的に何とかすることを考えたい。


 施薬院講義の合間を縫って教導院学問所の通常講義も受けている。

 まあまあ順調。

 十月末の試験で算用所修養科の入講資格を獲得した。

 算用所はカゲシン本山の実用部門を牛耳る役所である。

 タイジに頼まれていた自護院練成所だが、講義の関係で、入講は十一月になった。

 自護院だが、学生数五〇〇〇人と学問所内では教導院宗教本科に次いで学生数の多い上級講義になる。

 ただ、入講はした物の、講義は二回ほどで実習は一度も行っていない。

 圧倒的に時間が足りないから仕方がないだろう。


 学問所の外では、オレの作る薬がボツボツと売れ出した。

 事前にセンフルールと値段は打ち合わせているので、ぼったくりではないと思う。

 ライデクラート隊長関係で自護院関係が多いのだが、オレが自分で作って、自分で調合して、自分で包装して、自分で納品しなければならないので結構な時間がかかる。

 これまた、何とかする必要があるだろう。


 で、良くないことだが、・・・どーでもいいけど頭が痛いのが、製薬講義である。

 あれから不定期に三回実習を行ったが全く進展は無い。

 熱湯・冷水練習のままである。

 三人の学生は全員偉く不器用だ。

 それ以上に教わるという意識がゼロだ。

 もっと簡単に教えろ、お前の教え方が悪い、口を開けば不平しか出ない。

 これで成果が上がったら奇跡だろう。


 学生たちと、それにくっ付いて来る自称担当講師と話して、徐々に分かってきたのだが、施薬院はオレの技術が彼らより上だとは絶対に認められないようだ。

 選ばれた学生たちの才能は施薬院でも優れているとは言い難い。

 良くて中の下程度。

 もっと下と言われても驚かない。

 ただ、身分は高い。

 最上位ではないが、その次ぐらいのレベルである。

 彼らが付けている学生証は全員『青』だ。

 オレが作る薬がいらないというわけではない。

 しかし、平民が施薬院上層部すら敵わない技術を持っていると認めることは絶対にできない。

 施薬院上層部にとって、オレの技術は密かに特定の人間に、施薬院にとって都合の良い人間に継承されるべきものなのだろう。

 貴族制度万歳。


 ただまあ、これ自体はオレにとってはどうでもいい話ではある。

 オレにとっての問題は選定され押し付けられた学生がまるで使えない現実だ。

 しかも、この状況が続けば学生ではなくオレの方に懲罰が与えられる可能性が大きい。

 ・・・打開案を考える必要が有るが、・・・この世の中を舐め腐った自称学生君たちには少し痛い目を見て貰いたい気持ちになっている。

 オレがこの状況に耐えているのは、シャイフ首席医療魔導士殿との関係を悪化させたくないからだ。

 庶務課課長や事務員から聞き出したところでは、施薬院上層部は一枚岩ではない。

 そして、現状はシャイフにとっても不本意らしい。

 何とか、良い所に着地させたい、・・・のだが、・・・どーすれば良いのかね?


 そして地味に面倒な問題、というか最大の問題が、従者というか家政婦である。

 口入れ屋に何度足を運んでも、長期雇用の家政婦兼従者は雇う事が出来ない。

 出来たと思っても数日で辞めてしまう。

 つーか、口入れ屋で雇える人材が劣悪だ。

 前述のように単純な肉体労働しかできない者ばかり。

 ほぼ全員、文字が読めないし、計算は一桁の足し算引き算ぐらい。

 更に悲惨なのは、教えようとしたら、却って反発され、辞められることだ。

 どーしろと?


 異世界に来て、日常生活がストレスだ。

 食事は三食外食で、決まりきった物しかなく、総じて不味い。

 家を借りたのは良いが、留守番がいないから、泥棒入り放題。

 荷物は、ほぼ全て亜空間ボックスに入れているから盗まれはしないのだが、ダミーで置いてあった家具は、壊されるか盗まれる。

 一軒家だと、近隣の下水道や上水道、道路などの清掃に定期的に人を出す義務があるのだが、出せる人間がいないので、毎回、違約金を払っている。

 いや、金を払うこと自体はいい。

 それの対応を毎回、オレ自身が行わねばならない事が問題だ。


 ストレスを紛らわせる娯楽も無い。

 カナンにはネットなんてない。

 信頼できる家政婦が欲しいとタイジに愚痴ったら、ものすごーーーーーーく不思議な顔で、「結婚すれば」と言われた。

 何で結婚しないのかと。

 そんなに変わり者のままでいたいのかと。

 正論だけど、・・・・・・ジャバ・〇・ハットはいやだ。

 ブ〇ース・ブラザーズもいやだ。

 もう、八方ふさがりで、オレは朝から晩まで施薬院で過ごしていた。

 家には寝に帰るだけ。

 何で、こんな家に家賃を払っているのだろう?




 十二月に入ってもオレの生活環境は変化しなかった。

 オレ個人の施薬院授業は順調。

 個人生活は不調。

 アーガー・シャーフダグ殿への製薬授業は絶不調。

 ちょっと変わったのは、オレが施薬院講師、製薬授業の初日に仕切ってた男に呼び出され、『教え方が悪い』と注意されたことぐらい。

 もう、どーとでもしてくれ。

 そんな、頭の痛い日々の中で、事件は起こった。


「あなたが、スッパイ・キョウスケね」


 ある日のこと、学問所の食堂に向かっていたオレは、上級生らしき女性に呼び止められた。

 学生証は『青』で女性従者二人を引き連れている。

 頼むから、その『スッパイ』という呼び方は止めて欲しいのだが、・・・初対面の人には言えんわな。


「ちょっと、お話がしたいのだけど、良いかしら?」


 相手は上級貴族なのだろう。

 どうやら、オレに拒否権は無いらしい。

 従者が近くの部屋のドアを開けてオレを促す。

 彼女の方は既に部屋の中に入ってしまっている。

 部屋は仮眠室だ。

 学問所には、体調を崩した学生の休養用に『仮眠室』が幾つか設けられている。

 使えるのは『赤』と『青』だけだが、オレはそれまで使用したことは無かった。

 部屋は微妙に豪華だった。

 大きめのベッドにソファーとテーブル。

 鏡台もある。

 どうやら洗面所にトイレもあるようだ。

 オレが部屋に入った途端、ドアが閉められる。

 従者は部屋に入っていない。

 部屋の中は彼女とオレの二人だけ。

 そして、彼女はベッドの上にいる。


 何、このシチュ?

 そりゃ、オレから見ても女性に見える女性だが、・・・そんなに美人と言うほどでもない。


「ねえ、少しお願いがあるのだけど。

 お願いを聞いてくれたら、イイコト、が、待ってると思うんだけど」


 何だ、これ。

 こんなあからさまなの、サカリの付いた高校生のガキじゃないと通じない、・・・ゴメン、オレ、公称十五歳だったわ。


「あなた、いろんな変わった薬の作り方を知ってるんでしょう?

 もったいぶって、教えないって話だけど。

 お姉さんだけに教えてくれないかなぁ」


 そういいながら彼女は服を緩めていく。

 あー、あったなー、昔もあった。

 あの時は勤務先が田舎で、独身者の大半が隣のマンションに部屋を与えられて住んでいた時だった。

 ある晩、確か午前零時前後、オレは階下の独身オバチャンからの電話でたたき起こされた。

 今、宴会している。

 若い子もいるからあなたも来て、とかいう話だった。

 オレはあっさりと断った。

 だって眠かったんだよ。

 前夜は当直だったし。

 だが、やたらと電話がくる。

 確か二〇分おきぐらいに来たと思う。

 もう、寝られたもんじゃない。

 職業柄、電話はカットできないし。

 仕方がないので指定された部屋に行ったら、・・・誰もいない。

 オバチャンしかいない。

 オバチャンは妙に透けた、吐き気を催す服を着ている。

 部屋の中には宴会の跡など無く、何故か布団が敷かれている。

 ・・・この世に地獄ってあるんだなって思ったよ。


「ねぇ、あなた、ちょっとこっちに来ない?」


 彼女が服を脱ぎだした。

 あの時も、オバチャンは服を脱ぎだしたっけ、・・・。


「ねぇ、少しぐらいこっちに来てくれてもいいんじゃなぁい?」


 あの時はどうしたっけ?

 そうだ、部屋に入った瞬間に壁に張り付いて、そのままカニ歩きで平行移動して脱出したんだ。

 確か、靴を履く間に捕まると気が気じゃなくて、靴を手でつかんで靴下のまま走って逃げたっけ。

 ・・・今思い出しても、良い思い出じゃないな、全く。


「まずは、お姉さんとお話しましょう。ね」


 職業柄、気持ちの悪い”おっぱい”はたくさん見てきたが、あの時のは一級品だった。

 微妙に歪んだ大きさといい、妥協のない垂れさがり方といい、マダラになった皮膚といい、そして、変形し着色しつくした乳首といい、あれに追随できるのはそうは無いだろう。

 アレを眼前二〇センチまで近づけられた恐怖は筆舌に尽くし難い。

 ・・・流石に、今、目の前のと比べるのは失礼だろう。

 目の前の彼女は二〇歳前後だ。

 胸もCカップぐらいあって、形はそんなに悪くない。


「ねぇ、ちょっと、聞いてるの?あー、もーいいわ」


 何か知らんうちに怒り狂っていた彼女がベッドの上で立ち上がる。


「ちゃんと、人の言う事聞いて、素直に話してれば多少はマシな扱いにしてあげたのに!」


 捨て台詞かな?

 捨て台詞だったみたいだ。

 彼女がいきなり自分で自分の服を破り始めた。

 あっさりと破れている。

 あらかじめ切れ込みを入れていたか、破れやすい服を選んだのだろう。

 ・・・あー、そこまでやりますか。

 咄嗟にドアを魔法で固定し、彼女に走り寄る。

 彼女が金切り声を上げた。


 わずかに数秒後、部屋のドアが開くと一団が乱入してきた。

 先頭に立っているのはアーガー・シャーフダグ殿だ。

 例の『生徒』三人組のトップである。

 後ろには彼自身の従者や先程の女性の従者が続いている。


「やや、悲鳴に駆けつけてみれば、貴様はスッパイ・キョウスケではないか。

 貴様、とんでもない事をしたものだな」


 この部屋は壁も厚くドアも重厚だ。

 多少の声を上げても外に響くとは思えないのだが、・・・良く聞こえたと主張するものだ。


「これは、アーガー・シャーフダグ殿。お久しぶりです。

 本日はどうなされましたか?」


 こーゆー時は落ち着いて白を切り通すしかない。


「どうもこうもない。

 今の悲鳴は何だ。

 其方は彼女に何をした。

 平民である其方が上級貴族の女性に対して狼藉を働くなど許されると思ってか!」


「彼女、と言いますと、誰の事ですか?」


 鬼の首を取ったかのようにふんぞり返っていた男に冷静に話を返す。

 シャーフダグ殿は言葉を続けようとしたが、従者が止めた。


「いない、・・・だと?」


 既に従者軍団が家探しを遂行中だ。

 トイレや洗面所、クローゼットからベッドの下まで潜り込んでいる。


「それで、これは何事でしょうか?」


 すっとぼけてシャーフダグに聞く。


「彼女をどこへやった?」


「彼女、と言いますと?」


「だから、お前と一緒にこの部屋に入った女性の事だ。

 どこへやった?」


 お前、呼ばわりですか、そうですか、そうですよね。

 焦りますよね。


「一緒も何も、この部屋には私しかいませんが」


「そんなはずが、・・・あるはずないだろう!」


「そう、言われましても。

 部屋の入り口はあなたが今、入って来られたドアだけだと思いますが」


「他に出入り口がある、ということか?」


「そうなのですか?私は知りませんが」


 オレたちが話している間も従者たちの探索は続いている。

 特に女性の従者は必死のようだ。


「何があった?」


「何があった、とは?」


「だから、・・・其方がこの部屋に彼女と入ってから何があった?」


 おお、其方に戻った。

 多少は頭が冷えたのかな。


「順を追ってお話します。

 まず、そこの廊下で上級貴族らしき女性の方に、私に用があると声を掛けられました。

 そして、彼女の従者と思われる方から、この部屋に入るように促されました。

 しかしながら部屋に入れば誰もいませんでした。

 私は後から人が来るのだと思い、この部屋で待っていました。

 そして、シャーフダグ殿が来られました。以上です」


「そんな筈はありません。私は確かに彼女がこの部屋に入ったのを見ました」


 女性の従者が主張する。

『彼女』ね。

『ご主人様』でも『姫様』でもないのかね。


「そうですか。しかし、私が入った時にはどなたもおられませんでした。

 今もいないように思われますが」


 シャーフダグも、その従者たちも何も言わない。

 ただ唸るだけだ。


「でも、でも、私は確かに見ました。

 手筈通りに彼女がベッドの上に乗ったのを」


 侍女が抗弁する。

 オイオイ、手筈通りとか言っちゃいかんだろう。


「良く分かりませんが、仮にあなたが言った通りとすれば、今ここに彼女はいるはずですよね。

 でも、彼女はここにはいません。

 つまり、あなたの見間違いだった、ということでしょう」


 もはや、誰も何も言わない。

「手筈通り」も聞けたし、退散しよう。


「良く分からないのですが、私に対する用件は何だったのでしょうか?

 何もないようでしたら私にも予定が、次の講義が有りますので、失礼させて頂きたいのですが」


 親玉に了解を求めると、不承不承に頷いた。

 部屋を後にする。

 時間的に昼食は諦めるしかないようだ。


「あいつはどこへ行ったんだ!」


 後ろから怒声が響いた。


 夜になって、自宅から忍び出た。

 同居人がいないのは、こーゆー場合だけは便利だ。

 つけてくる気配はないが、念のため音と光とマナを遮断して走り出す。

 夜なら、これでまず見つからないだろう。

 見つからなさ過ぎて人にぶつかるので屋根の上を飛び跳ねていくことにした。

 十数分飛び跳ねて、着いたのは下級階層、スラムとまではいかない地域の宿屋だ。

 悪いが無断で空き部屋に忍び込む。

 粗末な部屋の衛生的とは言いかねるベッドの上に『彼女』を出した。

『魅了』と『威圧』を掛けてあるので固まったままだ。


 あの部屋で俺がやったのは簡単なことだ。

 女性に『威圧』と『魅了』をかけて黙らせる。

 そのまま亜空間ボックスに放り込む。

 それだけだ。

 実は、部屋に入って嵌められたと分かった瞬間にやることは決めていた。


『威圧』を解除して『魅了』を調節。

 彼女に話してもらう。

 手間をかけた割に情報は少なかった。

 ただ、確認はできた。

 アーガー・シャーフダグ殿が企てたのは典型的な美人局だ。

 彼女自身はシャーフダグの母方の従姉妹にあたる。

 それなりの報酬で頼まれて引き受けただけのようだ。

 困ったことに、シャーフダグは自分が悪いとは全く考えていないらしい。

 自分には十分な知識と技術がある。

 自分は施薬院トップクラスの医師の卵。

 スッパイだかいう平民が技術を出し惜しみしている。

 いや、分かってましたよ。

 全然違和感ないですよ。

 でも、少しぐらい自分を省みる所もあるんじゃないかと期待していたオレもいるわけですよ。

 ほら、オレ、性善説だし。

 彼女はそのまま記憶を消して宿屋に放置した。


 その後の彼女の状況については良くは分らない。

 噂では翌朝、宿屋の従業員に見つかり危うく大変なことになる『寸前』だったという。

 彼女が貴族だと気付いた宿屋の主人によって保護され、家族の下に戻ったとかなんとか。

 そう言えば服が破れていたよね。

 まあ、服は自分で破いたのだからオレの責任じゃない。

 庶務課、じゃなくて雑務房の職員とは学生証騒動の時から懇意にしていて、時々差し入れを行っている。

 まあ、情報は入るようになっている。


 ただ、『寸前』だとしても、淑女がそんなところで、それも学問所の制服を着たままで何をやっていたのかと相当な問題になったようだ。

 噂では、本人は、『記憶がない、誰かに威圧されたのでは』と訴えたらしいが、状況が状況だったため、誰にも信用されず、有耶無耶になったらしい。

 彼女の親は宿屋の主人にそれなりの金額を支払ったという。

 それにも拘らず事が露見し学問所と家名を傷つけてしまった事で、彼女は停学処分になってしまった。

 人を陥れようとしたのだから反省して頂きたいところである。


 このようにして、この事件は結末を迎えた。

 そして状況は、・・・全く改善しなかった。

 アーガー・シャーフダグ殿自身は全く以って全然、反省していなかったのだ。

 反省しろよー。

 従姉妹は停学だぞ。

 更に悪いことに、アーガー・シャーフダグ殿以外にもオレの技術を狙う貴族がいたらしい。

 オレはその後も高頻度で何らかの工作を仕掛けられる羽目に陥った。

 まずは泥棒。

 なんか知らんが、しょっちゅう家探しされている。

 もう、これだけ入れば、家に金目の物も、重要物も無いって分かりそうなものだが、・・・黒幕が複数だからか、三日に一回は泥棒が入っている。

 ベッドは三回、買い替えた後で諦めた。

 単なる麦藁の塊を何故執拗に解体するのか、気が知れない。

 現在は、崩壊したベッドの残骸をダミーで放置。

 使用しているベッドは毎朝、亜空間ボックスに収納している。

 ベッドを持ち歩いているわけだ。

 箪笥も諦めて、単なる木箱にダミーの衣類を入れている。

 先日は、そのダミーの服が切り裂かれていた。


 勧誘や恐喝も多い。

 基本、美人局だが、玄人というか売春婦を、それも集団で使ってきたのもあった。

 流石に十人以上の女性となると端から亜空間ボックスに入れる事も出来ず、走って逃げた。

 夜だったから、音と光を消せば大体逃げ切れる。

 しかし、あれは何をどうしようと考えていたのか謎だ。

 正式にというか、堂々と『技術を金で売ってくれ』と交渉に来た関係者もいる。

 何を売ればよいのか聞いたら『本当の呪文』とか言い出した。

 呪文だけでなんとかなるなら苦労はしない。


 アーガー・シャーフダグ殿は正統派美人局一本槍。

 いい加減、もう少し工夫した方が良いと思う。

 二回目の改善点が、『部屋の窓の外にも見張りを置く』というのは何なのか。

 どうやら窓から逃亡するのを見張ろうとしていたようだが、・・・。

 誰が窓から逃亡したと?

 ほとんど、同じ方法を五回も繰り返す根気があるなら、素直に教科書読めよ!

 しかも、回を重ねるごとに、女性の質が低下しているのは何だ?

 五回目なんて、ツルペタじゃねーか!

 せめて、Cカップ連れて来いよ!


 オレに接触してくる関係者に共通しているのは、皆、オレが技術を出し惜しみしていると思い込んでいることだ。

「素直に教えています。教わる方の技術と努力が足りないのです」と話しても誰も信じてくれない。

 嘘は言っていないんだけどなー。

 人徳が無いもんなー、オレ。

 スッパイさんとか、うさん臭さ一二〇パーセントだよな。

 本当に、どーしたらいいんだろう?

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