02-02 カゲシン

 帝国歴一〇七八年九月一日、オレはカゲシン本山教導院学問所に入講した。


 永遠の霊廟からカゲシンまでの旅について記すべきことは少ない。

 クロスハウゼン・ガイラン・ライデクラート隊長が騒動の報告のため騎馬で先行したことぐらいだろう。

 オレにとっては大変に心の休まる話であった。

 帰り道ではネディーアール殿下とセンフルールの集団が毎晩、戦闘訓練を共にしていた。

 オレは見るだけで参加は許されなかったが、かなり勉強になった。

 水竜とか火竜とかいうのは使っていなかったが、ファイアーボール、ライトニングボルトだけでなく、防御用の土壁とか一通りの戦闘魔法を見ることができたのだ。

 見たのを横で試すのは、流石に制限されなかったし。

 あと、個人的な話としては『威圧』と『魅了』を覚えた。

 シマをおだてて原理やコツを聞き出し、こっそりと地域住民を実験台にして習得した。

 この技能、相手の精神を操るもので使い勝手は良いのだが、それ故にカゲシン市内での使用は禁止されている。

『威圧』や『魅了』された事を『忘れる』ように命令は出来るのだが、特定の事象だけを忘れさせることは出来ない。

 一定期間の記憶を抹消するから、頻繁に使っていたら本人も周囲もおかしいと気づいてしまう。

 特に貴族相手に使用したのが露見するとカゲシンから追放だという。

 基本使用しない、使用する場合は絶対にバレないようにという話だ。

 シマは気が良いというかおだてに弱いというか、色々と話してくれる。

 まあ、授業料として血を吸われたので、彼女としては悪くないのだろう。

 ・・・そこまで甘くは無いですね。


 さて、そんなこんなで着いたのが『カゲシト』である。

 順序が逆になるがここでこの国について、つまりオレが学問所に入って地理と歴史の授業で習った知識を書いておきたい。

 以下、オレの主観で、かなーり省略している。

 まず、国の名前は『マリセア教導国』という。

 え、『帝国』なんじゃないのかって?

 正確には『帝国』内の『マリセア教導国』だ。

 オレが理解している所では、現在の帝国は、一応の首都はあり、それなりの中央政府もあるのだが、地方は諸侯の権限が強いらしい。

 地球で言えば『神聖ローマ帝国』よりはまとまりがあるが、『ローマ帝国』よりは緩いという所か。


 さて、『マリセア教導国』だが正式名称は『真なる精霊の正しき教えを奉じる善良なる民による慈悲と博愛と相互支援による救済のための互助会』になる。

 ・・・・・・・・・・『マリセア』も『国』も入ってない。

 実はこの国、正式には国家どころか諸侯ですらない。

 マリセア正教本山の寺領という建前である。

 ただ実質的には国なので、他国からは『マリセア教導国』と呼ばれており、この国の人も時々というかしばしばこの名称を使用する。

 国の名前が無いと不便なのだ。

 マリセア教導国を含む、広大な一帯は、現在も『帝国』と呼ばれている。

 単に『帝国』であって、それ以上でもそれ以下でもないのだが、『帝国外』からは、最初の首都の名を取って『テルミナス帝国』とか、中心地域の名称から『ゴルダナ帝国』などと呼ばれているらしい。


『帝国』の歴史は、大きく四期に別れる。

『最終皇帝』排除以前、帝国中枢部に月人がいた時代が『第一帝政』、あるいは『月人帝国』で約三〇〇年。

 最終皇帝と共に月人を中枢部から排除した後を『第二帝政』、又は『クテンゲカイ朝』と呼び約四〇〇年。

『第二帝政』が衰退し、首都がテルミナスからアナトリスに移転した後が『第三帝政』、あるいは『アナトリス朝』で約一五〇年。

『第三帝政』が衰退しアナトリスの将軍が帝国帝冠をカゲシンに委託した以降が現在の政体で、現状で約二〇〇年の歴史となっている。

 現状の帝国は、帝国外からは『第四帝政』、『マリセア朝』、『カゲシン朝』あるいは『ニフナニクス朝』などと呼ばれているという。

『マリセア朝』は現在の帝国国教がマリセア正教であることから、『カゲシン朝』は現在の首都から、『ニフナニクス朝』は乱れていた帝国を再統一した将軍の名前である。

 この将軍、ハキム・ニフナニクスはなんと女性で、時のマリセア宗主の第一正夫人だったという。

 マリセア宗主とニフナニクスの間に生まれた子供の子孫が現在のマリセア宗家である。

 ちなみに、ハキム・ニフナニクスは建国の英雄として、極めて美化された肖像画、立像、胸像がカゲシンどころか帝国中に散乱し、ネディーアール殿下他から篤い崇拝を受けている。

 ムチャクチャ伝説が多く、授業で詳細に語られるのだが、大半は作り話だろうと思ってしまうオレは心が汚いのかね。


 さて、現在の帝国の特徴は何といっても、皇帝がいないことだろう。

 帝国なのに皇帝がいないとはこれ如何に?

 皇帝の帝冠はマリセア正教の教主が『預かっている』のだという。

 マリセア正教宗主は、あくまでも宗教の教主で世俗の権力者ではないので、皇帝には成れない、のだそうだ。

 それで、『然るべき者が現れるまで』皇帝の帝冠を『預かっている』だけなのだという。

 現在の帝国の首都は、マリセア正教本山がある『カゲシン』だが、これも新たなる皇帝が即位するまでの間の『仮の首都』なのだ。

 色々と歴史的な経緯があるようだが、現実にはマリセア宗主が実質的な皇帝権力を保有していて、かつ、国家宗教の教主という宗教権威も兼任している。

 宗教的権威というのは、世俗から離れることによってその権威を維持するのだと思うが、・・・そこんとこは大丈夫なのだろうか?

 オレが心配しても無意味だけど。

 何とも変な状況なのだが、この体制で二〇〇年何とかなってるのだから大したものである。


 帝国の仮首都カゲシンだが、人口は俗に三〇万と言われる。

 正確には良く分からない。

 城壁外のスラムは勿論、城壁内でも『一時的長期滞留者』、あちこちから流れてきて正式な登録をしないまま住み続けている者が多いからだ。

 人種的には八割以上が人族で、牙族は一割程度。

 月の民関係もそれなりにいるようだが、一〇〇〇人程度という。

 人族のうち、七割以上が肌の色の濃い『アナトリス系』で、白い肌の『テルミナス系』は二割ちょっと。

 オレの肌の色は白めなので、テルミナス系と見做されている。

 三〇万人という数字は中世レベルの文明としては破格だ。

 確か中世のパリとかで二〇万に届かなかったと思う。

 勿論、現在のカナンでは随一という。

 人口が多いのは、勿論、帝国首都という性格上だが、元が宗教都市で、それから発展した教育機関が多いことも関係している。

 教導院学問所関係の学生が約二万人。

 雑役婦を含む教職員が一万人だそうだ。

 これまた凄まじい数字で、当然ながらカナンでもトップである。


 オレが、ネディーアール殿下に随行してカゲシンに到着したのは帝国歴一〇七八年八月下旬の事である。

 何で、カゲシンに来たのかと言えば、ここで医学部、カゲシンでは施薬院と呼ばれている施設に入学するためだ。

 単に、何となくナディア姫とセンフルール勢に付いてきたらカゲシンに着いちゃったという話でもあるが。

 オレとしては、取り敢えず、医者として生計を立てたいのだが、真面な医者としてやっていくには、ブランドが必要だ。

 カゲシン施薬院は帝国内最高峰の医師養成機関とされている。

 そこで学んだという看板は大事だろう。

 まあ、ぶっちゃけて言えば、他に行く当てもない。

 田舎を放浪し続けても、心躍るような冒険も無いし、巨乳美少女との出会いも無いだろう。

 屋根の下でまともなベッドで寝ることもできない。

 帝国以外の国となると、まあ、シノさんたちのセンフルールは、一つの選択肢だが、彼女たちは留学生だ。

 金髪小型美少女シマによれば、少なくともあと二年、恐らくは四年、カゲシンに滞在する予定らしい。

 センフルールに行くかどうかは、彼女たちが帰る時に選択すればよいだろう。

 客観的に見ても、帝国首都は、取り敢えずの滞留先として悪くない。


 そんなことで、カゲシンに来たわけだが、・・・色々と大変です。

 まず、カゲシン、正確に言えばカゲシンの門前町であるカゲシトに入るのが大変。

 オレ、ホームレスなわけで。

 まあ、カゲシトの城壁を超えること自体は、そんなに面倒ではなかった。

 クロイトノット夫人が身元引受人になってくれたおかげである。

 続いて、家を借りることになった。

 オレとしては、独り身だから宿屋に長期滞在が便利と考えていたのだが、それではダメだという。

 学問所、正確に言えば、学問所の初級講座と中級講座に入るだけならそれで良いのだが、施薬院などの上級講座に入るには、正式な居住地と推薦人が必要なのだ。

 地方からの留学生であれば、その地の領主の証明書が有ればカゲシンでは宿屋でも許されるらしい。

 オレは地方にも戸籍など無い訳で、カゲシンで住居を借りなければならない。

 それも、施薬院の学費を払える経済力を示すため庭付きの一軒家でなければならない。

 誰が庭の手入れなんかするんだ?

 そして、カゲシトで一軒家を借りるには、然るべき者に身分を証明してもらう必要がある。

 そんなことで、これまた、クロイトノット夫人に身元引受人になって貰った。

 ちなみに、買うのはもっと大変、カゲシト市内でカゲシンに近い場所は貴族専用なのだ。

 中世レベルなら、金でひっぱたけば何とかなると考えてたけど、意外と面倒だ。

 首都だからかもしれないが。


 その後も面倒は続く。

 家を借りたら使用人が必要になった。

 カゲシン、カゲシト、だけでなく、この世界の一軒家は常に誰かが住居内に存在する前提になっている。

 複数の使用人がいる前提なのだ。

 家に外鍵がないんだよ!

 内鍵、つまり室内からしか鍵はかけられない。

 困っていたら、クロイトノット夫人が使用人候補を引き連れて襲来した。

 使用人候補と言うが、よーするに結婚相手だ。

 カナンでは、男性が男性の使用人を雇うことは基本的に無い。

 上級貴族では、男性の執事や護衛隊長がいるが、使用人総数が百人以上の場合だ。

 一般貴族だと、複数の女性を妻に迎えて、家の管理や主人の身の回りの世話などを分担するのが普通。

 妻たちは勿論、高級使用人も男主人と性的な関係を持つのが義務。

 性的関係を結んだ女性使用人のみに信頼できる仕事を任せるのが常識。


「夫人ゼロ、使用人ゼロでは、施薬院、自護院で学ぶどころか、普段の生活もままなりません。

 いい加減、現実を見なさい!」


 クロイトノット夫人には旅の途中から、何度も結婚しろと説教されていた。

 いたのだが、・・・本日、夫人が連れてきたオレの使用人候補、つまり結婚相手候補だが、身長は一六〇から一六五センチ、体重は八〇キロ前後。

 全員、出来の良い軍人。

 一番痩せてるのが、身長一六〇センチ体重七八キロって時点で、ね。

 現在のオレが身長一七〇、体重六〇ちょっと。

 しかも、さあ、見た目が、女に見えん。

 体型が四角いのよ。

 丸みが無いのですよ。

 首が太いせいか、声まで野太い。

 アニメだったら全員、担当は男性声優だろう。

 赤毛夫人曰く、全員、それなりに『美人』だという。

 困ったことに、これ、本当かも知れない。

 カゲシンにきて、多くの人を見たが、一般庶民だと、オレの基準で女性に見えるのは一〇〇人に一人程度。

 それも、体型が細いだけで、見た目が良いとは言えない。

 中世レベル文明の現実って悲惨だ。

 肌は不潔で、ガッサガサ。

 容貌も酷い。

 派手な傷跡が残っているのも多いし、歯並びの悪さも目に付く。

 豊臣五奉行の一人石田三成はきつい反っ歯、つまり出っ歯の最上級だったと記録されるが、そんな、斜め四〇度ぐらいで突き出した反っ歯がざらにいる。

 乱杭歯も多いし、歯が欠けている者も少なくない。

 そーゆー意味では、クロイトノット夫人が連れてきた者たちは、確かに悪い方ではない。

 でもさ、君。

 ブ〇ース・リーに抱きしめられたいか?

 プ〇ース・ウイリスにしゃぶってもらいたいか?

 プ〇ース・ブラザーズと一緒にベッドに入りたいか?

 オレ、地球時代でも一度も結婚した事無いんだよ。

 最初のお嫁さんには、もう少し夢が有っても良いと思う。


 そんなことで、結婚候補者には丁寧にお引き取り頂き、口入れ屋を通じて、従者と家政婦を雇った。

 問題は、彼女らは臨時雇いで、文字も読めなければ計算もできず、雇い主に対する忠誠心どころか道徳心すら希薄で、普通は庭掃除、外壁の修理など、戸外の仕事しかしない、させられない者たちだということだ。

 試してみたけど従者としては全く使えない。

 そんなことで、学問所にはオレ一人で通うことになった。

 滅茶苦茶、変わり者扱いです。

 ・・・ダメだ、早く何とかしないと。


 カゲシン教導院学問所だが、一概には言えないが、小学校レベルの教育機関だ。

 国語とか算数とかは本当に小学生、それも低学年レベル。

『数学』に関しては、二桁の掛け算・割り算ができたら、中級講義終了証書が貰える。

 そんなとこに通いだした理由は二つ。

 一つは、学問所初級、中級の修了証書を規定数集めないと、上級講義である施薬院の入学試験が受けられない事。

 入学試験、こちらでは入講試験と言うが、考えてみれば、地球でも高校卒業証書が無ければ大学受験は出来ない訳で、まあ、仕方が無い。

 もう一つの理由は、地理、歴史、そして初級魔法などこちら独特の授業の存在である。

 これは、素直に有り難い。

 あと、宗教国家だけあって、宗教学の講義があり、しかも必須なのだが、・・・まあ、これは適当でいいだろう。

 有難いのは、講義は、講義修了試験に合格してしまえば、それで良いという事である。

 規則上は一回も講義を受けなくても試験さえ受かれば、履修証が貰えるのだ。

 地方留学生に対する救済措置らしい。

 ド田舎の貴族子弟で、学校には通っていないが家庭教師などの教育を受けていた者が直ぐに上級講義を受けられるように、また、上級講義でも頑張って勉強すれば早めに卒業できるように、という制度である。

 付け加えると、この学校には年度という物もない。

 初級、中級の講義は毎月、同じものが行われていて、上級講義もローテーションで同じものが行われる。

 毎月、入学じゃなくて『入講』できて、毎月、卒業、というか『退講』できる。

 地方からの留学費用が馬鹿にならないためにこのようになっているのだが、オレにとっても大変ありがたい。


 そんなことで、オレの学生生活はスタートしたのだが、開始早々に躓いた。

 授業が分からない。

 正確に言えば、授業が見えない。

 初級、中級講義はだだっ広い教室で、二百人以上の学生に行われる。

 教室は階段教室ではないし、講師はマイクなんか使わない。

 黒板、というか石板を使用して授業が行われるがあまり大きなものではない。

 そして、座席は身分順。

 学生証が、上から、赤、青、緑、黄、白とあって、身分で分けられている。

 色付きの学生証が発給され、それを襟元に付ける。

 マリセアの正しき教えの建前として、貧民にも教育をとなっているので、下級は学費が安い。

 だが、席も後ろだ。

 オレは最初、平民ということで黄色の学生証になったのだが、これだと、椅子だけで机すらない。

 学生は膝の上で木板にノートを取っている。

 そして、石板は全然見えない。

 距離が遠いのも有るが、前の奴の頭で物理的に見えないのだ。

 講師の声も、魔法で集音しないと聞こえない。

 こんなんで授業になるのかと思ったが、平民は二回以上同じ講義を受けるので問題ないらしい。

 一回目の講義が終わったら石板の内容を木札や紙に写し、そうして理解できるまで同じ講義を受ける。

 初級の算数の授業など、一〇日単位で同じ講義が繰り返されている。

 月に三回、同じ授業を受けられるのだ。

 分かると思うが、オレとしては、やってらんない。


 そんなことで、金に飽かせた。

 まずは、教科書を買った。

 講義の教科書は一応売っているのだが、学生は買う義務は無い。

 つーか、本の値段が高いので、普通の学生は買えない。

 貴族層でも買うのは少数派らしい。

 だが、オレは買った。

 教科書だけ買って、それを読んで、修了試験を受けた。

 まあ、オレの場合は保管場所に困らないからね。

 続いて、学生証を格上げした。

 学生証は、基本は身分制だ。

 色ごとに授業料、公式には『お布施』の額が異なり、最下級の『白』では一か月硬貨三枚という激安だが、最上級の『赤』になると月に金貨五枚になる。

 金貨一枚で硬貨一万枚だから恐ろしい格差だ。

 まあ、格差が大きい世界だから累進性は正しいとは思うが。

 オレの最初の学生証は黄色、平民の上の方である。

 これを緑色、中下級貴族に格上げした。

 下の階級の者でも相場の二倍お布施を払えば一つ上の学生証になる。

 緑になったら席が少し前になり、机もついた。

 だが、やっぱり授業は見えない。

 昇格して分かったのだが、緑色は黄色以下よりは少ないが、かなり多い。

 そして、緑の学生証同士でも同格ではなく、身分差がある。

 オレは緑の最下級なわけで、緑の中では一番後ろの席になる。

 ・・・黄色と大して変わらん。

 実習のある講義では、実際に実習を行えるのは、上の方だけで、具体的には緑の真ん中あたりまで。

 聞けば、上級講義では実習が多いそうで。

 仕方がないので、もう一段階、学生証を上げた。

 青色、上級貴族格である。

 学生証の二段階格上げなんて、まず行われないらしいのだが、一応、前例はあった。

 オレは大学庶務課長に直談判し、学問所に多額の寄付をすることで、何とか青の学生証をゲットした。

 あ、庶務課長というのはオレが勝手に呼んでいるだけで、正式名称は雑務房だかなんとかだ。

 お金があるって、いいことですね。


 金の関係で言うと、他にも出費は色々とあった。

 学問所は平民、つまり黄色と白色の学生証では制服は無い。

 だが、緑以上になると制服が必要となる。

 制服は基本オーダーメードで、中古は出回っていない。

 つまり新品を仕立てねばならない。

 当然ながら採寸や仮縫いなど本人がいなければ話にならないから、これだけでも手間だ。

 時間が無いので一着は至急で頼んだが料金は三倍。

 困ったことに、緑と青では、制服が違うので、また新たに作ることになった。

 緑の制服は、数日着ただけでお終い。

 なんだかな。

 聞けば、施薬院はまた制服が違うという。

 頭が痛かったが、一緒に頼んでしまった。


 カナンの暦だが、一年は三七〇日で十二か月。

 一月は基本、三十一日で、七月と八月の二月だけ三十日。

 時々、うるう年があって、七月か八月が一日増える。

 初級、中級の試験は、各月の十、二十、三十日に行われていて、希望すれば一日に何科目でも受けられる。

 まあ、物理的・時間的な制限はあるが。

 オレは九月の三日間で合計三十以上の試験を受け、その全てに合格した。

 すごいことのように思うかもしれないが、算数とか、二桁の掛け算・割り算までだからね。

 社会や地理、あるいは生物なんかも、教科書はそれぞれ百ページに満たない。

 こちらに来て若返ったせいか、記憶力も良いので楽勝だった。

 逆に言えば、こんな小中学校レベルの学校でグダグダしたくはない。


 こうして、オレは九月の一か月間で施薬院入講試験受験資格を満たし、十月初めの入講試験に滑り込んだのであった。

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