01-25S クロイトノット・ナイキアスール 斡旋

 私たちが『永遠の霊廟』を出発したのは、あの騒ぎの数日後の事でした。

 騒ぎの後処理、大半がフロンクハイトとの折衝が終われば、もはやここにいる意味はありません。

 私たちは、ハーラングラント住持に後を任せ、カゲシンに戻ることになったのです。


「山道を抜けたら、私は騎馬でカゲシンに先行します。

 報告すべきことが山のようにありますから。

 殿下の事は叔母上にお願いします。

 センフルール勢にキョウスケもいますから、何とかなるでしょう」


 ライデクラートはそう言って、先に行ってしまいました。

 殿下の任務は、成功裏に終わったと言えますが、報告すべきことは多数あります。

 彼女を先に送るのはやむを得ないでしょう。


 ライデクラートは私の兄の第三正夫人です。

 ですので、厳密に言えば、彼女は私の義理の姉になります。

 ですが、彼女は、私の夫の兄の娘ですから、義理の姪でもあります。

 故に、彼女は昔から私の事を『叔母』と呼んでいたわけで、結婚してからもそれを変えておりません。

 クロイトノット家、ガイラン家は共にクロスハウゼン家の有力一門です。

 先代のガイラン家当主には男子がなく、一方、クロイトノット家には二人の男子がいました。

 第二正夫人の息子の長男がガイラン家に婿入りし、第一正夫人の息子の次男がクロイトノット家の跡取りとなりました。

 その二人の間に生まれた長女がライデクラートです。

 困ったことに、ガイラン家にはまたも男子が生まれなかったので、再び婿を取ることになりました。

 ライデクラートの婿に内定したのはクロスハウゼン本家の男子、私の兄の次男です。

 ところが、兄の息子は二人とも十二年前の戦乱で戦死してしまいました。

 残されたライデクラートには縁談が殺到しました。

 ガイラン大僧都家の女相続人、諸侯で言えば伯爵で、そして、美人です。

 より取り見取りだったのですが、彼女が選んだのは私の兄でした。

 死んだ婚約者の父親と結婚するのも珍しいですが、彼女なりに理由はありました。

 ガイラン家の婿が一族以外から入るのは好ましくない事が第一の理由ですが、最大の理由は、彼女が自分よりも強い男を望んだことです。

 確かに、兄はカゲシン最強と謳われる魔導士です。

 そんなことで、ライデクラートはクロスハウゼン師団の連隊長を自ら勤めつつ、兄の第三正夫人となったのです。


 公平に見ても、ライデクラートは優秀な軍人で、兄の第三正夫人としての務めも立派にこなしています。

 美人で、地位も有りますから、成人の儀の相手を頼まれることも多々ありました。

 男子の成人の儀の相手役を頼まれるのは、名誉な事とされます。

 ですが、彼女が応じることは滅多にありません。

 彼女自身が将来有望と見込んだ者しか、あるいは好みの美男子しか相手にしないのです。

 ですから、ライデクラートが自らキョウスケの成人の儀の相手をすると言い出した時は唖然としました。

 キョウスケは、医者として優れた能力を見せましたが、マナ操作はともかく、魔力量自体はさほどでもないと思えたからです。

 ですが、結果にはもっと唖然としました。


「キョウスケの精は、かなり濃いです。

 少なくとも上級魔導士以上でしょう。

 守護魔導士かもしれません」


「十五歳で守護魔導士だというのですか!」


「うまく育てば国家守護魔導士まで狙える可能性があります」


 カゲシンでは軍隊で魔導士として活躍できる者を『正魔導士』と呼び、俗に、千人に一人と言われます。

 大半は貴族です。

 ある程度以上の魔力を持つ者は、貴族として叙されますので平民に魔導士はほぼいません。

 両親が魔力に乏しい場合でも、高い能力を持った魔導士が生まれる場合はありますが、極めて稀です。

 医療魔導士は、正魔導士の半分程度の魔力量の者が多いと聞きます。

 軍隊では『従魔導士』と呼ばれる存在です。

 キョウスケもてっきりその程度の魔力量と考えていました。

 それが、正魔導士の上の上級魔導士か、それ以上、というのです。

『守護魔導士』となれば帝国全体でも百人はいないでしょう。

 最上級の『国家守護魔導士』となると帝国で現在五人しか認定されていません。

 平民出身の国家守護魔導士!

 キョウスケがネディーアール様と同格!

 あり得ない話です!


「いくら何でも、それは有り得ないでしょう。

 そもそも、それぐらいの魔力量があるのなら、見た目に分かる筈です。

 私もそれなりに魔力は有ります」


 私もクロスハウゼン嫡流の生まれです。

 正式な資格は取っていませんが、守護魔導士に準じる程度に魔力はあります。

 当然、魔力量の見極めもそれなりに可能です。


「それですが、キョウスケは、マナの制御が驚異的にうまいのだと思います。

 恐らくは魔力隠蔽を常時行っている。

 それも、どうやら本人に自覚は無いようなのです」


 眩暈がしました。

 魔力隠蔽などという高度な技法を無自覚で使っている?

 私の兄ですら、魔力隠蔽は短時間しか使えないはずです。

 それを、無自覚で常時!


「私も確信はありません。

 ただ、何にしてもキョウスケがクロスハウゼン家で囲い込むべき逸材なのは間違いないでしょう」


 とりあえず、ライデクラートの話は、口止めし、私はキョウスケを注意深く観察し続けました。

 結論として言えば、キョウスケは確認できる範囲だけでも、とんでもない逸材でした。

 ネディーアール様の話し相手を何時間も務められる頭の回転の良さ。

 野営地で簡単に風呂を作り、湯を満たしてしまう、魔法技能と魔力量。

 そして、永遠の霊廟では月の民同士の戦いに巻き込まれながら、傷一つなく生還する離れ業を成し遂げました。

 月の民六人のうち、三人が『一時的』に死亡する争いに巻き込まれて無傷だったのです。

 本人は、見ていただけと言いますし、センフルールの二人も多くは語りませんが、何かあったのは確実です。

 戦いの後、センフルールの二人がキョウスケに対して、親し気に、かつ、丁寧に接していることから推測すれば、彼が何らかの形でセンフルールの二人に協力し、セリガーの第七位に対抗したのは間違いないでしょう。


 キョウスケはクロスハウゼンで確保すべき人材。

 その第一歩として、私は彼の体裁を整えることにしました。

 成人した男性が、供の一人も連れていないなど有り得ません。

 そもそも、男一人では日々の生活にも難渋するでしょう。

 私は、ネディーアール様の護衛部隊の目についたもの数人に声をかけ、幸い、肯定的な返答を得ることが出来ました。

 キョウスケは彼女たちからも注目されていたようです。


 こうして、私はキョウスケを呼び出し、彼女たちを紹介しました。


「えーと、つまり、私に結婚しろと、そういうことですか?」


 私の申し出に、キョウスケは怪訝な顔で答えました。

 明らかに、乗り気でありません。


「成人した男性が女性の一人も抱えていないのは非常識です。

 何も、第一正夫人にしろと言っているのではありません。

 将来、あなたが出世すれば、然るべき筋から第一正夫人を迎えることになるでしょう。

 ですから、第二、あるいは第三正夫人で良いのです。

 彼女たちも、それで納得しています」


「・・・えーと、少し、考えさせて頂く、ということで、よろしいでしょうか?」


 返答が意味不明です。


「何を迷っているのか分かりませんが、別に一人だけ選べと言っているのではありません。

 気に入ったのでしたら、二人でも三人でも、・・・」


「二人!三人!いや、待ってください。

 実は、私は今すぐに結婚する気は無くて、ですね、・・・」


「結婚したくないというのですか!」


 私が驚きの声を上げると、キョウスケは気まずそうに眼を逸らしました。

 そして、小さな声で、人払いを要求してきたのです。

 良く分かりませんが、彼の顔は真剣でした。

 仕方なく、娘のアシックネール以外の退室を命じると、彼はしぶしぶと話を始めました。


「私は、勿論、結婚する気はあります。

 ですが、その、先ほど紹介された女性の方々は、全員、私の好みからは、少々ずれているのです」


 思わず娘と顔を見合わせました。


「それなりに、見目の良い者を選んだつもりだったのですが。

 それに、其方の最初の女性です。

 見た目だけでなく、能力や性格も大事でしょう。

 その辺りも考慮して選んだのです。

 全員、平民出ではありますが、下級士官や下士官で、能力は保証できます。

 容姿も、客観的に見て、悪くないと考えますが」


「それは、・・・そうなのかもしれませんが、・・・」


「とりあえず、何日か行動を共にして、一回ずつ夜の相手をしてはどうですか。

 正式な返事はそれからでも良いでしょう」


「え、その、彼女たちと、・・・その、スルのですか?」


「私が、彼女たちに頼んだのです。

 一回ずつ、精を注ぐぐらいはしてあげてください。

 私の顔も立ててほしいのです」


 キョウスケは、横を向き、何度か目をしばたたかせ、何度か深呼吸して、それから、意を決したように、言葉を発しました。


「先ほどの言葉は撤回します。

 彼女たちは、私の趣味から、多少ではなく、完全にかけ離れているのです。

 私は彼女たちと行為を行うのは無理です。

 その、・・・勃たない自信があります」


 この子は、何を言い出したのでしょう?


「その、・・・全くできない、というのですか?」


「はい。完全に、どう考えても、無理です」


「あなた、女性の趣味がかなり偏っているようですね」


「そうは、言われましても、私は、ハートマン軍曹と行為を行うのは無理です!」


「ハートマン、軍曹、とは、誰ですか?」


「えーと、あの、・・・私の故郷で有名な軍人で、・・・その、彼女たちの何人かは、永遠の霊廟の玄室で行動を共にしました。

 彼女たちの、見た目と言動と性格は、そのハートマン軍曹とそっくりなのです。

 軍人として、同僚としては尊敬できますが、・・・すいませんが、女性として見ることはできません!」


 良く分かりませんが、ここまで、強固に拒否するのですから、本当に無理なのでしょう。


「分かりました。そこまで言うのでしたら、他の女性を当たりましょう。

 それで、念のため聞いておきますが、あなたの女性の趣味は、どのようなタイプなのですか?」


「えーと、そうですね。

 不敬を承知で言わせて頂ければ、こちらで見た中では、ネディーアール殿下と、センフルールのシノノワールさんが、すばらしいと思いました。

 あ、ちょっとずれますが、シマクリールちゃんでもいいかと」


 思わずため息が出ました。


「確かに、ネディーアール様は美人です。

 シノノワール殿も髪の色を除けば、かなりの美人でしょう。

 ですが、其方は勘違いしています。

 ネディーアール様に代表されるような女性、私も含めて高位貴族の一部の女性は、筋肉労働をほとんどしません。

 男性に寄り添いますが、従者にはなりません。

 それどころか、私たち自身が従者を必要とします。

 ですから、それなりの地位の男性、中級以上の貴族の当主か後継ぎしか、養えないでしょう。

 其方の立場では、無理です。

 仮に、其方がこれから出世し、そのような女性を養える立場になったとしても、そのためには、事前に、その女性の分まで従者を確保しておく必要があるのです」


 私の説明が進むにつれて、キョウスケの顔色が悪くなっていきます。


「あの、性的な関係のない、普通の使用人として雇うのはだめなんですか?」


 ますます、意味不明で非常識な事を言い出しました。


「使用人も主人が定期的に精を注いでやるのが普通です」


「すいません、まさか、女性使用人は全員、男主人の御手付きってことですか!」


 何で、絶叫になるのでしょう。


「少なくとも、上位の使用人はそうですね。

 ですが、下位の者も、頑張っていれば何時かは主人に精を注いで貰えると期待しています。

 女性はそれを励みに頑張るのです」


「それ、子供とかできちゃったら、どーするんですか!」


 何故、いちいち絶叫するのでしょう。


「子供が出来たら、女は喜ぶと思いますが」


「喜ぶ!いや、それは、そーなのかも知れませんが、男性にとっては大問題ですよね!」


「少し、落ち着いてお話しなさい。

 使用人に子供が出来るのは、良い事でしょう。

 血縁の忠実な使用人を獲得できるのですよ。

 その子の出来が良いなら、正夫人の養子にすることも可能です。

 貴族にとって一族が増えるのは良い事でしょう」


「いや、・・・それ、・・・その正夫人は、怒りますよね?」


「何故、怒るのですか?」


「へっ」


「今回、私が連れてきている従者の何人かは、私の夫が使用人に産ませた娘です。

 私が預かって礼儀作法を仕込んでいるのです。

 第一正夫人の務めの一つです」


 キョウスケは、絶叫はしませんでしたが、何故か目を見開いて呆然としています。

 何に驚いているのでしょう?


「あの、今気づいたのですが、クロイトノット様は、女性ですよね。

 女性が女性の使用人を使っている。

 この場合は性的な関係は無いですよね!」


「其方、先程までの話を聞いていなかったのですか?

 私が連れている使用人は、私の夫か、息子の管轄です」


「えーと、つまり、クロイトノット様の旦那さんや息子さんが相手をしていると」


「いい加減、現実を知りなさい。

 キョウスケ、あなたは平民です。

 平民がいきなり、高位の貴族女性を正夫人に迎えることは不可能です。

 将来、それらの女性を迎えるためにも、何人かの女性と結婚し、体裁を整える必要があります。

 カゲシンで施薬院に入るとしても従者なしなど聞いたことが有りません」


 私の説得に、キョウスケは不承不承頷きました。


「選ぶのは平民出身者からになります。

 ですが、あなたの希望もできるだけ取り入れましょう」


 また、全員、却下では問題です。

 私は、キョウスケの女性の好みを聞いておくことにしました。


「そうですね、できるだけ、女性らしい、ウエストの細い、引き締まった方が良いです。

 それで、可能であれば、胸は大きい方が、・・・」


 私は、アシックネールに命じて、女性の選定を行わせました。

 今回は、直接対面ではなく、隣室に待機した女性をキョウスケが陰から覗き見る形にしました。

 最初の女性たちはキョウスケに断られて、大層傷ついていたのです。

 女性たちには詳細は話さず、複数の男性から、妻に希望されているとだけ伝え、部屋の中で、女性らしさをアピールしてもらう事にしました。

 ですが、・・・。


「ここは、どこぞの大学ラグビー部のロッカールームでしょうか?」


 完全に意味不明ですが、気に入っていない事だけは分かります。


「つーか、何で、みんな、下着一枚何ですか?

 せめて、乳首は隠さないと放送コードに触れると思いますが。

 しかも、パンツ一枚なのに、むさ苦しさと圧迫感しか感じない。

 欠片もエロがない・・・」


「下着一枚になっているのは、それぞれ女性らしさをアピールして貰っているからです。

 何が不満なのです?

 全員、胸が立派で、ウエストの引き締まった美人ばかり。

 より取り見取りですよ」


「私が言う胸とは、大胸筋のことではないのですが。

 あと、腹筋が六つに割れているのは、私の基準では細いとは言いません」


 筋肉が有ってもアメコミの女忍者みたいのならまだしも、などと呟くキョウスケ。

 どうやら筋肉が多い女性が全てダメ、ではないようです。

 暫く、押し問答を続けましたが、キョウスケは今回も全ての女性を却下しました。

 どうしても、何を言われても、『できない』と言い張るのです。


「分かりました。もう一度、もう一度だけ、女たちを集めましょう」


 時間的にゆとりが有りませんし、私の忍耐にも限りがありますからね。


「一応、もう一度、其方の要望を聞いておきましょう」


 キョウスケは、暫く考えてから答えました。


「もう、大きな期待はしません。

 その、ある程度、女性らしい女性であれば十分です」


「今までも、女性らしい女性ばかり選んでいたのですよ」


「確かに。そこのところが根本的にずれている、・・・あー、そーですね。

 これまでのような角ばった体型の人は止めて欲しいです。

 丸みを帯びたシルエットの方を希望します」


 そんなことで、三回目、でしたが。


「ここは、両国の相撲部屋でしょうか?」


「何を言っているのか、相変わらず分かりませんが、其方の要望通り、シルエットの丸い女性を苦労して集めたのですよ」


 もう、明日にはカゲシンに着きます。

 ここにいる女性はカゲシンから呼び寄せた者もいるのです。


「いや、その、ご苦労されていたのは理解しております。

 ですが、それでも、です。私は、貴〇〇とはできません!

 琴○〇ともできません!

 〇〇龍なんて、絶対無理です!」


 目に涙を浮かべて熱弁するキョウスケ。

 頭が痛くなりました。


「我儘も大概になさい。

 其方、女性の趣味が偏り過ぎです!」


 ここまでくると、好みと言うよりも差別でしょう。


「だいたい、あなたもいい大人です。

 日々の性欲はどうしているのです?」


「それは、・・・それなりに何とかなっています」


「何とかって、・・・あなた、まさか、男性不能ですか?」


 一瞬、最悪の事態が頭をよぎりました。

 男性であっても、男性能力がない、あるいは、著しく低い者がいます。

 多くの場合は中年以降にそのような状況に陥ると聞きますが、極稀に若年からそのような状況になる者もいるそうです。

 実は、永遠の霊廟で関わりとなったハーラングラント住持がそれに悩んでいました。

 キョウスケが優れた薬師と聞いた彼は、恥を忍んで私に協力を求めたのです。

 私は直ぐにキョウスケに相談したのですが、彼は、あっさりと薬を作ってしまいました。

 その効果は劇的で、ハーラングラント住持は何度も礼を述べていました。

 カゲシン施薬院の誰に頼んでもダメだったのに、使ったその日に効果があったそうです。

 効果があったと聞いたキョウスケは、その日のうちに五〇〇回分作って渡していました。


「あの、バイ〇グラとかいう薬、五〇〇回分もあったのは普段からあなた自身が使っていたからですか!」


「いえ、そんなことは、ありません。

 私は普通です。

 バイ〇グラなんてなくても大丈夫です!」


「だったら、女性が必要でしょう!」


「いや、それは、・・・」


「女性無しで、日々、溜まった精をどうしているのですか。

 少なくとも一人は女性が必要ではありませんか」


「なんと言われようと、朝〇〇とヤるぐらいなら、自分で処理した方がマシです!」


 一瞬、何を言われたのか理解できませんでした。

 私が絶句していると、キョウスケはそれで話が終わったと勘違いした様で、一人退室していきました。


「とんでもない変態ですね」


 隣にいた末娘のアシックネールがぼそりと呟きました。

 世の中に男性は少なく、女性は多い。

 成人した男性はその精を女性に注ぐのが世の理です。

 それを、自分で処理する、とは。

 せっかくの精を女性に注がず無駄にするという事でしょう。

 成人前の男子ならばともかく、いい歳の男性が許される事では有りません。

 マリセアの正しき教えとか、以前の話です。

 人として最低限の礼儀、この世の理に反しています!

 しかも、・・・しかも、それを人前で公言するとは!

 破廉恥にも程があります!


「アシックネール、今の話、・・・」


「分かっています。私は言いません。でも、・・・」


 娘は小首をかしげて付け加えました。


「キョウスケ、最後は絶叫していましたよね。

 あれ、きっと隣の部屋まで響いてますよ。

 数日後にはクロスハウゼン師団中に広まっているのは確実です」


 私は頭を抱えました。

 バラが無ければ棘もない。

 有能な人材は癖が強いとは言いますが、これは、無いでしょう。


「従者うんぬんより先に性癖を叩き直さないとダメですね」


 アシックネールの言葉に私は力なく頷きました。

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