01-17 月の民との会合
まず入ってきたのはフロンクハイトである。
美人です。
以上、おしまい、終わり、終了。
嫁に来て頂けるのでしたら三つ指ついてお迎えしたい。
性格が下の上程度でしたら許容します。
あ、オッパイはもうちょっと大きくてもいいです。
すいません、ごめんなさい、贅沢です。
Eカップは有りそうですから十分です。
肌、白いです、金髪です。
まんま北欧です。
女性誌の表紙に載ってそうなモデルさんです。
ダークブルーの瞳に知性を湛えたのが正使のシュタール・イマム-サさん、青緑の瞳に愛嬌を秘めたのが副使のシュタール・シェラリールさん。
二人ともオレと同程度、一七〇センチかそれ以上の長身で足が長い。
個人的な趣味としてはシノノワールさんのような細めのヒップがいいのだが、世間一般にはこちらのボリュームを好む方が多いだろう。
いや、オレだって、そんなに嫌いではない。
全く問題ない、ノープロブレム。
この二人に『お願い』されて断ったというハーラングラント住持はすごいと思う。
正直、オレなら危ない。
後ろに立っているお付き二人も北欧系金髪美人。
四人でアイドルグループでもできそうだ。
お付きの方でも十分だから、譲っていただけないだろうか。
当方、絶賛嫁募集中です。
切実です。
いや、真面目な話、早急に一人か二人でも見つけないと、とんでもない事になりそうなのだ。
石垣さんとか、石垣子分さんとか。
平民でフリーの男性、魔力持ち、医者。
うぬぼれているわけではなく、オレはねらい目らしい。
平民限定だが。
中でも質が悪いのが石垣配下の女性兵士集団。
何が、質が悪いって、みんな、純情で、素朴で、本気なのだ。
当初はオレを味見してから相談だったらしいのだが、オレが『隊長のお気に入り』になったので正攻法に切り替えたらしい。
断るのも大変というか、気が引けるというか。
傷つけたくはないけど、断るしかない。
そりゃ、分かってますよ。
女は見た目じゃない、中身だって話は。
でもさ、見た目が圧倒的に好みから外れているのは、ちょっと。
石垣系女子はオレの好みじゃないんです。
そーゆー女性が好きな男はいるし、その趣味をとやかく言うことは無い。
だからオレの趣味も多少は聞いてほしい。
いきなり広背筋や上腕筋をアピールされてもオレはトキメカないのだよ。
「今度一緒に熊狩りに行かないか。私の剣の腕を見てほしいのだ」
というのはデートの誘いとしては絶対に間違っていると思う。
女から男への誘いだよ、コレ。
メイド隊の誰か一人ぐらい靡いてくれないものか。
メイド隊は全員いいとこの貴族出身でオレには何の興味も示してくれない。
とにかく、帰り道のニシシュマリナ到着までに恋人を最低一人確保しなければならない。
でないと、・・・まともな宿で夜の見張りが楽になったら石垣様のお誘いがくるだろう。
あの、象並みの肺活量に支えられたサイクロン掃除機級のキスはもう経験したくない。
絶対にだ。
「初対面のご挨拶をさせて頂く。
何分、こちらの礼儀作法には疎い。
間違いがあったら許されよ」
いつの間にか、セリガー代表団が入ってきていた。
オレは眼鏡、みたいな魔道具をかけ直すと、セリガー代表を観察する。
眼鏡型魔道具はライデクラート隊長から渡された。
月の民は人族に対して『魅了』の能力があるので、それを防ぐためらしい。
公式の席で『魅了(チャーム)』を使うのはマナー違反らしいが、使わない保証はないため、かけておくようにと渡された。
勿論、オレだけでなく姫様以下全員が着用している。
セリガー代表はバイラルと名乗った。
がっちりとした体躯の男性で見た目は三〇代半ばと言うところ。
実年齢は二〇〇歳越えと言う話だが、衰えたとか、枯れたとかそんな感じは微塵もない。
現役バリバリ、アグレッシブなエリートビジネスマンみたいだ。
やや浅黒い肌、地球で言うなら東南アジア系の肌と顔立ちで髪の毛はグレー。
身長は一八〇ぐらいあり、こちらに来てからでは二番目に体格が良い。
ちなみに一番はライデクラート隊長だ。
隊長、あんたどんだけだよ。
バイラルの横にピッタリくっ付いているのがセリガー副代表のミアマリトさん。
やはり暗めの黄色人種系で髪の毛はグレー。
身長は百六〇センチないが、こちらの平均という感じ。
最初は体をすっぽりと覆うマントを羽織っていたが、入り口で兵士に取り上げられていた。
下から現れたのが、ほとんど下着に近いきわどい衣装だったのには驚いたよ。
まあ、似合ってるちゃー似合ってるけどね。
でも、どう見てもバイラルの彼女です。
見込みゼロ。
まあ、こーゆービッチグラマー系はオレの好みから大きく外れる、・・・石垣軍団よりはマシだけど、・・・いや、そんな、人前でも腕組んで胸を押し付けてくれる彼女が欲しいなんて考えたことは無いぞ。
全然ない。
無いったら無い。
最後にセンフルール、シノノワールさんとシマクリールちゃんが入ってくる。
うん、やっぱりいい。
個人的にはこのコンビが最強だ。
また、キスしないかなぁ、・・・何考えてんだ、オレ。
昔、某発展途上国からの留学生が、渋谷だか原宿だかに行って、「歩いている女性がみんな美人でびっくりした」とか言ってたけど、なんというか、今の状態はその逆だ。
子供のころから適切な栄養を与え、過度な筋肉労働をさせず、衛生環境を適切に保てば、女性は結構きれいになる。
逆にそれが欠けた世界では、・・・うん。
あくまで上級貴族級に拘るか、平民クラスで妥協するか、・・・正直、せめて石垣でないのがいいです。
それにしても、こうして月の民の代表が一堂に会したわけだが、・・・似てねー。
千差万別というか、統一感なさすぎだろう。
人族から見ればどれも月の民なのだろうけど、互いに友好的には見えない。
別人種だもんな。
長々しい挨拶が交わされ、月の民代表各二人のそれぞれが席に着き、紅茶みたいのが各人にふるまわれ、それぞれお付きの方が毒見して、そんでやっとのことで会議が始まる。
話を始めたのはライデクラート隊長だ。
挨拶でも言っていたがこの人自身が結構な地位らしい。
十四歳の姫様はお飾りで実質的な話は隊長と言うのが月の民代表団を含めた暗黙の了解だろう。
石垣で少年好きでも、実務家としてはそれなりなのだと思う。
マリセア側で席についているのは、姫様、姫様の右側にライデクラート隊長、左側にクロイトノット夫人、ライデクラート隊長の右にハーラングラント住持、計四人である。
オレは勿論、メイド他と一緒に後ろに立っている。
すでに足が疲れてますです。
「此度、貴兄らの要請もあって内公女様にご臨席頂き、この会となったわけだが、貴兄らの要望について再度確認しておきたい。
貴兄らが個別会談と個別協議を望んでいるのは承知している。
しかしながら、本官がこれまで受けた報告によれば、貴兄らの要望は基本的に同一だ。
故に、このように合同で話を進めるのが効率的と判断した。
それぞれの代表団の要望は、『永遠の霊廟』施設の見学、特に中央部の玄室への入室を求めるものだ。
ただし、それぞれ他の代表団より先にとの条件が付く。
管轄地域担当官である住持ハーラングラントより、この『一番先』という要望について理由を聞いているが、現在までのところ明確な理由はどの代表団からも提示されていない。
故に再度この場で問いたい。
諸君らが強固に『一番』にこだわる理由は何か。
貴兄らが、我らとの友好を盾に厚意を期待するのであれば、当方にも貴兄らの善意を期待する」
しばしの沈黙ののち、シノノワールが口を開いた。
「それについて、このような場ではお答えいたしかねます。
当方の事情について、開示して良い情報は限られているのです。
まして、競合相手のいる場所での情報の開示は困難です」
「個別にという話はこれまでもあり、担当官はすでに何度も個別に事情を聞いている。
残念ながら、こちらが条件を受け入れた場合の見返りという話であれば進展は困難だ」
ライデクラート隊長が抑揚のない声で答える。
これにセリガーのバイラルが被せるように発言した。
「カゲシン本山の方々が、こちらを優先して頂ければ、セリガー共和国連邦はそれに十二分に報いる準備があるとお伝えしたい。
国家に対しても、ご足労頂いた内公女殿、及びそのお付きの方々に対しても、だ。
逆に、まあそのようなことは万が一にも起こり得ないとは思うが、センフルールやフロンクハイトが優先される事態となれば、共和国連邦とカゲシン本山の友好関係に重大な疑義が生じうる。
それだけでなく、交渉を担当した方々の処遇についても我が国より強い申し入れがあるでしょうな」
「セリガー共和国連邦との友好関係については本官も重々承知している」
隊長は改めて、月の民代表団を見まわす。
「貴兄らにここで一つはっきりと言っておくことがある。
内公女様並びにその補佐を命じられた本官は、カゲシン本山を出立するに際し、提供される条件が同程度の場合は、セリガー共和国連邦を優先すべしとの指示を受けている」
「もう一度、もう一度だけでもこちらの条件を見ては頂けませんでしょうか?」
「セリガーはフロンクハイトの倍、提供すると約束しよう」
シュタール・イマムーサの発言にバイラルが被せる。
「しかしながら、我らが最優先すべきは帝国の利益でありカゲシン本山の威厳だ」
ライデクラート隊長はぶれずに発言を続ける。流石は石垣だ。
「我々も色々と情報を集めている。
それによると、セリガー、フロンクハイト、センフルール、それぞれの国は代表団が何かを持ち帰ることを期待していることが判明した。
残念ながら具体的にそれが何かは判明しなかった。
しかしながら、それぞれに取って大きな意味を持つ物であると推測している」
再び沈黙が支配した。
互いが互いの反応をうかがう中に、まだ幼さの残る甲高い声が響いた。
「ところで、ついででなんじゃが、其方らに聞きたいことがあってのう。
ハリナガアカツノヒメバチ、という蜂について知っていることがあれば教えてほしい。
最近、カゲシン本山にこれの卵が密輸されたとの情報があってのう。
何でも、月の民の間では古来、暗殺に使われる恐ろしい代物と聞く。
人に使った場合は、なんでも魔力の多い者だけを殺すことができるのじゃとか。
本当であれば気をつけねばならぬと思うておる。
其方らが、このような厄介な代物を我が国に持ち込むとは思えぬが、そのような問い合わせはあったやも知れぬ。
どうじゃな?」
反応は無い。シノノワールも何も言わない。まあ、賢明だ。
「では、また違う話をするとしよう。
つい先日成人して、本山の儀式にも正式に参加したのじゃが、まあ、なかなかの物であった。
其方らも一度は参加しても良いと思う。
そこでだ。
儀式に際して、宗主様は宗祖カゲトラ様がお使いになっていたという錫杖を使用されていた。
あの錫杖じゃが、別に聖典に記載されているとか、特別な魔力や効能があるとか、そんなものではない。
だが、我らマリセアの正しき教えの徒にとってはとても大切な物じゃ。
カゲトラ様から代々受け継がれてきた大切な遺物じゃからのう。
大切な儀式で歴代の宗主は必ずあれを用いておられた。
もし、仮にあれが本山から失われたら、それこそ大変な騒ぎになるであろう。
そして、失われていた錫杖が再び発見され持ち帰られたとしたら、一か月はお祭り騒ぎであろうな。
持ち帰った者の立身出世は間違いないじゃろう」
ナディア姫、ノリノリだな。
「そして、もし、だ。
もし、錫杖が失われていた間に宗派が三つに分裂して本家争いでもしていたら、錫杖を手にした派閥は極めて大きな優位を得ることになろう」
やはり、というか月の民代表団からは反応は無い。
代表団の誰も顔色を変えないのは流石だ。
だが、従者たちは必ずしもそうではない。
お守りの眼鏡を少しだけずらす。
この眼鏡、確かに効果はあるのだろう。
これをかけているとマナの流れが見え辛いのだ。
そして、オレは親指を立てた。
何時にもまして硬い表情のライデクラート隊長が言葉を発する。
「周知のことではあるが、貴兄らに再度、説明しておきたい。
現在、我らが帝国には皇帝がおられない。
しかるべき者が皇帝位に就かれるまで、帝国の帝冠は我がカゲシン本山にてお預かりしている。
これは帝国内諸侯、及び貴兄らを含む諸国の同意により実行されている措置である。
同様に、帝国直轄の施設については我らが管理することと定められている。
この『永遠の霊廟』の管理を我らが行っているのもその一環だ。
つまり、この霊廟内に存在する物品についても我らの管理権は及ぶ。
霊廟内のいかなる物品についても我らの同意なく持ち出すことは禁じられる」
未だに、表面的な、反応は無い。
だが、マナの放出量は変化している。
フロンクハイトの代表二人、センフルールのシマクリール、そして意外だがセリガーのバイラルだ。
右手握りこぶしからのマナ放出が著しい。
「貴兄らは、この霊廟の主は月の民であり、その遺産は月の民の者が継承すべきと考えているのだろう。
だが、かの者は同時に帝国の要職にあったのであり、その遺物は帝国が管理すべきと言える。
しかしながら、遺物についての情報がない現状において、その判断は困難だ」
いまや会議室内のマナの変動はすさまじいものになっていた。
シマクリールの話からすれば彼女はマナの流れが見える。
シノノワールもそうだ。
恐らく月の民の代表団は全員がマナを見ることができるのだろう。
だが、こちら側にマナを見ることができる者はいないと踏んでいるのだろう。
代表団の互いを見る目が厳しい。
ライデクラート隊長の視線がオレに向けられている。
表面的な反応が無いのが不安なのだろう。
オレは、再び親指を立てる。
「先ほど、条件が同じならば、我らとしてはセリガー共和国連邦を優先すると話した。
だがこれは、我らがセンフルールやフロンクハイトとの友好関係を軽視しているという意味ではない。
我々としては月の民諸国の相互バランスが崩れるのは芳しくないとも考えている」
ライデクラート隊長の目がセリガー、そしてセンフルールに向けられる。
最後に視線はフロンクハイトに固定された。
「もう一度、よく考えてほしい。
貴兄らは、この霊廟に眠る者の遺物を得たいと考えているのだろう。
だが、その遺物はどこが保有すべきだろうか?
勿論、自国でと貴兄らは答えるであろう。
だが、最善が必ずしも達成できるとは限らない。
次善の策も考慮すべきではないか。
私からはそう忠告したい」
一瞬が、長く感じることがある。
人の体感時間は可変するのだ。
だから、この時の沈黙は極めて長く感じたのだが、実際にはせいぜい数秒だったに違いない。
「そうですね。
『預言者の印』は預言者様の個人的な所有物と聞きますが、預言者様自身が皇帝であられたのですから、確かに帝国の遺物という考えもあるでしょう。
我らフロンクハイトは『預言者の印』をカゲシン本山で保管する案に同意したいと思います」
フロンクハイト正使イマムーサの言葉に姫様の口角がつり上がる。
オレも快哉を叫びそうになったが抑えた。
バイラルのマナがとんでもない事になっている。
顔にも出さずよく抑えているものだ。
我々は、まだ第一段階をクリアしたに過ぎない。
流石と言うべきか、ライデクラート隊長はおくびにも出さない。
なんだかんだ言って交渉には慣れているのだろう。
「ほう、『預言者の印』か」
「始祖様は」
無表情のままシノノワールが発言する。
「始祖様はこの霊廟に入るに際し、麻の衣とその個人の印のみを身につけられていたとされます。
印は袋に入れられ首から紐でつるしていたとセンフルールには伝わっています」
「預言者様は神の代理のしるしとして神様の御使いより直接その印を託された。
フロンクハイトの民は子供でも知っている話です」
「印、か。
個人的な印と言われたが、本山には数種類の帝国玉璽が伝来している。
それとは別物という事か」
「預言者様は、その統治の最初から最後までこの印を使用されていたと聞きます。
帝国の発展に伴う事務作業の増大に伴い、帝国の公式印として帝国玉璽が制定されましたが、預言者様自身は生涯、この印のみを使用されました」
「確かに、公的な物か個人的な物かは微妙なところはあるのう」
姫様が言葉を入れた。
本当に物おじしない性格だ。
しかし、何だろう。
姫様が言っていた話と月の民の話で結構な齟齬があるのだが。
「しかし、多分宗主様は本山で保管したいと言われるであろうな。
ところで、その印とやらは、魔法的な品ではないのか。
そう、例えば、バラバラにしても元に戻るとか」
「ええ、その通りです。
粉々に砕け散ってもマナを注げば原型に復帰します。
幾多の魔術技工士が挑んだものの、これまで誰も再現できてはいません」
諦めたようなため息とともにシノノワールが言う。
「よろしければ、センフルールが探索に協力いたしましょう」
「それに付いてはフロンクハイトも協力を惜しみません」
「ほう、それは助かるのう」
「わかった、降参だ」
セリガーのバイラルがおどけた調子で両手を上げた。
「全く、とんでもねー姫様だ。
こんな絵を描いたのはあんたか。
それとも、・・・」
バイラルは姫様の両脇を流し見る。
「成人したばかりのお姫様、取り巻きは真面目が取り柄の乳母と、馬鹿ではないが搦め手なんて考えもしない正統派の軍人と聞いてたんだがな。
玄室の探索にはうちも加えてもらおう。
『魔王の印』が存在するのかどうか、存在したとしてどんなものか、確認せずには帰れんのでな」
「今の物言いはネディーアール様に対して無礼ではありませんか。
それに、我らの始祖様を魔王呼ばわりする輩と同席する気はありません」
シノノワールが冷ややかな目を向けるが、当人は気にするそぶりも見せない。
「俺としては姫様に最大の敬意を示したつもりなんだがな。
あと、魔王ってーのが、どーしてだめなんだ?
魔道を極めし者、魔法使いの王、だから魔王でいいじゃねーか。
過去においてセリガーが魔王と対立したってー事は確かにある。
ま、一部で未だに引きずってる奴がいるのも事実だ。
だが、俺個人としては嫌っちゃいない。
むしろ尊敬している。
崇拝していると言ってもいい」
バイラルはシノノワールを見て笑った。
「だってそうだろ。
世界の大半を征服し、血族だけでなく人族も牙族も支配下に置いた。
制度を作り、暦を作り、魔法を体系化し整理し発展させた。
長さの単位も、重さも量も、魔王が決めた。
法律制度だの裁判制度だの作ったのも魔王だ。
俺たちは未だに魔王の支配下で生きている」
バイラルの体から出るマナの性質が変わっている。
これは、・・・威嚇、だろうか。
周囲の兵士がおびえた表情を見せている。
センフルール、フロンクハイトからも同様なマナが放出されているのは対抗措置なのだろう。
驚いたことに姫様も出していた。
・・・オレも出した方がいいのだろうか?
ライデクラート隊長は脂汗を出しているがマナは出していない。
ふむ、結構単純そうだから出せないことは無いけど、出したら目立ちそうだ。
と、言うか、この威嚇、みたいのはどの程度の威力なのだろう。
オレ個人には何の影響もないのだ。
「玄室の探索じゃが、すでに協力者が名乗り出ている。
セリガー代表団にご足労願わずとも問題は無い」
「それだけは、こちらも引けない。
他も入らないのならともかく、うちだけが排除されるってーのは問題だ」
「ふむ、難しい所よのう」
ナディア姫はペロリと舌を出した。
「そう言えば、其方、何か忘れていたことは無いか。
先ほどは忘れていたが、今なら思い出したこともあるじゃろうて」
バイラルが大声で笑いだした。
「そうだな、そういや、さっきはド忘れしていたが、思い出した。
ここには結構な時間居たのでな、カゲシン本山のやんごとなき御方にも挨拶の使者を出した。
そこで、『自衛のために』魔力が極めて強い、死に辛い者にも効果がある暗殺手段がないかと聞かれた。
魔力が極めて強い者にしか効果がないというのがあれば最高だと。
考えようによっちゃ随分と物騒な話だが、やんごとなき御方の依頼なんでな。
それで、手元に、偶然、ハリナガアカツノヒメバチの卵があったので送ることにした」
「ほう、偶然、か」
「そう、偶然、だ」
セリガーの第七位がわざとらしく高笑いする。
「ところがだ。
手違いがあって物が輸送の途中で失われた。
手元に予備は無かった。
本国から至急取り寄せると申し送ったんだが、何故か断りの知らせが来た。
何でも、他から入手したらしい。
それが、どこからかは、知らん」
バイラルの視線がフロンクハイトに向いている。
「興味深い話じゃのう。
それで、そのやんごとなき御方じゃが、覚えてはおらぬのか?」
「はぁ、そこまでか。
そうだな、・・・名前は忘れたが、なんか、ふわっふわした雲が重なった家紋のとこ、の関係だったかな」
「よかろう。
玄室の調査は月の民の諸派代表と共に行うとしよう。
日時は、・・・ライデクラート」
「本日はすでに時間も遅い。
明日以降、改めて設定し通知、・・・」
「いえ、調査は今夜中に行うべきです」
凛とした声でシノノワールが隊長を遮る。
「今夜は満月です。
魔力が最も満ちる夜。
始祖様の印が見つかるとしたら、今夜です」
満月ね。
オレがこちらに呼ばれたのも満月の夜だった。
オレが、このカナンに来て一か月がたとうとしている。
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