第6カード

 「キーンコーンカーンコーン」

地獄の期末テストの終わりを告げるチャイムが学校に鳴り響いた。テストが終わればもう夏休み!!プロ野球も後半戦が始まる。


伶彩れいあ!テスト終わったしさ、どっか遊びに行かん??」

「ごめん冬遥とはる!テスト終わったけい部活始まるんよ!夏は野球の季節だからねー」


テスト期間中グラウンドへの立ち入りは禁止になっていた。そのことからか、私は一刻も早くグラウンドの土を踏みたくて仕方がなかった。冬遥に謝りながらもその衝動は抑えきれず、すでに教室からも飛び出していた。


 肌にあるぞわぞわとした感触の正体が何かを考える暇さえ惜しみ、湿り気を帯びた空気を切り裂いていく。普段であれば〝気持ち悪い〟と形容するそれすら愛しく思え、全世界が私を光で包みこんでくれているような気さえする。


無我夢中に走り、息が切れた頃ようやくグラウンドに着いた。絶対に一番乗りだと思ったその場には既に先客がいた。


「やっぱり岩田か。」

「監督......。こ、こんにちは!!」


全速力で駆けてくるのを監督に見透かされていたようで、先程とはまた違う汗をかいた。


「ふふ。やっぱり待ってて良かった。岩田に一番に報告したくてね。」

「報告......ですか??」

「あぁ。実は、うちの部の初めての試合が決まったんだ。」


石川監督はそう言って微笑んだ。その言葉に私は、息が止まってしまったのではないかという錯覚を起こした。そして、いつもと同じようでちょっと違う石川監督の微笑みに何故だか胸がざわめいた。テスト終わりで疲れているし、分からないことは放っておこうと首を振り、頭を〝初戦〟に切り替えた。


「本当ですか!?でも、相手チームは......??」

「リトルリーグだよ。僕の顔馴染みが監督に就任したって聞いて、早速交渉に行ったんだ。」

「やったぁ!!!!監督、やっとですね!!ありがとうございます!!」


居ても立っても居られなくなり、私は来た道をUターンして部員の皆のところへ向かった。皆の喜ぶ顔を想像するだけで、先程走った疲れは鳥のようにどこかへと飛んでいってしまっていた。

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