第5カード
新入部員が来てから早くも三ヶ月が経った。学校へと続く、薄紅色に染まっていた並木道も今では青々として、気分だけは涼やかだ。
「おにぎり食べる人ー!!」
調理部部長である
それまではマネージャーが一人で全員分の夜食を作ってくれていたため、当然凝った料理にはありつけなかった。
それに対して、調理部は総勢六十人の大所帯。毎日工夫が凝らされている料理が届く。
例えば今日のおにぎり。たしかに王道で簡単な料理だが、うちの調理部にかかればそれが特別なものになる。
おにぎりの具材には、運動後に必要な塩分や身体作りには欠かせないタンパク質など、余分な物が一切入っておらず、それがバランスよく摂れるように組み合わさっている。
言うならばまさに、"野球部の調理部による野球のための食事"だ。
そんな調理部の気遣いのおかげか私たち三年生も後輩達も以前に比べて目覚ましい成長を遂げている。それはノック一つ、キャッチボール一つでも顕著に表れている。
調理部員、ことに冬遥には感謝してもしきれない。
「ちょっと
「ん?あ、ごめん!ちょっとぼーっとしとった。」
「まぁ大変だもんねー仕方ないわ。指南書どう??順調??」
「んー、どうだろ?まあまあかな。今は二冊目の途中。」
ベンチに置いてある赤い表紙のノートには、"女子硬式野球部記録 No.2"と記されている。赤い表紙を選んだのはもちろん、大好きな球団カラーだからだ。
試合中継はちゃんとリアタイで観たいが、最近は練習で思うようにはいかないのが現状だ。
「ねぇ冬遥、スマホ見して!!」
「いいよ。......ほい。」
「ありがと......って冬遥!!なんでプロ野球速報見たいって分かったの??」
「そんなのバレバレだって。顔に書いてあるじゃん。」
「そんなに分かりやすい!?んー、よし!!6-3!このまま勝って!!頑張れーー!!!!」
周りに人がたくさん集まっていることも忘れ、思わず両手を握りしめてスマホ画面に向かってそう叫んでしまったようで、あっ......とそのことに気づいたときには時すでに遅し。周りの視線が私に強く突き刺さった。
私は、羞恥心で全ての身体の熱が耳や頬に集まっていくのを感じた。だがそれとは対称的に、背中は冷や汗でびっしょりだった。
そんな私を見て冬遥は、悪戯が成功した子供のようにうざったらしい笑みを浮かべていた。
「もう!冬遥!!なんで言ってくんないの!?」
「伶彩がいきなり叫んだんじゃん?私もびっくりしたわー」
「とーはーるーぅ!!!」
全力ダッシュで、息を切らしながら逃げる冬遥を追いかけた。なんだかんだ、こうやって冬遥とじゃれ合うのを嬉しく思っている自分もいるが、それが冬遥には一生の秘密であることは言うまでもない。
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