第4カード

「では、集まってください!」

そのリーダーシップを発揮して現部長の岩田は部員をホームベースの周りに集合させた。 


「今から守備練をします。私たち三年生が交代でノックするから、一年と二年の子たちは"確実に捕る"ということを意識して各自守備練して下さい。それから......、」


部員をまとめるあのを見ていると、あいつのことを思い出す。


 

 ───私は、できないから。......だからせめて、石川君たちのサポートをしていたい。


 俺以上に、いや誰よりも野球が好きで好きでたまらなくて、誰よりも一人で練習していたあいつは寂しそうに笑ってそう言った。

マネージャーとして、コーチとして硬式野球部のために汗を流していたあいつ、たった一人だけとは、最後まで一緒に野球できなかった。


誰もいない豆電球だけの頼りない灯りの下で、解けかけた白球を縫いながら涙を流すあいつの姿なんか見たくなかった。

せめて、今後あいつみたいな思いをする人が一人でも少なくなるように、俺は高校と大学の七年間を野球に全部捧げた。


そうしてやっとの思いで作った女子硬式野球部居場所に、もしあいつがいたなら......と何度唇を噛み締めたことか。それならきっと、あいつの満面の笑顔が見れただろうに、と。


 でも、来てくれた。野球が好きで好きでたまらない岩田教え子が。部員を引っ張る岩田の華奢な背中はあの日のあいつとそっくりだった。

俺は岩田に、あいつを重ね合わせて見ているのかもしれない。つくづく悪い指導者だな、と我ながら思う。


だけど、そんな俺についてきてくれる部員たちがいる限り俺は、誰もが差別なく野球ができるようになる日が、近い将来必ず来ることを信じ続けることができる。厄介な柵に立ち向かう勇気が出る。


俺は、野球がもたらしてくれた大きな喜びと希望を逃がさないよう、部員たちの輝く汗の染み込んだグラウンドの土をしっかりと踏み締めた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る