第3カード

「えーっと、皆さん!!今年の新入部員はなんと!四人きてくれましたー!!」

昼練から新入部員が活動を始めた。

あの手この手でたくさんの人を誘った私、すごい!これでなんとか一二年で八人獲得。上出来上出来!!


「監督から一言、宜しくお願いします。」

「はい。えーと、監督の石川俊輔です。この学校の男子硬式野球部の一応OBです。慣れないことも多いと思うけど、頑張りましょう!」

「「はいっ!!」」


なんと、これまでで一番いいお返事!さすが、石川監督をえさ......ごほん!!紹介しただけはある。

一年生には経験者がいない。みんな初めて本格的に野球を始めるとなると、上級生が手取り足取り教えるほかないだろう。

二年生のときはたまたまリトルに入っている子がいたからそこまで教育する必要はなかった。だが、その方が稀であることは言うまでもない。


リトルやシニアには、本格的にプロや指導者を目指すような選手たちが大勢いるが、うちは部活。初心者が多い事は仕方がない。もちろん、私のように小学校でソフトボールをやっていた子もいるけれど。

今後のためにも特製指南書を作っていくのがいいかもしれない。

赤き選手たちが人々の憧れの的であるように私もまた、後輩たちの憧れの対象になれるようになるには少しの努力も惜しまない。


きゃーきゃーとはしゃぐ新入部員を見ながら伶彩れいあはそんなことを考えていた。




 監督が新入部員たちにバッティングやグローブの嵌め方などを教えている間、二年と三年は自主練に励んでいた。滝のように流れる汗を拭いながらふとフェンスの外を見ると、大きく手を振っている冬遥とはるの姿が見えた。


「お疲れ様ー。......新入部員、どう?」

「まだなんとも言えんかなー。それより冬遥、どしたの?」

「そうそう!!はい、これ。」


そう言って冬遥が手に抱えていた紙袋を私に差し出した。恐る恐る中を開いてみると、そこにはたくさんのゼリーが入っていた。


「どしたの、これ??」

「ふっ。差し入れだよ。調理部皆で作ったんだ。よかったらどーぞ。」

「えっ??いいの??ありがと、冬遥!!」

「いいってこと!頑張ってよー」


冬遥は腕に掛けていたタオルで私の髪をゴシゴシと摩ったあと、それを首に掛けてくれた。ふ、と笑って踵を返し、少しだるそうに片手を上げる姿はいつでも私の憧れだ。



 

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