第1カード 

 「コン!」


透き通るような打球音と共に、大きくアーチを描いて私のいたレフトスタンドへと白球が吸い込まれていった。

私はあの時の衝撃を、声援を......その熱気を忘れられずにいる。スタジアムを彩る赤と白のユニフォームを近くに感じたあの夜のことを。


 あれからもう九年。私はこの春に中学三年生になった。あれから私は球団やその選手のこと、野球のことをたくさん調べまくった。調べれば調べるほど、その全てをますます好きになっていった。

 

そんな私が中学に入ってすぐに入部したのは"女子硬式野球部"。なんと全国では私の通っている学校にしかないのだ。

部員は中二が四人、中三が六人、マネージャー一人の十一人と、野球をするにはぎりぎりの人数しかいない。そのため、新入部員勧誘は部長である私の最重要任務だ。


「よっ!伶彩れいあ!!どう?新入部員入ってきそう??」

冬遥とはる〜っ!!それがぜーんぜん!!女の子には片っ端からこれ渡してるんだけどスルーされてるって感じしかせんのんよー。」


部員皆で一生懸命作った手描きのビラを渡すと、冬遥とはるはわざとらしく眉を寄せた。


「ねぇ、なんで女子野球部のビラに"混ぜ棒"が描かれてんの?」

「ち・が・う!それはバット!!もう!何でもかんでも調理器具にせんとってよね!」

「ははは、ごめんってー。ついつい、ね?」

「はぁ。............聞かんくても分かってるけどさ、そっちはどう??調理部。」

「もっちろん今年も大盛況!もう定員いっぱいになっておりますーー」

 

冬遥とはるは私を横目に見ながら、「女子で。」と小さく付け加え、端麗なその顔をニィッとからかうように歪ませた。


桜の花びらがはらはらと可憐に舞っている中、汗だくになりながら駆けずり回る伶彩の姿は後に学校新聞の一面を飾ることになる。



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