121.第一回 嫁たちの夜会~開催の経緯説明と問題提起~

まえがき

いつもありがとうございます。


引き続き嫁3人によるユエくんの羞恥心ブレイクトークです。

寝てるとは言えその横で繰り広げられる、割りとえげつないお話……。

――――――――――――――――――――――――――――――――






*****

//アイネシア・フォン・ロゼーリア//



「ユエくんの……『アノ日』?」


「…………」


 私が今夜2人に集まってもらってまで話さないといけない話題の内容を告げると、マリアナさんは頬に手を当てて首を傾げた。


 ツバキさんのほうは話の内容を予測していたのか、そっと目を閉じてその場に控えるように姿勢を正している。


 なんとなく、澄まし顔のその裏で考えていそうなことは予想がつくけれど、本当にそうだとしたら……物分りが良すぎるわよ、ツバキさん。

 きっと『私が口を出すことではない』とでも思ってるのでしょうけど……。


 自分の望みや希望を抑え込んじゃうところは、誰に似たのかしらね?


「『アノ日』って言うと……せ、せいり……? ユエくんの……?」


 チラリとツバキさんの様子を覗き見ていると、マリアナさんが恥ずかしそうにその単語を口にして聞き返してきた。


「そうね……『月のもの』という意味では同じかもしれないけれど、ユエさんのソレはとてもデリケートな問題なの。きっと、ユエさんはまだマリアナさんにその話はしていないと思うわ。ユエさんは自分で話すべきだと思っていそうだけれど、同時にマリアナさんに知られることを怖がってもいるわ……」


「そんなに……重たいの?」


 女に生まれたからには毎月悩まされる生理……私はそうでもないけれど、あの痛みや気だるさが今よりずっと重たかったら……どれくらい辛いかというのは容易に想像できる。

 それこそ今のマリアナさんのような顔になっていたかもしれないけど……やっぱりまだ、マリアナさんには話していないようね。


「……これから話すことは、私が勝手に話すことよ。でも私は、マリアナさんに知ってもらうことが最終的にユエさんのためになることだと思うから……前もって知っておいてほしいの。いいかしら……?」


「う、うん……。アイネちゃんがそう言うなら……聞かせて? ユエくんのこと……」


 しっかりと肯いたマリアナさんは、私の雰囲気から本当に大事なことだと思ってくれたのか背筋を伸ばして真剣な表情で聞く体勢になった。


「ええ――」


 私はそんなマリアナさんに、ユエさんの『アノ日』とは何なのかを、知っている範囲で話していった。


 月に一度、新月の日にユエさんの身体に起こる『変化』のこと。

 それはユエさんが今のユエさんに……女の子の身体になってしまってから始まったらしいということ。

 なぜそうなるのかは、ユエさん自身にもハッキリとはわからないということ。

 そしてその変化が起こると、ユエさんの殿方としての欲望が……止まらなくなってしまうということ。


 そして先月は私が……ユエさんと結ばれてから初めて迎えた『アノ日』は、私がそうと知らずにユエさんに会いに行って、『お相手』をすることになったこと――。


「……とても、苦しんでいるように見えたわ……抑えられていた殿方としての性の衝動に。あのユエさんが我を忘れるほどに……」


 今となっては、私にとって忘れられない大切な思い出の日になっているし、ユエさんも最後にはそう言ってくれたけれど……。


「最初は話しかけても聞こえていないくらいで……ユエさん、泣いていたわ……。夢中で衝動をなんとかしようとしていて……。様子がおかしいことに気づいて近づいた私を見ても、はじめは私だと分かっていなかったくらいに……ただ女というモノを見るような目だったわ……」


「ユエくんが……そんなに……」


 それでもこうして、あのときのユエさんの虚ろな目をした顔を思い出すと……。

 無理やり押し倒されたときの肩の痛みや、怖いと思ってしまった私の感情まで思い出されてしまって……。


 優しいユエさんにとって、私にそう思わせてしまったことは……襲ってしまったことは、きっと口にしないだけで後悔として心に刻まれてしまっているだろうから……。


「そうだったのね……。私も、その……昔から男の人からそういう目で見られることが多くて、怖い思いをしたことはあったけれど……」


 そうよね……世の中の殿方がみんな、ユエさんみたいに思わず見てしまったという様子で、それ隠そうとする可愛らしさを持っているわけではないわよね。


 私の場合は昔から家の爵位や薔薇銀姫という肩書のほうが先に来て、そういう低俗な殿方はその肩書のおかげで弾かれていたのかもしれないけれど、マリアナさんはそうではないものね。


「……一応言っておくと、私とユエさんは……ちゃ、ちゃんと愛のある時間を過ごすことができたわ。私は結果としてユエさんからとても幸せな思い出をもらえたし、今でもあの時にユエさんに会いに行って良かったと思ってるわ。あの時、私を通してくれたツバキさんにもとても感謝してるのよ」


「…………は。左様でございますか」


 今の私の言葉を聞いたツバキさんは、ちょっとムスッとしてしまったように見える。

 返事に間があったし、頭の上にある耳と尻尾がピクリと動いていたし。


 同じ女として、自分を差し置いて愛する人と結ばれる機会を得ることになった私にそんなことを言われても、微妙な気分になるのは分かるもの……。


 でも私は、あの階段でのツバキさんの涙を、決して忘れてはいない。

 マリアナさんとも結ばれることになったユエさんを見て、謁見の間で陛下に申し出たツバキさんがどんな想いだったのかも分かる。

 ツバキさんのためにも、ユエさんのためにも、そこは私がちゃんと……。


「ということは、ユエくんがそんな状態でもアイネちゃんは大丈夫だった……のよね? その……ぅ……き、聞いて良いのかなこれ……? ど、どうやってユエくんと……?」


 私がこの後に話すべきことを頭の中で整理していると、頬を染めたマリアナさんがそういってユエさんの方をチラチラと見ていた。


「そうね、私には……コレがあったから」


 マリアナさんの質問に答えた私は、いつでも大切に身に着けているそれを……ユエさんがくれた指輪のネックレスを引っ張り出して手に乗せた。


 何度見ても、何度手にしても……私を幸せな気持ちにしてくれる宝物だ。

 つい、頬が緩んでしまうのを感じる。


「あっ……ユエくんがくれた、これね? ……ふふ……」


 私の手に乗る指輪を見たマリアナさんも、その胸の谷間に挟まれていた指輪を引っ張り出して同じように手に乗せ、私と同じように幸せそうに微笑んでいる。


「…………………………………………」


 ツバキさん、とても羨ましそうね……。

 というか、そんなに睨まれるとちょっと怖いわ……。


「え、ええと……その、これを見たユエさんが正気に戻ってくれて……そのあとはとっても優しく……でもとってもたくましく…………ゴホンッ」


 だ、ダメよ私。

 今は真面目なお話の途中なのに、あの時を思い出して身体を熱くしてたらダメ。

 寝ているユエさんのたくましかったトコロなんて見たらダメッ。


「…………主さまぁ……」


 ……あ、これはツバキさんもナニかを思い出してるわね……。


「そういえば……指輪の話をしておいて何だけれど、ツバキさんの時はどうだったのかしら……?」


「わ、私も興味あるかもっ……! ツバキさんとユエくんがもうしちゃったのは聞いてたけれど、ど……どんな感じだったの?」


 切なそうにユエさんを見るツバキさんの様子を見てつい尋ねてしまったけれど、それこそ聞いて良い話だったのかしら……?


「そう、ですね……」


 マリアナさんにまで食い気味に尋ねられたツバキさんの顔には……ほんの少しだけ、寂しそうな……悲しそうな色が浮かんでいた。


「……大変申し上げにくいのですが、私の場合はほぼ無理やり……でございました」


「そう……」


「私もアイネ様と同様、最初はそうとは知らず……。主様にお仕えし始めてすぐの頃、立ち寄った町で唐突に私や忍華衆の女達を遠ざけるようなご命令を出されたことがありました。それでも私はお側でお仕えしたくて……恐れ多くも、ご命令に背いてしまったのです」


 私のときと同じね……遠ざけられても、側にいたいと思ったというのは。


「……思い返すとあの時は、私たちを救ってくれたお方に急に遠ざけられて必要とされなくなってしまうのでは……と不安だったのだと思います。それが主様のお優しさであるとも知らず……あとは、途中まではアイネ様と同じです」


「…………」


「主様の異変を感じた私はお側に参じましたが、我を忘れたままの主様に押し倒され、お情けを頂戴して……いえ、言葉を飾らずに言うのでしたら、犯されたというほうが正しかったのかもしれません……」


 ……きっと、ツバキさんの本音は後者なのかもしれない。


 当時のツバキさんがユエさんのことをどう思っていたかは分からないけれど、少なくとも絶望的な状況から救ってもらって好意を持っていたであろう相手の答えが、女としてはとても辛いものだったのだから……。


「……そのまま新月の日を終えた主様は、大変動揺して……何度も、何度も私に頭を下げられて……そのときも、泣いておられました……」


「ユエくん……」


「そのことをきっかけに、私は……私たちは主様が本来は殿方であったことを知り、星導者様として背負っておられるものを……これまでにご経験された無数の悲しみを知ることができました。結果としては私も、何も後悔はしておりません。むしろ、この身が女であって良かったと思っております。たとえ劣情であろうと、女であることで主様からいただけるものがあり……それで主様が背負っていらっしゃるものが少しでも軽くなるなら、それは私にとって喜び以外の何物でもないのですから」


 このひとは……女としても人としても、どれだけすごい人なのかというのを痛感させられるわね……。


 それだけ……ツバキさんたちにとってユエさんに救われたことは、全てを捧げることができるほどの奇跡だったのかもしれない。


「ごめんなさい……興味本位で聞いて良い内容ではなかったわ」


「うん……私も、ごめんなさい……」


「いえ。そのことがきっかけで私はより主様のお側に近づけた気がしました。それに、申し上げました通り後悔など全くしておりません。ただ初めてのことで戸惑っていただけで……あれから女としては『お使い』いただくことはございませんでしたが、今でもこうしてお側でお役に立てるのでしたら……それで……」


「ツバキさん……貴女は本当に、ユエさんの良き従者よ……同じ人を愛する女としても、尊敬するわ」


「……ありがたき幸せ」


 私はそう、称賛を言葉にして伝えずにはいられなかった。

 最後に閉じられた瞳の奥に隠された本音が、また垣間見えたけれども……それはまだ後の話ね。


「ええ……ただ、そうね……。今のお話を聞くと、だからこそらユエさんはなおさら……といったところかしら」


「アイネちゃん……? 何が、『なおさら』なの……?」


「そうね……ユエさんはこれまでにクロちゃん、ツバキさんと無理やり……ユエさんの意思とは関係なくそういうことになってしまって、もう少しで三回目も起きそうに……私の時もそうなりかけたわ」


「はい。恐らく主様にとって我を忘れるほどの性的な衝動というのは、忌むべきものになってしまっているのでしょう……。主様くらいの年頃の男性というのはある程度は誰でもそのような衝動を持っていると聞きますが……」


「そうね……でもユエさんがそう感じているのは確かで、ユエさんはまず私を遠ざけようとしたし、マリアナさんにもまだお話していない。たとえ自分が苦しむことになっても、その衝動を私たちに向けることを遠慮して……いえ、不安や恐れといったものが先に来てしまっているのよ。実際……先日はユエさん自身がそうこぼしていたわ……」


「その、ユエくんらしいといえば、らしいけど……」


 私が説明を続けていくと、マリアナさんも少し寂しそうにそうつぶやいていた。


 そうよユエさん……そういう気遣いは、私たちのことを想ってくれてるというのは嬉しいけれど寂しくもあるのよ……。


「ええ、だからここからが本題の一つだけれど……次の新月の日には、私たちの方からユエさんに寄り添ってその遠慮や不安をなくしてあげたいと思っているの。最初から最後まで側にいて『私たちなら大丈夫よ』って……『苦しむ必要なんてないのよ』って、安心させてあげたいの」


「うんっ……! そういうお話なら、もちろん賛成よ。さすがアイネちゃんねっ」


「それは……大変良いことかと存じます」


「ありがとう、マリアナさん。ツバキさんも」


 せ、正妻だもの。これくらいの気遣いは……できて当然よっ。

 ユエさんへの想いなら誰にも負けないんだから。


 でも、偉ぶるつもりはないけれど……同意してくれた2人に、これから正妻としての立場からしか言えないことを告げないといけないのはちょっと皮肉かもしれない。


「それで……当日どうするかの具体的なことは色々考えてはいる……のだけれど……。ユエさんの遠慮と不安をなくすための問題が……その、あるのよ……」


 いざ口にするとなると、ちょっと……いえ、かなり恥ずかしく思えてきてしまって、私の言葉の勢いは徐々になくなっていってしまった。


「問題……?」


 しかし、口にしてしまった以上は私はそれを言わないといけない。


「わ、私たちが――――という問題よ」


 また首をかしげるマリアナさんに、私はその恥ずかしくも重要な問題を告げるのだった……。









――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

お読みいただき、ありがとうございます。

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次回、「第一回 嫁たちの夜会~問題と解決策提示~」

夜会編ラスト。

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