118.嫁と嫁との共同作戦~ペロッ、これは……!?~



 ゆっくり……ゆっくりと、僕らは学院の広大な敷地を見上げながら夕暮れの坂道を上っていく。


 東区の広場での一件があった後、特に寄り道をしたわけでもないのにこんな時間になっているのは……。


「…………」


「…………」


 僕の左右にいてくっついたままのアイネさんとマリアナさんが、なぜだかとてもゆっくり歩を進めるのに合わせていたからだ。


 広場は東区の端だったので、南区の端にある学院までは結構な距離があるのは確かだけれども。

 それにしてもゆっくりで、しかも2人揃って口数が少なく、時折目を合わせては恥ずかしそうにしているという様子で……僕も自然と黙ったままだった。


 とりあえず何か悩んでいるとかそういう雰囲気ではないので、僕も黙ったまま温かさと柔らかさを感じながらここまで歩いてきたが……。


 しかし当然ながら、いくら時間がかかろうと歩いている以上は目的地に到着するものだ。


「……ユエ、さん……」


 学院前の坂を登るにつれて夕焼けに照らされた以上に頬を染めていたアイネさんが、正門から敷地に入ったところでそう言って足を止めた。

 僕もつられて立ち止まり、僕の右腕を抱いていたマリアナさんも立ち止まることになる。


「アイネさん……?」


「その……この後なのだけど……」


 アイネさんは抱いていた僕の右腕を放してから、今度は僕の手を包むようにギュッと握ると、恥ずかしそうに染めた頬に加えて瞳も潤ませて、さらにはモジモジしながら『この後』と口にした。


「私のお部屋に、来てくれるかしら……?」


 ……あ、はい。

 やっぱりそういうことですよね……。


「……わかりました、もちろん行きます」


「じゃ、じゃあ……今日はアイネちゃんがってことなら、私は戻るわ――――アイネちゃん……?」


 僕がアイネさんを見つめ返して肯くと、少し慌てたようなマリアナさんが笑顔の中に少し寂しさを浮かべ、先に帰る言ってと離れようとした。


 だが、アイネさんはそのマリアナさんの手まで取って……僕らはアイネさんを中心に手をつなぎあった状態になった。


「――待って。も、もう……マリアナさんだって分かってたでしょう……? いざっていうときに私に遠慮しなくてもいいのよ……?」


「そ、そうだけど……本当にいいの? だってアイネちゃんは……」


「い、いいのっ……それに元々は、マリアナさんが言い出したことでしょう?」


「それはそうだけど……」


 あ、あの……?

 おふたりとも、僕を置いて何を話しているのですか……?

 マリアナさんは何を『分かってた』のでしょうか……?


「いつか絶対にそういう時は来るのだから……私もマリアナさんも、ちゃんと向き合わないと……慣れておかないといけないわ」


「う、うん……アイネちゃんがそう言ってくれるなら、私も嬉しいわ……」


「なら……決まりよ」


 いや、何が決まったのでしょうか……?

 アイネさんのさっきのアレは、今夜のお誘いなんですよね……?


 ま、まさか……そこにマリアナさんも……?


「ユエさん……い、いいわよね……?」


「え、ええと……何のことでしょうか?」


「……いいわよね?」


「は、はい……」


 行き着いた予想の内容に気恥ずかしくなってしまった僕は一度ははぐらかそうとしたけれど……。

 より頬を染めたアイネさんにグッと手を引かれ、乗り出すようにして間近で見つめられ……肯くことしかできなかった。


 いや、以前にアイネさんが話していたし、僕らのことを考えてくれているアイネさんの申し出を拒否するつもりはなかったんですけど……そもそも僕に拒否権もないということですかこれは……。


「な、なら……いきましょ……」


「うんっ」


「…………」


 まさかこんなに早く……3人で、そういうことをする機会が来るなんて……。


 もちろんこれっぽっちも嫌ではないし、男として期待してしまう部分もあるし、好きな人同士なからとても幸せなことだし……ええと……。


 再び両腕をギュッと抱きしめられながら、これからのことを考えると僕の鼓動は跳ね上がっていく。


 熱くなる頬を自覚しながら、現実感が追いついていない僕の頭は『まるで連行される容疑者のようだな』……なんて思ってしまうのだった。



*****



 扉が、開かれる。


「……どうぞ」


「はい……」


「うん、おじゃまします……わぁ! アイネちゃんのお部屋に来るのは初めてだけれど、とってもオシャレね……!」


「あはは……」


「くすっ。ありがとう」


 3人してドキドキを募らせながらアイネさんの部屋に入ったものの、マリアナさんは初めて訪れたアイネさんの部屋を見て目を輝かせた。


 その様子はやっぱり『この中で一番年上のお姉ちゃん』というよりは『お友達の部屋に招かれて嬉しい普通の女の子』という感じで、その明るさのおかげで何とも言えない恥ずかしい空気が少しは和らいだ気がした。


「あっ……! この雑誌、まだ続いていたのね……あぁっ!? ごめんなさいアイネちゃんっ。人のお部屋を勝手に見回っちゃ悪いわよねっ?」


 マリアナさんのこれまでを考えると、寮生活を続けていても気軽に遊びに行けるような相手はいなかったのかもしれない……。

 そう思うとマリアナさんのはしゃぎっぷりが余計に微笑ましく感じられて、僕とアイネさんは顔を見合わせて笑いあった。


「ふふ、マリアナさんなら構わないわ。でもまずは荷物を置きましょう?」


「机の横でいいですか?」


「ええ。ただ、そこに置くとシワになっちゃうから買った服はとりあえずクローゼットにかけておきましょう。私がやるから……マリアナさんも、貸してちょうだい」


「わかりました」


「うんっ、お願いねっ」


 勝手知ったるアイネさんの部屋。


 僕がふたりからカバンを預かり置く頃には、アイネさんも今日の戦利品をクローゼットにかけ終わっていた。


 ちなみにその間もマリアナさんは部屋を見回して楽しそうにしていて……手伝う素振りくらいは見せようよお姉ちゃん……。


「とりあえずはこんなところかしら。では……お茶を淹れましょうか。……マリアナさん?」


「ふぇ……? あ、ああそうね……もちろん、お姉ちゃんもお手伝いするわよっ?」


「……ええ、お願いね。あ、ユエさんは座って待ってて」


「わかりました……」


 『それなら僕もお手伝いを』とは言わせてももらえなかった……。


 僕は大人しく……悩んだけど他に並んで座れる場所もないのでベッドに腰掛けて、2人がお茶を用意する光景を眺めることにした。


「(ここを……ほら、こうすると――)」


「(あら、これは便利ね――)」


「「(…………チラッ)」」


 ふたりでいつもの加熱の輝光具のポッドを囲んで、アイネさんがマリアナさんにお茶の入れ方を教えている……ように見える。


「(量は……これくらいかしら?)」


「(そうね……もっと入れても良いかもしれないわ)」


「「(…………チラッ)」」


 僕からすると、お嫁さん同士が仲良さげに僕のためにお茶を淹れてくれているという、将来の幸せな光景……のように見える。


 『ように見える』と違和感を感じたのは、理由がある。


 なぜか2人は身を寄せ合ってポッドを僕から見えないようにしてるし……お茶を淹れていることは間違いなさそうだけど、なぜか小声で話しているし……なぜかチラチラと僕の方を気にしてくるし……。


「「(…………チラッ)」」


「あ、あはは……」


 そんな怪しすぎる光景を目の当たりにしていても、僕が見ていることを監視されているようで……僕は苦笑して目を逸らすことしかできなかった。


 いったい、どんなお茶が出来上がることやら……。


「(あっ……!?)」


「(ちょ、ちょっとマリアナさんっ……!? 入れすぎよっ……!)」


 そのお茶……飲んでも大丈夫ですよね?



*****



 待つこと数分後。

 2人で3人分のお茶を手にしてベッドの方へ戻ってきた。


「お、おまたせユエくん……」


「……はい、どうぞ。ユエさんのよ」


「ありがとうございます」


 アイネさんから僕のカップを受け取り、アイネさんは左側に腰掛け、それを見たマリアナさんは右側に腰掛けた。


「「「…………」」」


 女の子とは言え、さすがに三人分の重みでベッドの端が沈み込んでいる。


「え、ええと……今日は楽しかったですね」


「そ、そうね」


「うん……」


 もうすでに恥ずかしげな空気が広がっていて……僕が何か話題をと思ってそう言うと、左を見ればアイネさんがカップを手にしたまま顔を赤くして目をそらし、右を見ればマリアナさんも同じように頬を染めて目をそらされてしまった。


 ど、どうすればいいんだこれ……。


「……お茶、いただきますね」


 普段なら部屋主のアイネさんが口をつけてから……とするところだけれど、何とも言えない緊張感のせいで妙に喉が乾いてしまっていた僕は、一言断りを入れてからズズッとお茶を口にする。


「ん、あれ……?」


 口の中に広がった香りと、味も……少し違う気がする?


「「…………」」


「あっ、いえっ。なんでもありません。いつも通り美味しいです。あはは……」


 思わず疑問が口に出てしまったけれど、お茶を口にするところを2人が見ていることに気づいて、僕は慌てて取り繕った感想を伝えた。

 せっかく2人が僕のためにと入れてくれたお茶に、文句などあるはずがない。


「……マリアナさん」


「う、うん……」


 僕がいったんソーサーにカップを置くのを見たアイネさんが、何かを申し合わせるようにマリアナさんの名前を呼んで……。


 そして、グビッと。


 2人同時に、一気にカップの中身をあおった。


 あれ……?

 礼儀正しいアイネさんにしては、一気飲みなんて珍しいな……。


「……ぅっ、ケホケホッ……」


「……ぷはぁっ!」


 ほら、慣れないことをするもんだからむせてしまっているではないですか、アイネさん。


 そしてマリアナお姉ちゃんや、流石にお茶を飲み干して『ぷはぁっ』はおじさん臭いというか、お茶の飲み方ではないと思いま――――ん?


 お茶ではない……?


「あれ、そういえばこの香りは……」


「い、いいから……ユエさんも、もっと飲んで……?」


「そうよぉユエくん、お姉ちゃんのお茶が飲めないっていうの……?」


「い、いえ……ゴクッ…………あぁ、なるほど……」


 馴染みがないからすぐにはわからなかったけど……。


 お酒だコレ……。


 しかもおそらく、ものすごく度数が高いお酒。

 アイネさんがむせたのはアルコールの強さのせいだったのですね……。


 そうなるとマリアナさんのセリフは、ただの絡み酒ってことになるんですが……?


「ユエさん……」


「ユエくん……」


 味ではわからないように工夫されていたのか分からないけれど……一気に飲み干したことで酔いが回ってしまったらしい2人が顔を赤くして、瞳を潤ませて……僕にしなだれかかってきた。


「あれぇ……ユエくん、普通だ……」


「ど、どうして……? ユエさんは平気なの……?」


「その……僕は星導者としての力で、体調の変化を及ぼすような外的要因は効かない……つまりお酒には酔わないようになってるみたいなんです……」


「そういえばユエくんは……」


「そ、そうだったのね……それは、その……ごめんなさい……」


 カップの中を見つめる僕の様子にお酒の力が働いていないことを不思議に思ったのだろう。

 種明かしをすると、マリアナさんは僕が星導者であることを思い出したようにつぶやき、アイネさんは申し訳無さそうに顔を伏せてしまった。


「アイネさん……? あの、いったいこれは……どうしたのですか?」


「ユエさん……その、あの……ごめんなさいっ! これは、私が言い出したことなの! だからマリアナさんは悪くないわっ!」


「アイネちゃん……でも元々は私が――」


「ううん、違うわ……。たしかに、ユエさんと3人でって話を出したのはマリアナさんだけれど、私がどうしても……恥ずかしくて……。だから、お酒に頼ってしまおうって……」


「ぅぅ、私もごめんね……私、ユエくんと一緒になれたのが嬉しくって……アイネちゃんが恥ずかしいって思っちゃうことを考えてなくて……それであんなことを言い出しちゃって……」


「マリアナさん……」


 僕がどうしたのかと問うと、より申し訳無さそうに謝るアイネさんがマリアナさんを庇い、マリアナさんはマリアナさんで反省の言葉を口にしていた。


 僕に責める意図は全く無かったんだけれど……それよりも。


「おふたりとも、顔を上げてください……」


 いくら3人で愛の営みをするというのが一般的ではなくて、僕も戸惑うところがあったとはいえ……アイネさんが甘えてもいいと、任せてほしいと言ってくれたとはいえ……最終的に2人にそこまでさせてしまって、僕は僕が情けなかった。


「おふたりは悪くありません。誰かが悪いと言うならば、それはきっと僕ですよ。僕がもっと男らしく出来ていれば……いえ、今からでもそうすればいいのですね」


「んっ……!? ユエさん……」


「んちゅっ……ユエくぅん……」


 2人の腰を引き寄せ、順番に口づけを交わす。


 ハーレム……という言葉にしてしまうとなんだか倒錯的なイメージがあって気が引ける部分はあったけれど、それがなんだ。


 結局は、愛してやまない人をただ愛するだけだったんだ。

 それが1人であろうと2人であろうと、僕が愛することに変わりはない。


「こんな僕で……気を使わせてしまっておいて言えることではないですが……結局のところ、僕もしたいと思っています……。僕らで、しましょう……んっ……」


「んんぅっ……!? ぁっ……ユエさん……情熱的っ……んちゅっ……!」


「ちゅっ……ほら、マリアナさんも来てください……」


 アイネさんとキスをしながら、自分とアイネさんの身体をずらして……そのままマリアナさんの顔も引き寄せた。


「私もって……んんぅっ!? ちゅっ、ちゅるっ……はぁっ……!?」


「ちゅっ……んっ、ちゅぅっ……もう、ユエさんったらぁ……んっ、んんっ……」


 僕と、アイネさんと、マリアナさん。


 顔を寄せあい、舌を伸ばし合い……糸を引くのが誰の唾液だかわからないほどに、まとめて絡み合っていく。


「んんっ、ぁっ……ふぁっ……アイネちゃんの唇も、柔らかいわ……」


「はぁっ……ちゅっ、ちゅるっ……! れろっ……さ、3人でキスなんて……んっ、んんぅっ……は、恥ずかしいけどっ……んんっ……!」


 僕を通じて、僕と一緒に……2人で1人の口の中を舐め回していく……。

 正真正銘の女の子同士である2人も、今ではただ愛し合う大切なパートナーの1人となった。


「んっ、んんっ、れろっ……はぁっ……アイネさん……マリアナさん……おふたりとも、可愛らしいですよっ……んっ……」


「ぁっ……ユエさんっ……ちゅっ……マリアナさんもっ……」


「うんっ……はぁん、んっ……ちゅっ……」


 僕がアイネさんの服に手をかけると、アイネさんはマリアナさんの服に手をかけ、マリアナさんは僕の服を……それぞれ脱がし合っていく。


 その間でも僕らは夢中になってその間で艶めかしい湿り気を帯びた音を響かせていて……。

 舌や唇から、快感という熱が頭に差し込まれていくようで……それぞれが下着姿になるころには、既にみんな荒く熱い吐息を吐き出していた。


「ぁっ……」


「んっ……」


「はぁっ……はぁ……」


 3本の銀の糸を断ち切った僕は、2人の身体をそれぞれ優しく持ち上げて……ベッドに横たえさせるのだった……。








――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価」をよろしくお願いいたします。

皆様からいただく応援が筆者の励みと活力になります!


次回、

「「来て……」」~1 VS 2~

ファイッ(えちえち閲覧注意)

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