113.『アノ日』へ向けて~予感と不安~

いつもありがとうございます。


前半、閲覧場所注意です。

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 王国歴725年、牧獣の月(5月)中旬。



 夜。


 今日はマリアナさんの部屋の片付けを手伝って、その後は自室でツバキさんに世話を焼かれながらのんびりとして、夕食後に入浴をして……と、日常が戻ってきたことを感じる穏やかな休日を過ごしてきた。


 食堂で半日ぶりに再会したマリアナさんはとてもニコニコとしていて、僕の右隣の席に陣取って『ユ……ルナちゃん、これも食べる?』『ユ……ルナちゃん、これ好きだったわよね?』といつも以上にお姉ちゃんっぷりを発揮していた。名前の呼び方はそのうち慣れてくれると思う……。


 王城での一件を知る娘もいて何か聞かれるかと思ったけれども、マリアナさんの幸せオーラ……端的に言うと僕とイチャイチャしてる雰囲気に押されてか、マリアナさんの様子を驚いたように見ているだけで誰も話しかけては来なかった。


 一方でアイネさんはというと、いつも通り僕の左隣でおしとやかにお行儀よく食事をしながらも、ずっとソワソワした様子で僕の方をチラチラ見ては頬を染めていた。


 大浴場でもいつも通り『肌を見られるのが苦手なルナリア』を守る体裁のまま行動をしてくれていたものの、口数が少なく湯船ではぴったり僕の隣にひっついていた。


 ここまでの時点で流石に察していたけれど、湯上がりで髪の水気を落として服を着たくらいのところで、湯上がりというだけでなくハッキリと頬を染めてソワソワが最高潮に達していたらしいアイネさんに無言で手を引かれ、アイネさんの部屋までやってきた。


 そして、『ユエさん……ごめんなさいっ。私、もうっ……!』と、扉を締めた途端に歯が当たりそうになるほどの勢いで情熱的に唇が押し付けられ…………。


「はぁんっ、ぁんっ、んんぅっ……! ちゅっ……ちゅぷっ……! んはぁっ……! ユエさんっ……すきぃ……んんっ、大好きよっ……ぁんっ、そ、そうっ……! ソコ、いぃっ……! あぁぁんっ、ぁんっ、んぁぁっ……!」


 ――今に至る。


「んっ、ちゅっ……アイネさん、この格好、好きですよね……」


 僕のブラもショーツもアイネさんに剥がされ、今の僕らはふたりとも何も身に着けていない状態だ。

 その状態で座っている僕の足の間に収まったアイネさんが、ビクビクと反らせる背を僕の胸に預け、腕が僕の首に回ってきている。


「ぁぁっ、はぁんっ……だ、だってぇっ……! 背中でたくさんっ、ユエさんを感じられ、てぇっ……ぁっ……ユエさんに包まれてるみたいで……はぁっ、んくっ……大好きなひとのお顔も近くて、ひぅっ……そ、それにこの格好だとっ……ユエさんが私の全部に触れてくれるんだものっ……ぁぁっ、ぁんっ、んぅぅぅっっ……!」


「僕もアイネさんのぬくもりが感じられて……腕の中で感じてくれている姿がとても可愛らしくて……好きですよ……」


 少し顔を傾ければ僕に絡みついているアイネさんの唇や耳に、手を伸ばせば艶めかしい首筋から綺麗で柔らかなお胸、折れそうなほど細い腰とお腹、大事なトコロも太ももも……全てに愛を届けられるこの格好は、僕も好きだった。


 全てを委ねてくれているアイネさんが、僕の動きに応えるように身を震わせ、その口から熱い吐息を吐いて可愛らしい嬌声を上げる度に……僕の男としての心も満たされていく感じがする。


「あぁぁっ、はぁっ、あぁんっ……! うれしいっ……! ユエさん、もっとぉっ……! んんぅぅっ、ぁんっ、あぁっ……もっとしてぇっ……! はぁっ、んっ、ひゃぁんっ……!」


「はい……こうですか……」


「ひゃぅぅんっ、そっ、そぅっ……! ぜんぶっ……! 私のぜんぶっ……はぁっ、くぅぅんっ……! ユエさんのっ、ものなんだからぁっ……! ひぅっ、あぁんっっ……!」


「嬉しいです……ではココも……」


「はぁぁぁんっ……!? そんなっ、いっぺんにっ……! あぁぁっ、ぁっ、ぁぁっ、だめだめダメぇっ……! きもちっ、よすぎてぇっ……ぁんっ、ひゃぁんっ……! わっ、わたしっ……もうっ――――んんぅぅぅぅーーーーっ!!」


 いつもより積極的なアイネさんの『もっと』に応えながら、僕は丹念に、何度も、腕の中でその身体を跳ねさせるのだった……。



*****



「ハァッ……はぁ……んっ……ユエ、さぁん……ちゅっ……」


「ちゅっ……大丈夫ですか……?」


「う、んっ……ユエさん、今日も……ステキだったわ……。……んっ……ありがとう……はぁ……はぁ……」


 しばらくして、腕の中で何度目になるかわからないほど大きく身体を跳ねさせたアイネさんがクタッと脱力したままになり……彼女が満足してくれたらしいことを感じた僕は、そっとその身体をベッドに横たえて自分も寄り添うように横になった。


 いつもより指先に疲労感を感じられて……それだけ求めてくれて嬉しいけれど、しばらく空いてしまったからかなぁと思うと、少しだけ申し訳ない気持ちにもなった。


「ぅぅっ……ごめんなさい……その、気持ちが抑えられなくて……今思うと、はしたないお誘いの仕方だったかもしれないわ……私ったら、あんな強引にユエさんを部屋に……」


「いえ、好きな人に求められるのは、男として……恋人としても嬉しいですから……。こちらこそ、寂しい思いをさせてすみませんでした……」


「それなら……よかったわ……くすっ」


 アイネさん的には、恋人とは言えそういう目的で相手を強引に部屋に引きずり込むようにしてしまったことが恥ずかしかったようで、落ち着いた今になって恥ずかしさがわいてきたのだろう。


 謝るアイネさんの頬をそっと撫でて僕も悪かったと言うと、アイネさんも気にしないようにしてくれたようで微笑んでくれた。


 僕も何度も『ダメェっ』を無視したし、ここはお互い様ということで……。


「ユエさんの手……あったかい……」


 アイネさんは頬に触れている僕の手に自分の手を重ねると、そのまま僕の胸に預けるように顔を寄せてきた。


 そんな些細な事でも僕の胸は幸せで満たされて、今日はこのまま寝てしまおうか……なんて思っていたのだけれど。


「そういえばユエさん……なんだか、触り方が変わったわよね……」


「うっ……そ、そうですか……?」


 唐突にそんなことを言い出されて、言葉に詰まることになった。


「くすっ。ユエさんがしてくれることは、全部ちゃんと伝わってくるもの。……やっぱり、マリアナさんの影響かしら?」


 なんとなく気まずい思いを感じて目を泳がせる僕を見て笑うアイネさんは、僕の反応を楽しむかのようにさらに具体的に切り込んできた。


「すみません……気をつけます……」


 僕としては意識して変えたつもりはなかったんだけど……これまで何度も夜を共にしてきてるからか、アイネさんだからか……その変化に気づいたらしい。


 こういう場合において男は、何も言うことが出来ない悲しいサダメの生き物なのだ……兎にも角にも、謝るしか無い……。


「あぁっ、謝らないでっ……? その、悪いことではないのよ? なんというか……ユエさんの手はいつもとても良くしてくれるのだけど、それがより上手くなったというのかしら……」


「はあ……」


 自分ではわからないので何と言って良いのかわからないけれど、責められているわけではないようなので僕は内心でホッと一息をついた。


 ただ、アイネさんとしては原因を確信しているのか、思案顔で……何を想像したのかポッと頬を染めている。


「一晩でそんな……その、マリアナさんはそんなに……すごかったのかしら?」


「え、ええと…………はい。それはもう……」


「ふふっ、そんな顔をしちゃダメよユエさん。私はマリアナさんもユエさんとちゃんとそうなれたなら、我慢した甲斐があったって思っただけなのだもの」


 ……僕が一晩中頑張ったことを思い出してどんな顔をしていたのかはさておき、どちらかというとアイネさんが言う『そんな顔』はその後のこと……朝になってからお姉ちゃんが言い出したことを考えていたからだと思う。


「お気遣いいただき、ありがとうございました。ただその……マリアナさんが僕にもしてくれると言ったのですが――」


 僕はそう切り出して、アイネさんにも朝のことを話した。


 マリアナさんが僕も気持ちよくしてくれようとして、僕が身体のことを理由に辞退したら残念がられたこと。


 『良い考え』といって言い出した『3人で』というとんでもないこと。


 マリアナさんが、アイネさんと……したいと思っていること。


「な、なるほどね……」


 僕は『うちのお姉ちゃんがすみません……』というような気分でそれを話し終えると、アイネさんはそう言って頬を染めていた。


 ……あれ?

 もっと驚いたり嫌がったりするかと思ってたんだけれど……。


「すみません、その……イヤでしたら僕の方から言いますので……」


「気を使ってくれてありがとう、ユエさん。でも、イヤでは……ないのよ?」


「えっ……そうなんですか?」


「だって……その、ユエさんには『アノ日』があるでしょう……? ユエさんのせいじゃないけれど、限られた時間でユエさんから……あ、愛してもらおうと思うと……ユエさんを楽にしてあげたいと思うと、どうしてもみんな一緒になるでしょう……?」


「それは……そうかもしれませんが……」


「だから、いずれはユエさんを好きな娘みんなで……そういうことになると思ってたから、イヤだなんで思ったりはしないの」


 アイネさんが嫌ではないと言う理由が僕のためと知って……しかも『アノ日』が原因と知って、僕は嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが半分になった。


 アイネさんは『アノ日』の僕のことで、僕より先に、僕たちの関係のことを考えてくれていたんだ……。


 アイネさんとの『アノ日』のときは……アイネさんのお陰で後悔はしていないけれど、もう少しやり方があったのではないかと思っている。


 それでもマリアナさんにまだ『アノ日』のことを明かしていないのは……僕はまだどこかで恐れているのかもしれない。


「マリアナさんは……『アノ日』を、あのどうしようもない僕を……受け入れてくれるでしょうか……」


 だからか、気がつけば眼の前の最愛の人にそんな弱い心を吐露していた。


「改めて考えても、僕の今の状態は……本当に人間なのかって、思うことがあります……。月によって体の状態が変わって……『アノ日』になれば抑えが効かなくなってしまうほどに我を忘れて……。まだ、『アノ日』のことをマリアナさんには言えていないんです……怖くて、怖がらせてしまったらどうしようって……」


 一度漏れ出た不安は次々と口からこぼれ出てきて……僕は星導者で、この関係の中心に居る男で……しっかりしないといけないと思うのに……好きな人に拒絶される未来を少しでも想像してしまうと、涙が出そうなくらいに怖かった。


 あぁそうだった……はじめアイネさんに隠そうとしていたのも、好きな人に拒絶されるのが怖かったからだ。


 友も、守りたかった命も失い続けてきた僕が……やっと手に入れた、傍に居てくれると言ってくれた大切なものを失うのが、『アノ日』の苦しみを我慢しようと思えるくらいに怖かったのだ。


 考えれば考えるほど、僕の胸に冷たく悲しい想像が広がっていく……。


 しかし、それは不意に……温かなものに包まれて収まっていった。


「ユエさん……大丈夫、大丈夫よ……」


「ぁ……」


 気がつくと僕はアイネさんの胸に包まれるように頭を抱きしめられていて、そっと何度も……頭を撫でられていた。


 髪を滑っていくその手から、優しさが伝わってくる。


「ユエさんは、ユエさんだもの……。ユエさんがどんなになっても、私が……私たちが大好きななのはユエさんそのものだもの。だから大丈夫よ、安心して……」


「うぅっ……っ……アイネ、さんっ……」


 誰かの胸でこんな風に泣くなんて、初めてのことかもしれない……。


 男としては情けないと思いつつも、それくらいにアイネさんの存在が……言葉が、手の優しさが……僕の中に染み渡っていった。


「くすっ……そうね、ユエさんが心配するのも分かるわ。だから、そんなユエさんの心配事が減るように私の方でも準備しておくわ」


 準備……?

 それが何かは分からないけれど、本当なら僕がするべきことなのだろう。


 ただ今は……今だけは、この優しい手にすがりたい気分だった。


「アイネさん……すみません。お言葉に甘えても……いいですか?」


「っ~~~!? も、もちろんよっ。ユエさんはもっと私を頼ってくれても良いの……ふふっ。今のユエさん、とっても可愛らしいわ。キュンキュンしちゃったもの……これが母性本能ってものかしら」


「うぅっ……」


 僕がアイネさんの顔を見上げてお願いすると、アイネさんは思わずといったように僕の頭をギュッと抱きしめ直した。


 とても、恥ずかしい……恥ずかしいけれど、この温かさと安心感からは離れられる気がしない……。


 僕は赤くなっている顔を隠すために、よりいっそうアイネさんの胸に顔を埋めた。


「くすっ、ユエさんったら……いつもとは逆ね」


「すみません……こんな気持ち初めてで……。恥ずかしいけど、こうしているととっても安心します……」


「うん……いくらでも、そうしていていいのよ。そのほうが私も嬉しいわ。ユエさんが私と居ることで、またひとつ……新しい感情を知ってもらうことができたってことだもの。ふふっ……よしよし」


「ぅっ……」


 きっと、今のアイネさんは母のような慈愛に満ちた表情をしているのだろう。


 恥ずかしくも安心する温かさを感じながら……どこまでも、この人の前では僕も弱いな……なんて思うのだった。








――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

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次回、「クラスルームは平常運転~前後左右~」

前後おぉぉぉぉぉん!(違)

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