110.素直になって……?~結婚式ごっこ~

いつもありがとうございます。


前話の次回予告の一文に反応してくれた人がいて個人的にニヤリとしました(

後半、閲覧場所注意です。

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 寄り添ったままの僕らは、なんとも言えない空気のまま寮の階段を一歩一歩上っていく。


 幸いにも……なのか、平日には賑わう玄関ホールにも人気はなかった。

 おかげで腕から伝わってくるマリアナさんの温もりと柔らかさ、嬉しさと恥ずかしさに……僕は愛しさを膨らませながらここまで来ることができた。


「……こ、ここが私の部屋よ」


 そう言って立ち止まったマリアナさんが指し示す扉には、確かにマリアナさんの名前が書かれた表札がある。


 ここは寮の3階西側。

 位置的にはアイネさんの部屋の上あたりになるだろうか。


「その、散らかってるのは本当なの……ごめんね?」


「いえ、僕も片付けをお手伝いすると言ったのは本当ですから」


「うん……ありがとうユエくん。じゃあ……」


「ええ、お邪魔します」


 そっと僕の腕から離れたマリアナさんが扉を開き、僕は初めて訪れるマリアナさんの部屋に足を踏み入れた。


「え、えへへ……ユエくんが私の部屋にいるなんて、ちょっと気恥ずかしいかも……。あっ、普段はちゃんと片付けてるのよっ?」


「そ、そうなんですね」


 部屋に入る僕を頬を染めながら見つめるマリアナさんの様子に……なんだか僕まで緊張してきた。

 その緊張を誤魔化すように、西日がさす部屋の中をつい見回してしまうが……なるほど。確かに散らかっている。


 自分の部屋以外だとアイネさんの部屋くらいしか知らないけれど、部屋の作り自体はどこも変わらないみたいだ。

 置かれているのは、お決まりの勉強机に椅子、本棚にベッド……などなど。


 こういうのは比べるものではないのかもしれないけれど、アイネさんの貴族っぽい落ち着いた部屋と比べると、マリアナさんの部屋のほうが『女の子の部屋!』といった色が強い。

 壁紙やベッドのシーツ・カーテンの色は薄い水色で統一されていて、ところどころにぬいぐるみやら可愛らしい小物やらが置かれている。


 お姉ちゃんの可愛いもの好きな一面と、昔ながらの可愛らしい女の子な一面が色濃く出ていて微笑ましい……なんて思いつつ。

 今はクローゼットが開きっぱなしだったり、クシャッと丸められた紙くずに本や衣服まで散らばっていて……部屋中がすごいことになっていた。


 比較的マシなのは机周りだけと言ってもいいくらいだ。


 おそらく……だけど、家の事情が逼迫してから片付けをしている余裕さえなくなって、ご実家で執務をしないといけなくなったときに取り急ぎ持っていけるものだけまとめて取り出して……としているうちに、こんなに色々なものが散らかってしまったのだろう。


 そうだとすると仕方がないことだと思うし、今は僕もマリアナさんも落ち着く時間が必要だと思うから、ある意味ではこの状況は良かったのかもしれない。


「と、とりあえず……散らばってるものを片付けましょうか」


「そ、そうね……ゴミ以外のものはあとで私がしまっちゃうから、ユエくんはまとめてくれると嬉しいかも」


「わかりました」


 ふたりして照れた顔で苦笑し合い、床に落ちているものに手を伸ばした。


「んしょっと……ええと……」


「っ……」


 それじゃあさっそく……とばかりにしゃがみ込んだマリアナさんを見て、僕はいきなり目を逸らすことになってしまった。


 ……なぜかって?


 僕らはいま、制服姿だ。

 つまりスカートはとっても短いわけで。


 薄水色の妙に大人っぽいパンティーがばっちり目に入ってしまっただけでなく、しゃがみ込んだことで膝との間に挟まれたお胸がものすごく強調されてしまっていたわけで……。


 アイネさんとはもっとすごいことを何度もしているし、マリアナさんに対してだってお風呂で裸を見たことがあるというのに今更……のはずなのだけれど。


 初めてのマリアナさんの部屋というシチュエーションのせいか、このあとに控えているコトのせいか……妙に意識してしまいドキッと心臓が跳ねてしまった。


 今のうちに落ち着いておかないといけないのに、このままでは逆効果だ。


「え、えーと……これはいるものですね、これはいらないもの……」


「…………ふふっ」


 僕は引き寄せられそうになる目を無理やり引き剥がし、床に散らばっているものを集めて分別する作業に集中した。


 なんだか見てたのがバレてる気がするけど気にせず集中だ……!


 ……ま、まさかわざとだったりするのですか、お姉ちゃん……?

 いやいや集中だ。


 雑誌をどけて、倒れていたぬいぐるみを起こし、紙ゴミをまとめて……。


「……あれ、いまなにか……」


 無心になりきれないけど無心になれるようにせっせと片付けを進める中で、紙ゴミかと思って手に取ったものがなぜたか滑らかで柔らかい手触りだった。

 不思議に思って紙くず入れに放り込むのを中止し、手の中のものを確認すると……。


「(……し、下着……いやブラだ……)」


 それは、純白のブラジャーだった……。


 ま、まさか部屋の片付けという状況でこんなお約束なことが……というかお姉ちゃんや、いくらなんでも下着を放り出しておくのは女の子としてどうなのですか……。

 これを紙ゴミと思って捨てようとした僕もどうかとは思うけれど。


 ……それにしても。


「(お、大きい……)」


 不本意ながら、僕もブラジャーを着けるようになったからこそわかってしまった。

 このカップの大きさじゃないと収まらないって……どれだけ大きいんだ。


「ユエくん、どうしたの? ……あっ……!?」


「あ」


 しまった……つい手に取ったまま、抗いがたい衝動にかられて収まるべきものを見てしまい、持ち主に気づかれてしまった。


「も、もぅっ……ユエくんのえっち……」


「す、すみませんっ……」


 マリアナさんは慌てる僕から白いブラをい取り、奪い取ったブラとついでにお胸を隠すように腕で自分を抱きしめて顔を赤くしている。


 片付けは進んでも一向に気持ちが落ち着かない……。


「……ぅぅっ、ごめんね……。こんなものまで散らかってて……」


「いえ……あはは……」


「え、ええと……ユエくんは……机の方をお願いできるかしら?」


「わかりました……」


 僕も悪いけれど、散らかしていたのは自身なので一方的に責められる状況でもないと思ったのか、マリアナさんは僕に無難そうな場所を担当するように言ってきた。


 断る理由もなく、僕は素直に肯くとコソコソと机の方へ移動する。


 重要な書類などはご実家に持っていったのだろう。

 あまり散らかっていない机だけれど……参考書のようなものをひとつ棚に戻したところで、下に隠れていたものが目に入った。


 それは見覚えのあるもので……手紙が、2


 ひとつは、月猫商会の印章が押された今日の叙勲式の通知。

 ひとつは、もう顔も見ることは無いであろうカネスキー家からの『お見合い』の申込み。


 ……昔に僕から贈った、誕生日を祝った古い手紙だけが、ここにはない。


「……ごめんなさい、ユエくん……。もう、諦めないといけないと思ってたから……。大切にしてたのに……ユエくんにもらった手紙、燃やしちゃったの……」


「マリアナさん……」


 2通しかない手紙を見て、僕は寂しそうな表情でもしていたのだろうか。

 そっと背中から僕を抱きしめながら、マリアナさんは申し訳無さそうに謝った。


「……気にしないでください。形あるものはいつかはなくなるものですので」


「でもっ……」


 まだ謝罪の言葉を重ねようとするマリアナさん。

 僕はその先を続けさせないように振り返ると、今度は僕の方からそっと抱きしめた。


「いいんです。気にしないというと嘘になりますが……こうして僕らは、形がなくとも確かなものを得ることができたじゃないですか」


「ユエくん……」


 抱きしめる腕に想いを込めると、マリアナさんも僕らが得ることが出来たものを証明するかのように抱きしめ返してくれた。


 マリアナさんの身長だと目線がほとんど一緒だから、少し身体を起こすだけで間近で見つめ合うことになる。

 そうして見つめたマリアナさんの顔には嬉しさが浮かんでいたけれど、まだ半分は申し訳無さが見て取れた。


「そうだけど……せっかくユエくんにもらったものだったから……。形があるものもないものも、ユエくんがくれるものは全部大切だもの……早まったなぁって、私なんであんなことしちゃったんだろうって。どうしても思ってしまうのよ……」


 ……そうか、マリアナさんにとっての僕からの手紙は、僕と繋がりがあったことを示す唯一の形あるものだったんだ。

 アイネさんが髪飾りを大切にしてくれていたように。


 こうして恋人になることができた今でも、それが失われて……しかも自分の手で失うことになってしまい、不安に思う心が自責という形で現れているのかもしれない。


『ユエさん、マリアナさんにとって今日はユエさんと結ばれた特別な――』


 アイネさんの言うとおりだ。

 今日はマリアナさんと僕にとっての新しい出発の日。


 そんな特別な日に僕が望むのは、マリアナさんにこんな悲しい気持ちで居てもらうことではない。


 なら僕ができることは……したいことは。

 形あるものもないものも、どちらも必要だと言うのならば……この愛しい人が望むままに与えてあげることだろう。


「……マリアナさん、少し後ろを向いていてもらえますか?」


 タイミングを見て……なんて思っていたけれど、それはまさに今だ。


「ユエくん……?」


「少しだけですから……お願いします」


 僕が抱き合っていた状態から身体を離したからか、マリアナさんはますます不安そうな顔になってしまった。


「う、うん……わかったわ……」


 すぐに、その顔を喜びにして差し上げます……してくれるといいな。

 そう願って微笑みかけると、マリアナさんはそっと背を向けてくれた。


 僕は取り出したソレを握りしめながら、イメージを固めていく。

 あまり待たせたくないので手早く……でもしっかりと心を込めて。


 マリアナさんの守護星は、水星だ。

 母なる海のようであり、全てを包む慈愛の象徴。

 そしてその側に月が……僕が在れるように。


「(……よし!)」


 僕が固めたイメージを2つの光結晶に注ぎ込むと、僅かに白い光を漏らしながら手の中で形を変えていく。


 透き通る光結晶でできた、幅広の指輪。

 側面には水星を示す文様に月が寄り添う意匠を掘り、光結晶でできた細いチェーンを通す。

 そしてそれをもう1セット。


 2度目だからか、思ったよりも早く完成させることができたかな……?


 僕はそれを後ろ手に隠し持ち、マリアナさんに振り向くように言う。


「はい、おまたせしました。もう大丈夫ですので、こちらを向いてください」


「うん。……あれ? ユエくん、これ何かが……」


 そして振り返ったところでその両手を捕まえて、作り出したソレを……婚約指輪のネックレスを握り込ませ、さらに僕の手で包み込んだ。


 硬い感触が手の中にあるからか、マリアナさんは包まれた手の方を見て不思議そうにしている。


「……僕からの、プレゼントです。ぜひ、開けてみてください」


「えっ、ほんとうっ? ありがとうっ! あ、ごめんねユエくん。私が催促したみたいになっちゃって。わ~、なんだろ――――えっ……?」


 僕からのプレゼントと聞いて驚き、喜色を浮かべてお礼を言い、気まずそうに謝り……そして両手を開いてそれが何であるかを認識したとたん、マリアナさんは驚きで目を見開き……。


「ユ、ユエくん……こっ、これって……」


 手のひらの上の輝きを見つめたまま、その頬にも一筋の輝きが生まれていた。


「これは僕が……貴女と交わす新しい『やくそく』の形で、貴女と共に在るという証です。催促されたから、ではありません。僕がこれを貴女に差し上げたかったからです」


「ぁ……ぁぁっ……」


「受け取って……いただけますか?」


「ぅんっ……うんっ……!」


「僕の……お嫁さんになっていただけますか?」


「うんっ……! なるっ……っ……! わたし、ユエくんとっ……ユエくんのお嫁さんに、してくださいっ……! うあぁぁぁんっ……!」


「……ありがとうございます」


 ポロポロと綺麗な雫をこぼしながら胸に飛び込んできた愛しい人を、僕はしっかりと抱きしめた。


「ぅぅっ……ぐすっ……も、もぅっ……こんな、こんな嬉しいことはないよぉっ……! ずっと、ずーっと……ユエくんのお嫁さんになるのが夢だったからっ……」


「僕も嬉しいです……その夢を叶えられて、本当に良かったです。……ただすみません、僕たちが婚約者であることは表立たせるわけにはいきませんので……」


「……うん……だから、指輪をネックレスにしてくれたのね……?」


「はい……」


「いいの……ユエくんはちゃんとお姉ちゃんを迎えに来てくれて……こうしてお嫁さんの証までくれたんだから……」


 僕の胸の中でグズグズと嬉し泣きをしていたお姉ちゃんも、徐々に落ち着いてきたようだ。

 こうして婚約者に……お嫁さんという立場になっても、お姉ちゃんぶるのは止めないらしい。

 それはそれでマリアナさんらしくて……照れ隠しが可愛いらしいなぁ。


「いつかちゃんと……ここにつけさせてくれるのよね……?」


「はい、必ず」


 ここと言いながら左手を持ち上げて微笑んでみせたマリアナさんに、僕は肯いて約束する。


「うれしい……ねぇユエくん、せっかくだからユエくんがつけてほしいな……つけて?」

「ぅっ……も、もちろんです」


 胸の中から顔を上げて、上目遣いで可愛らしく……そんなおねだりをされたら、色々と我慢ができなくなってしまいそうだ。


「ふふっ……じゃあ、はいっ」


 なんとか衝動をやり過ごした僕はネックレスを受け取り、頬を染め期待した様子で待っているマリアナさんの首元に正面から手を持っていった。


 つけやすいようにしてくれているのか、うなじに手を入れて髪を持ち上げてくれているせいでマリアナさんの香りが強くなり、とてもドキドキする。


「ユエくん、赤くなってる~」


「……マリアナさんがとても魅力的なのが悪いんです」


「あー! お姉ちゃんのせいにするんだー? ふふっ……でも、そう言ってもらえるのはすごく嬉しい。ユエくんも……こうして近くで見ても、とっても素敵よ」


 目と鼻の先くらいの距離にマリアナさんの顔があって、そうして嬉しそうに見つめられると……気恥ずかしさが勝ってしまいそうだ。


「あ、ありがとうございます……そういうマリアナさんだって、お顔が赤いですよ。ドキドキしてますよね……伝わってきますよ?」


「ぁぅ……だって……」


 前かがみになっているせいで僕とマリアナさんの胸が押し付けあっている状態なのも、柔らかさを意識してしまって非常に……アレだ。

 いや、とても心地よいのだけどドキドキしすぎて手元が狂ってしまうから、うまくつけられない……。


「そ、そういえば……指輪をつけてもらうのって、なんだか昔にやった結婚式ごっこを思い出すわ……ふふっ」


「あぁ、たしかにそうですね……」


 照れ隠し……というだけでなく、懐かしそうに微笑んでいるマリアナさんを見て、僕も思い出すものがあった。


 確かあの頃は……湖畔に生えていた小さな草花を編んで指輪の代わりにして、請われるままマリアナさんの左手薬指にはめる……っていう遊びを何度もやらされたっけ。

 なぜか僕が指輪をはめられる側……新婦役をやったこともあったけれど。


「一度、教会で同じ遊びをして……シスターに見つかって怒られたんでしたっけ」


「そうそう! 『教会で遊んではいけません! それにあなた達にはまだ早い!』みたいな感じだったかしら」


「ええ、そうでしたね…………はい、着けられました。良かった、よくお似合いですよ」


「わぁ……ありがとう、ユエくんっ……!」


 昔話をして意識が別にいっていたおかげだろうか。

 苦戦していた最後のチェーンを繋げる部分もうまくいき、胸の上で輝くそれをつけたマリアナさんの姿を見て、僕は自然と湧き上がった嬉しい気持ちのままに微笑みかけていた。


 それを見たマリアナさんは、再び目の端に輝くものを乗せながら……僕が望んでいた満面の笑みを見せてくれた。


 そうして微笑みあった僕らが瞳を開くと、自然と見つめ合う形になる。


「……ねぇ、ユエくん」


「……はい」


「教会とかだと……こうして指輪をつけてもらったあとは――」


 見つめ合ったまま……マリアナさんの瞳が潤んでいく。


「――わかっています」


 みなまで言わせず、僕は間近にあるマリアナさんとの距離を縮めていった。


「マリアナさん……僕は、貴女に永遠の愛を誓います」


「ユエくん……私も、あなたに永遠の愛を誓います……」


 そして、その潤んだ瞳が閉じられ――。


「……ちゅっ……」


「んっ……」


 僕らは軽く触れ合うように……新しい誓いを交わしたのだった。


「…………えへへっ……また、しちゃった……ね?」


「ええ。とても幸せな気分です」


「私も……ふふっ、でもユエくん。結婚式ごっこならキスまでしないのよ?」


 照れているのか、恥ずかしそうに微笑みながらそんなお姉ちゃんぶったことをいうマリアナさん。

 それは大変可愛らしいのだけれど――。


「それはマリアナさんが言い出したことですよ。それにこれは……『ごっこ』ではないですからね。僕にとっては、本気で、本当のことです」


 ――こんな幸せな気持ちになっている大切なときでも、目の前に居る恋人に対して素直になれないお姉ちゃんには……こうしてしまいますよ?


「そ、それは私も――――んんっ!? んっ、ちゅっ……」


「んんっ……」


「んぅぅっ!? ちゅっ、ちゅるっ……んっ、んんっ……ちゅ……ちゅっ……んむぅっ……!」


 片手てしっかりと抱きしめ、もう片方の手でマリアナさんの後頭部を押さえ……僕は少し強引にその唇を奪った。

 驚いて口が開いたところで舌をねじ込み、戸惑っているマリアナさんの舌を丹念に撫でつけていく。


「んっ、んんっ……! ちゅっ、んちゅっ……れろっ……ぁんんっ……!? ちゅっ、ちゅるっ……!?」


 眼の前の瞳が蕩け始めたところで、僕に応えるようにおずおずと伸びてきた舌をすかさず絡め取り、僕の口内に引き込んで放さないように吸い付いた。


「ぁんんぅっ……! んっ、んんぅっ……ぁんっ、ぁっ……んちゅ、ちゅっ……!」


 ギュッと目をつむって必死に答えようと僕の口の中で舌を動かす姿が愛しくて、引き寄せた腕に伝わるビクビクと身体を震わせる感覚を無視し、蕩けるような、溶け合うような……脳に直接響くような快感に導かれるままにマリアナさんを貪った。


「んんぅぅぅっ! んんっ、ちゅるっ、ぁんっ……! ん、んぅっっ……んぁっ……んんぅぅぅーーーーっっ!」


「ちゅぱっ……はぁっ……はぁ……」


 そしてどうやら……僕と同じように快感を感じて達してしまったらしいマリアナさんの身体が一際大きく震えカクっと膝から力が抜けたところで、ようやく僕はマリアナさんの舌を開放した。


「ぁっ……ぁんっ……はぁっ……んっ……」


 僕らの間を名残惜しそうに結んでいた銀の糸が切れ、マリアナさんは大きく息を吐きながらトロトロになった表情で僕を恨めしそうに見つめてきた。


「はぁっ……んくっ……ゆ、ゆえくんのぉ……えっちぃ……!」


「……どうでしたか? ごっこではないと、分かっていただけましたか?」


「わかった、わかったわよぅっ……! こ、こんなにキスが……はぁっ……すごいなんてっ……はぁっ……」


 うんうん。分かってもらえたなら僕は嬉しいです。

 まぁ……想いが溢れて、止まらなくて……ついやりすぎてしまったかもしれないけれど。


「ぅぅっ……ユエくんのキス、なんだか慣れてたぁ……! アイネちゃんともいっぱいしてるんだぁっ……!」


 子供っぽく唇を尖らせながら、また照れ隠しなのかそんな事を言うマリアナさん。


「…………むぅ」


 僕は今このときは、目の前にいるマリアナさんだけを愛そうと思っているのに……。

 なるほど……まだ分かってもらえていないと、そういうことですね?


 僕はまた腰をグイッと引き寄せ、離していた顔を近づけて至近距離でマリアナさんの瞳をまっすぐに見つめた。


「っ……!?」


「……今、貴女の目の前に居るのは誰ですか。僕の目の前にいるのはどなたですか?」


 またディープなキスをされると思ったのかギュッと目を閉じて身構えたマリアナさんだったが、思いがけず質問が飛んできてそっとその瞳を開き……僕の視線に射止められる。


「ユ、ユエくんと……私?」


「そうです。虫の良い話に聞こえるかもしれませんが……今日というこの日、この時、この場所にいるのは僕とマリアナさんだけです。想いを交わし、誓いも交わした2人だけです。僕の全ては今、貴女に向いています」


「ぁぅっ……」


「だというのに、そんな素直じゃないことばっかり言うお姉ちゃんには……お仕置きが必要でしょうかね……?」


「ぁっ……」


 素直になってほしいということ、そして含ませた『お仕置き』の意味に気づいたらしいマリアナさんが気づきの声をあげ……頬の赤みが強くなった。


「わたし……お仕置き、されちゃうんだ……?」


 チラチラと僕と目を合わせては逸らすということをしながらも、その瞳は潤んでいてどこか期待を滲ませている。


 その身体が僅かに震えていて……今更だけどちょっと、言い方がカッコつけすぎだったかもしれないと反省した。


 素直になれと言っておいて遠回しな言い回しは、良くないよね……。

 マリアナさんも分かってくれている様子だけれども……彼女にとっては、僕と初めての……だから。


「……すみません。やっぱり僕も正直に言います……」


「うん……聞かせて……?」


「マリアナさんと、もっと触れ合いたい……。僕がしたいから、するんです……ダメでしょうか?」


 僕のヘタレたともいえる言葉を聞いたマリアナさんは、一瞬キョトンとした表情をしたけれども。


「ふふっ……うん。私も……ユエくんと、したいよ……? 続き……してくれる……?」


 しっかりと、僕の目を見て。


 この愛しい人は微笑み、肯いてくれた。


「はい、よろこんで……んっ」


「んっ……」


 今度は一方的なものではなく。

 お互いに近づき、唇を触れ合せる。


 唇を触れ合わせたまま優しく抱きしめ合いながら、僕は……先に片付けが終わっていたらしいベッドに向かって、そっとマリアナさんを導くのだった……。






――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価」をよろしくお願いいたします。

皆様からいただく応援が筆者の励みと活力になります!


次回、「111.えっちなお姉ちゃんは好きですか?~ば、馬鹿なっ……!?~」

閲覧場所注意!えち注意なのです!

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