106.ハーレム・プロブレム~恋人は勇者様~

いつもありがとうございます。


ヒャッハー!イチャラブの時間だー!

ここまでで既に第二章の話数とほぼ同じという……シカタナイネ

できる限り連日更新を続けてまいります。

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 静かな空間に、3つの足音が響く。


 足音はそれぞれ違う性質のもので、歩を進める三者が違う装いをしているが故のものだ。


 ひとつは、ブーツの重厚な音。

 先程から引き続き城のメイドさんたちが用意してくれた『貴公子風』の格好をしたままの僕のもの。


 ひとつは、ヒールの高らかな音。

 これまたメイドさんたちお手製の艶やかな空色のドレスを纏ったマリアナさんのもの。


 そして最後のひとつは、金属の硬質な音。

 いつもの白銀の鎧を身に着けて僕らを先導する、クレアさんのものだ。


 僕たちが披露したダンスに対して大きな拍手に包まれたパーティー会場ではまだ舞踏会が続いていて、遠くからは楽団が奏でる滑らかな調べがわずかに聞こえてきている。


 貴族や会場で働く使用人たちなど、多くの人々が会場に集っているからこそこの場所が静か……というわけではなく。


 一歩進むにつれて厳かな雰囲気が増していくように感じるここは、もう城の最深部といってもいい場所。


 この国において最上位の存在が暮らす空間ともいえるここでは、平時であっても騒がしく世間話をするような者はいないだろう。


「…………」


 僕の隣では、マリアナさんが興味深そうに……それでいて不安そうに辺りを見回している。


「いかがなさいましたか、マリアナ?」


「いっ、いえ……すみません、私はこのようなお城の奥の方まで来られるような身分ではないと思うのですが……。それとグランツ様、その『マリアナ様』っていうのは恐れ多いです……どうして私をそう呼ばれるのですか……?」


「……申し訳ございません。もう間もなく目的地でございますので、このままついてきていただければご理解いただけるかと存じます」


「は、はいっ……」


「あはは……」


 人目があるところでは『ついてこい』だったのが、人目が無くなったら『どうぞこちらへ』と、いきなり丁寧な接し方を騎士団長で陛下の護衛も務めるような身分の人間にされれば、そりゃ戸惑うよね……。


「ぅぅっ……」


 クレアさんは相変わらず生真面目な人だなぁなんて苦笑いしてたら、隣のマリアナさんから可愛らしく睨まれてしまった。


 口には出していない……というより出せるような雰囲気ではないとは分かっているのだろう。


 その目が語る内容を予想するなら、『ユエくぅん……』と不安ですがりたいという感じか、『これはどういうことなのっ』と僕を責める感じか、『ユエくんはなんでそんな普通にしてるのよ……』と疑問を投げかけたい感じか……なんだか全部正解な気がする。


 睨むのを止めてからもソワソワとしていて……僕の袖を掴もうとしたけれど、無意識だったのか慌てて引っ込めていた。


 何も知らされていないマリアナさんには申し訳ないけど、そんな様子も大変可愛らしいです。はい。


「こちらでございます」


 そうして進むことしばらく。

 クレアさんが立ち止まった場所は、ひときわ豪奢な装飾が施された重厚な扉の前。


「こ、ここって……まさか……」


 ここまで来たことがないというマリアナさんでも、流石にこの扉の先がどこであるかはわかったようで、慌てたような声を出して僕とクレアさんの間で視線を彷徨わせていた。


「はい。ここは謁見の間でございます。私はここで待機するように仰せつかっておりますので、どうぞおふたりは中へお入りください」


「で、でもっ、あのっ……私もユ――ルナリアさんもここに入れるような身分ではっ……」


「いいえ、マリアナ様。身分ではなく、マリアナ様だからでございます。貴女様は選ばれたのです。――お隣にいらっしゃるお方に」


「えっ……?」


「クレアさん」


「……失礼いたしました」


「ええっ!?」


「あまり陛下をお待たせするわけにはいきませんので、どうぞ中へ。……どうか貴女が、このお方に幸せをもたらし、お心に寄り添っていただけることを、願っております――」


 まったく……この忠誠心が突き抜けた女性ひとは……どこまでもありがたい存在だ。


 僕が名前で呼んだことにさらに驚いたマリアナさんに向けて、祈るように大きく腰を折ったクレアさんの手によって、謁見の間の扉が開かれていく。


 それを見たマリアナさんが目に見えて緊張を高め、慌てて背筋を伸ばして手櫛で髪を整えているのがちょっと微笑ましかった。


「……まいりましょう」


「え、ええ……」


 扉が開ききり、マリアナさんを促して目の前の光り輝く荘厳な空間へ踏み出す。


 静かに扉が閉まる音を背にしながら進めば、正面のいと高き場所にある玉座が嫌でも目に入る。

 当然ながらそこには威厳たっぷりな雰囲気を醸し出す陛下と、対象的ににこやかにしている王妃陛下がいらっしゃって、平時であればその下の両脇にはお偉方がズラッと並んでいるところだけれども……もちろん今はそうではない。


『おめでとう!』


 形式上であればある程度進んだところで跪くなりカーテシーをするなりして臣下の礼を示すところだけれども、そんな形式も気にするなと言わんばかりに祝福の言葉と拍手が僕たちに浴びせられた。


「ぁ…………」


「あはは……」


 必死に謁見の作法を思い浮かべていたであろうマリアナさんは、とうとう展開についていけなくなったのか固まってしまった。

 目を丸くして両脇に並んだ人たち(人じゃないのもいるけど)を眺めて立ち止まってしまっている。


 今この空間にいるのは僕の『本当の事情』を知る者だけ。


 正面には両陛下、脇にはアイネさんとツバキさん、クロ、そして今回はもうひとり。

 マリアナさんにとっては知らない顔もあり混乱する中で、彼女は最後のひとり……黒装束姿の女性に反応した。


「キ、キキョウさん……? どうしてここに……!? それにその格好は……」


 マリアナさんの問いを受けたキキョウさんはそっと微笑むだけで口を開かず、静かに目を閉じておすまし顔になった。


 なぜならこの場において、口を開くべき人物が先にいるからだ。


「カッカッカ! 驚いておるな。今はそこまで鯱張らずともよい。まずは落ち着くのじゃ」


 イタズラが成功したかのように膝を叩いて笑い声をあげられた陛下が、頬杖をつきながらマリアナさんに向かってそう言葉を投げかけた。


「は、はいっ……大変失礼いたしましたっ。改めまして、わっ、私は、マリアナ・フォン・エーデルと申します。この度は拝謁の栄誉に授かり恐悦至極に存じますっ」


「あらあら、ご挨拶をどうもありがとう。楽にしてちょうだいね」


「きょ、恐縮です」


 陛下だけでなく王妃陛下にまで楽にしてと言われ、マリアナさんは余計にガチガチになってしまっていた。


「マリアナさん……大丈夫です。ほら、深呼吸しましょう」


「ユ……ルナちゃん……うん」


 僕がそっとマリアナさんの手に触れて微笑みかけると、僕の顔を見返したマリアナさんは言われたとおりに『すー、はー』と胸に手を当てて深呼吸をした。


「あらあら、まあまあ」


 僕らの様子を見た王妃陛下の目が輝いていらっしゃるけれど……きっとこれからもっとキラキラするだろうし、これくらいでマリアナさんの役に立てるなら安いものだ。


 あと恐れながら陛下。

 男として抗いがたいのは理解できますが、いくら深呼吸してのが目に入っても、僕の恋人をそんな目で見ないでください。

 お隣のお方にご報告させていただきますよ。


「……ゴ、ゴホンッ。あー、なんじゃ、落ち着いたようで何よりじゃ」


 僕が自分のことを棚に上げて陛下の方にジトっとした目線を送ると、陛下は咳払いをしてこの場の注目を集めた。


「マリアナ、そなたが此度のことやユエについて疑問に思うことは多々あろう。ユエはワシに義理立てて、事前に詳しく話すことはしておらんかったであろうからな」


「は、はい……」


 マリアナさんは陛下のお言葉に肯きながら、僅かに目を見開いていた。

 おそらく陛下が僕の名前を呼ばれたことに、また驚きと疑問が生まれたのだろう。


「アイネシアには悪いが、ワシも学んだゆえな。此度はあえてそなたの覚悟を試すようなことはせんが……」


「…………」


「ご配慮いただきありがとうございます」


 そこで一旦言葉を切った陛下は若干の冷や汗をかきながら、横目で隣でニコニコとして無言の圧を放っている王妃陛下を盗み見ていた。


 『制約の書』モドキを使った試問はしないということだろう。


 気を使われたアイネさんはそっと頭を下げて謝意を示している。


「これからそなたが耳にすることは、国家の、ひいては世界の秘事じゃ。そなたがユエと共に在りたいと願うのであれば、決して他言なきようこの場で誓ってもらおうか。――誓えるか?」


「っ……!?」


 ――マリアナさんからすれば、わけがわからないだろう。


 いきなり謁見の間に連れてこられて、普通なら身分上あり得ないのに陛下は僕のことを知っている様子で、とんでもない秘密を聞かされようとしていて、その話を聞くために秘密を守ることを誓えるかと問われ、威圧にも似た上位者の威厳を浴びせられる……。


「……誓いますっ! 私はずっと、ユエくんと一緒にいたいんですっ! 秘密を守ることでそれが叶うのでしたら、死ぬまで誰にも言いませんっ!」


 それでもマリアナさんは、僅かに身を震わせただけで。

 触れていた僕の手をぎゅっと握って、毅然と力強くそう答えてくれた。


「……よう言うた! ユエや……また良い嫁に巡り会えたようじゃな。そなたについて、真実を話すことを許す」


「……ありがとうございます」


 陛下のお許しを得た僕は、陛下に頭を下げてからマリアナさんに向き直り、改めてその手を包んだ。


「聞いて、いただけますか……?」


「うん……教えて、ユエくんのこと……」


 このときばかりは、どうしても僕も緊張してしまうけれど。


 目の前ではマリアナさんが真っ直ぐ僕の目を見つめてくれていて、視界の端ではアイネさんも肯いてくれている。


 背中を押されるような温かな勇気をもらった僕は、最初の一言を口にする。


「実は……僕は、星導者なんです――」









――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価★」をよろしくお願いいたします。

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次回、「ハーレム・プロブレム~●●●の順番~」

ハーレムものとしても本格始動

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