107.ハーレム・プロブレム~●●●の順番~
いつもありがとうございます。
やはりこういう話は書いていて楽しい……。
そんなハーレム本格始動回。
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「……ぅっ、ぐすっ……ユエくうぅぅんっ……!」
「ぅっぷ!? あ、あはは……苦しいです、マリアナさん……」
アイネさんのときと同じように、僕はこれまでの人生をマリアナさんに語った。
マリアナさんの場合は、出会う前と別れてから学院で再会するまで……そしてクロの正体やツバキさんたち影猫族のことも全てだ。
僕のために涙を流してくれた大切な人……それは、誰と比べるでもなくかけがえのないものだろう。
ただアイネさんとは違って、話を聞き終わった後の抱擁が強烈だったのだけれど。
「……ぅぅっ、ごめんねっ……ごめんねユエくんっ……! わたしっ、ユエくんがそんなに大変な思いをしてきたなんて思わなくて……私なんてわけないくらいにっ……っ……なのに、また会ってくれてありがとうっ……私のわがままを聞いてくれて、夢を叶えてくれてありがとうっ……!」
「マリアナさん……僕の方こそ、こんな僕でも一緒に居てくれると言ってもらえて……ありがとうございます……」
温かなものに柔らかく包まれながら、僕も思わず涙がこぼれてしまった。
約束を果たせて、マリアナさんを助けることができて……本当に良かったと。
「っ……主様ぁ゛っ……」
「ようございました……っ……」
「お主ら……揃いも揃って涙もろすぎなのじゃ……」
そしてやっぱりツバキさんはもらい泣きをしていて、その隣ではクロを抱えたキキョウさんまでそっと目の端を拭っていた。
「…………っ……」
あ。アイネさんもだった。
隠すのが上手いのか分かりづらいけれど、しっかりと目の端が赤くなっている。
こんな人達に慕ってもらえて……本当に僕は幸せ者だ。
「ユエくんっ……ユエくん~~~っ……!」
あぁ、幸せすぎてなんだか夢心地に……なってきたような…………。
「マ、マリアナさんっ! ストップ! ストーップよ! そのままだとユエさんがっ……!」
「あっ……!?」
「……ぷはっ!? あ、あれ……アイネさん……?」
どうやら僕は夢見心地になっていたのではなく、マリアナさんのお胸の中で危うく窒息しかかっていたらしい。
お姉ちゃんの強烈な抱擁から必死に引きがしてくれて……わっと……!?
抱きつき魔から守るかのように、今度はアイネさんに抱きしめられそのお胸に顔を埋めることになってしまった。
とても心地よいものに包まれているのは変わらないけれど、今度は窒息の心配はなさそうでなんだか安心してしまう。
「ご、ごめんねユエくんっ……つい……」
「……ユエさん、いま失礼なこと考えなかったかしら……?」
「い、いえそんなっ……」
こ、心が通じ合っているのは幸せダナー。
「私だって……私だってぇ……うぅ、これには勝てないわ……」
恨めしそうな声を出しながら、僕の頭をより強く抱え込んだアイネさん……しかし、危うく僕を窒息死させかけて慌てているマリアナさんの方を見て、諦めたようにうなだれていた。
何度も言ってますが、どちらも素晴らしいので比較する必要はないと思うんだけどなぁ……。
「うぅ、ユエさんのばかぁ……」
……これ以上何かを言うのは……というよりも考えるのは止めておこう。
「主様……なんと、羨ましい……」
「そうじゃのうそうじゃのう、あの間に挟まればどれだけ『ぱふぱふ』が楽しめるかわからんのじゃ……グヘヘッ」
「……一緒にしないでください、クロ様。私は主様をこの胸にいざなうことができればどれだけ……というのが羨ましいだけでございます」
「あぁ主様……族長、私もいつかお相手いただけるでしょうか……?」
「キキョウあなた……ダメです。主様のご意思次第ではありますが……私が先です。族長権限です」
「そんなぁ……! 私のほうが族長よりも胸はありますっ」
「……辺境調査隊でも編成したくなってきましたね。あぁしまった、これからの貴女のお役目さえなければ、貴女を隊長にしてあげられたのに……」
「い、いやですっ……せめて少しでも主様のお側に、王都に居させてもらえなければ、チャンスすらないじゃないですかっ……!」
あちらはあちらで何かやりあってるし……。
というか、一族の中でも一二を争う教養の豊かさを持ち、おしとやかで清純派だと思っていたあのキキョウさんまでがそんな肉食系だったなんて……。
……いや、思い返してみると『忍華衆』で僕に対してそういうことを望まない娘は――程度の差はあるけど――いないんだった……。
「……あー、そなたら……そういう話はワシらがいないところでしてくれんかの……」
「あらあら、いいじゃないですか。仲がいいことは良いことですわ。それにあなた、この様子なら王家の将来も……ユエさんの未来も安泰ですわね。うふふっ」
「それはそうじゃが……はぁ、まあ良い。ほれユエ、そなたらも……いつまでも乳繰り合っておらんで、マリアナに今後のことを話しておいたほうが良いのではないか」
「「「はっ、はいっ」」」
ここが謁見の間とは思えないほど桃色の空気が流れ始めたところで、陛下が話の続きをするようにおっしゃったので、僕・アイネさん・マリアナさんの3人は慌てて姿勢を正すことになった。
「ユエくん、今後のことって……?」
「はい。えーと、マリアナさんへの……というよりも、エーデル家への支援の件ですね」
「あっ……そうね。あまりに驚くことが多くて……」
「あはは……では、改めてになりますがご説明いたします。今回の一連の結果として、まずルシフさんはエーデル家の執事として復帰をご希望されています。マリアナさんの許可さえあれば、と付け加えられておりますが」
「ルシフさん……もちろん、ルシフさんが望むなら大丈夫よ。でもご家族は大丈夫なのかしら……?」
「ご安心ください。もうお怪我は治しておきましたので」
「えっ……あぁっ! すごいのね……星導者様って……ありがとう、ユエくん」
「当然のことですし、善意だけというわけでもないので……」
「どういうこと……?」
「それは……すみませんが、お話の最後に」
優秀な人に戻ってきてもらわないと間接的に僕が困るからだけど……とりあえず説明が進まないのであとに回させてほしい。
マリアナさんがコクリと肯いてくれるのを待って、話を続ける。
「月猫商会から……ホワイライト家名義で資金提供も行いますので、ご実家の事業は安泰でしょう。人員についても今後を考えると増員が必要ですが、連携を取りやすくするためにも引き続きキキョウさんにエーデル家に居てもらおうと思います。表向きは、マリアナさんご自身が雇用したという扱いのままで」
僕が人員問題の解決について触れると、スッと一歩進み出たキキョウさんが深くお辞儀をした。
「お任せください、マリアナ様」
ツバキさんのようにちゃんと仕事モードに切り替わっているようだ。
「そういえば……キキョウさんはユエくんの従者?だったのよね? どうりで……いえ、先日もたくさん助けてもらったわ。これからも、よろしくお願いしますね」
「は。かしこまりました」
「そういう訳ですので、これで資金問題・人員問題、それと……まぁ、僕と一緒に居てくださるということですので、後継者問題も解決できることになります。これで何の心配もなく学院に復帰をしていただける……ので、その……僕の側にいてほしい、です……」
「っ~~~~~! ほんとっ、ありがとうっ! もちろんずっと側にいるわっ! もぅっ私、嬉しくて嬉しくて……可愛いんだからっ」
「ぅぷっ!? マ、マリアナさんっ……御前、ここ御前ですからっ……」
殿中でござる!
……『前』の記憶に当てはめれば西洋風のお城だけど。
「あっ……!? そ、そうでしたっ……――ぁっ……」
感極まってまた抱きしめていた僕を慌てて開放したマリアナさんは、陛下の方に頭を下げて……そこで何かに気づいた様子だった。
「? どうかしましたか? 何か疑問点でもありましたか?」
「その……ユエくんの今の立場は、王太子様ってことなのよね……?」
「……そうですね。僕はアポロの夢を、叶えないといけません。両陛下からいただいた恩に報いるためにも、その立場はいずれ僕が元の姿に戻れたらしっかり果たします」
「ユエ……」
「ユエさん……ありがとう」
アポロの死を知ったマリアナさんは僕を慮ってか、少し言いづらそうに質問をしてきた。
僕がしっかりと両陛下の方を見ながらそう答えると、少し申し訳無さそうな両陛下の声が返ってくる。
「良いのです、こればかりは両陛下にお気遣いいただくまでもなく、僕が決めていることですので……。それでマリアナさん、それがどうかしましたか?」
「あっ、いえその……」
先程話したことの確認かな? と思って尋ね返したけれど、マリアナさんはなぜだか顔を赤くしてモジモジし始めた。
「その、私にだって……王族のお嫁さんの責務くらい分かるのよ……? ユエくんが私の家の『後継者問題』が解決するって言っていた意味も分かったし……だから……」
「ぅぐっ……」
その話は……大事だけど、大事だけどここでしないとだめですか……?
あと、モジモジして上目遣いのマリアナさんが妙に艶っぽくてマズイです……。
「子供……つくらないといけないでしょう? でも、どうするのかなって……。ほ、ほらっ、ユエくんはいま女の子になってるでしょう……? 王家に連なる子と、私の家を継ぐ子……最低でもふたりはほしいなぁ、って思ってるのだけれど……そうなるとたくさんしないと……えへへ……」
いやいや『えへへ』って!?
途中でくねくねし始めて妄想の世界に入らないでくださいよっ!?
「……はっ!? じゃなくてっ、女の子同士のままじゃ『できない』でしょうっ? ユエくんが……元のユエくんに戻るまで待たないと、ダメなの……?」
そんな寂しそうなのか残念そうなのか分からない目で見られてもですね……。
……このお姉ちゃん……意外とえっちなのかもしれない。
「あっ、アイネちゃんはどうなの……? 待てるの……?」
「…………」
アイネさん、そこで赤くなって目をそらさないでください……って、何を思い出してるんですかっ!? モジモジしないでっ。
「「(……じー……)」」
そこの黒猫さん方? 尻尾、尻尾を抑えてくださいね?
この流れ、さっきもやりましたからね?
そんな羨ましそうな目でアイネさんを見ても……そのうちとしか僕は言えません。
「ぶははっ! 良いぞっ! 良いのじゃっ! いよいよ『ゆりゆり』になってきたのぅっ!」
いや、黒猫っていってもキミじゃないから黙っててくれないかな。
他人事だと思ってひっくり返ってまで愉快そうに笑っているのが、なんともムカツク。
「……ヒーッ……ふぅ、笑った笑った。まぁ……マリアナよ、安心せい」
「クロちゃん……? それはどういう……」
「そのうちわかるのじゃ」
「ユエ……なんじゃ、そのあたりはワシも詳しくは聞かぬが……頑張るのじゃぞ。そういうことは男の頑張り、甲斐性にかかっておるでのぅ。ワシも若い頃は――」
「……あなた?」
「ヒッ!? す、すまんかった……」
話に入ってきた陛下だったが、過去の武勇伝でも語ろうとしたのか……王妃陛下に例の笑みを向けられて冷や汗をかいて引っ込んでしまった。
これでようやく話をもとに戻せるかな……いやもとに戻しても僕がなんども恥ずかしい思いをすることには変わりないんだけれど。
「お、恐れながら陛下っ!」
……なんて思っていたら、今度はツバキさんがなにやら真剣な……というよりも勇気を振り絞ってといった顔をして一歩進み出て、僕は驚くことになった。
真面目で義理堅いツバキさんが、僕を通さずに直接陛下に何かを申し上げるなんて珍しすぎる出来事だ……。
「う、うむ。なんじゃ?」
そんな僕の驚きは置いておいて、王妃陛下の目もツバキさんの方を向いたことで明らかにホッとした様子の陛下が、ツバキさんに発言許可を出した。
「はっ。お、恐れながら……私も、私も主様よりお
…………。
……………………。
………………………………へっ?
おたね……言い回しがアレなだけで、つまりはそれって……。
「……と、申されてもな……」
陛下も困惑されておられる……まぁこんな真剣に言われたことが『私も主様とえっちさせてください! 子供つくらせてください!』だったら誰だってそうなる。僕だってそうなってる。
「…………お願い申し上げますっ」
ツバキさんのその顔……実は照れていたんですね……。
「(族長っ!? そんな抜け駆けなんてズルいですっ!?)」
キキョウさんが白目になって少女漫画みたいな驚き方をしてる中、陛下は気難しいお顔をされて……というよりも気まずそうな顔をされていた。
「そうじゃのぅ……まぁ、そなたもユエのためによく尽くしてくれておるし、そなたがユエと仲良くする分には構わぬが……すまぬが『子の順番』だけは配慮してくれ。王としてのワシからはそれだけじゃ」
「っ……あ、ありがとうございます」
その陛下のお言葉を聞いて、アイネさんの顔がボッと真っ赤になった。
陛下が王として口にされた『順番』とは、つまり……僕との関係性。
公的には……といっても僕が表に出られるようになってからだけど、アイネさんは正室扱いになる。
つまりは『1番』だ。
王家として正室以外が産んだ子が長男長女になるといろいろとマズイのは歴史が証明している。
だからこそなんだろうけれど……。
「……あとはユエに任せることとする」
「あ、ありがたき幸せっ」
それにさえ配慮さえすれば良いという許可が出た。
出てしまった……。
ツバキさんは少女のように頬を染めて喜ぶと、大きく頭を下げている。
そして今度は、ちょいちょいと袖を引かれる感覚。
見ると、どうやらピンク色の妄想から帰ってきたらしいお姉ちゃんが……頬を染めたまま上目遣いで、さらには期待するように……僕を見上げていた。
「ユエくん……わ、私は……?」
「ぅっ……」
その破壊力抜群の可愛さに……僕は見事に撃沈して――『溜まって』しまった。
しかも今の感覚は、1回分どころではなかったように思える……。
「すまんのう。野暮なことは言いたくはないが、そなたは第一側室という立場になるのぅ」
僕が跳ね上がった熱を強制的に冷却させられている間に、陛下に王としてのお立場から答えを言われてしまった。
「い、いえそのっ、陛下にお謝りいただくことではっ……」
「マリアナさん、その……ごめんなさい。ユエさんとはマリアナさんのほうが早く出会っていたのに……」
「アイネちゃんまで……どうして? アイネちゃんが謝るようなことはないわよね……? 時期の前後の話でいうなら、アイネちゃんのほうが早くユエくんと結ばれたのだもの」
「それはそうだけど……家の爵位も無関係ではないだろうから……」
「……なら、譲ってくれるの?」
「……ごめんなさい、それはいくらマリアナさんでも嫌よ」
「ふふっ、そうでしょう? 私がアイネちゃんの立場でも嫌だって言うわ。立場で上下はあっても……私達がユエくんを好きということは一緒でしょう?」
「ええ、そうよ。それに……ツバキさんまでっていうのは驚いたけど、きっとユエさんは私達の立場なんて関係なく、ちゃんとみんなを愛してくれるわ」
「……いいなぁ、アイネちゃん。なんだかユエくんのこと『わかってる』って感じで……」
「くすっ。マリアナさんも近々そうなれるわよ。……ど、どちらかというと『分からされる』ほうかも……」
「アイネちゃん……?」
「い、いえなんでもっ……」
「そう? それと、ええと……ツバキさん、だったかしら」
「は。主様の
「さ、様って……」
「……主様の奥様になられるお方です。私は僕の身、当然かと」
「そ、そう……? ならいいけれど……先程のお話であれば、貴女もユエくんのことが好きなのでしょう?」
「……は。恐れながら……身も心も主様に捧げ、お慕い申しております」
「あぁっ、そんな申し訳無さそうな顔をしないでっ。ただそれなら、貴女も一緒よ。驚いたのは私も同じだけれど、貴女も一緒に……みんなでユエくんを可愛がって、みんなで……その、可愛がってもらいましょう?」
「……! はっ。ありがとうございます」
いや、あの……皆様?
笑顔を向け合って、お互いに仲良くしてもらえるのはすごく良いことだとは思うのですが、うん。
僕がここにいることを忘れてませんか……?
あとお姉ちゃんや、せっかく恋人になったばかりだというのに……そんな自らハーレム宣言みたいなことをしていいんですか……?
アイネさんは厳しい貴族教育の結果という感じだったけれども、マリアナさんはそれ以上に妙にノリノリな気がする……。
「ユエくん……良かったわね。お姉ちゃんも、みんなも、ユエくんのことを大好きな女の子がこんなにいるわよっ? ふふっ」
「あはは……ありがとう、ございます……」
あ、はい。良いんですね、わかりました。
頑張ります……。
「のぅ――」
「……あなた?」
「はい……」
そんな中で壇上の玉座では、居心地が悪そうな陛下を一言で黙らせる王妃陛下がいた。
愛するお嫁さんが1人だけでもああなってしまうなら、僕はどうなるんだろう……なんて、幸せで明るい未来に対して贅沢すぎる悩みを抱える僕だった。
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あとがき
●●● 入る文字はわかりましたか?(バレバレ)
お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価★」をよろしくお願いいたします。
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次回、「穏やかな帰り道(約一名を除く)~嫁三人寄れば~」
もうやめて!ユエくんの羞恥心のライフはゼロよ! な回
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