104.お姫様な王子様と、お姉ちゃんなお姫様~ご褒美は恋人宣言~

いつもありがとうございます。


前回のあらすじ

ビルギーは犠牲となったのだ……

イチャラブ前の茶番の犠牲にな……!

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*****

//マリアナ・フォン・エーデル//



 ルナちゃんの意地悪……というよりも、ゴルドさんと陛下まで巻き込んだ『イタズラ』ともいえる一連の茶番劇。

 これによって、この会場にいる全ての貴族たちにカネスキー家の悪行を知らしめることになり、私に迫ってきていた魔の手は振り払われることとなった。


 カネスキー家とビルギーがどうなるかは……もうどうでもいいわね。


「…………ふふっ」


 今の私にとっては、可愛らしくもカッコイイこの年下の恋人が、隣でそっと微笑んで私の手を握ってくれている以上に大切なものなんてないのだもの。


 ビルギーが消えていった扉を見つめて静かだった会場は、今は徐々にざわめきを取り戻しつつあった。


 茶番ではあったものの陛下がビルギーにチャンスを与えたという慈悲を褒め称える者、ホワイライト家の勇気ある行動に感心する者、娘の無念を嘆く者、やはりあの家は信用ならなかったのだと結果論を語る者……などなど、内容は様々だけれど貴族たちはこの出来事を概ね受け入れていると言える。


 暫くの間そんなざわめきが広がる会場だったが、その様子を眺めていらっしゃったこの場において最上の存在がスッと片手を上げたのを期に、急速に静けさを取り戻すことになった。


「……うむ、そなたらが話好きなのはようわかったが、それは後にするが良い」


「――ぷっ……」


 責めるというよりは冗談半分のように仰った陛下のお言葉を聞いて、なぜか私の隣から小さく吹き出すような反応があった。


 ル、ルナちゃんっ……!?

 いくら陛下が仰ったことが中等部の学院長が言うような『いま、みなさんが静かになるまで5分かかりました』という意味に聞こえても、笑うのはとっても失礼よっ!?


 ああほらっ、陛下がこちらをご覧になって……!?

 そんなすぐに元の表情を作っても、陛下は近くにいらっしゃったのだからさすがに聞こえてたと思うわよ……。


 私が内心で冷や汗を流していると、なぜか陛下はルナちゃんの方を見てニヤリと、先程も見たようなイタズラを企む男の子みたいな笑みを漏らした。


 それは一瞬のことですぐに元の威厳あるお顔に戻られたけれど……まだ何かあるということかしら……?


「さて、改めてになるが……此度の件、皆を巻き込んで悪かったな。ワシの不徳もあってのことだが、我が国に巣食っておった不穏分子は此度の沙汰を以って一掃する。ああ、あやつが喚いておったゆえ念のために言っておくが、ワシは金を納めたからと言ってそれをそのまま功とすることはないぞ」


 それはそう……よね。

 ここに残っている貴族たちは『存じております』とばかりに肯いている。


「っと、話が逸れたな。皆が見聞きした通り、ホワイライト家の勇気ある行動のおかげで我が国が世界的に危うい立場に追い込まれる事態は回避され、我が国以外においても無辜の民や孤児たちが虐げられることもなくなった。この働きこそが功とするに値するとワシは思うが、そなたらはどうじゃ」


 陛下の問いかけに、貴族たちは再び肯きで答えた。

 もちろん私も『うんうん』と何回も肯く。


「うむ、皆も納得しておるようじゃな。ちょうどよい、この場でホワイライト家への褒賞を決めてしまおうぞ」


 あら……!

 良かったわね、ルナちゃん!

 全ての貴族たちに認められた上で褒賞をいただけるなんて、めったに無いことよ!


 思わず隣を見ると、褒賞をいただけると聞いたルナちゃんがそっと礼をして謝意を示していた。

 あ、そうよね、今の格好だとスカートじゃないからカーテシーではないわよね。


「何が良いかのぅ……」


 陛下はそんなルナちゃんに目をやりながら、顎をさすって考えるような仕草をされている


 とても失礼な想像だけど、それは『悩んでいるポーズ』といった感じでほんとに悩んでいるようには見えないのよね……もしかしたら陛下の中ではもう決まっているのではないかしら……?


「のぅゴルドや? そなたは何を望む?」


 私がそんなことを考えていると、私の思い違いだったのか陛下はゴルドさんに話を振った。


「は。ありがたき幸せ。しかし、本当によろしいので?」


 必然的に注目を集めることになったゴルドさんは、サッと膝をついてそう言った。


 それは先程の挨拶の時とは違いスラスラと標準語でよどみなくて……私も周りの貴族たちも少し驚いている。


 ……のだけれど。


 でもだからこそ、どこか余所余所しさがあるというか……陛下がお尋ねになったのも含めて、まるで『決まっていたやり取り』が始まったように感じられる……気がする。


 それは私の想像でしかないけれど……陛下がお言葉を口にされた時から、ルナちゃんがなんだか緊張し始めたのが手から伝わってくるのよね……。


 今回の『茶番』のこともあるし、やっぱりもう『褒賞』は決まっていて、ルナちゃんもそれを知っているんじゃないかしら……?


 でもルナちゃんが緊張するようなことって、いったいどんな……いえ、見ていれば分かることよね。


「良いよい。何でも申してみろ」


「では、恐れながら……」


「うむ、なんじゃ?」


「皆様の前で申し上げるのもお恥ずかしいかぎりですが……実は私は子煩悩でございまして」


「ほう? それは良いことではないか。子は宝、国の未来じゃ。気にすることではないぞ。それで?」


「は。私に褒賞をいただけるということであれば、娘の願いを叶えてはいただけないでしょうか?」


「カッカッカ! なんとも出来た父親ではないか。良いぞ、その娘の願いとやらを申してみよ」


「は。これも皆様の前では申し上げにくいのですが……娘は少々変わった趣味を持っておりまして」


 変わった趣味……?

 ルナちゃん、そんな趣味があったの……?


 それが何なのかはわからないけれど、私と同じように疑問に思ったらしい人々の視線がルナちゃんに注目が集まった。


 こんな完璧な美を体現する少女のどこにそんな趣味があるのか、と。


「趣味とな?」


「は。娘は女の身でありながら……美しい女性が好みなのです」


 あ、あぁ……趣味ってそういうことね……。

 当事者にとっては本気のことでも、他の人に説明するとなると『趣味』という言葉になるってことよね……。


「ほほう。それゆえにロゼーリアの娘とも懇意にしておるということか」


 チラリと陛下が視線を向けられた先では、いつの間にかルナちゃんの隣……私の反対側に進み出たアイネちゃんが静かに……でも何の引け目もないとどこか誇らしそうにカーテシーをしていて、陛下のお言葉が正しいということをこの場に示していた。


「左様でございます」


「――なっ、なんだとっ!?」


 ……今の声は……?


 アイネちゃんがルナちゃんと一緒にいる理由をゴルドさんが肯定すると、どこかから驚きで裏返ったような男性の声が聞こえた。


 声の主を探して誰もがその人物を……この上なく上等な礼服……というよりも軍服を着ている、40歳くらいの男性貴族を見た。


「……あなた?」


「いぎぃっ!? し、失礼いたしました……」


 その男性貴族の隣には美しい銀髪の美女がいて、男性をいるように見える。


「……ぅぅっ……」


 そのやり取りを聞いたアイネちゃんがなぜか恥ずかしそうに縮こまっていて……も、もしかしてアイネちゃんのお父さまとお母さまかしら……?


 確かに侯爵家クラスの装いに見えるし、女性のほうがお母さまだとすればアイネちゃんと似ているわね……姉妹といっても通じそうな若々しさだけど。


 アイネちゃん、ルナちゃんとのことをご両親に話してないのかしら……まぁそうよね、アイネちゃんは王太子様の婚約者候補だったって聞くし、言いづらいわよね……。


「あー、ゴホンッ。ゴルド、続けよ」


「えー……は。そんな趣味を持っていながらも良く出来た娘でございますが、困ったことにわがままな一面もございまして……もうひとり、見初めた者がおると申すのです」


「――な、なんだと――――いぎぃっ!?」


「……ほ、ほう。それはそれは」


 またアイネちゃんのお父さまらしき声が上がったけれども、もう陛下もゴルドさんも無視することに決めたらしい。


「(お、お父さまぁ……)」


 アイネちゃんがより縮こまってしまって……ふふっ、かわいいわね……。


「いったい誰のことかのぅ……?」


 …………?


 ……あれ? ゴルドさんも陛下も、私の方を見てる……?


 …………あっ……!?

 『ルナちゃんが見初めた』『美しい女性』って……!?


 気づいて隣を見れば、ルナちゃんも私の方を微笑みと共に見つめてきていた。


「は。そちらにいる、エーデル子爵家のマリアナ嬢でございます」


「ふむ、先程からそなたの娘の隣におる者だな。確かに美しいな」


「っ……!? きょ、恐縮でございますっ……!」


 へ、陛下がお褒めの言葉を私にっ……!?


 先程話を振られたアイネちゃんは優雅に返礼できていたけれど、急に話を振られた私は心臓の鼓動が跳ね上がってしまい、慌ててカーテシーをすることになってしまった。


 ルナちゃぁん……!

 嬉しいけどっ、嬉しいけどぉっ……!


 ……ぅぅ、注目が恥ずかしい……。


 ニヤニヤとした陛下とゴルドさんの視線、そして『美しい』と称されたことで改めて私を観察するかのような貴族たちの視線に晒され、私は嬉しさと恥ずかしさを顔に出さないように精一杯になっていた。


 隣でおすましの表情をしているルナちゃんが憎たらしくて愛らしい。


「それで……ここからがお願いでございます、陛下。娘がにしたいというそちらのマリアナ嬢と、我がホワイライト家は家同士の付き合いとして懇意にしたいと考えているのですが……聞けばエーデル家の現状はお苦しい様子。は私が口出しするものではありませんが……先程も申しました通り私は子煩悩でございますので。の家を何とか助けてあげたいのです」


「ふむ」


「つまり、私の願いは……我がホワイライト家がエーデル家を支援するご許可をいただきたく存じます」


 っ……!?


「それは良いことではないか。だが、そんなことはわざわざワシに許可を得なくても良いのではないか? 両者の同意があるなら、それこそカネスキーのようにエーデルへ話を持ちかければ良いのでは?」


「いえ、分はわきまえております。なりたての名誉子爵家が子爵家とはいえ伝統あるエーデル家と深い関係を結ぶことを持ちかけたとなれば、外から来た我々はいらぬ疑いを受けるかもしれません。先程の男のように、でございます」


「ククッ……なるほどのぅ」


「でありますればこそ、陛下にしかとご許可をいただきたく」


 ……もぅっ……もぅっ……!


 これが『褒賞』だなんてっ、この場の全ての人に『私たちは女の子同士だけど恋人になります。家のこともお任せください。いいですね?』って陛下とゴルドさんの口を通して宣言しているようなものじゃないっ……!


 いうなれば『公開恋人宣言』よっ……!


 こんな、こんな……カッコイイことしちゃって……!

 この娘はどこまで――――お姉ちゃんを嬉しくさせれば気が済むのかしらっ……!


「うむ! なんと殊勝な心がけじゃ! 我が名において、許可するっ!」


「「ありがたき幸せ」」


 ――おぉっ……!?


 ――おめでとうっ!


 陛下が満面の笑みで手を振り上げて宣言され、ルナちゃんとゴルドさんが声を揃えると、男性貴族たちからは何とも言えないどよめきが、理解ある女性貴族たちからは祝福の声と拍手が溢れ出した。


 私は顔から火が吹き出しそうな思いをしながらも、しっかりと握られた手の温もりが……微笑みかけてくるその笑顔が……ルナちゃんの全てが私の中を満たしていくのを感じていた。


 ルナちゃん越しに、アイネちゃんも拍手をしてくれているのが分かる。


 アイネちゃん、ごめんね。

 今ばっかりは……この可愛い娘を独占させてね。


「さぁっ! 若い二人のめでたい門出じゃっ! 舞踏会の準備はっ?」


「はっ! もう間もなく整いましてございます!」


「良しっ。せっかくじゃ、最初は二人に踊ってもらうというのはどうだ? のぅルナリアよ?」


「――謹んで拝命いたします」


 ノリノリな陛下の提案に、ルナちゃんは恭しく腰を折る礼をして――って!?


 そっ、そんなあっさり肯いちゃって!?

 それってもちろん相手は……!?


「――マリアナさん」


 王子様のような格好をした、誰よりも美しく優しい私のお姫様。


 そんな愛しい人に名前を呼ばれ、振り返りざまに凛々しい瞳に射抜かれ。


 ドキッと、私の心臓は跳ねるのだった……。









――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

お読みいただき、ありがとうございます。

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次回、「お姫様な王子様と、お姉ちゃんなお姫様~『やくそく』はダンスの前に~」

いよいよケッチャコゥ……!

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