100.そのとき、衝撃が走る~にっくきあんちくしょうは誰だ!?~

まえがき


いつもありがとうございます。


連載開始から3ヶ月弱、ついに100話到達です……!

この記念すべき話でお姉ちゃん編も一件落着!

……と行きたいところでしたが、筆者の発作が起こったので小休止回です。


――――――――――――――――――――――――――――――――




 湖に投げ入れられた小石が、何度か水面を跳ねてからポチャンと小さな音と波紋を立てる。


 岩の上に腰掛けた僕らは、あの頃よりも身体が大きくなったからか、心の距離が縮まったからか……その両方からか、身を寄せ合うようにして水面を眺めていた。


 あれから……マリアナさんが僕の手を取って、触れ合うような口づけを交わしてから。


 どちらからともなく顔を離し、恥ずかしくも幸せな気分で微笑み合い、照れた顔を指摘し合い……なんて我ながら初々しいやり取りをして、今に至る。


 お互いになんとなく無言のままだったけれど、居心地が悪いというわけではなく……僕はただ目についた小石を投げ入れてみただけだった。


「そういえば……あの子もこうして石を投げ入れていた気がするわね……私より上手くって、ムキになって勝負したりして……」


 ……どうやら無意識だっただけで、昔の僕がここに来たときの癖だったようだ。


「『そういえば』といえばもうひとつあるわね……?」


「な、なんでしょうか……?」


 まだ僕(ルナリア)が僕(ユエ)であるとは伝えていない。

 だから、さっきの無意識の行動で共通点を見つけられてしまって冷や汗を流していたのだけれど……。


 声をかけられて隣を見ると、まだ先程の余韻が残っているのか僅かに頬を染めたマリアナさんが僕に微笑みかけていて、ドキッとしてしまった。


「私はもう、ルナちゃんの恋人ってことよね? 告白しあって……キス、しちゃったし……」


「はい、もちろんですが……?」


「ふふっ、アイネちゃんとも仲良くやっていけるかしら?」


 ……今度は別の意味でドキッとしましたよ、マリアナさん……。


「……ど、努力いたします……」


「そうよ? あんなにカッコよく私に告白をしておいて、せっかく一緒になれたのに……悲しい結果になるなんてお姉ちゃんは嫌よ? この関係はルナちゃんが中心なんだから、ルナちゃんが上手く私達を取り持ってくれないと、めっ、よ?」


「はい……」


「まぁ、女の子同士のことはまだ良くわからないけれど……私もアイネちゃんのことは好きだし、ルナちゃんが好きな子同士ですもの。女の子3人、仲良くっやっていきましょうねっ? ふふっ」


「そ、そうですね……ハハ……」


 非常に楽しそうなところ悪いのですが……。

 その3人のうち、1人は女の子と言っていいか怪しかったりするんですが……。

 そもそもアイネさんの言い様だと3人で収まってくれない気がするのですが……。


 そ、それはまた今度話し合おう。そうしよう……。


「さて……すごく幸せな気分でいられるのは嬉しいけれど、そろそろ今後のお話をしておかないと……時間がなくなっちゃうわよね?」


 僕が心の中で情けない現実逃避をしている間にも、マリアナさんはちゃんと現実を見ていたようだ。

 今後のお話、と言いながら真剣な目になったその顔から、彼女が聞きたいことがうかがえる。


「マリアナさんがお聞きになりたいことは、分かります」


「そうよ……? もちろん話を聞きたいってことだけが理由じゃないと言っても、私はちゃんとルナちゃんの手を取ったのだもの」


「はい、お約束は必ず果たします。……果たしますが、それは……明後日に王城で開かれるパーティーに来ていただければ、と……」


「もう、まだ引っ張るなんてルナちゃんも意地悪…………って、ちょっとまって……!? パーティーに来るのっ!? ユエくんがっ!?」


「……そんなところです」


 貴女の夢を叶える総仕上げは、ちゃんと考えてありますよ。

 ……今の時点だけ見れば、釣った魚に餌をあげない、つくづく嫌な奴に思われるかもしれないけれど……。


「そうなのねっ……! ……あれ? でもそれだと、ルナちゃんに教えてもらえなくてもいずれ分かったのかしら……? ――あぁっ!? 違うのよっ? ルナちゃんとこうなったことを、手を取ったことを後悔してるとかそういうわけではないのよっ?」


「はい……それは分かっていますが……」


 僕は今、そんなにヘンな顔でもしていたのだろうか……。


 喜んで目を輝かせてくれたのは嬉しかったのはずなのだけど、僕の顔を見たマリアナさんは慌てたようにして僕を抱きしめていた。


「む、むぐぅ……!?」


 誰だよ、僕の愛しいお姉ちゃんにこんな顔をさせるヤツは……って、それも僕だった。


 顔に感じる圧倒的な柔らかさのせいか、マリアナさんと恋人になれたということに僕も舞い上がっているせいか……酸欠でのぼせそうになる頭の中でそんな馬鹿な1人コントを繰り広げてしまった。


「あっ、そうだルナちゃんっ。聞きたいことがあるのだけれどっ」


「ぷはっ……!? な、なんでしょうか?」


 お胸の中でもみくちゃにされていた僕は、今度は唐突に謎の力を発揮するその細腕で引き剥がされ、顔を覗き込まれていた。

 テンションが上がっていたはずのマリアナさんの目が意外に真剣で、僕は思わず身構えてしまう。


「ルナちゃんは、その、浮気は許せる方かしら……?」


「――え?」


 …………?


 ……うわき? なんだろう、それ……。


 うわき……UWAKI……上着、じゃないから……浮気!?


 え……ちょっ……うそ……そ、それって……どういう……あの、なんで……?


 せっかく、恋人になれたばかりだっていうのに……え? なに? 僕が知らなかっただけで、マリアナさんに、そんなひとが……?


 痛い、胸がめちゃくちゃ、いたい……。


「な、なぜ、そんな、ことを……?」


 辛い思いをさせた代わりにどんな仕打ちでも受け入れる覚悟はあったのに、唐突に隕石が落ちてくるくらい予想外のしっぺ返しを受けて呆然とする僕は、なんとかひねり出した言葉でマリアナさんが口にした考えたくもない単語の理由を尋ねていた。


 上がったテンションの勢いで立ち上がって、うっとりと湖の方を見つめるマリアナさんは……今度はそんな僕の表情には気づいていない様子。


 そ、それほどまでに……そいつのことが……。


 ……潰すべきは、カネスキー家だけじゃなかったのかもしれない。


「だって、あの子に……ユエくんに会えたら、きっと私はときめいてしまうものっ! これって、浮気になってしまわないかなって……」


 ……ユエって誰だっけ、そいつ潰さないと……………………いやだから僕だよっ!!


「ごめんなさいルナちゃん……こればっかりは――って、どうしたのその顔……?」


「ハ、ハハ……ナンデモナイ、デス……」


 きっと今の僕の顔は、『マリアナさんにそんなに想ってもらえて嬉しいと感じるユエ』としての感情が半分、『恋人になったばかりなのにいきなり浮気話を持ち出されて非常に悲しい気分になってしまったルナリア』としての感情が半分、混ざり混ざってマリアナさんが目を丸くするほどの変な顔をしているのだろう……。


 ま、まぁなんだ……どちらも僕なら、問題はない……はず。


「……彼に会えるのが、楽しみですか?」


「えぇっ! とっても!」


 僕の問いにうなずくマリアナさんはものすごく笑顔で、とても可愛らしいけれど……。


 くそぅ……驚かせてくれましたねマリアナさん。


「そうですか……私も、楽しみです」


 このお返しは……絶対に貴女を喜ばせることで、返しますからねっ……!


「えっ……? そ、そう……? アイネちゃんとの様子を見てると……ルナちゃんって見かけによらず独占欲が強い子なのねーって思ってたのだけれど……意外だったわ」


「ふ、ふふふ……」


「ル、ルナちゃん……? なんだか怖いわよ……? いくらルナちゃんでも、ユエくんと刀傷沙汰は……めっ、だからね……?」


「大丈夫、大丈夫ですよマリアナさん。そんなことはありえません」


 そんなことすれば、自傷行為になっちゃうからねぇ?


「さあ、当日の打ち合わせをしましょう。カネスキー家なんてさっさとにしてしまいましょうね。そのためにはマリアナさんにもご協力いただきたいことがありまして――」


「け、けちょんけちょんって……」


「もはや些細な問題です。あ、実は私は、直接彼と顔を付き合わせたことがないんですよ。どんな方なのですか?」


 ……嘘は言っていないよ、嘘は。鏡を見たって映るのはルナリアだからね。


「そうなの? ユエくんったら、いったい今までどこにいたのかしら……いいわよ。えっとね、さっきルナちゃんのことを見かけによらずっていったけど、見た目の話なら実はルナちゃんと同じ綺麗な白い髪をしていてね、とっても可愛らしい男の子だったの! それでね――」


 ククク……お姉ちゃんや、そんなに得意げに色々話をしてしまってまぁ……。

 あとで身悶えることになることになるとも知らずに……


「――ちょっとおませちゃんで、私の胸をチラチラ見てたりしたのよ? ふふっ、可愛いでしょう?」


 ……こ、これ……意外と僕にも羞恥心というダメージが来るかもしれない。


 『ユエ』との思い出をマリアナさん視点で語り尽くされ……結局、時間が来るまで僕らは湖畔で肩を並べていた。



*****



 それから腕を組んで孤児院に戻った僕らを……アイネさんは『良かったわね』と歓迎してくれた。


 その言葉を聞いて、さっそく仲良くしようとしたマリアナさんによってアイネさんが窒息しかけるということはあったけれど……。


 とにもかくにも――僕とマリアナさんの関係をめぐった最終決着は――当初の予定通り――明後日のパーティーで着けられることになるのだった。







――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


イチャラブに浮気なんてありえませんっ!!(ドヤ顔)


お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価★」をよろしくお願いいたします。

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次回、「お姫様な王子様と、お姉ちゃんなお姫様~美少女と野獣~」

決着へ向けて……!

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