048.鏡花水月~星を導くもの~

連載一ヶ月記念投稿も本話でラスト!

第二章前半クライマックス!

※厨二注意

――――――――――――――――――――――――――――――――





 夜空には、2つの満月――天秤月と、無数に瞬く星々の煌めき。



「――幾千億の星条せいじょうを束ねて――」



 僕が右手を掲げて聖唱を口にし始めると、その夜空の煌めきが――落ちてきた。



「――我は鏡。天の御心を宿し、地の真を写す者也――」



 いや、星々達はその輝きを一層増すと、地に立つ星導者に向けて祝福の光となって集まりだす。光の珠が集まっていく光景はまるで、夜空が落ちてくるかのよう。



「――我は花。天の恵みを賜り、地に安寧を求める者也――」



 集まった光の祝福は星導者の身を彩り、闇を寄せ付けない鎧を型どっていく。



「――我は水。母なる天を想い、地の命を廻る者也――」



 磨かれた鏡面を思わせる輝きを放つは、『天秤月の聖鎧』。


 上半身をすっぽりと……ではなく、腰回りから胸までを覆う(オフショルダーな)鎧部分に、手先から肘と肩を守る篭手。足を守るのは足全体を覆う堅牢なグリーブ……ではなく、ドレスのように広がった腰当てと膝上までのスカート、膝までの鉄甲。

 頭には2つの月の意匠が施されたヘルム……ではなく、ティアラ。


 元の姿からは少々形を変えた、ドレスタイプの鎧とも戦乙女とも言うべき形で、僕を星導者としての真の姿に変えていく。



「――我は月。あまねく幾億の星条を、地へ導く者也――」



 そして、掲げた手には2つの月から降り注ぐ聖光が幅広の直剣を形作っていき――



「――天秤月の御名の元、星導者が汝を求めるっ!」



 最後の聖唱を口にすると、頭に覚えのある声が響いた。



 ――要請を受領。汝、はかりに乗せるはいかなるや?



 ――我が生命の刻。その半刻。



 ――審査中。受理。秤の均衡は成った。期限は半刻。限定解除。



 捧げた代償に対して声が許諾を告げた時、2つの月と僕の間の『道』が完全に繋がり、圧倒的な光量が降り注ぐ。


「――来いっ! 『月鏡剣げっきょうけん』!」


 僕がその聖光の滂沱から手を引き抜けば、輝く豪奢な直剣が姿を現した。


 剣は刃渡りが1mはある両刃。剣身は鎧と同じく鏡のように周囲を照らし、刀身の割に大きな鍔には2つの月を掲げる女神の意匠が彫られている。一見すると儀礼剣のようにも見えるそれが、『月鏡剣』。


 『月鏡眼』と『天秤月の聖鎧』をその身に宿し、『月鏡剣』を手にした今の姿こそが、闇を祓う人類の希望――星導者だ。





「――闇の者よ、月はいつでも、お前たちを視ている」





『グッ……ガァァァッ!! ふざけないでいただきたいっ! 貴女が星導者だというなら、ここで倒し、この私の力で! 再び闇の時代を作るまでですっ!』


 闇をさらに濃くして僕のプレッシャーの中でもなんとか動いたらしいバエルがそう吠えると、控えさせていた闇族や先に戦っていた闇族が影の中に消え、次の瞬間には僕を囲うように再出現していた。


『これならどうです! この数で囲んで叩いてしまえば、星導者と言えども無傷じゃすまないでしょう! やれっ!』


 100体以上の闇族が一斉に獲物を振り上げ距離を詰めてくる。


 だが『そんなこと』は、これまで何度も経験していることだ。


「【聖剣開放ソードリリース


 僕が鍵言を口にすると、澄んだ音を立てて月鏡剣の鍔部分が砕け散った。


「【展開セット】」


 次に口にすれば、鏡の破片は地上に夜空を再現するかのように周囲に散らばり、宙に留まった。


「【光線】」


 そして、天に向けて光線を放てば……その光の筋は1つの破片にぶつかった途端に幾条にも分岐し、上から、横から、場所によっては下から、一瞬にして全ての闇族を貫いた。


 聖なる鏡に反射増幅された光線は、一撃で闇族を消し去るだけでなく、そのまま反射する範囲を広げていくと、残っていた闇の獣までもを貫いていく。


 数秒程度の時間で、この地に残る闇に属するものは闇将バエルのみとなった。


『っ!? ギャァァァッ!?』


 に、早くも逃げに入ろうとしていたバエルの片足を消し飛ばして転がしておいた。


『あ、あり得ないっ……! たった、たった一撃であれだけの数を……! この私を……!』


 僕は散らばった鏡たちを鍔に戻すと、何事かを喚くバエルに近づきながら、聖剣を突きつけた。


「……お前はすぐに祓いはしない。聞きたいことがある。その影の力をどこで知った。ザガンか?」


『っ!? そうですかっ! 貴女はザガンを知っていた! だから私の力に対抗できたっ! でも私をあの脳筋と一緒にしないでいただきたいです、ねっ!』


 僕が問うと、勝手に勘違いした様子のバエルは倒れたまま右手を地面に付き入れた。僕の背後の地面に影が生まれ、そこから無数の闇の槍が飛び出してくる。


『はっはっは! 私はただ実験動物を飼い殺して悦に浸っていたあの脳筋とは違う! 独自にこの力を研究し、発展させていたのですよ! 死ねぇ!』


 まるで奇襲が成功したかのように喜色を浮かべたバエルだが、そんなものが真の力を発現している僕に届くわけがない。


『何だとっ!?』


 バエルを見据えたまま、僕は無言で伸びてくる槍の数だけ【輝光剣】を同時発動すると、空から降り注いだ光の剣は余すことなく闇の槍を叩き折って消滅させた。


「………実験動物、だと……?」


 そんなことよりも、コイツが口にした言葉がひどく僕の癇に障った。


「ツバキさんが……彼女の一族が、いったいどれほどの間、苦しんだと思っている……」


 こんな口だけの小物が、彼女たちを貶めて良い訳がない。


 ましてや、こんなのにアポロや仲間たちが殺されたのかと思うと、ガラにもなく腹立たしくて仕方がなかった。


『クソッ! 私の知ったことではないですねぇっ! そんなことよりも、私は退散させていただきますよっ! ふふっ、すぐにトドメを刺さなかったことを後悔しなさいっ!』


「………」


 また影に隠れて逃げるつもりのか、捨て台詞のようなことを口にするバエルだが……その身体はいつまでたってもその場から動いていない。


『なっ!? なぜ隠れられないっ!? なぜ影がっ――――……?』


 あの力は影が見える範囲にないと使えない。

 コイツが改良したと言って影を生み出して槍を転移させていたとはいえ、そのための影が無くなってしまえば、こいつはちょっと小賢しくて闇が濃いだけの存在だ。


「言ったでしょう。月はいつでも、お前たちを視ている」


 そう、天に煌く月の、星々の光で、この地のすべてを照らしてしまえば、影など存在しなくなるのだ。


 普通に考えれば光があれば影が生まれるが、この力で生み出す光で意識して照らしてやれば、影など生まれなくなる。

 影がなければ、バエルは逃げることも出来ない。


 星導者は光を以って闇を祓う存在なのだから。


 それがどれだけ濃い闇を孕んだ存在であろうと、一切関係はない。


「(アポロ、みんな……いま、仇を討つよ)


 僕は聖剣を祈るように掲げ、特に濃い闇のものを完全に祓うために使ってきた聖唱を口にする。


「――汝は世界の光を映し出す鏡にして、我ら子を見守る母。その光輝くかいなにて、全てを安らかな地へと導き給へ――」


 聖剣から優しい光が溢れ出し、その光は世界を包んでいく。


『や、やめっ――――!?』


 地面を這うようにしてまだ逃げようとしているバエルを前にして、僕は容赦なく闇を祓う最後の言葉を口にした。



「【光在れルクシオール】」



 再び、世界は聖なる白光で満たされ、光は天に吸い込まれるように登っていく。


「……あっけなかったな……」


 これで、みんなの仇は討てたのだろうけれども、僕としてはこれまでと同様に闇を祓ったというだけで、なんだか実感が持てなかった。



 ――やっぱすげぇなユエはっ! さすがはオレの親友だっ! あんな綺麗な嫁さんもらえるんだから、これからはちゃんと自分のことも考えて、幸せになれよなっ!



「……アポロ……」


 その光を見送っていると、僕の背中をバシバシと叩く彼の姿を幻視した気がした……。




 しばらくして、光が収まる。


 バエルは周囲数キロの『灰色地帯』や『闇の領域』ごと、消え去っていた。


 僕は星導者としての全ての武装を解除し、『扉』を閉じて月鏡眼も元に戻す。


「終わったか……」


 そう口にすると、急に現実感が戻ってくる。


 走っていったみんなはちゃんと逃げられただろうか、とか、正規軍の人たちには無駄足を踏ませてしまうな、とか、いつもの性分でつい考え込んでしまいそうになる。


 それでも、背中に残っている気がする激励の感触が、これが僕にとって終わりではなく始まりだということを教えてくれた。


「――ルナさんっ!!」


「っとと、アイネさん?」


 空を眺めていた僕が『始まり』のために振り向くと、胸に柔らかで温かい衝撃が走った――アイネさんが飛び込んできたのだ。


「ルナさんっ! ルナさんルナさんっ!! ルナ、さん……もうダメかと思った……!」


 瞳いっぱいに浮かべた涙を、僕の胸にこすりつけるようにしながら、感情が溢れて止まらないと言わんばかりに何度も名前を呼んでくれた。


「ルナさんっ……ルナさんは、星導者様なのっ!? どういうわけかは分からないけどっ、ルナさんは王太子様なのっ!? で、でもっ、お風呂で見たときはちゃんと女の子だったわよねっ……!? ねぇどういうことなのっ!? 私が好きになった殿方と女の子は、同じ人だったってことなのかしらっ!?」


「ア、アイネさん、少し落ち着いてください……」


「どうしてルナさんはそんなに落ち着いているのよっ!? 私っ……わたし、もうっ……わけがわからないほど、嬉しくてっ……どうにかなってしまいそうよっ……!」


「……すみません」


 そういって抱きつく腕に力を入れて嬉し涙を流すアイネさん。


 僕はそれに応えるようにぎゅっと彼女を抱きしめてから、そっと肩を押して彼女の顔を胸から離す。


「アイネさん」


 そして、僕たちのこれからを始める言葉を、真剣に、告げる。



「私と……いえ、僕と、結婚してください。僕の……お嫁さんになってください」



「――――――――えっ?」



 質問に対する答えが返ってくると思っていたのか、ぽかんとした顔になったアイネさん。


「……ふふっ、くすっ……あははっ……」


 だが、その顔はすぐに笑顔になって、おかしくてたまらないといった風に笑いだしてしまった。


 あ、あれ、もしかして……これは断られてしまうのだろうか? いきなり何を言ってるんだコイツというやつなのだろうか……?


「ダメ、でしょうか……?」


 つい、不安になって聞いてしまった僕。


「お返事を、いただけませ――――んんっ……!?」


 それに対する彼女の返事は……口づけだった。


「んっ……」


 驚きで目を見開く僕とは逆に、アイネさんは万感の思いを込めるかのように目を閉じていて、震える長いまつげに輝く涙がとても綺麗だった。


 長いようで短い間、彼女の柔らかな唇を感じていると、恥ずかしそうにしたアイネさんからそれが離された。


「っはぁ……そ…………の……ってる……ない……」


 モジモジとしながら口の中で言うようなアイネさんの言葉は、上手く聞き取れない。


「アイネさん……」


 その言葉をちゃんと聞きたくて、その瞳を覗きながら彼女の名前を呼ぶ。


「ぅぅっ……」


 すると、目をそらしたり、また合わせたり、顔が右を向いたり左を向いたりと一通りの可愛らしい反応を見せてくれたあと……僕が大好きな、綺麗な満面の笑みになってくれた。


「そんなの……良いに決まってるわ……! ずっとずっと、あなたのことが好きだったんだもの……私も好きよ、ルナさん……愛しているわ」


「嬉しいです……アイネさん、好きです。愛しています。ずっと、一緒にいてください」


「もちろ――――んっ……」


 僕は、その返事を聞く前に、溢れる想いのまま、今度は自分から彼女の唇を塞いだ。


 ふたりの長い睫毛からこぼれ落ちた雫が風に流され、月と星の光に照らされて煌めいた。





――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

※もちろんまだまだ続きます。


少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価★3」をよろしくお願いいたします。

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苦難を乗り越えた二人を待ち受けるのは……そう、イチャイチャですね!

これからしばらく、SPICICT(スーパーイチャイチャタイム)です。


投稿速度は元の1日1回に戻ります。


次回、「薔薇銀姫と影の従者~女同士は視線で語る~」

アイネとツバキ、対面す?

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