047.満月の決意~開眼~
祝!連載一ヶ月!
引き続きよろしくお願いいたします。
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「ッ!? アイネさんッ!!」
クレアさんと連携して闇族を次々と消し去っていく最中、戦闘中で研ぎ澄まされている僕の感覚をもってしても『突如として』、その闇将は現れた。
闇王を除けば、闇に属するものの中で段違いの闇の濃さから、ひと目でそれが闇将であることは分かった。
さらには、その背後に先程まではいなかった通常の闇族を100体ほど控えさせている。
奇襲、という言葉が頭に浮かび、闇族が戦術的な行動などあり得ないとそれをすぐに否定しかかり、1つだけ原因に思い至る。
こんなときでも僕の頭は考えることに動いてしまっているが、身体は既にアイネさんに向かって動き始めていた。
『ああ、申し遅れました。私、闇将が一人、バエルと申します。以後、お見知りおきを』
「っ!? やあああぁぁぁぁぁーーっ!!」
バエルと名乗った闇将がふざけた仕草で自己紹介をし、アイネさんがそれに斬りかかった。
「(ダメだ! アイネさん! 闇将に普通の攻撃はっ……!)」
――遠すぎる彼女に向かって伸ばした手の先で、世界の時間が引き伸ばされていく。
案の定、強すぎる闇の濃さに攻撃を打ち消されたアイネさんが、反動で宙に投げ出され、バエルの腕が引き絞られた……!
「(やめろっ……!)」
宙を舞うアイネさんが、僕の方を見て、その瞳を閉じた。
あまりにも遅い時間の中、僕は走る。
「(また、間に合わないのか――また、失うのか――)」
僕が油断していたせいで、止められなかったせいで、輝きを失わせてしまった命があるというのに、また――。
彼を失って泣いていた僕の心を救うきっかけをくれて、『前』を含めても初めて自分から本気で愛しいと思えた女性(ヒト)を――。
「(いやだ……)」
【強化】した脚力で飛び出し、地を蹴り、それでも距離は遠い。
「(いやだ、いやだ……!)」
アイネさんの瞳が開かれる。
――僕自身が彼女に言ったばかりだろう? 忘れないでと。信じろと。
――秘密を守るとか、真実を打ち明けて彼女を傷つけたらどうしようなんていう、この期に及んで大切なヒトの命に比べればどうでもいいことにこだわっていたせいで、また――失うのか?
――僕自身が、そんな覚悟もなく大切な彼女に愛を口にしたのか?
「(違う……)」
バエルの腕が打ち出される。
その腕が彼女の右胸に届く時、自身の過去や周囲に与えられていた責務のせいで……僕の覚悟がなかったせいで、アイネさんの命を失わせてしまうだろう。
「(そんなことは許されない……! 許していいはずがない……!)」
彼女にとって最後の瞬間だというのに、その表情に愛しさを称えた優しい微笑みを浮かべる――過去ではなく、今の僕を照らしてくれる星のような、その輝きを――!!
「(僕は……絶対に守ると誓ったはずだッ――!!)」
決意とともに拳を握りしめる。
「(……アポロ、ごめんね。キミとの約束は守るよ。でも、キミの婚約者になるかもしれなかった女の子は……キミにも渡せないよ)」
瞳を閉じ、意識を切り替え、自身の右胸の奥底で閉ざされている『鏡の扉』に――
「(【
――その鍵言を差し入れ、開け放つ――!!
途端、僕の瞳に向けて天から幾億もの『道』が繋がり、瞼の裏を焼くように輝き出して――
「(アイネさん……長い間、想いを縛っていてごめんなさい。きっと、王太子の目が覚めないと聞いて、悲しませてしまったでしょう。それを信じて回復を願う貴女を、騙す形になってしまってごめんなさい。何も知らない貴女の肌を見てしまって……一方的に想いを聞いてしまって……愛を告げたのに、答えを言わせることなく今まさに最後の瞬間かのように思わせてしまって――)」
どうか、許してください。
だから、今一度これからの僕たちを始める前に、僕が言うべき言葉は――
「「ごめんなさい、アイネさん(ルナさん)」」
――僕はその輝きを、瞼を開くことで周囲に解き放った!
『グッ、うぉっ……!? 何ですかっ!?』
星導者の聖光を所以とする閃光が僕を中心として迸り、闇が濃いほど反発するその性質がバエルと闇族をまとめて弾き飛ばした。
そして僕は、『道』を通じて流れ込む聖光が自分が作り変えられていくような感覚のまま、光に迫る速度で加速し、愛しい人を腕の中に収める。
「させない……もう二度と、大切な人を失わせはしないっ!!」
覚悟と決意を口にして、僕は宿敵と相対した。
*****
「キレイ……」
眩い閃光に目を瞬かせていたアイネさんは、まだ認識が現実に追いついていないのか、僕の腕の中でぼーっとした表情を浮かべていた。
「ご無事ですか、アイネさん」
「……あれ……ルナ、さん……?」
声をかけるとようやくその焦点が合ったのか、僕の瞳を見つめてくる。
「……ルナさん、よね……? その眼……それにこの光……えっ、えぇっ!?」
しかし、状況を認識したら認識したで混乱してしまったのか、僕の顔や周囲の状況・自分の状態を確認するかのように忙しなく視線を巡らせ始めてしまった。
その表情に嫌悪のようなものはなく、単に驚いているだけというか、むしろどこか期待するような色があることが、僕にとっては救いだ。
「……ごめんなさい、アイネさん。必ず、お話しますので。今は――」
「
僕がアイネさんに向かって困ったような微笑みを向けていると、騎士団員をまとめたクレアさんが駆けつけてきた。
もうこの場に隠す必要がある相手がいなくなったからか、呼び方も変わっている。
その視線は衝撃から立ち直ろうとしている闇将・バエルと、彼(?)と共に突如出現した闇族に向けられていた。
「ええ、あれは闇将です。バエルと名乗っていましたが、あれは大戦でも見たことがない闇将ですね」
「まさか、闇王が斃されたのに、新たな闇将が出現したというのですかっ!?」
「わかりません。ですが、このまま逃すわけにはいきません。それに……闇の獣を尖兵としてその後に戦力を投入、そして相手の切り札を引き寄せてからの後方奇襲……今回の騒動のやり口に、どうも覚えがありませんか? この場所に現れたというのは、なんとも皮肉ですが」
「戦力の分割……奇襲……この場所……まさかっ!? 『オリエント奇襲戦』で西に派遣した連合軍が壊滅した原因は……」
「ただの憶測ですが、闇族が戦術的な行動を取っていることからすると、我々が認知していなかったあのバエルという闇将が糸を引いていたとしてもおかしくはないですね」
それに……クレアさんには言えないが、僕にはアイツが急に現れた原因にも心当たりがあった。
出現した時に感じたものを思い出すと、奴らは、影から姿を現したようだった。
まるで、ツバキさんたち影猫族のように……。
彼女たちは、望んであの力を手に入れたわけではない。
東方で『ザガン』という闇将によって、何世代にも渡る長い年月もの間支配され、口にするのもおぞましいような『実験』が繰り返されてきた結果、その性質が光から闇へ近づいてしまった故に身についた能力だ。その能力は生まれてくる子供……ツバキさんの世代にまで、受け継がれてしまっている。
ザガンは既に僕が倒しているが、もし、バエルがザガンと繋がりがあって『実験成果』を得てその力を身に着けていたとすれば……あの日、分かれて西に向かった群の中に闇将が混じっていることに誰も気づかなかったことにも納得がいく。
『……やってくれましたねぇ。その忌々しい光……まさか、我らが闇王様を斃した星導者が、こんなところにいるとは……』
……もしそうだとするなら、奴は、アポロの仇だ。
今まで暗躍を気取っていたのかもしれないが、闇に潜る力があろうと、必ずここで倒す。
「あ、あのっ……ルナさん? グランツ様? そのっ、お二人は一体何を……」
僕たちのやり取りを抱えられたまま見ていたアイネさんだったが、ますます混乱した様子で僕とアイネさんの顔に視線を巡らせている。
僕は一度ぎゅっと彼女を抱く腕に力を込め、その温もりを胸に焼き付けてから、そっと彼女を下ろして立たせた。
「ぁぅ……ルナさん……」
「大丈夫ですか? ……クレアさん、彼女を頼みます」
顔を赤くしてのぼせたようにヨロヨロと立った可愛らしいアイネさんに微笑みかけてから、慌てて表情を引き締めてクレアさんに彼女を預けた。
「星導者様、彼女は部下に! 私もお供いたしますっ!」
「いえ、クレアさんはみなさんと共に、しっかり彼女を守っていてください。私の、大切な女性です」
「ル、ルナさんっ!?」
「ほう……! それはなんとも目出度い! ゴ、ゴホンッ。いやしかし……」
僕が迷いなく口にしたことに、アイネさんはますます赤くなり、その肩に手を乗せたクレアさんの顔には喜色が浮かんだ。
が、クレアさんは昔から僕を一人で戦わせることを避けたがるからか、咳払いをすると難色を示した。
優しい師匠でお姉さんだ。
しかし、そういうわけにもいかない。
「気持ちは嬉しいですが、クレアさんも他のみなさんも、通常の輝光術の力では特殊な闇の障壁を纏う闇将に対して、傷一つ付けることはできません」
「グッ……それはそうですが……」
だからこそ、歴史の中で闇将が登場した際には一気に人類は追い詰められたのだ。
特殊な儀式で聖光を宿した武器を作り出し、闇将を倒した例があったという話もあるが……それはともかく。
もし通常の攻撃が効くとしても、アポロの仇である可能性が高いアイツは、誰にも譲る気がないけれど。
『ぐおッ……これが話に聞いていた、星導者の光のプレッシャー……!?』
僕は動き出そうとしていたバエルを他の闇族ごと月鏡眼で睨みつけて釘付けにすると、奴を他の人に譲る気がないもうひとつの個人的な理由をクレアさんに告げた。
「それに……好きな女の子の前でカッコつけたくなるのが、男ってものですよ」
「お、オトコ!? って……ちょ、ちょっとまっ――――むぐぅ!?」
「失礼。今いいところですので、お静かに願います、ロゼ―リア様。ふふっ……時々あの頃の殿下が顔を出しますね。あいや、ご無礼いたしました」
驚き続けるアイネさんの様子に収集がつかないと思ったのか、クレアさんはその口を塞いでしまった。
アイネさんに対する呼び方が変わっているのは……僕の相手としてそういう風に認識してくれたからだろう。
恥ずかしいような、嬉しいような。
「委細承知いたしました。この御方は我々が責任を持ってお守りいたします。あぁ、星導者様のご勇姿をご覧いただけるよう、目まで隠したりしませんのでご安心ください」
「あはは……お願いしますね」
「ははっ! どうぞ、ご存分に」
「はい。では――
「むぐぅ――っ!?」
普通なら闇将を前にするだけで死を覚悟し絶望するというのに、場にそぐわないほど明るいやり取りで和んでしまいそうになったが……僕は改めて振り返ると、滅ぼすべき仇敵に向かって一歩を踏み出す。
そして、その聖唱を口にし始めた。
「――幾千億の
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あとがき
お読みいただき、ありがとうございます。
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次回、「鏡花水月~星を導くもの~」
世界に、二人に――光在れ。
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