039.初めてのおでかけ~冒険者ギルドと闇の噂~


 休日ということもあり賑やかな王都の街並み。

 アイネさんが手配してくれた侯爵家の豪華な馬車で、僕たちは中央区に近い東区の高級店街を回っていた。


「それでは皆様、次の目的地までごゆるりとお寛ぎください」


「ええ、頼むわね」


「かしこまりました、お嬢様」


 執事服をピシッと着こなした御者の人が馬車に乗り込んだ僕たちにキレイにお辞儀をして扉が閉まる。すぐに馬車が動き出し、思ったより少ない振動が向かい合って座る僕たちを揺らした。


 ちなみに馬車と言っているが、引いているのは『前の記憶』にある馬とは少し違う。

 この世界の馬はみんな白毛で、たてがみがあるのは馬と同じだが頭に光結晶でできた角がある。翼はないがユニコーンのような外見というと分かりやすいだろうか。角の大きさや本数で良い馬かどうかが決まるらしい。


「うん、これでだいたい揃ったわね。この辺りの店なら大丈夫だとは思うけど、ミリリアがいてくれるとちゃんとしたものを選べて助かるわ」


「アタシはアイねぇが選んだものを見直しただけッスよ。侯爵家のお嬢様に粗悪品をつかませるような店は高級店なんてやってないッス」


「それもそうだけど、せっかくならルナさんにも快適に過ごしてほしいもの」


 僕たちは既にいくつかのお店を回り、校外実習で外泊するにあたって僕が気づかないような、女の子特有の旅グッズや着替えを揃えていた。

 訪れたお店では、さすが侯爵家令嬢というか、お店の人の接客態度がこれ以上なく丁寧で、一緒にいる僕なんかは恐縮してしまうくらいだったけど、アイネさんは普通に対応していたし、ミリリアさんはそんなアイネさんの様子には慣れているのか普通にしていた。


「お二人共、ありがとうございます。旅は慣れているつもりだったのですが……こんなに便利なものがあったのですね」


 2年間の旅では、僕が大抵のことは自分でなんとかしてしまっていたというのと、あまり旅の快適さというのは意識していなかったからかもしれないけれど、先程の店で見せてもらった様々な商品は、ものづくりに携わっている人間としても、人の工夫というのが見られてとてもおもしろかった。


 特にこの、折り方を工夫すると手のひらサイズまで小さくなる毛布なんかは、冷えやすい女性にとっては気軽に携帯できる良いものだ。先に知っていればツバキさんや『忍華衆』のみんなに配っていただろう。


「ふふっ、それならよかったわ。ついいろいろ買ってしまったけど、余計なお世話だったらどうしようかと思ってたのよ」


「いえそんな……そういえば、今はこうして侯爵家の方が来てくださっていますけれど、寮にはアイネさんの使用人の方はいらっしゃらないのですか?」


「ええ。お父さまには言ってお断りしたのよ。自分のことくらい、自分でできるようになりたかったもの」


 うっ……なんかごめんなさい。

 ツバキさん、いつもありがとうございます……。


「そういえば中等部の頃はいたッスよね。ノアさん、元気にしてるッスか?」


「元気よ。今は本家で働いてもらっているわ。彼女には私の我儘で悪いことをしたけれど、次代のメイド長だと言われるくらい頑張ってるみたい」


 ノアさんというのが、元々寮でアイネさんの使用人として働いていたメイドさんらしい。2人の話を聞いていると、やはりアイネさんはお嬢様なんだな……なんて思ってしまうけれど、先日ご馳走になった紅茶も熟練者レベルの出来栄えだったし、部屋もきれいに片付いていた。言葉通り自分のことは自分でできるようになっている。

 きっと、そんなところでも彼女はがんばり屋さんなのだろう。


「……ふふ」


「何をそんな慈母のごとき優しい目でアイねぇを見てるんスか、ルナお母さん?」


 お、おかっ……!?


「わ、私……そんな顔してましたか?」


「母娘『ぷれい』……ふむ、悪くないのじゃ」


「クロは調子悪いんだから大人しく引っ込んでなよ」


「まぁまぁルナっち。きっとアイねぇが女子力を高めるために頑張ってる姿を想像したってところじゃないッスかね。実際、アイねぇはそうだったッスけど」


「そ、その話はいいわよ。そうだっ、せっかく街に出てきたのだし、ルナさんは何か用事はないの? 言ってもらえればどこでも付き合うわよ」


 アイネさんは恥ずかしそうにしながら話を切り替えるようにそう言った。

 僕個人としては気になる部分もあるけれど、『頑張った』の中には失敗談もあるだろうから、ここはアイネさんの話に乗っておくことにする。


「そうですね、実は空いた時間でお願いしようと思っていたのですが、冒険者ギルドに寄りたくて」


「冒険者ギルド……ッスか? ルナっちが?」


「あそこは素行が良くない殿方が多いから近づかないようにって、ノアから聞いたことがあったけれど……何か用事があるのかしら?」


 僕が『冒険者ギルド』の名前を出した途端、アイネさんもミリリアさんも怪訝そうな表情になってしまった。


 冒険者は昔から世の中に必要とされる職業で、畑を荒らし人を襲う闇の獣を狩ったり、雑事をこなしたり、大戦では傭兵として活躍したりと、人々の生活に密着してきた。

 だがその冒険者というのは、残念ながらいわゆる『カタギ』の仕事ではないと見なされている。登録すれば誰でもなることができて、報酬次第で何でもする荒くれ者の集団というのが一般的な認識だ。実際のところ、厳つい面構えのオジサマ方が多いのも事実だったりする。

 最近ではその認識も少し改善されてきたらしいけれど……それはともかく。


 そんな場所に商会の娘で学院生の『ルナリア』が用事があると言ったので、2人とも何事かと友人として心配してくれているのだろう。

 僕はその気遣いを嬉しく思いつつ、2人を安心させようとポーチから小さな便箋を取り出してみせた。


「これを、お父さまにお送りしようと思いまして」


「それは……手紙かしら?」


「ええ、そうです」


 『ルナリアのお父さま』、つまりは『月猫商会』のゴルドさん宛だ。

 学院に入る前にも送っていたけれど、『忍華衆』が集めてくれた情報や僕が学院で作ってしまった『設定』などをちゃんと共有しておかないと、彼らが王都に来た時に齟齬が出たり商会としての行動に遅れが出てしまう。

 編入してからは学院の外に出られなかったので、2人に付き合わせてしまうのは悪いけれど、今日のこの機会に送っておこうと思ったのだ。


 いずれ何らかの遠距離通信手段を作れれば……とは思っているけれど、それはゴルドさんと直接相談してからのほうがいいだろう。


「およ、手紙ならわざわざ冒険者に任せなくても、ルナっちなら商会のツテで送れるんじゃないッスかね?」


「そうですね……ただ、父の教えで『商売人は情報が命だからその伝達は確実に』というようなものがありまして、念のため商会のルートで1通、冒険者の方へ依頼してもう1通送るようにしているんです」


 実際には『お姫ぃさん、商人あきんどにとっては情報っちゅうんは命ほど大事なものや。命を守るのに、やりすぎっちゅうもんはありまへんやろ?』って言ってた気がするけど。

 間違ってはいないはずだし、これを2人に伝えたところで『設定』に影響はないからいいかな。


「へぇ……それでルナさんは、お父さまのお言いつけをちゃんと守っているってことなのね」


「ウチの親父も似たようなことを言ってた気がするッス。耳タコだったんで聞き流してたッスけど」


「貴女はもうちょっと……まぁいいわ。ねぇルナさん。せっかくだから私もついていってもいいかしら? 冒険者ギルドは話に聞いたことがあるだけで入ったことがないから、少しだけ興味があるわ。ちゃんと自分の目で見ておくことも大事よね」


「あ! それならアタシも行くッス!」


「え、別に構いませんが……」


 あまり冒険者に良い印象をもっていないみたいだったから、馬車で待っててもらおうと思っていたけれど、興味があるというのに断るのもおかしいかと思い、僕は肯いた。

 ちょっと心配事もあるけど……。


「じゃあ決まりね。聞いていたかしら? 冒険者ギルドに寄ってちょうだい」


「かしこまりました、お嬢様」


 アイネさんが背後の御者席に声をかけると、すぐに執事さんから了解の声が返ってきて、しばらくすると馬車が止まり扉が開かれる。


「とうっッス!」


「ミリリア! いくら今日はスカートじゃないからってもう少しお淑やかに下りなさいよっ」


「あはは……じゃあ執事さん、すみませんがウチのクロをお願いします」


「かしこまりました、ホワイライト様。お嬢様をお願いいたします」


「はい、お任せください」


 ミリリアさん、アイネさん、僕の順番で馬車を降りると、目の前には『冒険者ギルド 王都センツステル支部』という看板が掲げられた大きな建物があった。


「おい、あれ……」


「あぁ、あの馬車の紋章、貴族様だぜ……しかも侯爵家だ」


 『ここが冒険者のハウスッスね!』と妙にはしゃぐミリリアさんをアイネさんが窘めているのはいつもの光景だけれど、そんな僕たちを見た周囲の人々がざわつき始めた。


「女の子ばっかりだな……どの子が侯爵令嬢だ?」


「俺に聞くなよ……あの白髪の娘か銀髪の娘じゃないか? どっちもすげー美人だし」


「姉妹なのか? 似たような服着てるよな?」


「俺が知るかよ。なぁ、もしかしてあの娘ら、ギルドに行くつもりか? 大丈夫かよ」


 うーん、2人は気づいていないのか、もしくは気にしていないだけかもしれないけれど、どうも注目されてしまっているようだ。

 馬車に乗っていたお陰で道中はあまり騒ぎになることはなかったが、美人でお嬢様なアイネさんは男たちの注目の的になりやすいのだろう。

 ……なぜだかちょっと不愉快だ。僕はさり気なく位置を変えて、アイネさんを視線から隠した。


 ちなみに、アイネさんの私服は僕と同じような清楚なお嬢様といった風だ。

 僕と同じようなというか、僕の服がアイネさんを見たツバキさんによって似せられているのだと思う。こうして改めて見ていると、僕の頭に『色違いのペアルック』という言葉が思い浮かんだけど、なんだか顔が熱くなりそうなので気にしないことにした。


 ミリリアさんは大きめのシャツにショートパンツという装いで、元気いっぱいの彼女のイメージに合っている。


 それはともかく。侯爵家の馬車から出てきた僕たちがギルドの前を塞ぐ形になってしまっているので、余計に注目されてしまっているのだろう。早く入ってしまった方がいい。


「では、参りましょうか」


「そうね」


 頷く2人を先導して、僕たちは木製の両開きの扉を開けて冒険者ギルドに足を踏み入れる。


 冒険者ギルドの建物の作りはどこの支部でもさほど変わりはない。

 1階にいくつかの窓口がある受付があって、隅の方には依頼票が張り出される掲示板があり、もう昼に近いからか人の姿は少なかった。

 2階はお約束と言うかなんというか規模が小さな酒場になっていて――入り口が吹き抜けになっているので――酒を酌み交わす何組かの姿がここからでも見えた。


「ル、ルナさん……」


 僕が受付に向かって歩き出すと、アイネさんがどこか不安そうな声で僕の名前を呼びながら後ろに続いた。


「どうかしましたか?」


「い、いえその……ルナさんは平気なの?」


「何が……ああ」


 僕の服の裾を掴むアイネさんは、そういって周りを気にしていた。


 アイネさんと同じように周りを見ると、いかにも冒険者風貌のオジサマ方が、入り口から入ってきた僕らのことを見ている。

 いや、見ているというより観察している、もっというと睨んでいると言ったほうが良いかもしれない。

 普通の人から注目されるのは気にならないアイネさんも、言い方が悪いが男ばかりのゴロツキ共からの視線は怖いようだった。


「これはちょっと、びっくりッスね」


 ミリリアさんは普段どおりに見えるけれど、どこか落ち着きがなさそうにしている。


 僕はこの雰囲気に慣れてしまっていたため、2人を連れてきたらこうなるということに気が付かなかった。もっと別のことを心配していたし……。


「すみません、これは私の不注意でした」


「いえその……私達、歓迎されていないって雰囲気よね……」


「『ガキどもが何しに来やがったぁ!』って感じッスね」


「あはは……冒険者というのは命がかかっている仕事で、プライドが高い方も多いですからね。たまに度胸試しみたいな形で冷やかしに来る人もいるらしいですから、私達もそう思われているのではないしょうか」


「詳しいのね、ルナさん……」


「い、いえ。何度か利用してるくらいですので……堂々としていれば大丈夫です。こんな風に」


 僕は笑顔を作ると、こちらを見てくる彼らに軽く手を振ってみせる。


「フッ……」


「ヒュ~」


「なんだ、依頼か? 俺たちに任せとけ。お前さんみたいな美人の依頼なら大歓迎だ」


「ばっか、俺が先だ! ってかおめぇもライ姉さん推しだろ! あの娘も美人だが、ライ姉さんを推すという燃える男の誓いはどうしたっ!」


「おっと、ちげぇねぇなっ! ガハハハハッ!」


 すると、とたんに彼らの雰囲気は弛緩して馬鹿騒ぎを始めた。

 その様子を見ていたアイネさんとミリリアさんは呆気にとられている。


「え、えー、なんというか……愉快な殿方達ね」


「コメントが苦しいッスよアイねぇ……。でも、興味深い話をしてたッスね。おっちゃんたちが夢中になるような女の子の冒険者でもいるってことッスか?」


 ギクリ。


「なんだ、そっちの桃色の嬢ちゃんはギルドは初めてか?」


「はいッス! ミリリア・クーパーっていうッス!」


「おお、もしかしてあのクーパー商会のか。俺たちもいつも世話になってるぜ」


「おっ、それはどうも、まいどーッス!」


 高い社交性のおかげなのか、怖い相手ではないとわかったからなのか、ミリリアさんは強面のオジサマたちとすぐに打ち解けて話し始めてしまった。

 アイネさんも興味はあるのか、僕に隠れたままではあるけど聞き耳を立てている。


 僕が心配していた話の流れだ……。


「ガッハッハ! ノリがいい嬢ちゃんだな! いいぜ! 我らがライ姉さんについて、特別に教えてやるよ! オラ、受け取れよ売れない吟遊詩人! そのチップ分だけ嬢ちゃんたちに話してやんな!」


「おっちゃん、太っ腹ッスね! 売れない吟遊詩人さん、お願いするッスよ!」


「誰が売れない吟遊詩人だっ! ったく……ゴホンッ」


 あれよあれよという間に勝手に話は進んでしまい、1階の奥の席に座っていた細身の男性が脇においていたリュートのような弦楽器を手に取った。

 その手が楽器をひと撫ですると、ボロンという澄んだ音と、語り口調の男の声がギルドの酒場に響き始める。


『時は今より遡ること半年ほど、東方のとある国のとある村に、闇の厄災がやってきた。北よりあぶれた闇の獣、その数は千を超え、全てを飲み込まんとす。しかして彼の者、彗星の如く東より現れり。赤き髪をなびかせるその美貌、並び立つものなし。白き光を操るその力にて、闇を祓いて救いをもたらせり。人、その功を称え、冒険者の頂に封ず。ああ、去りし彼女の名はライブラ……。人は望む。かの者がまた、西の闇をも祓うことを。ああ麗しのライブラ、その名はライブラ……』


「へったくそー!」


「うるせー! もっとチップよこせー!」


 吟遊詩人さんの締めくくりにヤジが入ると、男たちはまた騒ぎ始めてしまった。


「ライブラ……? 冒険者にもすごい女性がいるってことかしら。……ルナさん? どうしたの?」


「は、はは……ナンデモアリマセン。受付にいきましょう……」


 僕は必死に笑顔を保ち、持っているポーチから手紙を取り出した。


 ――ポーチの奥に入っている冒険者カードを奥へ押し込み、絶対に見られないようにしながら。


「はいはーい! あらまぁ、女の子? 珍しい……あ、ご依頼ですね? 配達依頼ですか~。ここに記入をお願いします~」


 受付のベルを鳴らすと、奥から『受付嬢』といった感じの若い女性が出てきて、笑顔で応対してくれた。

 渡された紙に名前と届け先を記入すれば、受付は完了だ。


「はい、ありがと~。……え゛っ。し、失礼いたしました。それでは依頼票を作成いたしますので、少々お待ちください。依頼票をご確認いただき問題なければ、料金のお支払いをお願いします」


「わかりました」


 僕は早くこの場を出たい気持ちでいっぱいだったが、この手続の時間はどうすることもできない。


「すみませんアイネさん、もう少し時間がかかるのですが……アイネさん?」


 手続きを終えて振り返ると、先程まで後ろにいたアイネさんの姿はなく、ミリリアさんと一緒に依頼票が張り出された掲示板を見ているようだった。


「あ、ルナさん。ごめんなさい、冒険者の方々がどんな仕事をしているのか気になってしまって」


「いえ、こちらこそお待たせしてしまいすみません」


「くすっ、じゃあお互い様ね」


 そう言って掲示板に視線を戻したアイネさんに習い、僕も久しぶりに掲示板に並んだ依頼票を眺めていく。

 闇の獣の討伐依頼、引っ越しの手伝い、畑の手伝い、子供の遊び相手などなど、様々な依頼が並んでいるのは王都でも同じようだけど……。


 ちょっと、闇の獣の討伐依頼が多くないだろうか。


 『闇族の目撃情報あり、要調査』なんて依頼がBランク以上の指定で載っていることも気がかりだ。

 今の僕が何をするわけはないけれども、つい2年間の癖で様々な依頼票から色々と情報を読み取ってしまう。ひとうひとつは別々の出来事でも、根本は同じだったりするからだ。

 中央東部のあの村のことだって、最初はあんな大事になるとは思っていなかったし。


 しかし……先程の冒険者はやけに『ライブラ』のことに詳しいというか、心酔しているというか、そんな感じだった。

 吟遊詩人の詩にまでなっているのは恥ずかしかったなぁ……。


 そういえば、詩の最後に『西の闇』がどうとか言っていた気がする。『ライブラ』がそれに対応することを期待するような一節も。


 彼らには申し訳ないけれど、元々冒険者は旅の路銀を稼ぐために始めただけのことだったので、『ライブラ』の名前と顔で僕が再び世に出ることはないだろう。むしろこのまま忘れてください。


「あら、これは依頼票ではないわね。絵姿……かしら?」


「あ! これじゃないッスかね! さっきおっちゃんたちが話してたライブラって娘! 赤い髪ッスし!」


 ……なんですと?


 アイネさんの目線を追って見てみると、『若者よ、冒険者を目指せ!』というどこかで聞いたことがあるようなフレーズのキャッチコピーと共に、胸当てのような革鎧にホットパンツという姿の赤髪の女の子の絵姿があった。


 いつの間にこんなものを……。


「そうみたいね。この子、絵姿だからかもしれないけれど、すごく綺麗に描かれているわね。殿方達が憧れるのも分かるわ」


「およ? 脱ノーマルしたとたんに浮気ッスか?」


「ち、ちがうわよっ! 会ったこともない人に懸想するほど私は安い女じゃないわよっ」


「うんうん、アイねぇは一途ッスもんねぇ。ねぇルナっち?」


「はは……そうですね」


 実はその絵姿の人、貴女の目の前にいます。今も会ってます。


 ……なんてことは当然言えないので、話を振られた僕は曖昧に肯いて流した。


「ル、ルナさん……」


 あ、しまった。この流れで『そうですね』と同意してはそういう意味になってしまうのか。

 アイネさんの顔が赤くなったのを見てそう思い当たった。


「番号札6番のホワイライトさまー! 依頼票の確認をお願いしますー!」


 僕がどうしたものかと思っていると、受付からお姉さんが僕を呼ぶ声が聞こえた。様付けなのは、受付票に書いた名前で僕(ルナリア)が貴族だとわかったからだろう。

 コレ幸いにと、キャイキャイ話す2人から離れて受付に向かい、差し出された依頼票を確認する。うん、問題ない。

 僕は依頼表にサインをして手数料を上乗せした報酬を支払った。


「はい、確かに承りました。ご依頼の性質上、完了報告はいたしかねますので、ご了承ください」


「ええ。よろしくお願いします。あ、もしご存知でしたらでいいのですけど――」


 先程より腰が低くなり冷や汗を流しているのに気づかないふりをしてあげながら、僕はいくつか話をしてから受付を後にした。





――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価★3」をよろしくお願いいたします。

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次回、「初めてのおでかけ~スイーツな時間~」

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