019.輝光術実技の授業~更衣室でのお約束・その2~
「あの突き当りがSクラス専用の更衣室よ。あ、お手洗いはその手前ね。実は更衣室が用意されているのは各学年のSクラスだけなのよ。他のクラスだと教室で着替えるらしいわ。ロッカーのお陰である程度は仕切られているから四方八方から見られる心配もないし、ハンガーにかけておけるから制服がシワにならずに済むし、改めて考えるとありがたい話よね」
「そッスね~。鏡もあってある程度は私物も置いておけるッスから、お化粧直しもできるッス」
「それは良かったですね……」
教室棟2階の廊下を先導してくれる薔薇銀色とピンク色の後頭部を見ながら、僕は処刑台へ案内される罪人のような気分だった。
「(落ち着け僕……そう、改めて考えれば何を今更、着替え程度でこんなにドキドキしているんだ……今までもっとすごいものを見たこともあるし、してしまったこともあるじゃないか……)」
更衣室に近づくに連れ、上がってくる心拍数を抑えるために必死に自分に言い聞かせる。言い聞かせた内容は後で自己嫌悪に陥ること間違いなしだったけど。
「(そうだよ、アイネさんの話だと僕のロッカーは隅の方らしいし、そこでササっと着替えて出てくるぐらいなんてことな――)」
「ルナっち? どうしたッスか? 早く入るッスよ?」
「あっ、すみません。いま行きますっ」
どうやらいつの間にか到着して、アイネさんはもう先に入ってしまったようだ。
2つある出入り口の手前側の扉から顔を出すミリリアさんに促されて、僕は慌ててその後に続き――大きく揺れる大迫力の双丘を目の当たりにしてしまう。
「ん~……んしょ……っと。……? ホワイライトさん? どうかしたのですか?」
――ドクンッ!
今まさに、ブラウスの下に着ていたらしい薄手のキャミソール(というのだろうか?)を脱ぐところだったマリアナさんの姿を見て、瞬時に熱が溢れ出していくのを感じてしまった。
キャミソールを脱ぐということは、男物で例えるならシャツを脱ぐ動作と変わらない。つまりは下から手を入れて首と両腕を引っこ抜く必要がある。さて今回大双丘にチャレンジするキャミソールさんは、まずその胸の下部分に引っかかり、柔らかな大双丘を押し上げる。そしてなんとかそこを超えて紺色の大人なブラジャーを露わにした。キャミソールさんが奇跡の登頂を成し遂げると、押し上げられていた大双丘は重力で下に引かれ、しかし弾力で上に弾かれ……プルンプルンと大暴れだ。しかしキャミソールさんはまだ仕事を終えていない。キャミソールさんは『バンザイ』の体勢に移行したマリアナさんによって引き上げられるが、長い青髪が引っかかっているのかなかなか首を通過できない。その間「ん~」と言いながら本人的には必死なのか実は力がないのかプルプルとしているマリアナさんに合わせて、大双丘もプルプルする。そしてようやくスポンと首を通過したのに合わせて大双丘ももう一度プルン。
なぜかスローモーションのように感じてしまったこの間約5秒ほど。
更衣室に入って5秒も保たないとは……。
お姉ちゃん……昔からすごかったけどもっと成長したんだね……うぅ。
ロッカーは教室の席順と同じって話だから、後ろの入り口から入るとそりゃマリアナさんが一番近いのは当然だよね……。
熱が下腹部に下りきって『溜まって』しまい、冷静になった頭でそんな馬鹿なことを考えていると、更衣室の正面奥の方からアイネさんに手招きされた。
「ルナさん、大丈夫? ルナさんのロッカーはこっちよ」
「はひっ。しつれいしましゅ」
「?」
不思議そうな顔をするマリアナさんになんとか挨拶をして、そそくさと更衣室の中を進むが、教室よりも強くなっている甘い香りや、あちこちで目に入ってしまう多くの肌色と色とりどりの小さな布地が、冷めたばかりの頭にまた熱を入れていく。
「来たッスね。ルナっちはここ、アタシの隣ッス。んじゃまー、ちゃっちゃと着替えるッスよー」
「私が少し入口側にずれてミリリアと壁になるから、ルナさんは私達よりも奥で着替えていいわよ」
「わ、わかりました」
そう言って上着のボタンに手をかける2人から慌てて目をそらし、ご丁寧に『ルナリア・シール・ホワイライト』と札が入れられたロッカーの扉を開くと、横に通された棒にかけられたいくつかのハンガーと、畳まれた『訓練着』らしきものが鎮座していた。
僕は上下に分かれているらしいソレを手にして――――戦慄した。
「(こっ、これは……体操服? しかも下は……ブルマ!?)」
上は厚手だけど動きやすいような柔らかな白いシャツのような形で少しだけ丈が長く、例によって袖がない。これまたご丁寧に胸元に『ホワイライト』と名前が刺繍で入れられている。下は『これはパンツとどう違うんだ』と思ってしまうくらいの見事な朱色の三角形。
『前の記憶』と照らし合わせても、僕にはその『訓練着』がまさしく体操服にしか見えなかった。
この服装は、僕が今の姿になってから間違いなく一番の露出度になるだろう。『服なんて着れれば一緒』と言ったらクロとツバキさんに長々と説教されたことがあったけど、これはなぜだか少し恥ずかしい。
「大丈夫よルナさん。今ならちょうど、私達しかいないわ」
僕がその三角形を手に固まっている様子を、人前で着替えることを恥ずかしがって躊躇しているように勘違いしたのか(勘違いでもないけれど)、アイネさんが心配そうに声をかけてくれた。
「あ、はいっ。ありがとうございま――」
――ドクンッ
……心配そうな声をかけられて、慌てて振り返った僕は馬鹿だ。
「キレイ……」
そして思わず、そう言わずにはいられなかった。
振り返った先に当然居るアイネさんは、ちょうど制服を脱ぎ終わったところで、下着以外には一切身につけていない姿だった。
均整の取れたほっそりとしていながら女性らしい身体。長い手足。シミ1つ無い磨き上げられた白磁のような肌。肌の上を流れる薔薇銀の髪。そして純白の可愛らしい下着。
完成された大人の美とはちがう、完成されつつもどこか儚ささえ感じさせる少女のそれは、頭の先から爪先まで、ただただ美しいと思った。
「う……ルナさん、私もそこまで見つめられると恥ずかしいのだけれど……」
「まー、アイねぇのそのお肌とスタイルは同じオンナとしては羨ましい限りッスよねぇ。やっぱり良いモン食ってきたお嬢様は違うッスかねぇ?」
――ドクンッ
「(え……大きい……)」
一方、ミリリアさんはミリリアさんで『すごかった』。
身長で言えばミミティ先生と同じか少し高いくらい小柄なのに、その胸部には立派すぎる2つの膨らみが、髪と同じ桃色の下着の下で激しく主張していた。小柄な身体との対比で余計に大きく見える。どこに隠し持っていたのですかそれ。
『脱げばすごい』とか城の兵たちが下品な話をしているななんて影武者をしながら思ってたけど、まさか実在するとは……。
そんな2人を目の当たりにしてしまい、同時に別のものだと認識できる2つの熱が生まれて、下腹部に消えていった。
うぅ……もう、次の『アノ日』はダメかもしれない……。
「貴女こそ、何を食べたらそんな偏った成長の仕方をするのよ……」
「ニッシッシ。胸だけならアイねぇにも負けないッスからね! およ、ルナっちもロリ巨乳なミリリアちゃんの魅力にメロメロッスか?」
「下品よ、ミリリア……で、でもほら、ルナさんも早く脱いで。早くしないと間に合わなくなるわ。私達だけ脱いでるのもなんだか恥ずかしいし……」
「カーッ! こんな美少女に『あなたも早く脱いで』なんて言われてぇーッス! ねぇルナっち?」
「だから下品よっ! ほら、ルナさんも早く!」
「はい……」
もう、どうにでもなれ……。
更衣室に来てから既に3回も『溜まって』しまった僕は、若干投げやりな気持ちになりながら、自分の制服に手をかけた。
胸の下で留まっているボタンを外し、上着を脱いでハンガーにかける。スカートの横についているファスナーを下ろし、スカートが地面に落ちてしまわないように両手で持ちながら、右足、左足と順番に抜いてこれもハンガーにかける。
「お、おぉ……?」
ミリリアさんが何か言っている。なんだかものすごく見られている気がして気恥ずかしくなり、僕は目を閉じてなるべくそれを意識しないようにしながら、ブラウスのボタンを上から順番に外していく。
「ぅ……」
全部のボタンを外したら、前を開いて肩からずらし、右腕、左腕と抜いていく。ブラウスに絡まりそうになった髪を適当に跳ね上げ、ブラウスもハンガーにかけて振り返れば。
「「…………」」
2人の下着姿の少女が1人の下着姿の少女を見つめる謎空間の出来上がりだ。
う……これは、僕が本当の女の子じゃないとしても、結構恥ずかしいな……。
「「…………」」
2人とも時が止まったみたいに微動だにせず僕を見てるし……いや、中身は男な僕が何も知らない女の子の下着姿を見てしまっているんだ。これくらいは……バツとして耐えないと……申し訳……うぅ。やっぱり恥ずかしい。
「せ、せめて何か言ってください……」
頬を染めながらもこちらを見つめるのを止めない2人に、僕は顔が熱くなるのを感じて思わず顔をそらしてしまった。
「……アイねぇ」
「……なによ」
「……アイねぇには悪いッスけど、ホントに綺麗なものを見たときって、言葉がなくなるんスね……」
「……そうね……それは同感よ……気にすることはないわ……」
「……アイねぇ」
「……なによ」
「……アタシ、ノーマルじゃなくてもイケるかもって思えてきたッス……」
「……私はまだノーマルよ……一緒にしないで……」
「……も、もうゆるしてぇ……」
自分でも驚くくらい情けない声が出た気がする……。
「「ハッ!?」」
「ご、ごめんなさいルナさんっ! 泣かないでっ? ねっ? 壁になって守るとか言っておきながら、私達がこんなことじゃ不安だったわよね……?」
「ア、アイねぇ! アタシも悪かったッスけど、さっさと服を着たほうがルナっちのためにもなるッスよ!」
「そっ、そうね! さぁ、着ましょう着ましょう! ルナさんも! 私たちは向こう向いてるから!」
「はいぃ……」
下着姿を女の子に視姦されて恥ずかしがるという、中身男として恥ずかしいやら情けないやらの感情が渦を巻いて、僕は涙を……いや泣いてないもん。
あまりの出来事に僕の『ブルマな訓練着』に対する羞恥心はどこかへブッ飛んでいて、僕たちはいそいそとそれを着込むと、お互いが顔を赤くした何とも言えない空気感の中、訓練場へと向かうのであった。
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