第11話魔王

 皆さんご機嫌よう、魔王ルカじゃ。前回は邪魔が入ったが、今回は魔族領アビスを治めるわしの1日を紹介しよう。

 

 まず、わしが治めるアビスは四つの街からなる国じゃ。


 そのうち三つの街はそれぞれ幹部共が治めとる。魔族領の各幹部などは代々強い奴が務めるようになっておる。これはわしらの本能が自分より強い奴しか認めないと言うことじゃな。


 わしも先代の魔王を30年前に決闘で倒し、魔王になった。当然幹部も戦いに勝った奴がなる。


 戦いには最低限ルールがある。勝負は一対一で行うこと。勝った奴が正しい(闇討などもあり)。


 そんなこと言ったら誰が幹部になったかわからなくなると疑問に思う者たちもおるじゃろう。


 そこは心配ない。魔王と幹部には手の甲に紋章があり、紋章を持つものを倒した者が受け継ぐことになっておる。


 受け継ぐ際にどんな者がどの町の幹部を倒したのか、魔族全員の頭に情報が流れてくる。突然流れてくるもんじゃから、生まれたばかりの子たちは泣いてしまうがな。


 毎日幹部が入れ替わった時もあった。無論わしも毎日、部下や町民、身内から狙われておる。


 今日は朝ご飯を食べていたら妻のイザベラに食事用のナイフで

斬りかかられたわwww


「今日もちゃんと私より強い夫で居てくれていますね。

安心です 」と攻撃を凌ぐたびに妻からもらう愛のささやき。


 なぜ、妻から毎日狙われるのかというと。種族柄の本能の部分も強いが、イザベラと結婚する時に、「私より弱い者を夫とは認めません。なので、毎日あなたの命を狙います」と宣言されてしまったからでもある。


これは魔族の一種の愛情表現じゃな。魔族の女は自分の男が強くないと安心できないなぜなら、自身の家族(自身の群れ)を先頭に立ち守るのは。男の役目じゃから。妻に斬りかかれるのも夫の務めじゃ。


 惚気ではないが、攻撃をいなしお姫様抱っこをして受け止めた時の妻の照れた顔が可愛いんじゃ♡


 いかんいかん。話が脱線してしまったが、魔族とはこんな感じじゃ。


 今度は魔王の暮らしぶりについてじゃ。皆のイメージでは大きな城に住んで執事やメイドなどが世話をしてくれてって生活を思い浮かべると思うが現実は違う。


 魔王も幹部も、城というものはない。民と一緒に普通の民家に住んでいる。


 今日は我が邸宅にてわしの苦手なお仕事についてスケジュール確認。


「陛下……本日のご予定をお伝えします」


 スケジュール確認をしてくれるのは、わしのマネージャー的なことをやってくれている。実の弟、おまる。


 名前はあれじゃが、一応わしの秘書的なことをやれるだけの強さと有能さを持っておる。


「いつもすまんな……おまるよ」

「いえ、光栄の限りにございます。本日のご予定なのですが、番組の企画の1本撮りとなっております」

「そうか。了解した。最近では見てくれている人が増えたからか

番組の撮影が増えてきたな。わしたちが立ち上げた放送局もやっと軌道に乗ってきたな」

「そうですね。立ち上げてから5年経ちました。

あっという間でございましたね」


 この世界では6年前からTM(映すもの)という魔道具が一般に販売されている。


 販売されたはいいが映すだけで放送を提供する仕組みなどがなかった。


 暇だったわしとおまるは良い暇つぶしになると思い、放送局を立ち上げることにした。


 放送局の立ち上げには技能神や邪竜とそのお供たちも関わっておる。


 あやつらは日頃暴走してるだけかと思ったら、その研究は確かなもののようで既に仕組みは開発済みだったようだすぐに番組を作り放送することができた。


 わしらの立ち上げた放送局は名を「ブロードキャスト」という。

まあ、まんまの意味じゃな。


 現在ブロードキャストでは魔族領全域で放送の受信ができるようになったので、その日の出来事をまとめて放送する番組や魔王がいろんな職業を体験してみたなどの企画を放送しておる。


 今日は「魔王が〇〇の職業を体験してみた」の撮影日である。


「して、今日の体験する職業は何だ?」

「はい。本日の撮影はアイドルというものです」

「ほう……聞いたことがないな。そのアイドルだったか?それは何だ?」

「私も聞いた限りですのであまり詳しくはないのですが、アイドルとは自身以外のその他大勢を魅了する。そのようなお仕事だと聞いております 」

「うむ……もしかしたら他者に幻を見せて操るのかもしれんな。

多分、わしには効かないと思うが何があるかわからんから用心せねば 」

「魔王様はもう少しご自身の強さを誇って良いと思いますが?」

「慢心は最大の敵だぞ。我より強いものがこの世に存在する以上は

何があるかわからんのだから気は抜けないさ 」

「ふふふ……そうでしたね。兄上は昔からそうでしたね……ご無礼を。口調がついつい戻ってしまいました」

「良い。気にするな 」

「ありがとうございます……陛下。では、出立までに1時間ほどお時間がございますので、ごゆるりとお過ごしください。紅茶はお淹れ致しますか?」

「うむ。よろしく頼む」


 紅茶を淹れて退室してゆくおまる


「では、お時間になりましたらお声かけいたします」

「うむ」


 扉が閉まり、優雅に紅茶を飲んでいると、バキッと扉が吹き飛ぶと同時に風魔法により貫通力が強化された毒塗りナイフが飛んでくる。


 わしは、動くことはせず風魔法にて流れを変える。ナイフはあさっての方向に飛んでいった。


「本日もお見事です。魔王様。」

「おまるよ。少しは休ませてくれるのではなかったのか?」

「休めたではありませんか……10秒ほど 」

「そうなのだが・・・もう良いわ。わしは少し寝るぞ。昨日は50回も襲撃を受けて休めとらんからな」

「承知いたしました。では、お時間まで」


おまるが立ち去っていくのを確認し、土魔法にて扉を作り、入り口にはめ込む。更に、神以外には破られたことのない水魔法の結界を

わしの部屋の周囲に展開。防音の魔法も忘れずに。


「これでゆっくりと眠れるわな」


 執務室のソファーに横になり、目を瞑る。わしは、眠ることに関してだけは才能があるかもしれない。横になってから3秒で寝ることができるからじゃ。どこでも、枕があれば寝れるしの。


 ゆったりと眠ること1時間。目を覚ますと今日もいつもと同じ光景になっておった。 


「イザベラよ。いつも言っておるがの。わしの家の周囲は常に結界で覆っているとはいえ、「メテオ」を全力で放つやつがあるか!」


 そう…わしがいつも目を覚ますとわしの執務室を除いた家全てが吹き飛んでおるのだ。


 毎回寝る前は2階におった筈なのに起きるとリビングだった場所におる。


「毎日毎日家を吹き飛ばすのは流石に勘弁してほしいのだが……」

「良いではありませんか!毎日違う内装の家で過ごせて私は幸せでございます!」

「もうよいわ…今日はどんな家が良いのだ?」

「そうですね?今日は魔女さんのようなお庭の素敵なお家が良いですわ」

「わかった。・・・・こんな感じで良いか?」

「はい。さすが旦那様です。私のことをよくご理解してくれてますね。嬉しく思いますよ」とイザベラが可愛く微笑んでくれる。

「う、うむ。喜んでくれて何よりじゃ」


わしがイザベラと仲良く話したいると、おまるが空中魔道船で迎えにきてくれた。


「迎えが来たようだ。仕事に行ってくる」

「はい。行ってらっしゃませ旦那様」とほおに口づけをしてくれるイザベラ


「・・・・・行ってくる」


妻と結婚して20年になるが未だに慣れることのない妻からのキスに嬉しくもあるが恥ずかしさを覚えながら魔道船へ向かう。


魔道船の降板にはおまるがいたようで、バッチリとキスシーンを見られてしまった。


「魔王様。お待たせいたしました。では、参りましょう」

「うむ」

「今日もお熱いご様子で何よりでございます」

「一つ思うのだが、お前はいつもタイミングが良いな」

「はて?たまたまですよ 」

「そうか」

「それでは、魔王様お仕事になりますので、そろそろ緩んだお顔をお引き締め下さい。社員たちが見ておりますゆえ」

「そうであったな……そんなにかおがゆるんでおったか?」

「魔王様はご自身で思われているよりも正直ですから」

「う〜む。ポーカーフェイスとは難しいものだな」と会話をしながら船内に入ってゆく。

 

 わしらが乗り込んだのを確認し空中に浮かび上がる


「それでは、号令をお願いいたします 」

「うむ。皆のものいつもご苦労である。お主たちのおかげでブロードキャストもかなり大きくなってきとる。みなのおかげだ。本当にありがとう。今日(こんにち)もどうか無理はせず無事故で

安全第一でよろしく頼む 」


 わしは仕事の前には必ず社員たちに向かって感謝の言葉を伝えることにしている。なぜなら、感謝とは思って行動するのも良いが言葉で伝えなくては伝わらんことの方が多いからじゃ。


 今のブロードキャストがあるのは社員たちのおかげなのは絶対に間違いないからの。


 わしの挨拶が終わると船は目的地に向けて飛び立つ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る