第36話 敵は本能寺にあり
安土城での接待が終わるとすぐ、俺は備中高松城へと向かう事になった。
羽柴秀吉が毛利ナントカってヤツとの戦いに手こずっていたからだ。
いくら吸血鬼とは言え、『籠城』されたら手も足も出ない。
魔族の『力』を使うわけにはいかないからだ。
剣技や力勝負であれば秀吉に憑依すりゃ赤子の手を捻るより簡単に敵兵を倒すんだが…。
仕方なく、俺は安土城から坂本城へ行き、兵を整えてから丹波亀山城に向かっていた。
魔王信長は「俺は武田家やっつけた報告あるから、天皇御所に寄ってから行くよ。」と言って、ミケと100名足らずの側仕えを連れて、宿所である本能寺に向かっていた。
この頃の織田家家臣軍は、領土も広がり主要の家臣を全国各地に派遣して、まだ織田家に歯向かう勢力の制圧を目指していた。
要するに魔王信長のお守役の人手不足だったワケだ。
だが、まぁほら、「魔王」だからさ。
俺も吸血鬼も何も心配してなかったんだ。
さて、そんな夜も更け始めた亀山城内で、俺は「ぼぉー」っとキセルを蒸していた。
盗まれた旗印500枚は結局見つからず、なおかつ追加注文も間に合わなかったが、まぁ何とかなるだろう…それにしても『籠城』してんのか…めんどくせぇなぁ…と、そんな事を考えていた。
すると、魔王につけてあった『蝶』が緊急連絡してきた。
自分の見たものを勝手に俺に送信して来たのだ。
本能寺の周りには不審な人影。
しかもすでに包囲されている。
「なんだよ、魔王のヤツ誰かに狙われてんのか。まぁ、接近戦ならほっといても…。」
と、思った瞬間、脳内再生された映像には『明智の旗印』が映し出されていた。
「はぁ?!?!どういう事だよ?!」
と、俺はそう叫んだ。
そして事態を把握した。
『誰か』が『俺(明智光秀)』を『
本能寺のこの状況は、はたから見れば『明智光秀の謀反』だ。
旗印を盗んだのはこの為か!
俺をダシに使って誰かが『信長』を討とうってか?
まぁ、人間には無理なのは分かってるが、俺を嵌めたのは許せねぇ!
気に入らねぇ!
旗印盗んだ事も含めて、俺がとっ捕まえてやる!
「どこのどいつか知らねぇが、俺を敵に回したこと後悔させてやるよ!」
と、ドカドカと足音をたてながら馬屋へ向かっていると、『人間・明智光秀』の義理の息子、明智
「親父殿?どちらへ?」
と、聞いてきた。
俺は秀満を睨みつけて
「敵を討ちに行くんだよ!」
と、言うと秀満は首をかしげながら
「敵って…?どこに敵がいるんですか?」
と、また問う。
俺は勢いに任せて
「敵は本能寺にあり!!!」
と、叫んだ。
─その頃の本能寺。
猫ミケが本能寺の屋根で毛繕いをしていると、暗闇に紛れて動く人影が目に入った。
「…なんでありんしょう?」
猫ミケは目を凝らすと、すでに寺は不審な人影に包囲されている。
「これは…ちょっとヤバそうでありんすね。誰かが裏切ったんでありんしょうか?」
と、猫座りをした時、暗がりに揺らめく『明智の旗印』が目に写った。
「ヴィリー?いや、ヴィリーは今亀山城にいるはずでありんす。やっぱり何かおかしいでありんす。」
猫ミケは屋根から飛び降りて、魔王の部屋に飛び込んだ。
魔王はあくびをしながら、さっきまで『本因坊』と言う坊さんと遊んでいた囲碁を片付けていた。
昼は茶会で一流の茶器を見せびらかし、ご機嫌だった魔王だが、『本因坊』にコテンパンにされてご機嫌はナナメになっていた。
「魔王、大変でありんすよ。寺の周りを何者かが取り囲んでいるでありんす。」
と、猫ミケは魔王に言ったと同時に『透明人間・明智光秀』が
(魔王殿!明智の旗印を持った輩が寺を包囲しております!何者かが裏切ったようです!)
と、駆け込んできた。
魔王はそれでも動じずに
「所詮は人間。どうということはないが…、裏切ったのは誰かが大事だな。」
と、言う。
猫ミケは
「ヴィリーのバカでありんしょうか?」
と、言うと、光秀が
(そう言えば、先日ヴィリー殿にあった時「旗印が誰かに盗まれた」と、ご立腹でしたな。)
と、言ったら、魔王はニヤッと笑いながら
「あれがバカなのは知ってるが、『天界の命令』に叛く程の阿呆じゃねぇ。俺が数人の手数で
と、言う。
さすが、魔界を治めるだけのことはあると、感心した光秀だが、
(朝廷が魔王殿を討ちに来たと?しかし、天皇は魔王殿に『征夷大将軍』の職を与えたがってる程魔王殿を信頼しておりますぞ?!)
と、信じられないと言う表情だ。
しかし、魔王はまたあくびをしながら
「敵は天皇じゃねぇよ。天皇の腰巾着共だ。分かるか?公家共の仕業だよ。アイツ等はこの『織田信長』がやろうとしてる政治体制の改革が気に入らねぇんだよ。『公家はクビにする』って改革がな。」
と、言うと、のっそりと立ち上がって刀を腰に差した。
「ミケはそのまま隠れてろ。入ってきたら俺が何とかする。」
と、言うと、光秀が慌てて反論する。
(しかし!表には数百の者が…!いくら魔王殿でも!)
「是非に及ばず。皆殺しだ!ちょうどイライラしてたからな!」
と、生き生きと唇を舐めた。
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