第34話 魂のサイクル

 ─その時、わっちは魔王と吸血鬼と一緒に『徳川家康』と食事をしてたでありんす。

 家康がいる時は、なぜか膳にはいつも『納豆』があって、その日もわっちは羽柴秀吉(の着ぐるみを着ている吸血鬼)に文句を言ったんでありんす。


 「わっちの膳に納豆は乗せないでくりゃれって何度も言ってるじゃありんせんか。この『匂い』がダメなんでありんすよ。」

 猫のわっちにはこの『発酵された匂い』がどうも苦手でありんす。

 吸血鬼は笑いながら

 「蘭丸、何を猫みたいな事・・・・・・・言ってるの?猫は『腐った物は食べない』って言うけど、君は猫じゃないでしょ?」

 と、嫌味を言ってきたでありんす。

 そんな会話を聞いていた家康が

 「蘭丸君は納豆キライなの?」

 と、聞いてきたんでありんす。

 わっちの代わりに魔王が

 「コイツは『腐った匂い』がキライなんだよ。納豆、うめぇのにもったいねぇ。」

 と、口をモグモグさせながら言う。

 それを見た吸血鬼は

 「ちょっとま…信長様。行儀が悪いよ。」

 と、目くじらをたてた。

 家康はちょっと寂しそうに

 「そうなんだね。でも、大豆には『鬼を退ける力』があるから、別の料理でちゃんと食べた方がいいよ?」

 と、言ったでありんす。

 大豆に鬼とかちょっとおかしくなって

 「何で鬼と大豆なんでありんすか?おかしな事言うでありんすね?」

 と、言うと、家康は真面目な顔して

 「蘭丸君知らないの?『鬼』はね、人間に『病をばら撒くバケモノ』なんだよ?僕はお腹をすぐ壊すから、それを追い出す為に『納豆』を食べるんだよ。水戸納豆なんてめっちゃ美味しいじゃん。」

 家康は納豆をかき混ぜた。

 それを見た魔王は目を丸くして、吸血鬼は「やれやれ」と言う顔をしていたでありんす。

 そんな二人を他所に家康は続けて言う。

 「毎年『豆撒き』するのだってそうだよ。あれは年の初めに『無病息災』を祈願する物。「鬼は外」って言うだろう?だから、『病をばら撒く鬼を家から追い出す儀式』なんだよ。」

 わっちには『鬼』に心当たりがありんす。

 でも、わっちにはその『鬼』を復讐の相手にしたくなかったでありんす。

 「そ…そうなんでありんすね。分かったでありんすよ。大豆は食べるでありんすよ。納豆以外の大豆を。」

 と、言ったでありんすが、心の中は嵐だったでありんす。


 夜になってわっちは猫の姿で廻縁まわりえん高欄こうらんに乗って、風の匂いを嗅いでいたでありんす。

 そこに秀吉から出た吸血鬼が来たでありんす。

 「まさか、『納豆』でバレちゃうと思わなかったよ。家康も余計なことを言ってくれたね。」

 わっちは振り返りもせず

 「わっちは『鬼族』に一人心当たりがありんす。その『鬼』が幸を病にしたんでありんしょうか?」

 と、吸血鬼に聞いた。

 吸血鬼は首をかしげながら

 「ヴィリーのやってる店の事は知ってるよ。でも、その店の鬼がやったかどうかは僕は知らない。ヴィリーなら知ってるんだろうけど。」

 と、言われた。

 すると、その吸血鬼の後ろから

 「『鬼族』の仕事は、『病で魂を収穫』する事だ。収穫した魂を『地獄でリサイクル』して、『天国で転生』させる。『魂のサイクル』を早くするのが仕事なのさ。」

 と、声がして振り返ると魔王がいた。

 「魂のサイクル…?」

 わっちは首を傾げた。

 わっちの隣で吸血鬼は、高欄に肘をついて言う。

 「今の時代、沢山の人が戦で死んでるでしょ?簡単に人が『殺されてる』んだよ。でもね、『殺された人の魂』と『殺した人の魂』ってなかなか『転生』出来ないんだよ。」

 わっちは吸血鬼の顔を覗き込んで聞いた。

 「どうしてでありんすか?」

 吸血鬼は笑って

 「それはね?」

 と、言いかけたところで、魔王もわっちの隣で高欄に肘を置く。

 「『この世への未練』や『この世での罪』と言った『負の感情』があるからさ。それを『地獄』で洗い流すんだが、それには時間がかかるんだ。千年とも二千年とも言われるくらい長い。しかも、洗ってもダメな魂も多くてな。そういう魂は『魔族』の食料として食われて、転生出来なくなっちまうのさ。」

 魔王は月を見上げて言った。

 吸血鬼が今度は高欄に背中を当てて

 「この世って言うのは魂の数のバランスを保たないと、崩壊しちゃうんだよ。多すぎても少なすぎてもダメなんだ。沢山人が死んでるって事は、今はこの世の『魂の数が足りない』んだ。天国で転生する魂は、『魂の少ない世界』の『魂の少ない時代』に転生される。だからこそ『魂のサイクル』と『生産』を促さなくちゃならない。」

 と、人差し指を立てた。

 「そこで、重要なのが『鬼族の仕事』。『鬼の病で死んだ人の魂』は地獄でリサイクルする時間が短くて済むからね。」

 すると今まで月を見ていた魔王がわっちの頭を撫でながら

 「『鬼族』は病にする人を選ぶ。『鬼の病』と呼ばれてるんだが、『病』自体が意志を持ち『感染』した人間には『力』が宿る。『鬼の病』が『流行病』になるって事は、それだけ魂の数が少ないか、キレイな魂が多いって事だ。そして、キレイな魂は、リサイクル時間を短縮できる。『鬼の病』によって与えられた『力』はリサイクルで洗い流されることはなく『転生』する時、1度だけ継承されるんだ。」

 と、ニッコリ笑った(つもりでありんしょうが、わっちには威圧しか感じなかった。)

 「『ある力』?わっちたちみたいな『特殊能力』でありんすか?」

 と、わっちが聞くと今度は吸血鬼がニッコリ笑って

 「『魂を新しく生む力』さ。『魂の生産』は『人間界に住んでいた魂』にしか出来ないんだよ。だから、『鬼の病』に『選ばれた魂』は僕たちにとっては『創造神』にも値する。僕たち魔族にも魂があるし、神族にもある。でも、その『魂』はどこから来るのか。それは『人間界』から『転生した魂』。だからね、僕たちには『人間界不可侵条約』って言うものがあって、『人間界』を守ってるのさ。」

 何だか全てスッキリした気がしたでありんす。

 そして

 「幸は『鬼の病』に選ばれたんでありんしょうか…?キサラギ館の鬼族の…?」

 と、言う事だろうか?

 吸血鬼は

 「それは僕には分からない。ヴィリーなら知ってるかもねぇ?彼、ああ見えて『神族の重鎮』だから。」

 と、言ったかと思ったら

 「まぁ、こんだけ長々と説明させられたのもヴィリーのせいだから、これもヴィリーへの貸しにしとくってヴィリーに言っておいてね?」

 と、イタズラっぽい笑顔浮かべて言ったでありんす。

 「それでね?ミケ。当初の約束で『病をばら撒く種族見つける為』に『森蘭丸』になって貰ったわけだけどさぁ?」

 吸血鬼は何やらモジモジしながら言ってきた。

 「もう少し、続けてくれないかなぁ?『森蘭丸』を。」

 と、突然『契約更新』を申し出た。

 「何ででありんす?」

 わっちが首を傾げると、吸血鬼は

 「いやぁ…ね?君の前に代役して貰ってた『鬼族』がさぁ…『サボり魔』でさぁ?魔王と一緒になって仕事サボるんだよ…。だからね?優秀な君にもうちょっと付き合って欲しいんだよね。」

 と、言ってきた。

 わっちは少し考えて

 「そうでありんすねぇ。今度『魔界』に連れてってくれるなら、考えてやらんこともないでありんす。」

 と、言うと、吸血鬼はニッコリ笑って

 「それくらいなら構わないよ。君は元々『天界の住人』だし。」

 すると、魔王が

 「俺もアイツより猫ミケをモフモフできる方がいい!」

 と、デレた顔をしたのを見て、わっちは

 「…キモいでありんす。」

 と、ちょっとドン引きしたでありんす。

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