第27話 歴史の守護者たち

 ─俺は正座をさせられていた。


 その隣には魔王と、とばっちりの明智光秀もだ。

 延暦寺焼き討ちの時、俺の『人格』は吸血鬼に無理やり『天界あっち』に連れて行かれた為、『光秀の人格』は『光秀の体』に勝手に戻った。

 『魂』からの情報で『記憶』が伝達され、状況把握が容易だったから光秀が魔王を岐阜城へと連れて行ったのだ。

 そして、光秀と話をしていた『岐阜城にいる魔王の目の前』に天界から落とされた俺と吸血鬼が突如現れて…。

 後はお察しと言う事で。


 「と、言う訳で、魔王とヴィリーはあと10年は帰れないからね。僕は『魔界』の仕事もあるから行き来するけど、僕が留守の時はヴィリーが魔王をちゃんと監視してよ?今度失敗したら…。」

 吸血鬼はそこまで言うと俺の方を見て目を光らせる。

 「わ…分かったよ…。」

 と、俺は目を逸らした。

 「んで、人間、明智光秀君だっけ?」

 吸血鬼は書類をペラペラめくりながら言う。

 「君は…まぁホントなら正座させられるべきじゃないんだけど、ヴィリーと『同化』してたから同罪ね。君だって『ヴィリーの体に入ればゼウスに報告できた』んだから。あと、申し訳ないんだけど、他の人間に事情説明面倒くさいから、もう少しヴィリーに『体』貸してあげて。君自身は魔王に仕えて。人間界の事はある程度分かっているけど、それでも『人間界の歴史は人間界の者が作る』って言うのは破れないから『信長の性格を汲んで』君が処理してね。異論はないよね、もちろん。」

 と、吸血鬼は有無を言わせない。

 「あっ、はぁ…。」

 光秀は反論できずに素直に頷く。

 光秀…とばっちりでほんとに悪いな…と、ちょっと同情した。

 「んで、魔王だけど…、僕がこっちに『魔界』の仕事持ってくるからこっちで処理して。僕がいないからってサボったら…わかるね?」

 吸血鬼は魔王の胸ぐらを掴んでニコッと笑った。

 魔王はたじろぎながら

 「えっと…俺はあと何年魔界に帰れないんだ?」

 と聞くと、吸血鬼は

 「10年。」

 と即答した。

 それを聞いた魔王は吸血鬼の手を振り払って

 「はぁ?!10年?!ちょっと待てよ!それって10年も嫁にも会えないって事?テンション…下がる…。」

 魔王はガックリ肩を落とし

 「今年の夏休みは昆虫採集に付き合うって息子とも約束してんのに…。」

 と、続ける。

 そんな魔王を見た吸血鬼がニコッと笑って

 「そんなの君が居眠りして、寝ぼけて、『召喚』に応えたのが悪いよねぇ?まぁ、人間界こっちで10年だから天界あっちじゃ1ヶ月しか経ってないから、夏休みにはギリギリ間に合うんじゃない?知らないけど。」

 と、魔王の落とした肩をポンポンと叩いた。

 「10年も嫁にも息子にも会えない…。」

 それでも魔王は落ち込みを隠せない。


 ─コイツ…愛妻家で良いパパだからなぁ。


 俺も魔王の肩をポンポン叩きながら

 「せっかくだからおめぇも人間界の女と遊べばいいじゃねえか。」

 と、慰めたつもりが

 「お前と一緒にすんじゃねぇ。俺は嫁以外全く興味ない。」

 と、逆に凄まれた。

 「あの…質問なのですが…。」

 光秀が手を上げて口を挟んだ。

 まぁ、聞きたい事はたくさんあるだろう。

 『記憶』で状況の把握は出来ても、俺の『心情』や『気持ち』は記憶には残らないからな。

 「信長様は…どうなったんでしょうか?魔王殿の中にいるんでしょうか?」

 光秀は心配そうに問う。

 俺と魔王は顔を見合わせたが、吸血鬼は腕を組んでひと息ついてから答える。

 「まぁ、どうせ後でバレちゃうから言うけど、『魔王に吸収』されたんだよ。簡単に言うと魔王に『喰われた』。」

 光秀は肩を震わせて「信長様…!」と言いながら涙を必死に堪えた。

 「さっきも言ったけどね、これは君にも止める方法はあったのにそれをやらなかった。ヴィリーから全部話は聞いてたでしょ?」

 吸血鬼は冷たく言ったが、それは間違いではないと思っていた光秀は

 「理解しております…。そして、今の魔王殿が信長様で有る事も…。」

 と、頭で分かっているけど、心がついていかないと表情だった。

 「まぁね、すぐに理解しろって言っても人間には難しいよねぇ。人間の心は『フクザツ』だからね。」

 吸血鬼は慰めることなく淡々と続ける。

 「とにかく、信長が目指してた『平和な日本』の続きを君に目指してもらわなきゃいけないんだよ。僕の様に『影の支配者』としてさ。」

 吸血鬼は得意げに不気味に微笑んでいる。

 おめぇは確かに『魔界の影の支配者』だもんな。

 「他にも質問あるんでしょ?」

 吸血鬼は光秀に聞いた。

 光秀は涙を拭いて顔をあげる。

 「この国の未来を皆さんはご存知なのですか?」

 と、真剣な眼差しで聞いてくる。

 俺たちは顔を見合せて


 「「「知らん。」」」


 と、声を揃えて言った。

 吸血鬼がそのまま続ける。

 「それは『守秘義務』があるから『時の神』も口外できないんだよ。でも、今回『時の神』が怒ったのは『召喚を止めようとした事』を怒ったみたいだから、こうなる事は了承済みだったみたいだよ。」

 と、しれっとすごい事言ったぞ。コイツ。

 俺はビックリして

 「ちょっと待て!じゃ、ジジィ達が怒られた原因って俺が召喚阻止失敗した事じゃなくて、召喚そのものを止めようとした『ジジィ』のせいって事かよ?!」

 と、吸血鬼を問い詰めると、吸血鬼はいけしゃあしゃあと

 「そうだよ?ゼウス達が怒られたのは君のせいじゃないけど、ガバガバな仕事ぶりは君の落ち度なのは変わらないよね?」

 と、言い放った。

 「うっ…。」

 俺は言葉に詰まる。

 ホント、コイツに口喧嘩で勝てる気がしねぇが、

 「てこたぁ、『俺たちが歴史に介入するのも想定済み』って事だよな?なら、割と自由に人間界で動けるって事か?」

 裏を返せばこう言う事だよな。

 吸血鬼がニッコリして

 「ヴィリーの割には察しが良いじゃないか。そう言う事だよ。時の神が何考えてるか、何が見えたのかは知らないけど、僕たちが人間界で『何かする』のも含めた『歴史』らしいから、僕たちが『ここに居る事』が『歴史の保護』になるわけだね。」

 すると

 「なるほど、じゃ、『力』を使わなけりゃそこまで気にする事はないって事か。なるほど!」

 と、凹んでいた魔王が急にやる気を出した。

 「でも、『支配』とか考えないでよ?後で面倒くさいからさ。これ以上仕事増やされるのはゴメンだよ。」

 と、吸血鬼は魔王を指差して言ったが、魔王は何やら色々妄想している。

 「とりあえず、豪華な城を建てて民に俺はすげぇ!と思わせる!そして、民が暮らしやすいように税制を変えて、金回りを良くする!そうすれば俺は民に慕われる事間違い無し!」

 魔王はこう言う自分の力を誇示するのが好きなヤツだ。

 だからこそ、なんだかんだ言って『魔界』治められてる訳だけど。

 呆れ顔をした吸血鬼は

 「まぁ、好きにしてよ。城建てるにしても、税制変えるにしても、法変えるにしても、ちゃんと光秀と相談してくれればいいよ。」

 書類をめくりながら言う。

 「魔王殿!それはとても良いお考えです!民の為にもなります!」

 と、光秀もノリノリだ。

 「だろう?俺の部屋は城のてっぺんに建てれば、俺を民が見上げるんだぜ!そんでもって、金ピカででっかいのを建てる!」

 魔王は拳を握って目をキラキラさせている。

 『この国を統一して平和な国を作りたい』と思っていた信長の後釜がこの魔王。

 ホント、ハマり役だよ、おめぇ。

 と、思った俺は思わず微笑んだ。

 「笑ってる場合じゃないよ、ヴィリー?君にもやってもらう事あるからね?」

 吸血鬼が束になった書類の1ページを開いて俺に見せた。

 「君にはここ、坂本に城を建てて。」

 書類に書かれた地図の中の琵琶湖の畔を指差しながら吸血鬼が言う。

 「君はここから魔王を監視してね?『蝶』の範囲内だし、いざとなれば『本体召喚』ですぐ飛んでいけるでしょ?君たち一緒にいるとすぐ喧嘩するわ仕事サボるわでこっちの予定狂うから。じゃ、僕からの説明はそんなとこだよ。とりあえず、僕は『魔界』一度に帰って仕事してくるから、君たち今度こそちゃんとやってよね?」

 と、言って吸血鬼は置かれた鏡に向かって手を翳した。

 そして

 「あ、言い忘れてたけど、魔王。君は『魔族』なんだから、『邪気』に当てられない様に気をつけてよね。」

 と言うと、光りだした鏡の中に吸い込まれていった。

 そして、俺たち3人が正座を解いた時、足が痺れて動けなくなったのは言うまでもない。

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