第23話 比叡山焼き討ち

 確か『同化』してから1年程経った頃だった。

 比叡山延暦寺の悪い噂が流れてきたのは。

 寺の僧侶、特に高僧と言うレベルの高い僧侶たちが、夜な夜な山から降りてきて悪行を行っていたり、女人禁制の寺に買った女を集めたり、僧侶とは思えない行いをしている、と言うものだった。

 しかも、僧兵を集めていて、いつ織田家に牙を剥いてもおかしくない状況だった。

 信長は家臣たちを集めてついに重い腰をあげた。

 「延暦寺を攻める。」

 と、信長が言うと、家臣たちの反応は半々だった。

 賛成と反対で半々だったのだ。

 俺は

 「攻めてどうする?あそこには修行僧や小僧も居るんだろう?」

 と、言うと、信長は不思議そうな顔をして

 「何を言っておる?延暦寺攻めは光秀、そなたの提案であろう?」

 と、言われて俺は焦った。

 (おい、光秀?!そーなのか?!)

 と、心で言うと、『見えない存在』の光秀が

 (そうです。あそこは今や包囲網の中心で、浅井・朝倉軍の傘下。僧兵も集まっているので。殿はずっと反対されていたんです。)

 と、俺の隣で言った。

 (は?!聞いてねぇよ?!)

 俺は頭を掻いた。

 (延暦寺を攻めれば、今も抵抗している石山本願寺への抑制にもなる故…。)

 と、光秀は言う。

 確かに戦略的にはアリだが、この国は『仏様』を信仰する民族だ。

 寺を攻めれば『信仰している民』も敵に回すことになる。

 …等と考えていると、信長が俺を睨んで言った。

 「そなた、本当に光秀か?」

 俺は驚いた。

 確かに俺は光秀じゃねぇが、洗脳が解けるけもねぇからだ。

 今もこの城のそこら中に『蝶』が飛びかっている。

 「あ…当たり前だろ。」

 苦し紛れに答えた俺に、信長のそばで控えていた『森蘭丸』が俺に槍を向けた。

 「蘭丸の言う通りのようじゃな。光秀に何か別の者が憑いている。」

 「?!」

 俺は焦る。

 (バレるはずが無いに、どういう事だ?!)

 『本物の光秀』は誰にも見えないし、『洗脳』は効いている。

 他の家臣たちの反応を見る限り、疑っているのは『森蘭丸』と『信長』だけだからだ。

 蘭丸は俺に槍を構えたまま近付いて

 「あなたの周りに『蝶』が付き纏う様になってから、あなたの隣に何者かが透けて見えるようになった。あなたはその者にとり憑かれている。」

 と、言う。

 俺は暴れる訳にも行かず、槍を前に後退りした。

 (コイツ、『光秀』が見えていて俺が『光秀』にとり憑かれて操られてると思っているのか。)

 バレているわけではないと気付いて俺は胸を撫でおろしたが、ある意味この状況を脱却できる名案など浮かぶわけもない。

 このまま敵対して『監視』できなくなるのは困る。

 だからやっぱり暴れる訳には行かない。(2回目)

 (…あ!そう言えば、蘭丸もたまに怨霊たちが見えると言っていた…!)

 と、光秀が言う。

 (たまにしかいないはずの『勘の鋭いヤツ』がここにもいたって事かよ!めんどくせぇな!)

 俺は『見えない光秀』を見た。

 とにかくこの『めんどくせぇ状況』から脱却したいが俺は暴れるワケにもいかない(3回目)からグッと我慢した。

 すると、信長が蘭丸の肩に手を置いて

 「まぁ、待て。今は内輪で揉めている場合ではない。それにとり憑かれておるのであれば、調伏してもらえばいいだけの事。とりあえず光秀を牢に入れておけ。」

 と、言うと、俺は家臣数名に取り囲まれた。

 「おい!放しやがれ!」

 数名に抑えられて俺は身動きが取れなくなりもがいた。

 本来の『力』があれば、こんな奴ら吹き飛ばせるんだが今は『光秀の体』だわ『力の制限』もかかっているせいでどうする事もできねぇ。

 それに、今は暴れる訳には行かない(4回目)。

 「御免!」

 と、後ろから声が聞こえたと同時に


 ─ポカッ!


 と、誰かに後頭部を殴られ─そのまま目の前が真っ暗になって─


 「…どの!ヴィリー殿!」

 と、ぼんやりと誰かの声で気が付いた。

 俺は体を起こそうとしたが、頭に激痛が走り思わず

 「いってぇなぁ…、本来の『俺』ならまだしも、今はひ弱な『人間』と同じなんだぞ…。」

 と、頭を擦りながらゆっくりと体を起こす。

 「ヴィリー殿!良かった!目覚めたのですね!」

 半透明の光秀がこっちに向かって叫んでいる。

 「あぁ…光秀か…。ここは…?」

 と、頭を押さえながらあぐらをかいた。

 「ヴィリー殿!何を言ってるんですか?あなたは今牢に閉じ込められてて…!」

 光秀にそう言われてハッとした。

 「そうだったな。本来の『力』さえありゃあんな奴ら…。」

 と、ボヤきながら頭を振った。

 そして周りを見回すと、木製の檻で囲まれている。

 「そんな悠長なことを言ってる場合ではありませぬ!殿はこの『延暦寺攻め』で『魔王召喚の儀』を実行するつもりです!早くしないと!」

 光秀の話を聞いて俺は驚く。

 「何だって?!召喚の方法を見つけてたって事か?マズイ!今、信長はどうしてる?!」

 「殿は半日ほど前ここ、坂本を出ました。」

 光秀が答える。

 半日か…。

 信長は兵を率いているはずだから馬で追えばギリ間に合うか…?

 「考えるのは後だな。とりあえずここを出ねぇとな。」

 俺はとりあえずここを出ることにした。

 俺は手のひらを握り、そして手を開く。

 光が手のひらから生まれ、光の中からは『日本刀』が現れた。

 「ヴィリー殿、流石に刀でこの檻は壊せませぬぞ?私は物体に触れられません!どうやってここを出るおつもりですか?」

 光秀は心配そうに慌てている。

 「この刀は天界から『物理移動』させたモンだ。人間界で作られたものじゃねぇ。この刀自体に『力』が宿ってんだよ。」

 俺は刀を抜いて大きく振りかざし、体を捻らせて檻を切った。

 刀は風を纏い、刀身の斬撃と風の斬撃で木製の檻は切り刻まれた。

 「これで良し。」

 俺が牢を出ると、物音に気付いた番兵が2人「何事だ?!」と叫びながら現れた。

 「ちっ…急いでんのにめんどくせぇな!」

 俺は『蝶』を召喚して「眠れ」と命じると、蝶の鱗粉が撒き散らされると、番兵たちは崩れるように眠り始めた。

 その様をじっと見ていた光秀は

 「ヴィリー殿は本当に神なのですな?」

 と、目を見張っていた。

 俺はちょっとムッとして

 「何だよ?信じてなかったのかよ?」

 と、言うと

 「いや…神族でもある方が『柴田勝家』殿に殴られて気を失って投獄されるのか?と、ちょっと不安になりまして…。」

 俺は「うっ…」と、言葉に詰まる。

 「そ…それは、俺が『明智光秀って言う設定』だからだ!とりあえすまその話は後だ。」

 と、はぐらかす。

 そして、

 「光秀、おめぇさんはここで待ってろ。もし本当に『魔王召喚』をしようとしてんなら、嫌なものを見る事になる。」

 召喚を成功させるつもりはないが、もし成功したとしたら人間は『あれ』を見ない方がいい。

 光秀は「しっ…しかし…!」と否定したが、俺は

 「お前は『人格』だけの存在だから、『魔王召喚』でどんな影響受けるか分かんねぇんだよ。」

 これは本当の事だ。

 「分かりました。」と、光秀は渋々頷いたから、俺は

 「とりあえず時間がねぇんだ。俺は比叡山へ行く。」

 俺は牢獄から出て馬屋に駆け込んだ。


 俺が比叡山の麓に着いた頃にはもう、延暦寺は燃えていたのは言うまでもない。

 そして、延暦寺に行く途中に仔猫ミケに会ったのも、ご存知の通りだ。

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